【ヘルスケア最前線】新規事業戦略に立ちはだかるリアルな壁とその攻略法

新規事業

2025年01月30日(木)掲載

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少子高齢化が社会問題として取り上げられる昨今、ヘルスケア領域への注目度が上がっています。ニーズの高まりに伴い、この領域への可能性を見出し、異業種からの新規参入を目指している企業も少なくないでしょう。 しかしその一方で、ヘルスケア産業は法規制といった観点から参入は容易ではなく、専門的知見や適切なケイパビリティを持った人材の不足など、さまざま課題も浮き彫りになっています。

本コラムでは、HiPro主催で昨年開催されたオンラインセミナー「成長するヘルスケア市場における新規事業戦略~参入の壁とその攻略法~」の内容の一部をまとめてご紹介します。 監修にセミナー当日もご登壇頂いた、株式会社ヘルスケア・ウェルス 代表取締役社長の赤木 禎文氏をお迎えし、今後新たにヘルスケア産業参入を検討される方々に向けておさえておきたいポイントなどをお届けします。

■監修者のご紹介

株式会社ヘルスケア・ウェルス 代表取締役社長 / 株式会社バイオセラー 専務取締役

赤木 禎文氏

2011年から現在に至るまで、長年培ってきたヘルスケア領域における新規事業開発の経験やナレッジ、業界内のネットワークを活かし、顧客の課題に応じた実践的アドバイスで数多くの企業のヘルスケア領域の新規事業案件を支援。現在も上場企業を中心に約20社の案件を受託するなど精力的に活動を続ける。

追い風が吹くヘルスケア産業の概況

経済産業省によると、「ヘルスケア産業」は、医療機器、医薬品、医療サービス、健康食品、美容や健康関連商品など、人々の健康と医療に関連する製品やサービス全般を指します。このヘルスケア産業の外部環境には、今まさに“追い風”が吹いているといえます。

同産業の活性は国策として推し進められており、経済産業省は2050年までに目指すべき姿を明示しています。本来であれば医療分野を管轄する厚生労働省の役割のように思えますが、最終的にはこの産業を国内のみならず、海外にも展開することを念頭に、経済産業省が指揮をとっています。

出典:経済産業省『新しい健康社会の実現』https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/020_04_00.pdf

健康寿命の延伸事業や健康経営の促進といった流れの中、「予防・健康づくり」「医療(診断・治療)」「介護・生活支援」という3つのミッションの下、助成金での支援や法令の整備が行われているのが現状です。

経済産業省の調査によると、ヘルスケア産業のマーケットの規模は2020年の数値で約25兆円(公的保険外)です。これを2050年には約77兆円まで引き上げることを目指しています。

出典:経済産業省『新しい健康社会の実現』https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/020_04_00.pdf

中でも国策として特に力を入れているのが「予防(衛生用品、予防接種など)」で、現在の0.4兆円の19.5倍である7.8兆円を目標としています。ほかにも、「健康経営(検診事務代行、メンタルヘルス対策など)」も0.6兆円から3.7兆円(6.16倍)を目指しており、事業会社が関係する項目の目標伸び率も高いようです。

介護分野に関しては、特に大きく伸びているのが「介護関連機器など(福祉用具、ロボット介護機器など)」で、0.8兆円から5.6兆円(7.0倍)です。介護においてロボットを活用する場合、各地方自治体が補助金を出す動きも見られ、今後市場が拡大すると考えられます。

ヘルスケア産業における新規事業開発に立ちはだかる壁/組織面

追い風が吹き、多様な角度からの参入チャンスがあるヘルスケア産業には、新たな事業展開を試みる事業会社がますます増えています。 完全に異業種から新規参入するケースや、既存事業からの横展開を考えるケースなどさまざまですが、こうした企業が抱きがちな疑問も存在します。

「そもそも、自社が保有しているサービスはヘルスケア産業に応用できる可能性があるのか?」 「マーケティング戦略に間違いはないのか?」 「自治体へのアプローチの仕方はこれで良いのか?」 など、馴染みのないヘルスケア産業特有の慣習やビジネススキームの存在ゆえに、どのフェーズにおいても課題は尽きないものです。

こうした課題を自社の力だけでリサーチし、独自で解決に取り組んで奮闘する企業が存在する一方、ビジネス成功への道半ばで挫折してしまうケースも少なくありません。

では、なぜ多くのヘルスケア事業がうまくいかないのでしょうか。それには、組織面や開発手法面におけるありがちな“壁”の存在が考えられます。

新規事業開発の目的に対する合意形成の欠如

<想定シーン> 身近にして最大の課題と言っても過言ではないのが社内の壁です。事業計画段階で、担当役員や経営会議といった承認機関が、新規事業におけるマーケットや市場性といった「判断根拠」を適切に理解できていないシーンが多いようです。 加えて、承認者自身の予防、医療、介護に対する実体験や価値観をベースに判断してしまうと、承認者が「私は必要と感じたことはないから、事業にする意味がない」と考え、その判断に負のバイアスがかかってしまう場合もあります。

<考えられる弊害・デメリット> こうした社内の壁により、事業計画承認が差し戻されると、承認を得るために課題や課題解決に向けたスキームがずれてしまったり、仮にプロセスが進んでもプロジェクトの遅延や機会損失を招いたりする可能性があります。

評価制度・人材集めの方針に難あり

<想定シーン> 新規事業の企画や検討は、経営企画部、事業企画部、新規事業創出部門などで行われることが多いと思われますが、開発テーマがトップダウンで決められると、現場担当者の熱量が高まりきらないということがあります。 また、0から1を生み出す新規事業開発では、担当者が複数のプロジェクトを掛け持ちしていることも多く、十分なリソースを割けないことも考えられます。

<考えられる弊害・デメリット> 熱量が低くその取り組み自体をリスクととらえ、必要以上に慎重になってしまうことで、計画の立案からフィールドリサーチ、PoCに対し、納得がいくまでデータ集めに注力し、スピーディに事業開発が進まないリスクが考えられます。 また、事業開発に携わる優秀な人材やリソースが確保できず、プロジェクト自体が進まなかったり、プロジェクトの成功率に影響が及んだりすることも考えられるでしょう。

ヘルスケア産業における新規事業開発に立ちはだかる壁/事業推進面

組織面以外にも、ヘルスケア産業における新規事業開発には多くの“壁”が存在します。

サービス認証の可否が、今後に大きく影響

<想定シーン> ヘルスケア産業は、その振興のための基盤として、関係省庁との連携によりデータ標準化などの環境整備が推進されています。したがって、今後は医療機器産業の認証制度に倣って第三者認証機関が設置され、認証制度が実施される可能性が十分に考えられるでしょう。

<考えられる弊害・デメリット> これに伴い、認証を受けたサービスと、認証を受けていない(または認証されなかった)サービスに明確な線引きをされることが考えられます。認証を受けたサービスの導入ニーズは増加する一方、非認証サービスについては認証面だけでさらに導入ハードルが上がり、いずれは淘汰されるリスクも高まると予想されます。 今後開発するサービス自体はもちろん、ヘルスケアデータを扱うデバイスなどについても、データ標準化に対応していなければ、サービス展開やデバイスの共有ができなくなってしまうかもしれません。

業界特有の業法や慣習の難解さ

<想定シーン> ヘルスケア産業でサービスを構築する際には、ターゲットやサービス提供方法、サービス内容が業法に則って構築され、運用されているかの事前確認が不可欠です。 業界特有のナレッジやビジネス作法も存在するため、これらに従って進めていかないとプロジェクトの進行そのものに支障をきたすことにつながりかねません。

<考えられる弊害・デメリット> ヘルスケア分野における新規事業に関する専門的スキルや知見を有した人材を確保できないと、プロジェクトが進まなくなることが考えられるでしょう。 また、関連法令や業界ルールに則っていない場合、事業そのものがストップし、手戻りが発生してしまうなど、結果的に大幅なコストがかかってしまい、事業収益性が悪くなる可能性もあります。

立ちはだかる壁/組織面の“攻略法”

こうした“壁”を克服するためには、どのような対策が必要になるのでしょうか。最初にご紹介した「ヘルスケア産業における新規事業開発に立ちはだかる壁/組織面」の解決の糸口を探ってみましょう。

■「新規事業開発の目的に対する合意形成の欠如」の攻略法

重要なのは、組織ミッションの定義することです。 どのような社会課題が存在するからその新規事業をやろうと思っているのか、社内で明確にすることが欠かせません。また、ここでの決定事項を経営陣や部門メンバーと共有し、社内の他部署にも認識してもらうことからスタートする必要があるでしょう。

■「評価制度・人材集めの方針に難あり」の攻略法

社内評価制度とは別に、新規事業構築や推進に適した評価指標を設定するなど、従来とは異なる評価体系の設定が必要です。これがモチベーションにつながり、プロジェクトをブーストするための重要な要素になります。 また、収益化までの期間を経営サイドとすり合わせておくことも重要です。この期間の期限から逆算することで、いつまでにどのフェーズへ事業を進めるのか、プロジェクトメンバー同士で共通の目標として設定できるでしょう。さらに、メンバーのうち1〜2名は新規事業への意志が強く、熱量旺盛な人を参画させることもポイントです。

ここまで、HiPro主催のオンラインセミナー「成長するヘルスケア市場における新規事業戦略~参入の壁とその攻略法~」の内容を一部抜粋してご紹介しました。セミナー当日は参加者からヘルスケア産業参入に向けての闊達な質問が飛び交い、非常に密度の濃い時間となりました。

また、本セミナーはアーカイブ動画も配信しており、セミナー当日に参加できなかった方もいつでも視聴が可能です。アーカイブ動画では、本コラムではお届けしきれなかった、以下のような内容も紹介しています。

  • ヘルスケア産業を5つに分類し、各領域を詳細解説
  • 新規参入を進める事業会社の各課題ピックアップ
  • ヘルスケアまわりのトレンド・テーマ解説
  • ヘルスケア産業における新規事業開発に立ちはだかる壁/事業推進面の攻略法

など

▼くわしくは、こちらから▼

成長するヘルスケア市場における新規事業戦略~参入の壁とその攻略法~

 

これからますます追い風が吹くと考えられるヘルスケア産業。国策とする業界だからこそ、今後も国や自治体のバックアップも期待できるだけでなく、「国民の健康維持に寄与する」という大きな社会的テーマと向き合っていけるのが、この分野の最大の特徴といえるでしょう。

一方で、今回ご紹介したとおり、特有のナレッジなどが必要となる分野だからこそ、他分野のサービスとは異なる「壁」が多く存在します。 だからこそ、これらの課題を手探りで解決するのではなく、業界に精通したプロフェッショナルと共に歩み、着実に課題解決を積み重ねながらプロジェクトの成功を目指すことが有効ではないでしょうか。

ヘルスケアの領域で新たなビジネスに挑戦したいとお考えの方は、数々の実績や抱負な知見を有したプロ人材が集う、この「HiPro Biz」へお気軽にご相談ください。

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