企業価値を高めるDX認定制度とは。概要と申請方法とプロセスを解説

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2025年06月26日(木)掲載

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国がDXを推進している昨今、「DX認定制度」が注目を集めつつあります。同制度は、企業のみならず個人事業者や公益法人など、全ての事業者が対象となっているため、IT化が進む現代で事業を行う以上、今や無視できない存在です。

本記事では、DX認定制度の概要とともに、認定取得を目指す事業者に必要な情報を解説します。DXに取り組んでおり、自社の社会的信用を向上させたいとお考えの経営者や管理者の方々はご覧ください。
(2025年6月時点情報)

DX認定制度とは

DX認定制度は、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の準備が整っている事業者を、経済産業省が認定する制度です。法人や個人事業主、公益法人など、全ての事業者が対象となっています。

具体的なメリットについては後述しますが、認定取得を目指す過程でDXへの取り組みを加速できるなど、多くのメリットがあります。

DX認定制度の創設背景

DX認定制度が創設された背景には、将来、日本で発生し得る経済的損失の危機が関わっています。

2018年に経済産業省が発表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』では、今後DXが進まなければ「2025年以降に年間最大約12兆円の経済損失が生じる」との指摘がなされました。
また、IPAの分析では、全社戦略に基づいて部門横断的に DX を推進できる レベルに十分に達していない企業が 9 割以上存在していると想定しています。
さらに、コロナ禍によって企業間でのDXの取り組みの格差が拡大していることも問題視されています。
DX認定制度は、将来的な損失を防ぐことを大きな目的とし、DXが進まない現状を改善するための有効策として生まれたのです。

(出典:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』)

(出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)『DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2023年版)』〈2024年5月〉表3-4

経済産業省が示すDXの定義

経済産業省は、2019年7月に発表した『DX推進指標』内で、DXを以下のように定義しています。

<参考: デジタルトランスフォーメーション(DX)の定義>
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

(出典:経済産業省『DX推進指標(サマリー)』)

つまり、ただ業務の一部をデジタル化するだけではDXとは言えない、ということです。業務や製品、サービスなどを根幹から見直し、デジタル化によってビジネスとしての価値を最大化することこそがDXだとされています。

経済産業省が推進するDX政策と認定制度の位置付け

企業のDXへの取り組みは、経済産業省の示す基準により、大きく4つの段階に分けられています。

DXへの取り組みごとの各企業の位置付け
DX-Excellent DXに関して、ステークホルダーへの情報開示を積極的に行っており、将来性を評価できる上で、優れたデジタル活用実績もすでに現れている事業者
DX-Emerging DXに関して、ステークホルダーへの情報開示を積極的に行っており、将来性を評価できる事業者
DX-Ready(DX認定事業者) DX推進を行うビジョンの策定のほか、戦略や体制をすでに実施している事業者
DX-Ready以前 DX推進に必要な戦略や体制の整備に、まだ取りかかっていない事業者

上記のうち、「DX-Ready(DX認定事業者)」が経済産業省のDX認定制度の対象となります。 これより上のレベルに位置する事業者は、DX認定制度の対象ではありません。東京証券取引所による上場企業が対象の「DX銘柄」や、中堅や中小企業などに対する「DX Selection」で認定を受けることとなります。

DX認定取得のメリット

企業がDXに取り組めば、さまざまな業務の効率化によるコスト削減がかないます。結果、顧客の対応により注力したり、接点を増やしたりすることで、満足度の向上およびそれによる収益の増加も見込めるでしょう。
また「時流を押さえて、トレンドに対応している企業だ」という印象をステークホルダーに抱かせ、競合優位性を確保することも期待できます。

その上で、DXに取り組む企業がDX認定を取得すると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。以下で詳しく解説します。

DX意識の醸成と課題の可視化がかなう

DX認定取得に向けて動き出すことで、組織全体でDXへの意識を醸成できるようになり、また自社の抱える課題を把握できます。これは、DX認定の取得そのものではなく、認定取得に向けた取り組みの過程で得られるメリットです。

DX認定の審査では、自社の課題を把握する過程があります。それにより「DXのために、自社は何を改善しなければならないのか」が明確になるのです。洗い出した課題を組織内に共有すれば、個々人が当事者意識を抱くことにもつながります。

認知度や信頼性の向上により、企業価値が高くなる

DX認定を取得すれば、「DX推進に積極的に取り組んでいる企業だ」ということを社内外にアピールできます。結果、自社の認知度や信頼性を向上させられるでしょう。

具体的には、DX認定取得企業は「DX推進ポータル」内の一覧に掲載されるほか、認定ロゴマークを使用できるようになります。DX認定取得企業であることをアピールすれば、企業ブランディングへの効果が期待できます。

税制優遇(DX投資促進税制)を受けられる

DX認定の取得は、節税の面でもメリットがあります。DX認定を取得しており、なおかつ一定の条件を満たしている企業は、「DX投資促進税制」によって税額控除を受けられます。

この制度は、全社規模でDXに取り組む企業が対象です。DX促進に必要な投資費用に対し、5%または3%の税額控除、もしくは30%の特別償却のいずれかを選択して受けられます。

(出典:経済産業省『DX投資促進税制』)

中小企業向けの融資制度や補助金などの優遇措置を受けられる

DX認定の取得によって、企業が享受できる財務面でのメリットは税制優遇だけではありません。中小企業であれば、DXに関連する設備投資などの資金に対し、低金利で融資を受けられる可能性があります。

具体的には、日本政策金融公庫の融資を基準利率よりも低い特別利率で受けられます。また、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」を申請する際、DX認定の取得が加点対象となる点も大きなメリットです。

人材開発における支援助成金を受けられる

人材育成に関する助成を受けられる点も、DX認定取得のメリットとして挙げられます。国の人材育成支援制度「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)」は、デジタル人材の育成にかかる費用や従業員の賃金を助成や補助してくれる制度で、DX認定取得企業はこの制度の対象です。

例えば、自社の社員にITスキル向上のための研修を行った場合、研修にかかる費用を補助してもらえます。自社のDX推進に携わる人材を、コストを抑えて育成できるということです。

DX銘柄への応募資格を得られる

上場企業の場合は、DX認定の取得により「DX銘柄」への応募資格を得られます。

DX銘柄は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選ぶ銘柄です。事業活動や組織運営にデジタル技術を活用している企業が表彰される制度です。そのため、DX銘柄の取得することで、自社がDXを取り入れて成長している企業であることを投資家にアピールできるようになります。

DX認定の基準

DX認定制度では、「DX-Ready」と呼ばれる企業が対象となっています。DX-Readyは、あくまでも「DX推進に向けた準備が整っている」ことが条件であるため、申請の時点でDXに取り組んでいる必要はありません。

DX認定に申請した企業がDX-Readyに該当するかどうかを判断するために、「デジタルガバナンス・コード」と呼ばれる基準が用いられています。具体的な内容を以下で解説します。

デジタルガバナンス・コードとは

企業がDXを推進するために、経済産業省が定めた指標を「デジタルガバナンス・コード」といいます。企業が経営を行うにあたり、デジタル技術によって起こり得る社会の変化に対応していくために必要な原則を示しています。

なお、デジタルガバナンス・コードは2020年に策定された後、2022年に「デジタルガバナンス・コード2.0」が公開、そして2024年9月19日には「デジタルガバナンス・コード3.0」が公開されました。

最新のデジタルガバナンス・コードの内容を一つひとつ確認し、順を追って取り組んでいくことが、DX認定取得の近道といえるでしょう。

デジタルガバナンス・コードの企業が対応すべき5つの柱

デジタルガバナンス・コード3.0では、企業が対応すべき項目として5つの柱を掲げています。これは、柱が4つであった2.0から改訂されたことによるものです。

デジタルガバナンス・コード3.0で企業に求められる5つの柱
1. 経営ビジョン・ビジネスモデルの策定
2. DX戦略の策定
3. DX戦略の推進
3-1. 組織づくり
3-2. デジタル人材の育成・確保
3-3. ITシステム・サイバーセキュリティ
4. 成果指標の設定・DX戦略の見直し
5. ステークホルダーとの対話

上記を適切に満たすことで、「DXに取り組んでいる企業だ」と認められます。

なお、2.0からの変更点として、「3-2. デジタル人材の育成・確保」が追加された点や、以前はサブ項目であった「ITシステム・サイバーセキュリティ」が主項目となった点などが挙げられます。これは、デジタル人材やサイバーセキュリティの重要性が以前よりも増したということです。

DX認定制度の申請方法

DX認定を受けるには、以下の手順に沿って申請を行います。なお、実際に申請を進めるにあたっては、IPAが公開している「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」を確認してください。

DX認定制度の申請手順
  • 「DX認定制度 認定申請書」「DX認定制度 申請チェックシート」に必要事項を入力する
  • 上記書類の補足資料を用意する
  • 「GビスID」を発行する
  • GビズIDでログインし、「DX推進ポータル」から必要書類をアップロードして申請する

上記の手順で申請を行った後、審査に通過すれば、経済産業省により認定手続きが進められ、認定通知メールが届きます。

申請から認定取得までにかかる期間

DX認定の申請から認定取得までには、4カ月以上を要すると認識しておきましょう。

まず、申請が受理されてから、認定結果が通知されるまでの期間は60日程度とされており、これを「標準処理期間」といいます。ただし、この60日は「2カ月」という意味ではありません。土日や祝日を含まないため、3カ月前後を要するケースが基本です。さらに、申請が多く集中した場合などは60日を超える可能性もあります。

その上で、DX認定の決裁は毎月15日頃に行われ、翌月初旬に通知されます(休日の関係により前後)。つまり、審査に合格してもすぐに通知されるとは限りません。
標準処理期間である60日(およそ3カ月)と、決裁や通知に要する期間も加味して、最低でも4カ月は要するということです。

(出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)『DX認定制度 申請から認定取得までの期間について』)

DX認定制度の申請までの想定プロセス

DX認定制度に申請してから認定が通知されるまでには、最低でも4カ月はかかります。もちろん、その前段階の準備にも一定の期間を要するため、手前で準備に取りかかる必要があります。
DX認定を申請するまでに想定される具体的なプロセスは、以下をご覧ください。

経営ビジョンを策定する

まずは、自社の経営ビジョンを描き、そのために必要なビジネスモデルの方向性を考えます。

ポイントは、デジタル技術とビジネスを一体的に捉えることです。デジタル技術を組み込んだ戦略を考え、なおかつ新たな価値創造につながるビジネスモデルとなっていることが理想的です。

経営ビジョンが明確になったら、自社内で共有した上で、コーポレートサイトなどを通じて外部にも公表します。

DX戦略を策定する

策定した経営ビジョンに基づき、自社で思い描いているビジネスモデルを実現するためには、どのような戦略が必要なのかを考えます。具体的には、戦略を推進するために必要な人材や組織のあり方を検討し、デジタル技術をどのように取り入れていくかを決めましょう。

こちらも、具体的な内容が決まり次第、社内外に公表します。

関連記事:DX推進における企業課題と実現に向けたポイント・進め方

KPIを設定する

DX認定取得に向けて、ただ取り組みを進めるのではなく、目標を定めた上で適宜進捗を確認することも大切です。適切なKPI(重要業績評価指標)を定めましょう。

「施策が滞りなく進み、KPIを達成できているか」「DXの取り組みが財務成果につながっているか」は、DX認定取得にあたり重要な評価対象となります。

関連記事:生産性向上を実現する社内DXとは?必要性や進め方・具体例も解説

広報活動とステークホルダーへの発信を強化する

DXの取り組みに関する定期的な情報発信も欠かせません。社内外に現状を伝えることで、DX推進への理解が進み、組織全体で一丸となってDXに向き合えるようになります。

経営トップはもちろん、役員も含めた経営陣が主体的に情報を発信していくことが重要です。

サイバーセキュリティ対策を推進する

DX認定を取得するには、サイバーセキュリティリスクにも対応しなければなりません。経済産業省が発表している「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を確認の上、適切な対策を講じましょう。

関連記事:DX事業成功事例集。身近な国内・海外企業のDX事例をわかりやすく解説します。

DX認定を取得すれば、組織力や財務の面でさまざまなメリットを享受できる

今回は、経済産業省が認定する「DX認定」について解説しました。

DX認定を受ければ、自社のブランドイメージを強化できるだけでなく、節税や助成など、財務の面でもさまざまなメリットを受けられます。またDX認定取得に向けた取り組みによって、社内のDX意識の醸成や課題の可視化が期待できます。
自社のDX化を推進し、組織力を高めたいなら、DX認定の取得を目指しましょう。

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