技術開発の進め方|研究開発との違いからロードマップの作成方法までを解説
2023年03月06日(月)掲載
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技術開発は、新しい商品やサービスを作るうえで重要なプロセスです。
しかし、技術開発が思うように進まず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。技術開発を効率的に進めるには、自社の技術領域を明確にして、精度の高いロードマップを作成することが重要です。
本記事では、技術開発の進め方、研究開発や商品開発との違い、技術開発を進める際のロードマップの作り方を解説します。
技術開発とは
技術開発とは、新商品やサービスを生み出す際にどのように技術的な手段を用いて実現するかを考えることです。
新商品を作る場合、工場でどのように生産するのか、多種多様なパッケージにどのように対応するのかなどを考え、生産設備を設計し建設します。基本的には自社の技術領域で対応しますが、現行の技術で対応できない場合は、技術そのものを新たに生み出すこともあるでしょう。
また、商品の生産開始後は効率化を目的とした設備の改良なども実施します。
研究開発と技術開発の違い
技術開発は「研究開発」や「商品開発」と混同しやすい言葉ですが、目的や内容、役割が大きく異なります。
研究開発とは、研究によって確立した新しい知識や技術を、商品に応用・反映することです。また、既存の技術や商品に別の何かを付与し、新しい価値を生み出せないかを考えることも、研究開発の業務に含みます。
文部科学省では、研究開発の定義を次の「基礎研究」「応用研究」「開発研究」の3段階に分けて提唱しています。
基礎研究
基礎研究とは、仮説や理論をかたちにするため、新しい知識を得ようとする理論的または実験的な研究を指します。観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的または実験的研究をいう。
応用研究
応用研究とは、基礎研究で得た知識を活用し、実用化の可能性を確かめる研究、あるいは実用化できている方法の応用化を探索する研究を指します。
開発研究
開発研究とは、これまでの研究で得た知識をもとに、新しい材料、装置、製品、システム、工程などの導入、あるいは既存製品の改良を目指した研究を指します。
※出典:「資料3-2 戦略的な基礎研究に関する現状整理」(文部科学省)
上記から、研究開発は商品に応用できる新しい概念の創造・発展であるのに対し、技術開発は研究開発によって生まれた成果を商品化する技術の開発である点で異なります。
商品開発と技術開発の違い
商品開発とは、研究開発で得られた知見をもとに、具体的な新商品を生み出すことです。企画部門から指示された商品イメージを踏まえ、マーケティング戦略や独自のコンセプトづくり、商品によっては安全性のテストなどもおこないます。
また、商品開発には、既存商品のブラッシュアップや改良も含まれます。そのため、他の部門とやり取りしながら開発を進めるのが一般的です。
つまり、商品開発は新商品を生み出し、技術開発は新製品を製造・改良するための技術を提供するという部分で違いがあります。
イノベーションを起こす技術開発の進め方
技術開発は、自社の技術力を十分に理解したうえで段階的に進めていくものです。いきなり技術だけを伸ばそうとするのは、現実的ではありません。
以下では、イノベーションを起こす技術開発の進め方を4段階に分けて示します。
1.コア技術の特定
自社の技術領域を可視化して、他社と差別化ができる、もしくは他社よりも優位性のある技術を特定して、今後どのように進化させたいかを明確にします。
技術には「基盤技術」と「コア技術」の2種類があります。基盤技術は事業を営むうえで必要となる基本的な技術です。コア技術は競争優位性を持ち、各事業の中核を担う技術を指します。
どちらも企業にとって重要な技術ですが、競争の激化や顧客ニーズの多様化が進む現代では、競争優位性のあるコア技術を高めていく必要があります。そのため、技術開発を進める前提として自社のコア技術を見定めることが大切です。
2.領域の検討
市場価値と技術特性を意識しながら、自社のコア技術を展開できる領域を検討します。
たとえ優位性のある技術を保有していても、成長性のない領域を選べば展開は行き詰まります。
自社の技術とかけ離れている領域を選んでも、顧客価値の創出は難しいでしょう。
企業成長の基本は、顧客や市場のニーズに変化・対応していくことです。自社にとって有利な領域を選ぶには、顧客ニーズの調査が欠かせません。
以下のような手段を用いて、顧客ニーズを認識していきましょう。
- ソーシャルリスニング
- 顧客インタビュー
- 顧客アンケート
- エスノグラフィー(行動観察調査)
- NPS調査
その他、社会の長期的な課題に答えを出し続けることで長期的な成長を狙い、特許や技術文献の情報をもとに展開先を探索することも可能です。
あらゆる角度から検討を重ね、自社の技術特性をいかせる領域を選択しましょう。
3.ビジネスモデルの構築
ターゲットとなる顧客を明確にしたうえで、自社のコア技術をもとに新製品のコンセプトを策定します。
顧客を明確化する際には、既存顧客へのヒアリングやインタビュー、観察などを実施し、顧客理解を深めましょう。
なお、最初にコンセプトを策定すると、ターゲットを絞りにくくなる、顧客ニーズとの乖離が生まれるなどの可能性があります。そのため、コンセプトはターゲットとなる顧客像をつかんでから決めます。
すでにコア技術を用いた商品がある場合は、改良や新しい価値を加えるなどの工夫をしてみるのもおすすめです。自社だけで対応できない開発要件などに関しては、外部リソースの活用を検討してもよいでしょう。
4.ロードマップの作成
ロードマップとは、目標に向かって効率的に作業を進めるためのツールです。開発スピードを速める、関係者間の意思統一が図れるなどのメリットがあり、さまざまなシーンで導入されています。
技術開発のロードマップでは、横軸を時間として、研究開発や商品化戦略を表現するのが一般的です。そこに組織のビジョン、戦略、技術開発の目的、マーケット情報、マイルストーン、競合先などを書き込むことで、技術開発の参加者全員が共通意識を持って課題に取り組めます。
ロードマップに載せる基本情報の例として以下のような項目が挙げられます。
- 組織のビジョン、戦略
- プロジェクトの目的、目標
- 市場ニーズ、トレンド
- 自社の技術情報
- 競合先
- 共同企業の情報(他社と共同で取り組む場合)
- 投入リソース
- マイルストーン
ロードマップで代表的なものは、以下の4パターンです。
ガントチャート
さまざまな業務の進捗状況を管理するための表です。プロジェクト管理などに多く用いられ、進捗状況を一目で、俯瞰的に把握できます。
計画表
技術開発の計画や流れをまとめた表です。計画表をもとにロードマップを作成することで、タスクの具体的な内容や優先順位などを可視化できます。
フローチャート
タスクの流れや手順を示す図表です。作業内容の整理や把握が容易にできます。フローチャートを用いることで、視覚的に見やすく、わかりやすいロードマップを作成できます。
タスクリスト
目標達成に必要なタスクを洗い出したリストです。
一般的に技術開発は長期間におよぶため、ロードマップの情報量が多くなりがちです。情報が細かすぎると見づらくなるため、ロードマップは数ヵ月単位で作成するとよいでしょう。
またマイルストーンは、中間発表などのイベントや「期末までに◯◯をする」という節目など、重要なポイントに限定して設定するのがおすすめです。
技術開発におけるロードマップの種類
技術開発を想定したロードマップは、役割ごとに「広報型ロードマップ」「戦略型ロードマップ」「戦術型ロードマップ」の3つに分けられます。
ロードマップは全社のベクトルを統一する有効なツールとなるので、積極的に活用しましょう。
ここでは、技術開発に関わるロードマップの種類を紹介します。
広報型ロードマップ
広報型ロードマップとは、将来の技術開発に関して意思表示をおこなうための図表のことです。技術群が発達した社会のビジョンを広く示すことで、技術開発に関わる産業界や政策、社会などに期待感を与え、理想とする社会へ誘引しやすくなります。
広報型ロードマップは、「市場ロードマップ」と「製品ロードマップ」に分けて作成すると、内容をより具体化できます。
市場ロードマップ
市場の動向やニーズをもとに作成するロードマップです。自社戦略を実施するうえで発生する問題を、分析・列挙します。
製品ロードマップ
市場ロードマップで明確になった課題に対して、解決に導く策となる商品群を記載した図表です。
戦略型ロードマップ
戦略型ロードマップとは、組織のビジョンや目標達成までの道筋に、要素技術を盛り込んだ図表です。開発を進めるうえでのマイルストーンをはじめ、社会性、市場、法規制など、技術以外の要素も詳しく書き込み、数枚の図表とポートフォリオなどの捕捉資料を使ってわかりやすく示します。
戦略型ロードマップにはビジネスモデルそのものを記述するので、経営者と事業部、研究開発部との意思疎通に役立つでしょう。
また、戦略型ロードマップは、広報型ロードマップの項目で触れた「市場ロードマップ」「製品ロードマップ」に、「技術ロードマップ」を加えた3種類があります。
技術ロードマップ
製品ロードマップの内容を技術要素に書き換えたものです。市場ロードマップと製品ロードマップによって明確化された必要な技術を、自社の技術と関連付けて作成します。
戦術型ロードマップ
戦術型ロードマップは、プロジェクトマネジメントのために作る図表です。
戦略型ロードマップの内容をより具体的にしたもので、目標やゴールまでのマイルストーン、達成時期、競合・連携関係などを整理できるため、技術開発を進めやすくなります。
技術開発を外部と協力して進める道もある
自社のみで新しい技術開発を進める場合、中小企業では資金も人的リソースも足りない場合があります。技術開発は目まぐるしく進むことを考えると、自社で人材を育成してから技術開発を進めていくのは現実的ではない部分もあるでしょう。
そのため、特定の技術に関する専門的な知識を持つ人材を外部から採用する、大学や他の企業と提携して技術開発に臨む方法なども視野に入れましょう。
その際の注意点は、外部と共同で技術開発を進めると、資金や人的リソースを抑えられるメリットがある反面、情報流出の懸念や完成した技術の管理方法など、多くの問題が新たに生じかねないことです。
また、外部と協力して技術開発を進めるなら、パートナー選びが大事です。例えば、大学と提携する場合、協力をあおぎたい技術分野の権威だからという理由だけでなく、研究実績、教授の人柄、研究方針も含めて検討する必要があります。
外部リソースに過度に依存しないことも意識しましょう。外部リソースに依存しすぎると、知識や技術など自社メンバーの能力が伸びません。結果として、外部リソースに依存しなければ技術開発が進まない事態に陥る可能性があります。
自社リソースと外部リソースの割合をどのようにするのか、技術開発の過程での自社メンバー育成は、技術開発を進めるにあたって重要なポイントのひとつです。
まとめ
技術開発は、新商品を開発したり製造したりするのに不可欠なプロセスかつ、企業の成長に関わる重要な要素です。競争が激化する現代では、技術力の高さだけでなく、顧客ニーズとの適合性も求められます。そのため、技術開発は自社コア技術の明確化と、自社にとって有利な領域の検討が大切です。
技術開発を推進するには、ロードマップの活用が効果的です。ロードマップの精度が高いほど、関係者全員が共通意識を持って取り組めるようになるでしょう。
技術開発におけるロードマップには、広報型、戦略型、戦術型があります。内容と特徴がそれぞれ異なりますので、組織と目的に適した方法を選択しましょう。