OMOとは?O2O、オムニチャネルとの違いを徹底解説
2022年05月09日(月)掲載
今回のコラムではOMOの解説からはじまり、O2Oやオムニチャネルとの違い、成功のポイント、事例についても分かりやすく解説する。貴社にとって最適なOMOマーケティングの実現に向け、ぜひ本コラムを参照いただきたい。
OMOとは
OMOとは「Online merges with offline 」の略である。私の理解で詳述すれば「顧客体験をオンライン・オフライン問わずに融合すること」といえるだろう。そもそもOMOの前身である概念としてO2O(Online to Offline)が存在した。最終目的地であるオフライン(実店舗)への送客やデータ連携を、Web上=オンラインで提供するというマーケティング起点のアクションである。基本的にこのベクトルは単一方向であり、Webから実店舗へ、という流れが固定化されていた。
一方、OMOは更なる顧客の変化とテクノロジーの変化に対応した新しい概念である。現代において生活者はオンラインとオフラインをシームレスに移動している。例えば衣類を購入するとした場合、普段利用しているSNS上で情報収集し、気になったものがあれば実際に店舗へ行き試着をする。そして、ECやフリマアプリにて、よりリーズナブルに商品を探し、購入自体はEC上で実施する。このようなWebから実店舗へといった一方向の動きではなく、オンラインとオフラインを自分のラクなように行き来するのが現代の生活者なのである。
こうした顧客の行動を取得できるようになったのも、スマートフォンの普及が大きいと考える。顧客と企業は、スマートフォンによってありとあらゆるタイミングで接点を持てるようになった。加えて、近年決済手段が大きく多様化したことで、決済のデータも活用できるようになった。こうして情報収集段階から購買まで、マーケティングファネルの上位から下位までの全てを補足できる状況になったのである。
OMOとO2O、オムニチャネルとの違い
OMOとの違いが分かりにくい用語にO2Oとオムニチャネルがあるため、それぞれの違いについて解説する。
O2Oとは
O2Oとは、前述で少し触れたように「Online to Offline」の略称であり、オンライン(インターネット)からオフライン(実店舗)へ顧客を誘導し、購買行動を促進させるためのマーケティング施策を指す。O2O施策の一例として、企業のWebサイトや公式アプリなどによるクーポン券の配布や、スマートフォンの位置情報機能の活用により店舗付近にいるユーザーを割り出し、来店を促すプッシュ通知の送付などがある。
オムニチャネルとは
オムニチャネルとは、オンラインとオフラインを区別することなく、あらゆるチャネルを連携させて顧客との接点を持ち、一貫性のあるサービス提供を目指すマーケティング施策を指す。
実店舗、オンラインショップ、カタログ通販、SNSなど、現代の企業は顧客とさまざまな接点を有している。あらゆるチャネルを連携させ、顧客が場所や時間に関係なく、同じ購入体験を実現できるようにするマーケティング戦略がオムニチャネルである。
OMOとO2O、オムニチャネルとの違い
これまでの解説内容を元に、各用語の特徴を整理してみよう。OMOは「オンライン・オフライン問わずに融合すること」、O2O は「オンラインとオフラインを切り分けて考えること」、オムニチャネルは「オンライン・オフライン、すべてのチャネルを連携させること」が特徴としていえる。
O2Oやオムニチャネルは、切り分けや連携によりオンラインとオフラインの領域が明確に定められている一方、OMOはオンラインとオフラインを融合するため、明確な区別がない点が大きな違いとしてあげられる。
また、OMOとO2O、オムニチャネルにはもう一つ違いがある。それは「視点」の違いだ。O2Oとオムニチャネルは、サービスや商品を提供する企業が、オンライン・オフラインの連携などによって得られるメリットを考え抜き、具体的な施策に落とし込む「企業視点に軸を置いたマーケティング戦略」だといえる。一方でOMOは、サービス・商品提供からアフターフォローまでオンライン・オフラインの区別なく、いかにより良い体験を顧客に提供できるかを考え抜き、具体的な施策に落とし込む「顧客視点に軸を置いたマーケティング戦略」だといえる。このことから両者には、「視点」の違いがあることがわかるだろう。
OMOマーケティングを成功させるポイント
次に、OMOマーケティングを成功させるポイントを2つ紹介する。
行動データの蓄積とデータの一元管理
OMOのデータ活用を推進する際に最初に考えることは、可能な限り多くの顧客接点を創出することである。データ分析をするために必要なのは、もちろんデータである。データそのものの物量がなければデータ分析をすることはできない。仮にデータ量が数百程度であれば、統計的にも分析することが難しい状態になる。顧客との接点を創出し、データ量を確保することがまず第一歩になるのだ。
その点、モバイルアプリを用意することは効果的である。最も顧客の近くにあり、且つ活動が多いアプリを用意することで、顧客の動きをつぶさに記録することが可能になる。2021年、2022年にはWebブラウジングにおけるCookie利用が厳しく制限されることが確実となっており、Webにおける行動記録やそこからのマーケティング活用が難しくなるだろう。アプリ接点を持っておくことは非常に重要なアクションになると考える。
また、「顧客体験をオンライン・オフライン問わずに融合する」OMOマーケティングの成功には当然のことながら、オンラインとあわせて、オフライン上での顧客の行動データの集積が欠かせない。そこでポイントになるのが、オフラインを含めた各チャネルの顧客の行動データを一元管理できる環境づくりである。いくら大量のデータが蓄積していても、散漫な状態ではデータ分析をすることはできない。個人に対して可能であれば1つのIDを付与し、そこに購買行動や探索行動のデータを蓄積することで、顧客起点でのデータ分析ができるようになる。これは、後述する顧客起点でのユーザー体験の設計には欠かせない要素である。
顧客起点でのユーザー体験の設計
OMOがオンラインとオフラインを融合させ、顧客にとって利便性の高いサービス・商品を提供する施策である以上、顧客起点でユーザー体験を設計することも成功のための重要なポイントである。「アプリを使うと顧客の体験が向上する」といったサービスづくりは、ユーザー体験の設計における特徴的な例だ。
例えば、某カスタムサラダ専門店では、アプリを活用することによって、カスタムしたサラダを店舗で待たずに受け取ることができる。つまり、アプリを使えば店舗での待ち時間が減るというメリットがあるのだ。加えて、アプリを使うことでデリバリーも可能となった他企業の事例もある。
店舗で受け取る際も、届けてほしい時も常にアプリ起点で実現可能な体験となっており、アプリの使用で明確にユーザー体験(UX)が向上するならば、顧客は喜んでアプリを使い、結果として行動データの蓄積へとつながっていく。このように顧客起点でのユーザー体験を設計することで、企業は行動データの蓄積をはじめ、その後のユーザー満足度の向上や売上拡大を実現しやすくなるのである。
OMOマーケティングの事例紹介
OMOマーケティングはすでに多くの企業で活用が進んでいる。先進的な5つの事例を紹介しよう。
大手飲料メーカー(日本)の事例
A社は飲料ビジネスの新たな可能性を切り拓くことを目的に、OMOを活用した新サービスを展開している。それが、SNSアプリで好みの飲料商品を事前に注文・決済し、指定した時間・店舗で商品を受け取れるサービスだ。待ち時間なく商品を受け取れるメリットの他、ユーザーインサイトを掴むカスタマイズの豊富さは、A社のサービスの特徴である。
A社のサービスでは、商品の味やフレーバーの種類を好みに応じて選択できるだけでなく、パッケージに好きな名前を自由に挿入することもできる。この特徴的な機能から、「好きなアーティストの名前を入れたパッケージ」にカスタマイズの上、SNSに投稿するユーザーが相次いで現れるなど、多くのメディアで話題を呼んだ。また、A社によると、家族や友人、恋人、同僚などの名前を入れて商品を複数購入するユーザーも増加したという。この行動の裏には、「名前入りパッケージの商品を渡して相手を喜ばせたい(驚かせたい)」といったユーザーインサイトが透けて見える。A社のサービスは、顧客起点でのユーザー体験の設計の実現により、事業に好影響を与えている特徴的な事例だといえるだろう。
大手雑貨・アパレルメーカー(日本)の事例
B社は、業界に先駆け自社アプリをリリースしたことで有名だ。B社のアプリの特徴は、ダウンロード後にすぐに利用可能なUI設計が盛り込まれている点にある。企業のアプリは一般的に、利用前に性別や住所などの個人情報の入力を求める仕様が多いが、B社のアプリは顧客の入力時のストレス軽減を目的に、ダウンロード後に個人情報の入力なしにすぐに使える仕様にした。
個人情報以上に、「ユーザーがどのような商品を購入し、どれくらいの頻度で来店しているのか」といった行動データの蓄積にB社が価値を置いていることがわかるだろう。B社は現在も、蓄積・分析した行動データをもとに、顧客ニーズに応じた情報発信を行うなど、OMOマーケティングに注力している。
大手アパレルメーカー(日本)の事例
C社は、いち早く店舗の顧客データとECサイトの会員データを統合し、顧客情報の一元管理に成功した大手アパレルメーカーである。統合した顧客データをベースに、C社はさまざまなOMOマーケティングを推進している。
顧客が店舗で商品を購入後、その商品をベースにしたファッションコーディネート画像を、顧客一人ひとりの属性や購買・行動履歴に基づきメール送付するなどが、その一例である。こうしたオンラインとオフラインを融合した良質な顧客体験の創出はOMOの強みであり、同業他社との差別化にも寄与する点は、企業にとって大きなメリットだといえるだろう。
大手飲料チェーン(中国)の事例
中国に拠点を置く大手飲料チェーンのD社は、キャッシャー(レジ)を廃止した先進的な無人の小売戦略を発表し、市場に驚きを与えた。
D社の店舗ではレジ対応がなくなり、アプリによる事前注文によって作業の効率化が図られた結果、顧客は行列待ちをせずに済むようになった。また、D社のOMO施策の特徴として、アプリを通して商品を事前に注文した後、商品の受け取り手法につき、指定場所へのデリバリーか店舗受け取りかを自在に選択できる点もあげられる。店舗受け取りの場合も、顧客はテイクアウトか店内での飲食かを選択できる。D社はオンラインとオフラインの良さを融合させ、顧客に幅広い行動の選択肢を与えることで、顧客体験の向上を実現させているのである。
大手スーパーマーケット(中国)の事例
ECサイトで購入した商品(生鮮食品含む)につき、一定圏内という条件付きではあるが、顧客にとって利便性の高い無料配送サービスを展開しているのが、中国の大手スーパーマーケットのE社である。
E社のOMOマーケティングを活用したサービスは、仕事や家事・育児に追われ、買い物に行く時間すら惜しいユーザーにとって、大きなメリットになっていると推察される。
まとめ(OMOにおいて大切なこと)
近年やや落ち着いてはいるが、一時は自社アプリが大量に生まれ、そしてユーザビリティを損ない、多くの自社アプリが消えていった。顧客のユーザー体験・ニーズをよく理解した上で、明確にメリットが生まれる接点をまず検討することが、結果的にデータ活用の推進へとつながっていくのである。
ただし、最後にお伝えしたいのは、OMO推進は手段であり、目的ではないということだ。昨今デジタル化やDXが目的のように語られることが多いが、DXそのもので売上トップラインがあがることはほとんどないであろう(効率化されることは多いが)。
顧客起点でユーザー体験を向上するという大目的をおろそかにすれば、より良い体験を提供している企業に容易に機会を奪われる恐れもある。繰り返しになるが、OMOをデザインするのに重要なことは、行動データを蓄積・分析の上、顧客起点でユーザー体験を考えることである。決して企業目線や企業の事情を踏まえてデザインしてはならないと私は考えている。
執筆者T.N氏
大手広告代理店にて、一貫してマーケティング部門に従事。その後、フリマアプリ運営企業にて、オフライン/オンラインを問わない統合マーケティングを経験。独立後、オンラインだけではなくオフラインでの顧客接点や顧客体験とを融合させたマーケティング・PR戦略の立案・実行支援を行っている。