リアル店舗におけるDXのカギを握る新概念、OMO(Online merged with offline)

新規事業

2021年01月04日(月)掲載

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DXとは何か

DX=「デジタルトランスフォーメーション」が盛んに叫ばれているが、なぜ企業にDXが必要なのだろうか。DXとは端的に言えば、企業が「デジタル発想を企業にインストールする」≒「デジタルネイティブになる」ことと私は認識している。つまり、デジタル化することそのものがDXなのではなく、必要に応じて最適なデジタルを活用した手段を企業が選択できるようになることが肝要である。

デジタル化自体を目的にすることは危険が伴う。なぜなら、生活者の実際の生活は、オフラインもオンライン(デジタル)も併用しているからである。確かに急速にオンラインでできることは増えている。しかし、WEB上で全て完結することを生活者が求めているわけではない。完全なデジタルシフトではなく、必要に応じてデジタルが活用できる状態にする、これが理想形と言えるだろう。

この思想こそがOMO(Online merged with offline) の源泉である。OMOとは、略称の通り、「Online」と「Offline」の体験を融合することである。生活者起点で考えた時に、可能な限り利便性が高く、そして満足度の高い体験をオンラインもオフラインも関係なく必要な手段を生活者に提供できることにより、生活者の体験がアップデートされるということである。

OMOを自然に実現するためには、必要に応じて最適なデジタルの手段を選択できるDXが必要になる。OMOとDXの関係はそのような構造と言えるだろう。

実店舗の現状とOMOの必要性

新型コロナウィルスの感染拡大において、実店舗のあり方は大きく変化を強いられている。感染拡大防止のため、不要不急の外出を控えることが呼びかけられている現在、実店舗は「訪れる場所」というだけでは立ち行かない現状に陥っている。少なくとも新型コロナウィルスの感染者数が大きく抑えられる状態にならない限りは、長期的に実店舗の来客数は低減し続ける。そのような状況下において、実店舗のDXは半ば強制的に加速することになっている。

仮に緊急事態が落ち着いた実店舗の様相は、元に戻るのだろうか。そうではないだろう。米GoogleのCEO、サンダー・ピチャイ氏は「緊急事態が終わっても、世界は以前と同じような姿ではないだろう」と語っている 。リモートワークが導入された企業がそのまま出社とリモートワークを併用した働き方に変革するように、オフラインを利用しなければ「ならない」といった常識が覆された今、生活者は必要に応じて購買行動においても、オンラインとオフライン、自分起点で利便性の高い方、満足度の高い方をシームレスに選択するという発想に変化する。

OMOを推進することは、この生活者が利便性を高い方をシームレスに選ぶ時代において、どちらを選択したとしても顧客を逃さない体制を整えるということである。

OMO実現のためのプロセスと顧客体験の変化

OMOを推進する上で最も重要なことは、「顧客起点で体験をデザインすること」である。主語は顧客であり、企業でも店舗でもない。自社の顧客がどのような購買における行動をとっているのか、そのカスタマージャーニーを描き、そのジャーニーに寄り添った接点をオンラインないしオフラインを選択して、あるいはその両方を用意して顧客の行動に対応できるようにするのである。

例えば、アパレルブランドを例に取ろう。もともとアパレルブランドは、主に店舗中心に顧客との関係性を築いていた。店舗に来店し、接客を受け、試着し、購入することでそこに体験が生まれている。しかし、現代において、よりシームレスな体験はどのようなものだろうか。

そもそも現在の顧客は、来店をする前に、普段から活用しているSNSで情報収集をしている。顧客起点で考えれば、この情報収集の時点から接触できなければ、そもそもそのブランドが選択肢に上がることもないだろう。従って、SNSアカウントを活用して接点を持つ必要が生まれる。実店舗の活用という視点で見れば、フォローされたSNSアカウント上で、店舗からLIVE配信機能を活用して、店員が商品の紹介をしても良いだろう。

仮にSNSで接点を持ったとして、顧客は実店舗への来店しか選択肢がなければ、似たものをECやフリマアプリで購入してしまうかもしれない。それがリアルな顧客の行動であろう。従って、実店舗でもECでも買える状態にする必要が生まれる。実は、このコロナ禍においても、アパレルにおける試着のニーズは高い。特に衣服というものは実際に自分で着てみなければ商品価値が分かりにくいものである。生活者には「試着は店頭で、購入はECで」という人もいるのだ。

実例を挙げよう 。そごう・西武では西武渋谷店において、通常ECサイトのみで販売しているD2Cブランドの無人ポップアップストアを実験的に展開した。ポップアップストアは完全無人で在庫は置かれていない。店舗では商品を魅力的に飾るディスプレイと、試着のみができる。「店舗でしかできない機能」だけに大胆に区切っているというわけだ。購入はECサイトから可能で、商品は自宅に直接届く。コロナ禍における非接触ニーズにも対応しながら、実店舗にしかできない機能を提供しているということである。

アパレルブランドにおいては、実店舗の最も重要な役割は「ブランドを体現する情報発信地」としての機能である。また、そこにあるアセットとして、試着の体験や店員の接客というファクターが存在する。しかし、OMOの観点で見れば、これらの機能はデジタルを活用することによって拡張することができる。例えば、店員の接客は店舗を舞台にしながらも、接客自体をオンライン化することは可能だ。WEB会議ツールを使ったリモートでの1to1の接客や、SNSの動画配信可能なプラットフォームを活用し、接客そのものを配信することで、直接的にECに送客することもできる。

実店舗におけるアセットをOMO起点で展開することによって、顧客体験をアップデートできるだけでなく、日本隅々まで実店舗がなくても顧客を捕まえることができる。つまりポテンシャルユーザーは、OMOを実現することで増える場合もあるということでもある。

OMOで実現する新しい店舗体験

店舗を全てDX化すれば良いわけではない、ということはここまで読んだ諸氏であればお分かりのことだろう。一時期話題になった、未来のコンビニと言われた中国の無人コンビニは、実は2019年頃、コロナ禍に入る前から大量閉店が相次いでいた。なぜなら、完全無人化すると、店に入るためにもスマートフォンが必要であり、全ての商品のQRコードを自分で読み込むことや買い物するという顧客体験は、少なくとも今の技術レベルでは体験が悪すぎて、客離れが起きていたのである。非接触ニーズが高まるコロナ禍においてすら、無人コンビニの苦境は続いている。デジタル化が目的化すると結果顧客体験が損なわれるという例であろう。

一方で、OMOで新しい店舗体験を実現している好事例もある。中国における生鮮食品のスーパーマーケットだ「フ―マ―フレッシュ」。だろう。フ―マ―フレッシュは、全ての商品を セルフレジで決済可能であるだけでなく、その場で購入した商品を料理にしてもらうことが可能である。選んだ食材はその他の買い物をしている間に調理され、イートインスペースで新鮮な食品を食べることができる。

ここで美味しさを知った顧客は、何度も店舗に行く必要はない。フーマーフレッシュは、実店舗をネットスーパーの商品倉庫としても活用しているので、同じものを買うだけであれば、フ―マ―フレッシュのネットスーパーで買えば最短当日に届く。買うものが分かっているのであればEC、新しい発見をしたいのであれば店舗へ来店して体験する、 このサイクルが成立しているのである。

まとめ

OMOで最も重要なことは、顧客のカスタマージャーニーを想像し、そこに対して必要なアクションをオンライン・オフライン問わず用意することであるということは述べた。その概念における実店舗の役割は、「実店舗にしかできないこと」を追及することだと考える。業種・業態によってその実店舗にしかできないことは異なるが、基本的に実店舗の役割は「物理的な体験を提供すること」であろう。

衣服であれば試着、食品を扱う場所であれば調理、アウトドアブランドであればキャンプ、あるいはどの業種にも共通する、スタッフによる質の高い接客も価値と言えるのかもしれない。体験を実店舗で提供し、購買などのどこで行っても構わないものは、オンラインでもオフラインでも可能にする。こうした顧客体験の満足度の最大化が、この変化する時代における持続的な成長を生み出すと私は考える。

執筆者T.N氏

大手広告代理店にて、一貫してマーケティング部門に従事。その後、フリマアプリ運営企業にて、オフライン/オンラインを問わない統合マーケティングを経験。独立後、オンラインだけではなくオフラインでの顧客接点や顧客体験とを融合させたマーケティング・PR戦略の立案・実行支援を行っている。

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