DX事業成功事例集。身近な国内・海外企業のDX事例をわかりやすく解説します。

新規事業

2022年06月07日(火)掲載

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近年は製品・サービスのコモディティ化や消費者ニーズの多様化によって、既存事業に限界を感じている方も多いのではないでしょうか。

加えてデジタル技術による破壊的イノベーションによって、既存ビジネスの常識を覆すほどのサービスを携え、国内市場に参入する海外テック企業の存在感は、日に日に強まっています。

そして、新型コロナウイルスの感染拡大による急激な環境変化によって、デジタルシフトへの対応を迫られている企業は少なくないでしょう。そのための手段としてDXが注目を浴びつつも、巨大なカテゴリであるがゆえにステップが長く、どのように事業を変えていくべきか判断できないケースも増えています。

本記事では、DXによる事業改革の成功事例を中心に、DXの概要や推進メリットも併せてご紹介します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DXはDigital Transformationの略称であり、大枠の定義としてはデジタル技術を駆使した産業構造の革新的なイノベーションを指します。もともとDXはテクノロジーによる生活の発展を期待する意味合いを持っていましたが、次第にそのイメージが明確になっていき、現在のような表現へと変化していったといわれています。

では、ビジネスシーンにおけるDXとは、具体的にどのような目的を持っているのでしょうか。

DXとはデジタル技術を使ったビジネス・業務プロセスの改革

ビジネスシーンにおけるDXは、デジタル技術を使ったビジネスモデル・業務プロセスの改革を1つの大きな目的としています。

DXはアナログ環境のデジタルシフトにより、業務を効率化することがゴールではありません。ペーパーレス化やはんこレス化などのアナログ業務からの移行はいわゆる準備段階です。

それらを通じて社内にデジタル基盤を構築し、業務プロセスの再編を通じて、ビジネスモデルそのものをデジタル化することで、変化の激しい社会・環境に対応できる組織力を身に付けることが、DXの本質的な目的になります。

DXを推進するメリット

DXを推進することは、現場改善だけでなく、事業成長も期待できます。ここではDXを推進する具体的なメリットを4つご紹介します。

生産性の向上・業務効率化

DX推進による成果として体感しやすいのが、自動化・省人化による労働生産性の向上です。オフィスワークであればRPAによる自動化、製造工場であればIoT・産業ロボットによる省人化などが主な導入例となるでしょう。

この自動化・省人化で得られる主な効果は、ヒューマンエラーの抑制と役割分担の明確化です。

入力・確認・伝達のミスや漏れなどのヒューマンエラーは、誰でも起こりうることです。しかし、ITツールによる業務の自動化が進めば、ヒューマンエラーの抑制が期待できます。

また、自動化・省人化を通じて、AI・ロボットに定型作業を任せられることで、従業員は計画・改善などの判断に、より時間を割けるようになります。この役割の明確化を通じて、業務プロセスの再編やルールの見直しなど、なかなか手を付けられなかった業務にも着手できるようになり、結果的に生産性の向上が期待できるでしょう。

新規事業の創出につながる

DXを通じて業務プロセスが見直されると、顧客体験の深化にもつながり、ビジネスに拡張性が生まれます。それを突き詰めていくことで、ビジネスモデルそのものが変革され、新しいサービスやプロダクトの創出を経て、これまで以上の顧客体験を提供できるようになります。

デジタルディスラプターと呼ばれる業界構造を破壊するほどのインパクトを与えたテック企業の多くは、エコシステムやマーケットプレイスなどのプラットフォーム基盤を整備し、既存の商習慣を塗り替えています。

現代において市場のニーズに適合した新しいビジネスを生み出すには、DXによる下準備が欠かせません。だからこそ、多くの企業がDXでITインフラを刷新し、新規事業の開発に向けた環境づくりに取り組んでいるのです。

働き方改革ができる

DXによる労働生産性の向上は、働き方改革の実現にも影響を与えます。特に新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令以降は、テレワークが急速に普及し、多くの企業で働き方の多様化が進みました。

テレワークによって時間・場所を選ばずに仕事ができるようになれば、ワークライフバランスの実現にも貢献できます。Web会議ツールで移動時間を削減する、電子契約書などの導入で書類の作成・確認の負担を軽減するなど、さまざまな効果が期待できるでしょう。

また、近年ではテレワークの推進度合いを転職の判断材料として考える求職者も増えているため、テレワークを通じて働き方改革に取り組むことは、優秀な人材を確保するうえでも効果的であるといえるでしょう。

レガシーシステムからの脱却

DXが国内で注目を浴びるようになったきっかけの1つが、レガシーシステムの存在です。レガシーシステムは、長期利用でシステムが複雑化・老朽化・ブラックボックス化し、維持コストが膨らんでしまうというデメリットを抱えています。

経済産業省が2018年に発表したDXレポート(※1)において、レガシーシステムの問題が明るみに出て、システムを放置し続けることで、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じると警鐘を鳴らしました。この問題は2025年の崖と呼ばれ、DXを通じたシステムの早急な刷新が求められています。

※1 出典:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)

レガシーシステムの存在は、維持コストの高騰だけでなく、従業員の作業や対応に制限を生み、結果として事業の柔軟性を奪ってしまうリスクがあります。これはレガシーシステムの存在によって、効率よりも慣習を優先してしまうことが要因といわれています。

そのため、DXでレガシーシステムからの脱却を図ることは、既存事業の柔軟性を担保し、顧客満足度を高める点でも有効であるといえるでしょう。

DXによる事業改革の成功事例【日本】

ここでは実際にDX推進を得て、事業の改革に成功した国内企業10社の事例を紹介します。

保険会社の事例

A社がDXを通じて生み出した事業は、AIやセンシング技術による新たな自動車保険サービスです。

これは従来の事故発生時の補償やサービス提供に留まらず、AIでの運転スコアの算出により、運転事故率が低いと判断された顧客に対してキャッシュバックを行うことで、運転事故に対する意識改革を狙いました。

また、トラブル発生時はデバイスに搭載された緊急ボタンを押すことで、アプリと連携して電話の発信ができることで、オペレーターとの連携がスムーズに行えるようになっています。

医療機器メーカーの事例

医療業界に対してデジタルヘルス・ソリューションを提供するB社が、DXを通じて生み出した事業は、テキストマイニング技術を活用した電子カルテの可視化・分析サービスです。

医療の中でも特に精神科の電子カルテには、病歴や症状などの情報の多くが文字情報で記載されており、数値化しにくいという課題を抱えていました。加えて精神科は入退院の繰り返しによってカルテ量が多く、情報の把握にかなりの工数を要していました。

そこでB社はテキストマイニングを通じて電子カルテを分析・整理し、膨大なデータの中から必要な情報を抽出することで、業務の効率化を図りました。

これによって、患者の状態やこれまでの変化をチームで共通言語化し、認識のズレを解消することで、チーム医療の推進や医療品質の向上にも貢献しました。

IT会社の事例

C社がDXを通じて生み出した事業は、VR技術によるリモート環境下での現場体験の高度化です。

同社は自社のVR技術をクラウドサービスとして事業化することで、誰でも気軽に360度VRコンテンツを作成できるプラットフォームを提供しています。

このVRサービスによって、不動産の内覧、製造現場の新人教育、防災訓練などのコンテンツに対して、より実際の体験に近いイメージを提供し、移動コストの削減と理解度の向上を実現しました。

実際にサービスを導入した企業からは、物件の魅力の深化、反響率のアップ、現地内覧なしでの成約、手戻りの減少などにつながったという評価を得ているようです。

不動産会社の事例

D社がDXを通じて生み出した事業は、AIによるSaaSビジネスです。このビジネスは、D社がDXによる業務効率化で得たノウハウをもとに誕生しました。

もともとD社では、宅建資格者が行う査定工数や契約書類の煩雑化など、不動産業界ならではの業務課題を抱えていました。これらの課題に対して、D社はDXを通じてAIツールでの業務代替や契約書類をフォーマット化し、大幅な工数削減の実現に成功します。

そして、DXで生まれたシステムをクラウドサービスとして提供することで、不動産会社や金融機関の業務効率化に貢献しました。

現在においてD社のAI事業は、収益の中核を担うまでの事業に成長しており、D社のパーパスにまで影響を与えています。

アパレル会社の事例

E社がDXを通じて生み出した事業は、AIによる画像認識を活用した自動採寸アプリです。

レンタルユニフォーム事業を展開するE社では、ユーザーの申告内容、手作業での採寸、メーカーごとのサイズ感に対してバラつきがあり、正確なサイズ把握が難しく、返品・交換の工数が増大しているという課題がありました。

そこでE社はDXを通じてサービスの改善を目指すうえで、アプリ開発のベンダーをDXの企画段階から招きました。これはF社がDXに対する目的や障害に対する課題解決力だけでなく、「一緒にプロジェクトを進めたい」と思えるほどの熱意をベンダーに求めていたことに起因しています。

E社がアプリに求めたのは、服のサイズを測る技術ではなく、ユーザーと服のサイズを適切にマッチングするサービスでした。ベンダーと力を合わせて生み出したアプリは、AIエンジンの開発とマッチングロジックの構築をもって、ユーザーに適切なサイズをオススメするサービスの実現に至りました。

このアプリによって、自社で発生していた返品・交換の労力やコストの削減だけでなく、コロナ禍で手作業の採寸ができずに困っていた同業他社へのサービス提供も行えるようになりました。

タクシー会社の事例

F社がDXを通じて生み出したのは、配車アプリによるシームレスな移動体験の提供です。

当時のタクシー業界は、ドライバーによる固定ルートの巡回と、無線によるマッチングによって顧客獲得が成り立っており、その偶発的な要素の強さゆえに売り上げの平準化に課題を抱えていました。

そこでF社はタクシーでの移動体験を再定義し、予約、目的地の伝達、決済などを1つのアプリで完結できるシステムを構築しました。これによってユーザーは乗車したいタイミングで気軽に配車リクエストを出すことができ、終始無言でも目的地に到着できるという新たな乗車体験を得ることができます。

しかし、アプリ開発は何もかもがスムーズにいったわけではありません。当時のタクシー業界はIT業界のデータドリブンと文化が異なり、互いを認め合うまでには多くの時間を費やしました。理解を得るため、F社は小規模な試験運用を繰り返し、着実に配車実績を増やしていくことで、タクシー業界の理解を獲得し、本格的な連携に至っています。

信託銀行の事例

G社がDXを通じて生み出したのは、新たなキャッシュカードを使ったマーケティング戦略の強化です。

このキャッシュカードはデビット一体型で、同社が取り扱う17通貨であれば、外貨のまま決済できる特徴を持っています。主に海外ショッピングや外貨積立での利用を想定したカードです。

新たなキャッシュカードをハブとして、多角的なデジタルマーケティングを実施し、顧客に最適なサービスを提示することで、G社は新規顧客のCV率や既存顧客のLTVを向上することに成功しています。

コンビニの事例

H社がDXを通じて生み出したのは、バーコード決済アプリを用いた新たなメディア事業の創出です。

これまで同社は、お得なクーポンの発行や新商品の宣伝など、多岐にわたるアプローチを実施していましたが、それらを統合的に配信するプラットフォーム基盤が存在しませんでした。

そこでバーコード決済アプリを通じて、クーポン・回数券の利用、キャンペーン情報の配信、ポイントプログラムとの連携など、あらゆる情報を集約し、ユーザーに対して有益な情報提供を行っています。

また、バーコード決済アプリがオンラインからの来店促進を担う一方で、リアル店舗では大画面のデジタルサイネージを採用し、ニュース情報や商品CMなどのバラエティ豊かな動画コンテンツを配信することで、今までにない購買体験の実現を目指しています。

バーコード決済アプリを基盤に、マーケティングファネルにおける消費者の態度変容と適切に向き合うことで、H社はリアル店舗の新たな価値を見出すことに成功しました。

DXによる事業改革の成功事例【海外】

海外ではGAFAという巨大テック企業の他にも、デジタルディスラプターとして新たな事業を携え、業界構造を破壊するほどのインパクトを与えた事例が存在します。

映画配信会社の活用事例

I社がDXを通じて生み出したのは、レンタル事業者からVODプラットフォーマーへのモデルチェンジです。

当時、DVDなどのビデオレンタルは店舗に直接足を運ぶスタイルが一般的でした。同社はそこにユーザーの負担がかかっているのではないかと考え、店舗に行かなくてもレンタルができる仕組みを構築し、ウェブ受付と自宅配送によって無店舗化を実現しました。

その後、同社は自社サービスにおける価値の再定義を繰り返し、最終的には従来のパッケージを販売するスタイルから、独自プラットフォームで動画配信サービスを提供するVOD事業者へと変貌を遂げています。

今では世界最大級のVOD事業者として活躍するほど、同社はここ数年で急激に成長しています。その背景にあるのは、価値を問い続けるというDXの本質的な取り組みです。

DXは事業変革がゴールではありません。予測不能な時代において、社会構造や消費者ニーズの変化に素早く、柔軟に対応するための組織力を手に入れるための手段です。事業変革は、あくまでDXを推進する過程で、現在の社会構造や消費者ニーズに合わせて、既存事業を整えた結果に過ぎないのです。

重要なことは、DXを通じて自社が提供する価値を問い続け、時代に合わせて変化させていくことにあります。同社はその点において、時代の変化を的確に捉え、スピーディに事業を変革したといえるでしょう。

まとめ

本記事では、DXの概要から、DXを推進するメリット、DXによる事業改革の成功事例をご紹介しました。

DXによる事業改革を実現するには、まずITインフラによる基盤構築が欠かせません。とはいえ、ITシステムの導入が目的化してしまうと、事業改革の阻害要因となってしまう可能性も十分にあります。導入後の事業改革ベースまで描いたうえで、ITインフラ基盤の構築に踏み切ることが重要です。

また、DXにとって事業改革は中間地点であり、終着点ではありません。DXによる事業の改革は、現代の変化に適応するためのものであり、新たな変化が訪れた際には、改めて事業を見直す必要性が出てくるでしょう。

変化に強い企業を目指すには、既存の商習慣にとらわれず、社会構造や消費者行動の変化に応じて、適切に事業をバージョンアップしていく能力が求められます。そして、慣れ親しんだ商習慣を手放し、新たな領域に踏み出すためには、プロジェクトを主導するデジタルリーダーの存在が不可欠です。

人材会社として30年以上の実績を持つパーソルキャリアでは、企業の課題に合わせたデジタルリーダーを紹介し、DXプロジェクトの推進に伴走する「HiPro Biz」という経営支援サービスを展開しています。

CDO(デジタル責任者)やCMO(マーケティング責任者)をはじめ、事業やプロセス改革のプロフェッショナル、システム構築のスペシャリストなど、多種多様な責任者としての成功体験を持つ専門人材の紹介が可能です。

DXを通じて、変化に強い組織力を手に入れる手段として、ぜひご活用ください。

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