サービス導入事例

KHネオケム株式会社

売上:
1000億円以上
業種:
化学

研究開発

顧客のニーズや開発アイデアを収集する仕組みを構築。累計100件以上のアイデアが集まり、組織の意識改革にも影響を与える。

R&D総合センター長
  • 松岡 洋史 氏
  • BEFORE導入前の経営課題

    事業の特性や社内の体制の兼ね合いで、新しい開発テーマが出にくい状況となっていた。この打開策として、ニーズやシーズを整理し、効率的にアイデアを集める仕組みを求めていた。

  • AFTER導入による成果

    バンク活動、アイデア委員会、ステージゲート制度の運用によって、アイデア収集の仕組み化と活性化を実現。累計100件以上のアイデアを獲得し、研究員から自発的なアクションを生むきっかけとなった。

スペシャリティケミカル企業を目指すためにも、良質なアイデアを出す仕組みが必要だった

環境、ヘルスケア、電子材料にフォーカスし、グローバルニッチ企業として独創性の高い製品を数多く提供するKHネオケム株式会社。なかでもR&D総合センターでは、同社が掲げる長期経営計画「VISION 2030」における新製品・新規事業の拡大の達成に向け、研究開発が活発化していた。

次なる開発テーマを創出する重要性が高まる中、当時の課題について、センター長の松岡氏は「基礎化学品など、川上の素材メーカーとして活躍しているのもあり、消費者の声が届きにくいという前提があるなかで、開発テーマを出していくためには、ニーズやシーズを洞察、整理して、それらを組み合わせたアイデアが出てくる仕組みの構築が必要でした」と振り返る。

この課題の解決策として、同社はプロ人材の活用を検討していた。その理由として、「一般論は理解していたのですが、教科書通りにやっても上手くいかないので、成功体験を持つ方にアドバイスをいただきたかった」と同氏は語る。

同社の相談を受け、HiPro Bizが提案したのは、メーカーで研究開発に従事し、シーズ開発やニーズ開拓にて豊富な実績を持つO氏だ。O氏について、「開発テーマの創出方法を知っているだけでなく、ゼロからイチを生み出した経験を持たれていることに魅力を感じました。また、落ち着いて丁寧に物事を考えていきたいという弊社の社風に対して、人柄がマッチしていました」と同社は印象を語った。

そして、同社は研究所の4〜5名がコアメンバーとなるチームにO氏を迎え、開発テーマのアイデアを効果的に収集・選出するための仕組みづくりがスタートした。

アイデアを集めるだけでなく、ブラッシュアップを考慮した仕組みを構築

開発テーマのアイデアを効率的に収集する仕組みとして、O氏はバンク活動を掲げた。バンク活動は、ニーズやシーズの情報収集をフォーマット化し、研究員の声を集めるための仕組みだ。

情報の収集・管理方法には、同社の職場環境に合わせて、慣れ親しんだExcelを選定した。さらに研究員がアイデアの記載方法に悩まないように、具体的な記載例を示すことも忘れてはいない。このフォーマットの作成により、アイデアの収集先は準備できた。

一方で、研究開発部門の研究員から一定量のアイデアを集めるためには、活動を周知するだけでは不十分だ。アイデアを出すことが非生産的であると研究員が感じてしまうと、活動の定着が難しくなってしまう。

そこで同社は、2つの取り組みを実行した。1つは表彰制度の新設、もう1つがアイデア委員会の発足だ。

1つ目の表彰制度は、研究員の意欲を醸成するために新設した制度だ。具体的には「年間最多アイデア出し賞」や「ユニーク賞」が新設された。

2つ目のアイデア委員会は、研究員から集めたアイデアを議論し、ブラッシュアップするための会議体だ。松岡氏を中心に、開発部門のメンバーを含めた4~5名のコアメンバーで運営している。

アイデア委員会では、実際にアイデアを出した研究員も参加し、事業化に向けた自由なディスカッションが行われる。ここで話し合いの末に事業化の見込みがあると判断されたアイデアが、次のステップに進むことができるのだ。

運営開始時の状況について、松岡氏は「正直なところ、事業化には程遠いようなアイデアもいっぱい出てきました。でも、どのようなアイデアであっても決してないがしろにせず、全てのアイデアを平等に話し合うことを心がけました。プロ人材の方からアイデアに対する意見を直接聞ける場でもあったので、研究員にとっては自分のアイデアの実現可能性だけでなく、『次に進めるために何をしたほうが良いのか』という具体的なアドバイスをもらえる場としても機能していたんです」と振り返る。

この2つの取り組みを通じて、同社はバンク活動の活性化を図った。

そして、アイデア委員会での選考後のフローでは、ステージゲート制度というフレームワークを用いて、事業化に結びつけていく手法を採用した。同社のステージゲート制度では、3つのゲートを設定して、ビジネスとしての確度を高めていく。それぞれのゲートの主な通過基準は、以下の通りだ。

・ゲート1:事業計画書が可視化されている状態
・ゲート2:ビジネスモデルの不確実性が下がっている状態
・ゲート3:ビジネスの実現性(自社でやるべきかなど)が明らかになっている状態

一方で、研究開発部門の研究員にとって、ゲート1を通過することは容易ではない。研究員はその業務の特性から、技術的な課題を中心に考えることが習慣化している。しかし、事業化に進めるためには、技術的な課題の解決に加え、消費者のニーズや提供価値などのビジネス観点も求められるのだ。

この解決策として、同社はビジネスモデルキャンバスの活用と、部署同士の連携強化を促した。具体的にはビジネスモデルキャンバスというフレームワークを使って、事業計画書に必要な情報を定義し、その情報を持つ営業チームなどの他部署と連携を取ることで、事業計画書の可視化の難易度を下げたのだ。

この取り組みに対して、松岡氏は「研究員が作りたいものと、営業が売りたいもののギャップを解消したいと考えていました。せっかくアイデアを出してもらっているのに、売れないと判断されてボツになるのは、誰だって嫌だと思います。だからこそ、前向きなアクションを起こしやすいように、この情報さえ埋めれば通過できると感じてもらえるような環境整備に注力しました」と語る。

これらの活動を通じて、同社は開発テーマのアイデアを収集し、ビジネスの観点で収益性やコストを考えながら、ブラッシュアップしていくための環境を着実に整えていった。

仕組みの構築と活性化により、累計100件以上のアイデアが集まる

結果として、本プロジェクトは大きな成果をもたらした。開発テーマのアイデアは累計100件を超え、アイデア委員会では毎回10件ほどのアイデアが議論される状態になった。アイデア委員会を通過したアイデアもすでに複数あり、ステージゲート制度での取り組みが進んでいる。

この成果要因について、「今回の取り組みは最初のアイデア投稿にハードルがあると思うのですが、みんなが活動を面白がってくれて、積極的に参加してくれたのが良い影響を与えたと感じています。アイデア委員会でも若手が積極的に発言していて、お客様の声も踏まえながらさまざまな意見交換が行われています。また、たまたま組織体制が大きく変わって部署間での連携がしやすくなっていたので、時期的要因もプラスに働きました」と所感を語った。

また、O氏との協業について、松岡氏はアイデア委員会に好感触を得ていた。「最初はバンクを作って、アイデアを集めれば良いと考えていました。でも、アイデア委員会を通じてアイデアについて話し合う機会を設けたことで、結果的にバンクによるアイデア収集が活性化しました。アイデア委員会を発足しましょうという提案がなかったら、集めたアイデアを上手く活かせていなかったかもしれません」と言う。

同社はこれまで、本社が開発テーマを決め、それに沿って研究員が活動する形式を取っていた。しかし、今回のプロジェクトによって事業に対する研究員の理解が深まったことで、研究員が自発的に開発テーマを出していく文化が生まれつつある。「今後は事業の目線を持ちながら、実験できる人材を育てていきたい」と、同社は人材育成にも意欲を示した。

とはいえ、バンク活動とステージゲート制度による事業創出は、同社にとって序章に過ぎない。事業化という結果につなげるべく、同社の取り組みは続いていく。

企業名
KHネオケム株式会社
設立
2010年12月8日(前身の協和油化(株)は1966年11月設立)
従業員
825名(連結、2022年12月末現在)
売上
114,880百万円(2022年実績)
事業内容
各種石油化学製品の研究・製造・販売

担当プロ人材より

KHネオケム様は今日の複雑で変わりやすいビジネス環境の中で、自社保有シーズを活かした新たなニーズ開拓をいかに行っていくかを検討されておられました。そこで開発部門全員を対象に、自社の新たな取り組みに繋がるようなシーズ、およびニーズに関するアイデア募集、共有化を行い、それらのアイデアを活発に議論する場づくりの構築を提案し、選抜されたメンバーの皆さんと共に取り組ませていただきました。

メンバーの皆さんは一からの取り組みが必要なアイデアバンクの構築、アイデアミーティングの開催、活性化を見事なチーミングで達成されました。

アイデアミーティングでは多くのユニークなアイデアが出され、多様な意見も尊重し合う前向きで活発な雰囲気でディスカッションされ、このアイデアの中から将来性のある有望な開発テーマが創出されると感じています。

登録プロ人材 O氏 元接着剤メーカー研究所部⾧ 接着剤、粘着剤、化粧品原料等の研究開発に従事、新規用途開拓にも取り組み、シーズ開発、ニーズ開拓、開発テーマ創出、開発、量産化、顧客開拓まで一気通貫で携わってきた。独立後、化学関連メーカーへの各種技術支援、新規用途開拓支援のコンサルティングを行っている。

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