広報戦略とは?事例や必要な理由、実践するメリットを解説
2023年05月08日(月)掲載
ITの発展により、社会にはあらゆる情報があふれ、誰でも情報収集できるようになりました。これにより、消費者が商品・サービスの利用を検討する際には、多くの情報から自身とって有用な情報を取捨選択するようになっています。
ユーザーに選ばれる企業になるには、戦略的に情報発信をしなければなりません。そこで重要となるものが広報戦略です。
広報戦略は企業の成長に不可欠な活動であり、長期的な目標を立てて継続的に実施することで効果を得られます。
本コラムでは、広報戦略が必要とされる理由や戦略の立て方について、詳しく解説します。戦略を成功させる方法や成功事例を参考に、効果的な戦略立案を目指しましょう。
広報戦略とは
広報戦略とは、自社とステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションを図り、自社の認知度や企業価値を高めるための指針です。また、自社や自社製品のファンを増やすほか、世の中に情報を拡散させるための戦略でもあります。
広報戦略を立てる際には、経営戦略への影響を考えながら、組織全体を運営する視点をもつことが重要です。一貫した情報を継続的に発信し、中長期的な計画を立案すれば効果が期待できるでしょう。
広報戦略が必要とされる理由
それでは、広報戦略が必要な理由を詳しく見ていきましょう。
インターネットの普及
インターネットの急速な普及により、情報の受け取り方が多様化しています。その影響により、企業はターゲットに合わせて、柔軟に情報発信をしていかなければなりません。
これまではテレビや新聞といったマスメディアによる情報発信が中心でした。しかし近年は、Webメディアが大きく勢力を伸ばしています。そのため今後は、Webメディアとマスメディアの双方を使い分けながら、広報活動していくことが求められています。
情報を発信する方法・受け取る方法が複雑化するなか、一貫性のある情報発信を行うためにも広報戦略が必要とされています。
SNSの普及
SNSの普及で、誰でも簡単に自分の意見や情報を発信できるようになりました。ときには、インターネット上での個人の発信がきっかけとなり、商品や企業イメージに影響を与えることがあります。
また、企業によるSNS運用も注目を集めており、広報活動やマーケティング活動の一環として、SNS運用は一般的となりました。SNSを活用した発信活動においても、企業の広報戦略が求められています。
企業イメージの形成
環境問題の進行や企業の不祥事などが影響し、近年はCSR(Corporate Social Responsibility) が注目されています。CSRは、“企業の社会的責任”という意味をもち、企業が活動するうえで担う社会的責任のこと。
CSRへの注目度が高まり、企業イメージが業績に影響するようになったため、どのようなイメージを消費者に与えるかが重要です。
広報戦略を通して、一貫性のあるメッセージを発信することは、企業イメージの形成に役立ちます。そのため、広報戦略が重視されているのです。
広報戦略を立てるメリット
広報戦略を立てるメリットを、それぞれ詳しく解説します。
費用対効果を高めやすい
テレビや新聞などのマスメディアでは、膨大な広告費用が必要でした。それに対しSNSやWebメディアを活用した広報活動は、少ない費用で施策に取り組めます。
戦略を立て施策を繰り返し、効果を分析していくことで、経験やノウハウを蓄積できます。そしてそのノウハウを次の広報施策や広告にも活用していくことで、効果を高められるでしょう。適切な広報戦略を立てて実践すれば、より大きな効果を発揮することも期待できます。
加えてWebメディアは、マスメディアと比べ効果を測定しやすいというメリットがあります。よい効果が測定できなかった場合、施策の細かな修正ができるため、スピード感を持って広報戦略の改善にもつなげられ、費用対効果をより高めることができる要素となるでしょう。
長期的なブランド構築が可能
メディアに自社が取り上げられても、発信したい意図と異なる受け取り方をされてしまえば、ブランドイメージの低下は避けられません。
社会情勢や環境に適応した広報戦略を策定することで、本当に自分たちが届けたい情報を、正しい意図で消費者に届けやすくなります。継続していくことで、自社の長期的なブランド構築が可能になるでしょう。
統一感あるコミュニケーションが図れる
広報戦略が適切に立てられていると施策に軸が生まれ、消費者と統一感のあるコミュニケーションが図れます。発信する情報にブレがあると、消費者の信頼を損ないかねません。信頼関係を構築するためにも、広報戦略は必要です。
広報戦略の策定方法
広報戦略は、以下の流れで策定します。
1.企業戦略の把握と課題の明確化
広報戦略は、企業戦略や経営戦略の上位概念に基づき、作成される必要があります。企業目標を達成するためにもそれら方針を把握し、広報活動で対応できる部分を広報戦略のゴールに落とし込んでいきましょう。
さらに、企業経営における課題を分析することも重要です。取引先や顧客はもちろん、従業員や株主など幅広い対象から意見や要望を抽出し、課題を明確化してください。
2.他社の事例も参考に長期的なプランを作成
課題が明確になったら、次は目指したい姿を実現するために、プランを作成します。現状と目指したい姿とのギャップを埋めるにはどうすれば良いか、課題を解決するには何をすればよいのかという視点で、具体的に考えていきましょう。
また、プランは短期的なものではなく、年間計画といったように長期的なものにします。企業によっては、中期経営計画を定めている場合もあるでしょう。その場合には、中期経営計画に基づき、広報戦略も数年間の単位で立てることが必要です。
プランを立てるうえでは、広報活動を行う目的、注力したいテーマ、発信したいメッセージとターゲットなども定めておきましょう。
プランが立てられたら、プレスリリースの配信やイベントの企画などといった具体的な広報施策に落とし込んでいきます。
広報戦略を一から策定する際に困った場合には、他社の事例を参考にしながら進めるとよいでしょう。
3.広報施策の実施
ここまでに立てた広報戦略をもとに、施策を実践します。
広報戦略では、企業の経営方針や事業活動でのブランドイメージに一貫性をもたせることが大切です。ステークホルダーに一貫したメッセージを発信することが、信頼につながります。
4.広報戦略の分析・評価
広報戦略の実行結果をもとに分析や評価をおこない、施策の効果を確認します。定量的な効果の測定方法として、KPI(重要業績評価指数)の設定が有効です。
目標に届かなかった場合は何に課題があったのかなど改善点を考えます。目標を達成した場合は、より効果を上げるための方法を考えたり、次の目標を検討したりと達成に必要な施策を策定しましょう。
広報戦略を成功させる方法
ここでは、広報戦略を成功させる方法を3つ紹介します。
必要なスキルを身に付ける
広報戦略を成功させるうえでは、必要なスキルを身に付けることが大切です。必要なスキルにはさまざまありますが、今回は以下の2点を挙げます。
分析力
広報戦略を立てる際には、企業経営における課題を分析することが重要です。また、施策を実行した際も分析を行い、効果を測定し、適切にPDCAを回していかなければなりません。さまざまな指標を活用しながら、分析できる能力が求められます。
プロジェクト管理能力
広報戦略を進める際には、関与者が多いプロジェクトや、情報量が多いプロジェクトなど、複雑で難易度の高いプロジェクトに携わることもあるでしょう。プロジェクトを成功に導くためには、品質・コスト・納期を適切にコントロールしなければならないため、プロジェクト管理能力はぜひ押さえておきたいスキルの一つです。
これらのスキルを磨くことで、より効果的な広報戦略の策定につながるでしょう。
柔軟に対応する
柔軟な対応は、広報戦略を成功に導く大切な要素です。
近年の社会環境は変化が激しいため、プラン通りにいかないこともあります。策定したプラン通りに活動できない場合は、社会情勢やステークホルダーの反応・動向を見ながら、対応方法について検討することが必要です。
プランに沿った活動は基本ですが、固執して企業イメージを損ねては本末転倒に。中長期的な戦略を立てながら、適宜戦略の見直しをすることも大切です。
効果測定をおこない改善を繰り返す
広報戦略を成功させるためには、効果測定をおこない、運用改善を繰り返すことが重要です。効果測定では施策の効果を定量的に評価し、施策の改善や方向性を確認します。
定量的な効果が分かっていれば、予算を設定する際の根拠にもなり得ますので、適切に効果測定を行い、PDCAを回していきましょう。
広報戦略のフレームワーク
広報戦略を立てる際に活用できるフレームワークを3つ紹介します。
1.PEST分析
PEST分析は、外部環境が現在や未来にどのような影響を与えるのか、予測するためのフレームワークです。
4つの要素を取り出して、市場環境を長期的な目線で分析できるのが特徴です。このフレームワークは、広報戦略やマーケティング戦略に用いられています。
<PEST分析の4つの要素>
- 政治(Politics):国の政策、政府の動向など
- 経済(Economy):景気、金利など
- 社会(Society):世論・社会の意識、環境など
- 技術(Technology):技術革新、特許など
事業や製品販売を成功させるためには、世の中の流れやトレンドを味方につけ、外部環境の変化に合わせて事業や製品を変えることが大切です。
自社の企業価値を高めるために、PEST分析で自社に与える外部の影響を把握し、広報戦略に活かしましょう。
2.SWOT分析
SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境をそれぞれプラスとマイナスの要因に分け、4つの要素から現状を分析するフレームワークです。
もともとは、おもに企業の経営戦略や現状分析に使われていました。しかし現在では、経営戦略やマーケティング戦略だけでなく、広報戦略においても有効な分析手法となっています。
<SWOT分析の4つの要素>
- 強み(Strength):内部環境、プラス要因
- 弱み(Weakness):内部環境、マイナス要因
- 機会(Opportunity):外部環境、プラス要因
- 脅威(Threat):外部環境、マイナス要因
SWOT分析を利用することで、既存の広報業務での改善点を見つけやすくなります。また、新たな戦略を立案する際には、将来的なリスクや懸念事項を整理して戦略方針を明確化することが可能です。
このように、SWOT分析を広報戦略に活用すると、自社の“強み”を生かしたPR方法の発見につながります。
3.4P分析
4P分析は、策定された戦略を具体的な実行内容に落とし込む際に使用する、フレームワークです。4P分析は、以下の視点で分析します。
<4Pの視点>
- 商品・サービス(Product):どのような製品・価値を提供するか
- 価格(Price):いくらで提供するか
- 流通(Place):どのように提供するか
- 販促(Promotion):どのように販促をするか
これら4つの視点をもとに、要素を適切に組み合わせて施策を検討することから“マーケティングミックス”とも呼ばれます。
広報戦略における成功事例
広報戦略の立案による成功事例を、3つ紹介します。
広報PR活動の事例/A社
婚活サービスを展開するA社は、新たな会員の獲得方法が広告施策に依存している状態にありました。特に、顕在層へのアプローチを重視した会員増加を図るため、認知系のPRに注力していたそうです。
一度はテレビCMや交通広告などの活用を検討したものの、費用対効果への懸念があり、低予算で認知を広げる必要がありました。
そこで、広告施策に頼らない新規会員獲得と、従業員のモチベーションアップを目標に掲げ、広報戦略を策定します。
社内に広報の知識をもつ人材がいなかったことから、外部サービスを利用して広報活動に注力した結果、数々のメディア取材の獲得に成功しました。
現場でのこだわりを徹底した事例/ B社
コーヒーチェーン店であるB社は、他社に先駆けて電源付きの席やWi-Fiを提供してきました。また、価格設定や限定商品で他社との差別化を図ることで、他のコーヒーチェーンとは異なる独自のポジションが確立されています。
そのようなブランド力を築き上げた背景に、B社の広報戦略があります。
B社では、テレビCMやチラシなどの広告費用を削減し、顧客と直接かかわることに重きを置いた、広報戦略およびマーケティング戦略がありました。よりよい顧客体験を探求し、商品やサービスの改善・開発をした結果、ブランド力を構築できた事例です。
自治体の広報活動で人口増加を達成した事例/C市
C市は、市の知名度アップ・イメージアップを図り、市のブランド化推進を目的にPR活動を行っています。全国的に少子高齢化・人口減少が問題視されるなか、広報戦略の実行により、若い世代と子どもの人口増加を達成しています。
取り組み始めた当初は、電話や訪問営業などの活動が中心になっていました。しかし、その活動からはなかなか成果が得られず、戦略方針の改善が求められます。
改善事項を実施し徐々に取材依頼が増えた頃、移住者から「期待していたほどではなかった」という声が聞こえてくるようになりました。外部向けのPR活動を中心にしていたため、地域に目を向けられていなかったのです。
そこで、広報戦略として“シビックプライド(よりよい地域にするために、自らかかわっていこうとする気持ち)”をもつ市民の口コミを広げられるように、市の魅力である“人”にフォーカスしたブランディングに注力しました。
自治体は場所やきっかけづくりにとどまり、地域の人々に主体的に行動してもらう方針へと移行。そして、戦略に基づくKPIとして、以下3点を軸に進行します。
- イベントでコラボレーションした市民の人数
- 市民にインタビューをした内容をSNSで紹介した人数
- メディアを通して紹介された市民の人数
市民に目を向けた広報戦略を立案し、KPI指標を明確に定めてPDCAを運用しながら、市民と市政が協力して活動を続け、成功につながった事例です。
まとめ
今回は広報戦略について解説し、成功事例の紹介をしました。
近年、テレビや新聞などのマスメディアによる広報活動より、WebサイトやSNSを利用した広報手段が台頭しています。手段が多様化する時代では、戦略的に広報活動を進めることが重要です。
広報戦略には、さまざまな方法があります。広報戦略について社内に詳しい人材がいない場合には、専門的な知識をもつ外部サービスに頼ることも大切です。
今回紹介した成功事例を参考にしながら、広報戦略を立ててみましょう。