コロナ禍が引き寄せた小売業の未来とは?

マーケティング

2020年11月11日(水)掲載

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新型コロナウィルス蔓延により、様々なサービスがオンラインシフトしており、オンラインシフト化がしづらい小売業は打撃を受けていると言えます。ここでは、コロナ禍における、またアフターコロナの時代の小売業の課題についてみていきます。

「不要不急」で分かれた明暗

新型コロナウィルスの感染拡大による行動制限で、物理的な「場の提供」とともにサービスを行うビジネスは大きな打撃を受けました。コロナによる業種別倒産件数をみると1位が飲食店、2位がホテル・旅館、3位がアパレル・雑貨小売店です。小売業において、アパレルの受けた影響は甚大でした。

しかし、食品スーパーやドラッグストア、ホームセンターといった業態では緊急事態宣言を受けた4月も、巣ごもり・買いだめ需要から多くの買い物客が店を訪れ、店側はチラシを一時的にやめるなど、逆に密を避けるための種々の工夫を凝らしていました。

休業を余儀なくされる店と営業を継続する店。「不要不急の外出はなるべく控えてください」というメッセージが小売の明暗を握ったと言えます。

POINT

・コロナ禍での「不要不急」の外出自粛によって様々な業種で倒産が起きた。
・特に飲食店やホテル業やアパレル業での被害は甚大であった。
・食品系では、巣ごもり需要が上がったために、営業を継続できる店も多く、「不要不急」というキーワードによって、小売業界でも明暗を分けた。

社会インフラとしての小売

食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターは、食品や日用品などの生活必需品を扱う社会インフラとして、緊急事態宣言下でも休まずに営業を継続しました。特に食品スーパーは4月、5月とも前年比10%以上の売上を記録しています。ウィルスという見えない敵から顧客と従業員を守るという責任を背負いつつ、営業を継続しなくてはならない。店舗に顧客が来なくなってしまったアパレル小売とは逆の労苦です。

ただ、都心に店舗が多い企業は来店数の減少から売上を落としています。化粧品のインバウンドを失ったマツモトキヨシやビジネスエリアの出店が多いファミリーマートなどは収益低迷に陥りました。

POINT

・飲食店はマイナスの影響を受けたのに対し、食品スーパーや生活必需品などを扱う店はプラスの影響を受けた
・しかし、それらの店では客が急増したために、ウィルス感染のリスクから顧客と従業員を守らなければいけないという責任が重くのしかかっていた。

人々の暮らしをより豊かに…専門小売

「不要不急」側で打撃を受けた小売業態のひとつが百貨店でした。大手百貨店は緊急事態宣言を受けて全館休業を決行。その結果、売上前年比6~9割減と、過去最大の減少率となりました。ユニクロのようなSPAは川上から川下までをコントロールできますが、百貨店依存のアパレルは共倒れになるしかありません。5月にはレナウンが民事再生法の適用を申請しましたが、破産。今後もアパレル業界の倒産ラッシュが懸念されています。

アパレル以外の非生活必需品には、スポーツ用品やおもちゃ、ペット、家具などがあります。食品スーパー等生活必需品を扱う小売のミッションが「社会インフラ」ならば、これらの専門小売の存在価値は「人々の生活を豊かにする」ことです。専門小売の多くは休業を余儀なくされ店舗集客を失いましたが、ネット販売や新たなライフスタイル提案で、その穴を埋めようとしています。

POINT

・「不要不急」の外出自粛を受けて、大手百貨店は全館休業を決定した。その影響で、売上が年比6~9割減と、過去最大の減少率となった。
・そのような専門小売では、対策案としてネット販売に乗り出すなどといった事例も見られている。

「社会インフラ小売」と「専門小売」の課題の違い

このように、「不要不急」という言葉は店舗を持つ小売業を二つに分け、それぞれの事業継続に異なる課題を生みました。
商売のあり方においても両者の課題は異なります。

商品供給に関して

商品供給に関して、「社会インフラ小売」は生活に必要な商品を安定して確保し、供給しなくてはなりません。マスクやトイレットペーパーのパニック需要、カップ麺や冷凍食品などの備蓄品需要など、消費者の不安が生む需要の乱高下に「社会インフラ小売」は四苦八苦でした。
一方「専門小売」は新たなライフスタイル提案が課題です。家具であれば在宅勤務による仕事用デスクや椅子、スポーツであればジョギングやアウトドア、おもちゃであれば知育玩具や家族で楽しむおもちゃといったイエナカ需要、3密回避需要です。

三密に関して

また非常時でも買い物客が絶えない「社会インフラ小売」は、店舗における非接触と3密回避の徹底が課題です。そして店舗販売の代わりにEC活用を拡げた「専門小売」は、あえて店舗に行く理由が問われます。店舗来店が前提だった商売のあり方が変わり、店舗価値の再定義が求められています。
社会インフラとしての小売と、専門小売としての小売それぞれの課題を整理すると、以下のようになります。

また、コロナウィルスに関係しない部分でも小売業の課題は複数あります。例えば、オフラインでの販売が前提になっており顧客をデータ化できていないことや、社員の教育、勤怠の管理などもオフラインを前提に行っていたことなどが挙げられます。

POINT

・社会インフラ小売業と専門小売業とでは、全く異なる課題が生じている。
・社会インフラ小売業は急激な客の増加に対して、「非接触」をどう確保するかという課題が発生した
・専門小売業は既存の店舗集客型営業とは別の、新たな営業形態を打ち出していかなければならないという課題が発生した

ニューノーマルとデジタルテクノロジー

テレワーク、オンライン授業、オンライン飲み会など、ニューノーマルのライフスタイルは今、デジタルによって支えられています。コロナは社会のデジタル化を一気に推し進めました。急速かつ強制的に進んだ社会のデジタル化を、総務省の「情報通信⽩書」では不可逆的な変化としています。

大幅な行動規制により、ECはこれまで以上に積極的に利用されるようになりました。店舗集客を失った「専門小売」は貪欲にネットをビジネスに取り入れ始め、ネットを使った新しい販売方法を開拓しています。店舗での営業が核となる「社会インフラ小売」も、ネットスーパーや買物代行で防衛意識の高い顧客への対応を進めています。

店では、顧客は混雑時を避けながらできるだけ非接触に買物をしたいと考えます。地域の生活を支える「社会インフラ小売」にとって、これは顧客ニーズへの対応である以上に、安心・安全を棄損しない予防策として重要です。「専門小売」においても店舗がある以上、必須の課題です。
「ネットの積極的な利用」と「店舗での非接触な買物」というニューノーマルの買物スタイル実現に向け、小売業界のデジタル活用意欲は一気に高まりました。DXの入口で何ができるかを迷走していた小売企業も、明確となった課題に向け、テクノロジーの実装を進めようとしています。

POINT

・コロナ禍を経て、社会ではテレワークやオンライン飲み会などの、デジタルテクノロジーを活用した新たなライフスタイルが醸成されつつある。
・それに伴い、小売企業ではコロナ禍で顕在化された課題を、テクノロジーの推進によって対応しようとしている。

進化するネットショッピング

アパレル業界では「オンライン接客」が一般化しつつあります。テレビ会議による予約制のパーソナルな接客、質問に答えながらスタイリング提案をする複数の人へのライブ配信接客、店舗スタッフが自らモデルとなってコーディネートをサイトに投稿する提案など、その手法も複数あります。
また、高齢利用者からのECへの問い合わせが急増したため、顧客と画面共有しながらネットショッピングをサポートするサービスを始めた百貨店もあります。

アパレルをはじめとする「専門小売」の商材は高関与商材といって、消費者がしっかりと検討を重ねた上で購入する特徴があります。したがって「専門小売」は商品提案、接客に長けています。小売業で「ネットとリアルの融合」「オムニチャネル」が議論される際、接客はリアル店舗の大事なサービス要素として語られることが多かったのですが、店舗休業という事態に直面し、そうしたヒューマンな部分までがネットで提供されるようになりました。顧客にとっても、プロのアドバイスが受けやすくなり買物の楽しみが広がったと言えます。

また商品カテゴリについては、これまでEC化率(市場全体に占めるEC市場の割合)の低かった食品においてもネット購入のニーズが高まりました。食材宅配サービスは受注急増で、ピーク時には受注制限を設けながら機能を増強していました。今もネットスーパーが急増中です。

POINT

・社会がデジタルテクノロジーを活用していく中、アパレル業界もその波に乗って「オンライン接客」というものが浸透しつつある。
・販売員が購買者のネットショッピングをサポートするという形態をとることで、購買者のショッピングがより楽しいものになった。

リアル店舗の非接触な買物

「店舗の非接触」に目を向けると、店内の混雑予防策として、予約システムの導入や混雑状況の可視化といった工夫が見られます。百貨店はお正月恒例の福袋をネット予約制にし、アメリカのアップルストアはネット注文受取専用のミニストアを開設しています。また、商業施設や飲食店の混雑情報を提供する「VACAN」というサービスが今年6月にスタートし、急速に掲載店舗を広げて注目を集めています。SHIBUYA109やノジマも混雑可視化の実験を行うことを発表しています。

非接触な買物の手段としてはキャッシュレス決済があげられます。経済産業省のキャッシュレス・ポイント還元事業により店舗のキャッシュレス導入は進みましたが、「非接触」という新たなニーズが追い風となりました。ユニークな例ではケンタッキーがドライブスルーのETC支払いの実験を始めています。

接客に関しては、アパレルで採寸テックの採用が盛んです。3Dスキャナーや専用スーツがなくても、スマホを使って全身の写真を撮影するとAIで最適なサイズを知ることができます。また、飲食店では、配膳ロボットやタッチパネルを目にすることが増えてきました。「省人化」がメインテーマだった店舗ITも「非接触」というメリットが加わり実装が拡大しています。

このたびのコロナ災禍は小売業にその存在意義と責任を問い、商品とその提供方法を一から見直す機会となりました。店舗では接触を避け、オンラインでは密な接客が進んでいくというパラダイムシフトが生まれています。
小売業は変化対応業と言われます。激変する生活の前向きな消費をお手伝いし、災禍の中でも人々の生活を便利で豊かにする使命を全うできるかどうか、真価が問われています。

POINT

・店舗販売において、「非接触」という観点でみると、店内の客や従業員の接触を防ぐだけでなく、支払いに関してもそのよう試みが見られており、いわゆる「キャッシュレス化」というものが進んでいる。
・また、もともと飲食店で施行されていたタッチパネル導入などに見られる「省人化」は、コロナ禍を経て、「非接触化」という新たな意味も持つようになった。

補助金の活用も視野に

小売業はコロナウイルス蔓延によりかなりの打撃を受けた業界です。このため、活用できる支援金の種類はかなり多くあります。もちろん経営者だけのものではありません。休業手当など従業員にとっても、魅力的な補助金があります。小売業のビジネスについて知っておくことは非常に重要ですが、それ以前に補助金をきちんと活用しておくことも重要です。補助金を活用することで、従業員を守ることができ、社員の確保に繋がります。

ここでは、経済産業省が出している小売業経営者に向けたレポートを元に、それぞれの課題において有効な補助金について紹介しておきます。

運転資金の確保が難しい

運転資金がないことを課題に感じている場合は、実質無利子・無担保で受けられる融資があるので、活用しましょう。2021年2月現在、最大5年の融資の上限額を拡充し、借りられる資金が拡大されています。

従業員を雇用できない

従業員の雇用の確保が出来ない場合は、雇用調整助成金で休業手当等を助成してもらえます。最大10/10と全て補助してもらえる可能性もあるため、早めの確認をおすすめします。

事業展開したい

オムニチャネルやオンラインシフト化など、小売業は変革を余儀なくされている業界です。コロナウイルスを経て消費者の行動は変わりましたが、それは一時的なものではありません。ポストコロナとして、今後の人々の生活様式は変わっていきます。コロナウイルスが蔓延した数年だけ生き延びられればよいわけではないのです。コロナウイルス蔓延後の新しい世界で、変わってしまった人々の生活様式の中で、どのように事業を展開していくのか。その発想が重要です。

事業を展開していく、変革させていく、にあたって、資金がないと言う場合も、事業再構築補助金があるので安心です。デジタルシフト化するために必要な施策はこの費用を使って行うと良いでしょう。

POINT

・補助金を活用することで、経営の助けとなる。
・運転資金がない場合も無利子の融資が借りられ、休業手当への補償、事業展開への支援金などもある。

まとめ

コロナウイルス蔓延は、小売業に様々なインパクトを与えました。重要なのは、この小売業の変化に対応していくことではなく、コロナを経た後、すなわち、アフターコロナの世界線で生き延びる企業を作れるかどうかです。アフターコロナの世界では、人々の生活様式は大きく変わっています。
オンラインの利便性、非接触化が評価される価値観、これらは、コロナウイルスが終息してもなお残る価値観であると想定できます。その中で、小売業はどのように乗り越えていく必要があるのでしょうか。

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執筆者H・M氏

慶應義塾大学文学部卒業後、大手印刷会社にてデジタルコンテンツの企画制作に従事。その後EC専業会社でEC、デジタルマーケティングの経験を経て、大手小売業にてオムニチャネル戦略の推進やネット事業の立ち上げを経験。現在は小売業を中心にデジタル推進支援を行う。

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