サプライチェーン最適化に欠かせない「会議体」と「共通言語」。より良い収益体制を築くためのS&OP実践法
2025年08月27日(水)掲載
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ビジネス環境の不確実性の高まりとともに、SCM(Supply Chain Management)の重要性が増しています。柔軟かつ効率的なサプライチェーンを構築し、より良い収益体制を確立するには、どのような取り組みが求められるでしょうか。
複数の外資系製薬企業でサプライチェーンマネジメントなどを手掛けてきた野田 真里氏は、S&OP(Sales and Operations Planning)の必要性を訴えます。S&OPとはなんでしょうか。 また、その実践にはどのような取り組みや体制構築が必要なのでしょうか。サプライチェーンマネジメントのプロ人材にお話を伺いました。
■「部門横断型のサプライチェーン最適化」を目指すS&OP
■S&OPを実現するために覚えておくべき2つの実行フェーズ
■原価率約5割減も。S&OPを実践し、本質的な課題解決を通じた収益増を
■まとめ
「部門横断型のサプライチェーン最適化」を目指すS&OP

――S&OPについて概要を聞かせてください。
野田氏:S&OPとは、Sales and Operations Planningの略称で、SCMの手法の一つです。SCMの目的は、サプライヤーと顧客(消費者)を繋ぐサプライチェーンを効率化し、収益、生産性、顧客満足度の3要素の最大化を図ることですが、S&OPはその実現を部門の枠を超えて全社一体で取り組む活動を指します。営業や生産だけでなく、ファイナンス、マーケティング、購買、物流、品質管理、開発などの部門が課題と目標を共有し、部門間連携を通してサプライチェーンの最適化を通じ収益性向上を目指す活動です。また、発展形として特定サプライヤーや特定顧客との企業間を超えたS&OPも最適化を目指した企業間連携として活用されつつあります。
S&OPの実践という点では、日本企業よりも海外企業が一歩先を行っているのが現状だと思います。事実、私は大学卒業後に外資系の化学メーカーに入社しましたが、当時すでに社内ではS&OPの概念が広く普及しており、活動も活発でした。対して、日本企業は組織構造が縦割りであることが多く、事業部横断で実施されるS&OPがなじみにくかった印象があります。
とはいえ、将来の見通しが難しいVUCA(ブーカ)の時代と言われる昨今、サプライチェーンが経営に与える影響は日に日に高まっています。また、部門間連携で問題解決を目指すS&OPは、組織改革や製品開発を加速させる絶好の機会でもあります。私としては、日本企業のみなさんにもS&OPを深く知ってもらい、実践してほしいと考えています。
――なぜサプライチェーンの最適化は部門横断型で取り組まなければいけないのでしょうか。
野田氏:各事業部が個別最適を図るだけでは、サプライチェーンは最適化されないからです。たとえば、営業部門の目標はできるだけ多くの商品を売ることですから、より多品種かつ多くの商品を生産してほしいでしょう。一方で、生産部門はコストや在庫を増やしたくないため、できるだけ無駄な生産はしたくないはずです。この両者が連携を取らずに個別のKPIや目標ばかりを追いかけてしまうと、利益相反が生まれ、組織全体としては無駄や機会損失が増えてしまいます。こうした複雑な影響関係が企業の中には数多く存在するため、それらを丁寧に解きほぐして、全体最適を目指すために事業部間の連携が必須なのです。
S&OPを実現するために覚えておくべき2つの実行フェーズ
――では、S&OPとは具体的にどのように実行するのでしょうか。
野田氏:一定の手順があるわけではないのですが、S&OPの活動は大まかに二つのフェーズに分けられると思います。一つ目が「会議体の設置とKPIの設定」です。先ほども述べましたが、S&OPは部門横断型のプロジェクトでなくてはいけません。そのため、まずは可能な限り潜在的に必要な多くの部門からメンバーを集めて会議体を設定し、プロジェクトの目標であるKPIを設定、共有します。
KPIの設定は極めて重要なポイントです。当然ながら部門が異なれば達成すべきKPIは異なります。そのため、ただ単にさまざまな部門からメンバーを集めただけでは、どのような目標に向けて施策を実行すればよいかわからないのです。いわば、これは「共通言語がない状態」といえるでしょう。プロジェクトのメンバーが課題意識と目標を共有するためにも、KPIの設定と共有が欠かせないのです。
そして、二つ目のフェーズが「現状把握と計画の実行」です。会議体で設定したKPIを達成するためには、どのような取り組みが必要なのかを明確化、共有し、改善施策を実行していきます。
このときのポイントが現状把握です。現状、たとえば、製造や物流のどこにコストがかかっているのか。それはオペレーションなのか、原材料費なのか、人件費なのか。こうした点を明らかにするには、製造工程や人員、経費などの現状を把握する必要があります。新製品の在庫がだぶついているのは何故なのか、販売予測の齟齬なのか、マーケの市場規模の目論見が外れたのか、何か他に原因があるのか、各部門が保有するデータを閲覧するのはもちろん、数値化されていない定性的情報については過去の既存値を含めて計測し定量的数値データを一定期間収集することが必要です。
これらの共有可能な客観的データをもとに具体的な施策を立案し、実行、検証、分析、修正しながら各部門のKPIの達成を目指します。数値データの可視化(見える化)によるKPIの共有化がS&OP組織目標の達成に大変重要なファクターとなるのです。
――そうしたS&OPの活動の中で、つまずきがちなポイントがあれば教えてください。
野田氏:「会議体の設置とKPIの設定」のフェーズでは、「どのようなKPIを設定すればよいのかわからない」という問題がしばしば挙がります。
しかし、それは当然のことだと感じます。経営戦略は企業ごとに異なりますから、他社で採用されているKPIが必ずしも自社に適しているとは限りません。あくまでもS&OPのKPIはオーダーメイドなのです。そのため、中期経営計画などの自社の戦略を紐解き、一つひとつ要素を分解しながら、KPIに落とし込んでいくような地道な作業が必要でしょう。
一方で、「現状把握と計画の実行」のフェーズについては、リソース不足が壁になりがちです。昨今、人員に余剰を抱えている企業はほとんどないと言っていいでしょう。多くの企業が限られたリソースで既存の業務を処理しています。
そうした中、新たにS&OP組織を立ち上げ、活動を効果的に進めるのは、最初は特に困難かもしれません。だからこそ、私は「SCMのIT化」が重要だと考えています。ITソリューションツールを導入して、既存の業務を省力化、効率化することではじめて、S&OPに取り組むための余裕が生まれます。そのため、S&OPの真の実践と効果の為に、企業として経営層の理解と積極的な取り組みが必要不可欠です。
通常ITソリューションツールの導入には、経営層の投資としての承認が不可欠でしょう。プロジェクトを推進する際には「経営層の理解、協力、承認をいかに得るか」を意識してほしいですね。
とはいえ、上記のような取り組みに敷居の高さを感じる方も多いと思います。そうした際には、外部人材を活用するのも一つの手段でしょう。KPIの設定やITツール導入に知見を持つ外部人材は多いです。また、経営層との折衝においても、外部人材だからこそ率直に意見できるケースもあります。S&OPに初めて取り組む際などには、外部人材の活用を検討してみるのもよいでしょう。
原価率約5割減も。S&OPを実践し、本質的な課題解決を通じた収益増を
――S&OPに成功すると、企業は具体的にどのようなメリットが得られるでしょうか。
野田氏:たとえば、私が経験したプロジェクトでいえば、製造原価を半分に削減できたケースがあります。ある製品の原価率が収益を大幅に圧迫、リードタイムが長いため欠品も発生していたことから、製品存続の是非が財務部より提案されました。S&OPの会議体を活用し、原因と対策を追究しました。
製造原価、売上、利益率、欠品率、リードタイム、顧客数などの数値データ共有化と多面的な検討の結果、たどり着いたのが日本市場で販売する為の競合他製品と同様の「梱包」でした。その製品は海外工場で日本仕様の特別な梱包にして国内で販売していたのですが、製造現場に出向いてみると、その特別仕様の梱包製造のためだけに特別仕様の梱包材を購入し、個別のラインを設置し、作業員に特別なトレーニングを実施し、手作業で梱包していました。
これでは生産効率は低下し、生産機会も限定され、リードタイムも長く、人件費もかさみます。そこで、営業部から消費者へのインタビューを実施してみると、その形態での梱包パックでなければいけない理由は特段見つかりませんでした。物流部、品質保証部と合同で梱包方法を標準の製造製品と同じ梱包形態に変更しました。
すると、梱包の共有化によって製造自動化が実現し原価率はみるみる低下し、リードタイムも短縮の結果、機会損失もゼロになり、結果的に原価は半分に削減、利益率は大幅にアップし、売上も安定しました。S&OPでのデータ共有と全員の理解と協力体制によって比較的短期間で課題の発見と効果的な解決策が実現できた例と言えるでしょう。
――最後に、これからS&OPに取り組む企業に向けて、野田さんの考えを聞かせてください。
野田氏:S&OPは企業の成長にとって必須のプロジェクトであるとお伝えしたいです。日々の業務に取り組む中で「これは何かおかしいのでは」と疑問に思う瞬間は誰にでもあると思います。往々にして、その直感は正しいです。これを客観的な数値データとして可視化し共有してみましょう。これまで述べてきたように、組織の中ではさまざまな要因が絡み合う中で、自然と無駄な作業やコストが生まれます。そうした組織の弱点や問題点を共有し認識、連携して改善、全員でより良い組織や企業の姿や成長を目指す上で、S&OPは大変有効な取り組みです。部門内の場当たり的な個別の取り組みではなく、本質的な企業としての課題解決や成長を実現したい方には、S&OPを実践することをお勧めします。
【プロフィール】
野田 真里(のだ・まり)
大学卒業後、米化学メーカーに入社。ファイナンス、ITなどの部門を経て、サプライチェーン部門に所属。グローバルサプライチェーンの最適化に従事。在職中に中小企業診断士、MBAなどを取得したのち、独製薬企業に入社。サプライチェーン事業部の立ち上げに関わり、新製品の上市、需要と供給の最適化や、ERPシステム導入、ロジスティクスの構築などを手掛ける。現在は、長年の実務経験を活かしてフリーランスコンサルタントとして活動。メーカー、製薬系などの国内企業のサプライチェーン最適化を支援する。
まとめ
サプライチェーンの最適化には、部門間の垣根を超えた協働と共通の課題意識が必要なことがわかりました。とはいえ、会議体の設置やKPIの設定、具体的な施策の策定や実施後の検証まで、S&OPのプロセスは長期に渡ります。その中では、専門的な知見やプロジェクト推進のためのフレームワークなども求められるでしょう。
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