「はたらきやすいはずなのに、なぜ若手が辞める?」ホワイト離職の実態と解決策

人事

2026年05月12日(火)掲載

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はたらきやすい環境にもかかわらず、若手社員が静かに辞めていく「ホワイト離職」という現象が、企業の人事担当者を悩ませています。大手製薬・住宅メーカーなどで人事部門のトップを歴任し、現在は組織改革を支援するプロ人材の藤間 美樹氏は「ホワイト離職の根底には、不満ではなく不安がある」と指摘します。はたらきやすさの整備に力を注いできた企業ほど、この問題に気づきにくい構造になっています。その構造的な落とし穴と、人事部門がまず取り組みたい具体策について聞きました。

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ホワイト離職とは「不満はないのに、不安がある」という心理

——そもそもホワイト離職とは、どのような現象を指すのでしょうか。

藤間氏:残業が少ない、ハラスメントがない、福利厚生が整っている、というような一般的に良いとされる職場環境にいるにもかかわらず、社員が辞めてしまう現象です。管理職や経営層が、なぜ若手が辞めるのかを理解できていないという認識不足が根底にあります。

——実のところ、若手はなぜ辞めていくのでしょうか。

藤間氏:一言で言えば、不満ではなく不安なのです。自分はこのままここにいて成長できるのか、市場価値はあるのか、そういう将来への不安が積み重なって離職につながっていきます。

また、「居心地は悪くないが、心に火がつかない」というのがホワイト離職の実態です。居心地の良さゆえに、気がついたら一日が終わり、一週間が終わっていく。しかし5年後、10年後の自分を考えたとき、厳しい環境に身を置いた同期が自信に満ちた顔をしているのを見て不安になってしまうのです。

今、管理職として活躍している40代・50代は厳しい環境下で成長してきた世代です。「不満があったからこそ頑張れた」という感覚を持っています。しかし、現代の若手が求めているのは不満がなく、成長もできる環境です。

現場で広がる管理職の「恐怖」と若手の「期待」の溝

——近年、現場ではどのような変化が見られますか。

藤間氏:管理職が指導を恐れるようになっています。主な傾向には三点あります。一つ目は、指導の回避です。資料の出来が悪くても自分で対応し、フィードバックすることを避けてしまいます。次に、指示の曖昧化です。「できる範囲で良い」と言いながら本音では高い水準を求めていて、具体的な数字も示さないため部下には期待値が伝わりません。三つ目は、評価の横並びです。差をつけることを恐れて全員を同じ評価にします。頑張っても頑張らなくても結果が同じでは、正直者が損をしてしまいます。

意外かもしれませんが、若手はむしろ上司に育ててもらいたい、指導してもらいたいと期待しているのです。管理職の恐怖と若手の期待という溝が、ホワイト離職の構図の一つです。

——若手に仕事をなかなか任せられない原因はどこにありますか。

藤間氏:失敗に対する不寛容な文化と、経験を積ませない構造だと思います。人材育成における考え方の一つに「ロミンガーの法則」があります。人の成長に影響を与える要素のうち、研修などが約10%、他者からのフィードバックが約20%、残り70%は経験です。だからこそ、若手が積極的に経験を積める環境をつくることが重要だと考えています。

権限委譲についても同様です。「お前に任せた」と言いながら意思決定は上司が行っていては、業務のみ引き継いだだけで、真の権限委譲ではありません。権限と責任がセットで移譲されることで初めて、意思決定できるリーダーが育つわけです。

ホワイト離職の危険度チェックリスト

——ホワイト離職のリスクを抱えている企業には、どのような共通のサインがあるでしょうか。

藤間氏:数値面・組織風土面・制度面という三つの観点から見ることが重要です。とくに組織風土面では、管理職がよく「若手が何を考えているか分からない」と話す組織は要注意です。管理職が分かっていないということは、若者からすれば、分かってもらえていないということですからね。チェックリストで自社の状況を確認してみてください。

【数値面】
□ 若手(入社1〜5年目)の離職率が増えている、または競合他社と比較して高い
□ エンゲージメントサーベイの「成長実感」「将来への期待」スコアが低下している
□ 優秀な人材や管理職候補の離職が目立ち始めている

【組織風土面】
□ 管理職が「若手が何を考えているか分からない」とよく口にする
□ 会議で若手社員がほとんど発言しない(発言を促す上司がいない)
□ 会社に対し「はたらきやすい」という評価はあるが、「はたらきがいがある」という声が少ない
□ 社内公募制度があるが、応募者が少なく形骸化している

【制度面】
□ 評価制度でメリハリをつける仕組みはあるが、実際の評価は横並びになっている
□ 1on1を実施しているが、業務の進捗確認や指示で終わっている
□ 若手の仕事が定型業務に偏り、裁量のある役割が与えられていない

藤間氏:一言で言えば、「はたらきやすさ」と「はたらきがい」を混同している組織は危ないと思います。はたらきやすさは衛生要因で、整っていないと不満につながりますが、整っているからといってモチベーション向上には直結しにくいものです。「うちはホワイトだから大丈夫」と強く信じて疑わない管理職が多い組織は、逆に心配です。

はたらきやすい会社かどうかと、はたらきがいがある会社かどうかは、まったく別の話です。はたらきがいとは、成長実感、達成感、将来への期待です。「よし、やるぞ」という気持ちを生み出すのは、はたらきやすさではなくはたらきがいです。両者をきちんと分けて考え、はたらきがいをいかに設計するかが第一歩です。

人事部門が管理職・若手・経営層にできるアプローチ

——管理職に対して効果的なアプローチを教えてください。

藤間氏:最も大事なのは対話の質を高めることです。たとえば、1on1のテーマを事前に部下から三つ提出させることを私は長年実践しています。部下が出したテーマで話すので会話の主役が部下になります。人は自ら行動し、振り返ることで成長します。

そして、「君はどう思う?」という問いかけを習慣化させることも重要です。そうすることで部下は会議などでただ聞いていただけの内容を自分事として考え直す必要が生まれ、目的の理解ややりがいにつながりやすくなります。ただし、自分と違う意見が返ってきたとき、頭ごなしに否定するのは避けましょう。「面白いことを言うね」と受け止め、できれば笑顔で「ありがとう」と一言添えましょう。これだけで部下は安心感を抱いてくれるでしょう。

管理職の行動変容を促す仕組みとして、「360度調査」も有効です。これは、管理職に対するフィードバックをその上司や同僚、部下から集めて、本人の認識と比較する手法です。ただし、評価ではなく調査を目的として行うことが大切です。あくまでマネジメント行動を振り返るための材料として使うのです。「良かれと思っていたことが、部下からはこう見えていた」という気づきが、行動変容につながるのではないでしょうか。

また、管理職同士の横のつながりを人事が意図的に作ることも効果的です。管理職はハラスメントへの恐怖心を一人で抱えていることがあります。同じ悩みを持つ仲間がいると知るだけで孤立感が和らぎ、相談できる関係が生まれます。孤立させないような仕組みを工夫することで、マネジメント力の底上げが期待できます。

——若手社員のエンゲージメント向上に効果があった施策はありますか。

藤間氏:「タレントレビュー」は正しく行うと効果が出ます。縦軸にパフォーマンス、横軸にキャリア志向(マネジメント/専門家)を置いた9つのボックスを用いて一人ひとりを評価し、部門の幹部社員が集まって育成プランを議論します。

本人には「あなたの強みはここで、こうすれば可能性が広がる」とフィードバックと育成プランを届けます。すると「会社は自分のことを見てくれている」「ここにいれば成長できる」という実感が生まれ、不安が解消されていくと思います。

もう一つは、若手を部門横断プロジェクトやタスクフォースに意図的に起用することです。まだマネージャーでなくても、プロジェクトの中でイニシアチブを持たせるのです。たとえば、人的資本経営の統合報告書をまとめるプロジェクトなら、マネジメント層だけでやるのではなく、若手を責任者として起用するケースも考えられます。グローバルにおける人事制度改革のタスクフォースなら、海外拠点のメンバーと対等に関わってもらいます。日本の本社にいながら、世界を相手にした仕事を経験できるわけです。大企業にいながらスタートアップのような経験が積めれば、成長実感を生み出すこともできます。

——評価制度そのものを見直すアプローチはありますか。

藤間氏:「ノーレイティング」も有効な手段です。S、A、B、C、Dのような評価記号(レイティング)をつけない代わりに、その都度フィードバックを行うことを義務化して評価する方式で、賞与などの処遇にはメリハリをつけます。あるグローバル企業ではこの導入とあわせ、「クオリティカンバセーション」と名付けたフィードバック特化型の1on1を世界中に展開しました。制度の変更よりも、タイムリーにフィードバックする文化をつくる方が現場への影響は大きかったといいます。

——こうした施策や制度改革を人事部門のみで進めるのは難しい場合もあるかもしれませんね。経営層にホワイト離職を課題と認識してもらうには、人事部門はどのようにアプローチすればよいでしょうか。

藤間氏:三つのアプローチが有効です。まず、データで可視化することです。経営者が関心を持ちやすい「優秀人材・リーダー候補の離職率」「成長実感のスコアが低い部署」といった切り口のデータを提示するといいでしょう。二つ目は経営戦略とのつながりで語ることです。「この状況が続くと5年後・10年後の人材パイプラインが崩壊する」と示す方法です。三つ目は競合他社との比較です。経営者は競争優位性の確保を重視する傾向にあるため、響きやすいポイントですね。

外部支援の活用と人事部門との切り分け方

——社内だけで解決を進めようとすると、どこで壁にぶつかりますか。

藤間氏:最も動かしにくいのは管理職の意識と行動です。ここを変えられればホワイト離職の抑制が期待できます。長年の経験でできあがった自分のやり方を正しいと信じている人に、内部から「それでは通じない」と伝えるのはハードルが高いでしょう。とくに日本の大手企業はモノカルチャー(単一文化)で、違う視点が入り込みにくい性質があります。外部の専門家が客観的なデータや他社事例を示すことで、「社内で当たり前と思っていることが、実は当たり前ではない」という気づきが生まれます。

——外部の専門家と人事部門の役割はどう切り分けるのが良いでしょうか。

藤間氏:外部人材は設計・客観的なモニタリング・推進力を担い、運用や現場との接点は社内人事が担う、という切り分けが基本です。すべて外部に依頼すると「外から言われたことをやっている」という意識になり定着しません。人事部門がイニシアチブを持って現場に関わり続けること、そして、何のためにやっているのかという目的を問い続けることが、取り組みを形骸化させないために重要です。

組織は「縦糸」と「横糸」でとらえる

——最後に、ホワイト離職に向き合う人事部門の担当者へメッセージをお願いします。

藤間氏:人事部門の役割は、日々のオペレーションにとどまらず、経営と同じ視座で組織の未来を設計する戦略パートナーであることです。私は組織を「縦糸」と「横糸」でとらえます。縦糸はトップから現場までを貫く指示報告系統と意思疎通、横糸は部門内または部門を越えた信頼のネットワークです。この二つが重なることで強靭な組織という「布」が生まれ、その結節点を担うのが現場の管理職とHRビジネスパートナーです。ホワイト離職を防ぐとは、この縦糸と横糸を丁寧に紡ぎ直す作業と言えるでしょう。

日本企業のエンゲージメントは国際比較において低水準と指摘されることがありますが、裏を返せばこれほど伸びしろがある国はないということです。人事が経営を動かし、日本を強くする。私はそう信じて仕事に取り組んでいます。ぜひ一緒に頑張っていきましょう。

【プロフィール】

株式会社HR&B 代表取締役 藤間 美樹(ふじま・みき)
神戸大学卒業後、アステラス製薬(当時藤沢薬品工業)にて営業・人事・事業企画などを担当しアメリカに駐在。バイエルメディカルで人事総務部長としてグローバルPMIを推進後、武田薬品工業では70数カ国を管轄するHRビジネスパートナーのグローバルヘッドなど要職を歴任した。その後、参天製薬で執行役員人事本部長、積水ハウスで執行役員人財開発部長を務める。M&Aを10件以上手がけ、アメリカに計3回駐在。現在は人事実践科学会議副代表理事、日本心理的資本協会理事も務める。BCS認定プロフェッショナルエグゼクティブコーチ、J-CPEC。著書に『経営に参画する世界基準の人事 「戦略人事」が組織を根本から強くする』(現代書林、2025年8月)、『なぜ日本企業は変われないのか? 真のリーダーのための組織改革入門』(日刊現代、2026年3月)他。

まとめ

ホワイト離職を解決するには、「はたらきやすさ」だけでなく「はたらきがい」を設計することがポイントとなります。若手の離職の根底にあるのは不満ではなく不安であり、成長実感と将来への期待を生む仕組みが求められます。

しかし、長年の慣習や社内のモノカルチャーを内部だけで変えるには限界があります。そこで、プロ人材の豊富な知見が有効です。第三者の視点で現場に入り込み、管理職の意識変容やボトルネックの解消を推進することで、人事部門は本来の役割に集中できるようになるでしょう。

まずはプロ人材の力を借りて、組織の縦糸と横糸を織り直すための第一歩を踏み出してみませんか。

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