スマート工場とは?IoTやAIの導入によるメリットなどを解説

生産

2021年11月25日(木)掲載

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日本経済を長らく牽引してきた製造業は現在、アジア諸国をはじめとする海外メーカーの躍進もあり、市場での競争力低下が叫ばれています。また、熟練技術者の高齢化による若手の後継者不足や、国が進める「働き方改革」の実現に向けた労働環境の改善など、日本の製造業は多くの課題に直面しています。

これらの国家的課題の解決に向け、注目を集めているのが、デジタル技術を駆使したスマート工場(スマートファクトリー)です。メディアや新聞などで、一度はスマート工場という言葉を目にしたことがある方も多いと思います。しかし、製造業や工場に詳しい方でない限り、スマート工場の意味や由来を、正しく理解している方は少ないのではないでしょうか。

そこで本コラムは、そもそものスマート工場の語句説明にはじまり、取り組むメリットや実現に向けたステップ、成功事例などにつき詳しくご紹介します。今後のスマート工場への取り組みに向け、ぜひ本コラムをご活用いただければ幸いです。

スマート工場とは?

スマート工場とは、生産ラインや製造機械といった工場内の各種設備をネットワークで接続し、生産活動の最適化や情報管理の効率化を図る工場を指します。

従来の工場との違い

従来の工場は、豊富な経験を持つ担当者やベテラン技術者の手作業による運営が一般的でした。しかし、人的リソースに頼っている以上、工場内において生産性の向上や情報管理の効率化を目指すには限界があります。

一方、スマート工場においては、作業進捗や品質などの情報を、ネットワークやITシステム、無線技術の活用を通し効率的に管理できるため、限られた人的リソースで生産性の向上と高収益化を実現できます。その点が、従来の工場にはないスマート工場の特徴です。

スマート工場に必要なIoTやAIについて

スマート工場には、IoTとAIの活用が不可欠です。以下にそれぞれの特徴をご紹介します。

・IoT(Internet of Things:モノのインターネット):IoT とは、従来インターネットに接続されていなかった「あらゆるモノ」が、ネットワークに接続されることで、相互に情報交換できる仕組みを指します。例えば、IoT技術を活用し製造機械(モノ)をネットワークに接続した場合、製造機械(モノ)自体からデータを自動的に収集・蓄積することができるため、作業者の工数削減に寄与します。

・AI(Artificial Intelligence:人工知能):IoTにより、モノからデータを収集・蓄積するだけは生産性の向上には直結しません。そこで必要となるのがAI技術の活用です。AI技術を用いて、蓄積したデータを効率的に処理・分析し、価値あるデータに変換することで、生産工程の高度な自動化が実現できます。

スマート工場の理解に欠かせない「インダストリー4.0」

スマート工場を正しく理解するためには、「インダストリー4.0」の理解も欠かせません。以下に順を追ってご説明します。

ドイツで生まれた「インダストリー4.0」

スマート工場の概念は、ドイツ政府が2011年に提唱した「インダストリー4.0」から端を発しています。2010年頃のドイツでは国際競争力と生産性の低下が問題視され、その解決に向けた仕組みづくりが求められた結果、製造業における生産性の向上が国家施策として取り上げられることになりました、

このような背景からドイツ政府は2011年に「ハイテク戦略2020行動計画」のひとつとして「インダストリー4.0」を提唱し、製造業のIT化を推進したのです。「インダストリー4.0」では、IoT・AIなど先端技術の積極的な活用による、生産・物流工程の大幅な自動化と、コスト削減、生産性の向上が推奨されており、これがスマート工場の原型になりました。

「インダストリー4.0」の設計原則

「インダストリー4.0」ではIT化の推進に際し、各製造企業に向け、守るべき4つの設計原則を提示しています。以下の設計原則に従い、スマート工場は成り立っているため、特徴を充分に理解しましょう。

・相互運用性:工場内での生産に関わるすべての人・システム・モノ(機械、設備、センサなど)が、相互に接続し通信を行うことを指します。

・情報透明性:相互運用性より得られた、工場を取り巻く膨大なデータを収集・分析の上、可視化することを指します。

・技術的補助:工場内で働く人間にとって危険な作業や重労働をロボットがサポートし、安全で快適な労働環境をつくることを指します。

・分散型決定:システムやモジュールが可能な限り自律的に業務の意思決定を行うことで、工場内で働く人間を支援することを指します。

スマート工場に取り組むメリット

スマート工場に取り組んで得られる6つのメリットにつき、以下に解説します。

少子高齢化社会に伴う人手不足の解消

少子高齢化が進む日本では、将来的に慢性的な人手不足の発生が予見されており、製造業も例外ではありません。スマート工場への取り組みにより、AI・ロボットの活用による省人化や、生産性向上による工数削減などが実現できるため、人手不足を解消する施策として、大きな期待が寄せられています。

世界に誇る日本の技術の継承

技術力の高さを武器に躍進を続けてきた日本の製造業ですが、若手人材の不足もあり、技術継承が上手くいっていない実態があります。

スマート工場が実現すれば、熟練技術者しか持ち得なかったスキルやノウハウを、ビッグデータとして収集できるようになり、その収集したデータをもとに「作業の標準化・マニュアル化」が可能になります。結果として、他の技術者の教育にも活用することができ、技能継承がスムーズに行える点もスマート工場に取り組むメリットの一つです。

働き方改革

日本政府が掲げる一億総活躍社会の実現に向け、労働時間の削減をはじめとする「働き方改革」の推進が、日本経済のトレンドになっています。2021年現在、効率的な運営や生産性アップを実現できるスマート工場は、多くの製造企業において働き方改革を推進する際の重要な経営ファクターとして位置付けられています。

不良原因の早期特定

製品にIoTセンサや通信機能を組み込むことで、不良品が発生した際、いつ、どの工程で発生したか、早期に原因を特定することが可能です。

また、出荷後に不良品の発生が発覚した際も、製造条件やロット情報の検索・追跡が容易に行えることから、迅速な返品交換やリコールができ、不良品発生に伴う事業への悪影響を最小限に抑えることができます。

設備の最適化とコスト削減

スマート工場への取り組みにより、工場内の生産設備が最適化され、効率的な生産体制を構築できれば、その時々の市場ニーズに応じた製品製造も可能になります。結果として最適な人員配置による省力化へとつながり、コスト削減を期待できる点も、スマート工場のメリットだといえるでしょう。

SDGsへの対応

世界的に環境に対する意識の重要性が高まる中、「SDGs(持続可能な開発目標)」が広く社会に浸透し、SDGs達成に向けた取り組みをアピールする企業が増加傾向にあります。

とりわけ、エネルギーを大量に消費する製造業において、SDGsへの対応は持続的な事業成長を目指す上で不可欠であり、スマート工場が大きな効果を発揮します。なぜなら、スマート工場では、工場の稼働状況やエネルギーの利用状況を可視化でき、工場内の省エネルギー化を効率的に目指せるためです。

事前に認識すべき4つの課題

スマート工場への取り組みに際し、事前に認識しておくべき4つの課題につき、以下に解説します。

データ戦略を設計できるデジタル人材の確保

IoTやAIの導入のみで、工場内のデータを効果的に収集・分析・活用することはできません。事業ビジョンの達成に向け、「そもそもどのようなデータを収集・分析し、どのように工場運営に活用するか」について、データ戦略を設計できるデジタル人材の確保が不可欠です。

強固なセキュリティモデルの導入

スマート工場を運営する際は、日々、大量のデータを取り扱うことになります。工場内の各種設備から収集されるデータは、企業にとって市場競争力に影響を与える重大な機密情報です。マルウェアの感染や不正アクセスなどによるデータ漏洩を防ぐためにも、強固なセキュリティモデルの導入は欠かせません。

IoT化した設備に応じたメンテナンスの必要性

最新テクノロジーを活用して生産設備のIoT化を推進した場合でも、人の手を介した定期的な設備メンテナンスは不可欠です。また、スマート工場には多様なIoT化した設備が導入されることになるため、各設備に応じたマニュアルの作成も必要になります。

莫大なイニシャルコストの発生

自動化や生産性向上の実現に向け、AIやIoTセンサ、ロボット、システムなどを導入する場合、莫大なイニシャルコストが発生します。費用対効果を充分に検討した上で、スマート工場への取り組みを進めましょう。

工場のスマート化を成功させる7つの目的

2017年に経済産業省が発表したレポート「スマートファクトリーロードマップ」(※1)では、スマート化の目的として、以下の7項目をあげています。今後の工場のスマート化に向け、前段のメリットと併せ、レポート内で掲げられている目的の理解に努めましょう。

品質の向上

経済産業省のレポートにおいて品質の向上は、「不良率の低減」「品質の安定化・ばらつきの低減」「設計品質の向上」 の3つの目的に細分化されています。

IoTセンサを活用するスマート工場では、作業結果などのデータをリアルタイムで収集・分析でき、不良が発生しやすい状況を事前に把握・対応できることから、品質の向上が期待できます。

コストの削減

コストの削減は、「材料の使⽤量の削減」「生産のためのリソーセスの削減」「在庫の削減」「設備の管理・状況把握の省力化」 の4つの目的に細分化されています。

スマート工場では、設備の稼働状況に限らず、材料在庫や作業者の負担、需給予測なども数値としてリアルタイムに把握することが可能です。生産計画やプロセスが最適化できるため、コストの削減もスマート化の目的の一つです。

⽣産性の向上

生産性の向上は、「設備・ヒトの稼働率の向上」 「ヒトの作業の効率化、作業の削減・負担軽減」「設備の故障に伴う稼動停⽌の削減」 の3つの目的に細分化されています。前述した生産計画やプロセスの最適化は、設備や材料、作業者など、製造工程全体のリソースの最適化へとつながるため、コストの削減だけでなく、生産性の向上も期待できます。

製品化・量産化の期間短縮

製品化・量産化の期間短縮は、「製品の開発・設計の自動化」「仕様変更への対応の迅速化」「生産ラインの設計・構築の短縮化」の3つの目的に細分化されています。

スマート工場では、設計から量産に至る製造工程において、あらゆるデータを収集することが可能です。収集した製造に関する膨大なデータを分析し、改善につなげることで、開発や設計、量産化の期間短縮に寄与します。

⼈材不⾜・育成への対応

人材不足・人材育成への対応は、「多様な人材の活用」「技能の継承」の2つの目的に細分化されています。

複数のカメラやセンサで熟練作業者の動きを感知・収集し、AI分析を行うことで、これまで習得に時間を要していた作業の標準化やマニュアル化が可能になります。体系化した技術ノウハウの組織共有により、効率的に技能を継承でき、多様な人材の活用が可能になります。

新たな付加価値の提供・提供価値の向上

こちらの項目は、「多⽤なニーズへの対応⼒の向上」「提供可能な加工技術の拡大」「新たな製品・サービスの提供」「製品の性能・機能の向上」の4つの目的に細分化されています

新しい不可価値提供の一例として、従来にないアフターサービスの提供があります。IoTセンサと通信機能を製品に搭載し、出荷後の消耗具合をリアルタイムで製造企業が把握することで、最適なタイミングでの部品交換やメンテナンスが可能になります。また、実際の顧客の使用方法や頻度をデータとして収集すれば、新たな製品・サービスの開発時にも効果を発揮するはずです。

その他

その他の項目として、「リスク管理の強化」が目的として掲げられています。不具合発生時にデータ分析を実施することで、早期の原因特定および、同じ不具合が生じている消費者の追跡・把握が可能となり、リスク管理の強化へとつながります。

※1 出典:「スマートファクトリーロードマップ」(中部経済産業局)

実現に向けた4つのステップ

スマート工場の実現には、どのようなステップを踏む必要があるのでしょうか。以下に詳しく解説します。

STEP1:工場内の設備状態や稼働状況をデータで把握

データの収集手法として、IoT機器や生産管理システムの活用、設備に取り付けたセンサによるモニタリングなどがあげられます。現時点での工場内の設備状態や稼働状況を、データ収集を通して「見える化」します。

STEP2:収集したデータをもとに分析

収集データの分析後は、分析結果をもとに、より効率的な生産体制の構築を目指します。ITシステムの活用やシミュレーションによる生産ラインの最適化がその一例です。

STEP3:工場内で発生している問題への対処

「不良発生要因に関する分析結果をもとにした、よりよい品質体制の構築」や「設備の故障予測にもとづく予防保全および、稼働停止を未然に防ぐ安定的な生産体制の実現」など、工場内で発生している問題に対処します。

STEP4: IoT・AIの活用による自動化

目の前の問題をクリアした後は、最後のステップとしてIoT・AIの活用による自動化を推進します。自動生産ラインを構築の上、最適な生産計画を立案し人員を効果的に配置することで、大幅な生産性の向上が期待できます。

成功事例のご紹介

市場ではどのような背景でスマート工場への取り組みが実施され、具体的にどのようなメリットを享受しているのでしょうか。以下に2つの成功事例をご紹介します。

某空調メーカーの成功事例

<スマート工場に取り組む背景>
・国内外に生産拠点を有しており、海外工場の熟練技術者不足と技術継承に課題

<工場のスマート化で得られたメリット>
・作業工程のデジタル化と作業評価システムの開発に成功
・熟練技術者の作業を計測、分析し、技術ノウハウのデータ化・数値化できるようになったことで、グローバルでの技能習得の効率化を実現

某金属加工メーカーの成功事例

<スマート工場に取り組む背景>
・技術競争力のさらなる強化に向け、工程の自動化と省力化・低コスト化によるコストダウンに課題

<工場のスマート化で得られたメリット>
・生産性を向上するクラウドサービスの開発に成功
・リアルタイムで稼働状況のデータを収集・分析できるようになったことで、生産性の向上と人件費の抑制などを実現

まとめ

本コラムでは、スマート工場への取り組みにより、生産活動の最適化や情報管理の効率化が図れること、また、スマート工場に取り組んで得られるメリットは多い反面、デジタル人材の確保や強固なセキュリティモデルの導入など、事前に認識すべき課題がある点などにつきにつき、詳しく解説しました。

スマート工場の取り組みには莫大なイニシャルコストが発生しますが、その分得られる事業経営上の効果は計り知れません。本コラムを今後のスマート工場への取り組みや事業成長にお役立ていただければ幸いです。

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