人事を進化させるデジタルHR開催レポート~HRテクノロジーの活用事例やAI化の流れ

人事

2019年05月21日(火)掲載

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イベント&レポート概要

近年注目が集まる「人事領域におけるテクノロジーの活用」をテーマにしたHiPro Biz主催のイベントが、2019年3月8日に六本木グランドタワーで開催されました。効率的な企業経営を行っていく上で重要性を増す「人事データの活用」について、講師3名が登壇してポイントや展望を解説。パネルディスカッションでは、質疑応答や実践的なアドバイスも展開されました。当日の模様をダイジェストでレポートします。

講師プロフィール

慶應義塾大学 大学院経営管理研究科
特任教授 岩本 隆氏

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。

ソフトバンク株式会社 人事本部
戦略企画統括部 人材戦略部
担当課長 中村 亮一氏

2004年に日立製作所にHRとして入社。2015年から人材データ分析を活用した採用変革を行い、2017年4月にピープルアナリティクス専門部門を立上げ、心理学を用いたエンゲージメント研究に従事。2018年10月よりソフトバンクへ入社し、HR tech・People Analyticsの社内導入を専門に担当。

パーソルホールディングス株式会社 グループ人事本部
タレントマネジメント企画室長 山崎 涼子
2008年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒で入社。入社から現在まで、一貫して人事領域を担当。2015年4月に人事情報室を立ち上げ、人事におけるIT・データ活用に従事。2018年4月にタレントマネジメント企画室を新設し、パーソルグループ全体の人事戦略に従事、現在に至る。

section 1
HR×デジタルの第一人者 岩本隆特任教授が語る
~デジタル時代で勝ち続ける人事部門になる方法~

最初に登壇したのは、「HR×デジタル」領域の第一人者であり、慶應義塾大学ビジネス・スクール特任教授の岩本隆氏。デジタルHRを活用して人事を進化させるポイントや、今後の展望について講演しました。岩本氏はまず、「Society 5.0」、「第四次産業革命」、「データ駆動型社会」などのキーワードを挙げて、AIやデータサイエンスのテクノロジーが急速に進化しているグローバル社会の現状を解説。人事領域においては、従業員のさまざまなデータを収集・分析し人材マネジメントに活かす「データ駆動型HRマネジメント」が重要になると指摘しました。

近年、HRテクノロジービジネスが成長していることにも触れ、「今後の展望としては、FinTechで注目されるブロックチェーンや仮想通貨のテクノロジーが、HRでも使われていくことが予測されます。また最近では、私自身もプロジェクトに関わっていますが、脳科学のアプローチを取り入れたHRテクノロジーのサービスが増えてきています」と紹介。国の産業人材政策でも、最先端データサイエンステクノロジーの活用促進に重点が置かれていることが語られました。

人事部門における変化として「この先、データ活用が進めば、人事部門はこれまでの間接部門から、今後は各事業部門が使いやすいHRテクノロジーのシステムを構築する役割、つまり研究開発部門に近い動き方へ変わっていくと考えられます」と予測。また、人事の切り口から経営を担うCHRO(Chief Human Resource Officer)の重要性がますます高まっているといいます。

アカデミアにおいては「経営学×人材マネジメント論×テクノロジー」が連携した学問領域が求められている現状に言及。「自社の経営課題をデジタルHRでどう解決するか」を観点に、事例を学びながら知識を深める「デジタルHRプロデューサー®養成講座」を2018年からスタートしたことを紹介しました。

section 2
パーソルホールディングス株式会社 山崎涼子による
HRテクノロジー活用の先進企業における実践事例のご紹介①

続いて、パーソルホールディングス株式会社でタレントマネジメントを担う山崎涼子が、「人事を進化させるデジタルHR」をテーマに自社内での実践事例を紹介。2015年4月に人事情報室を立ち上げて人事におけるIT・データ活用をスタートしたことや、パーソルホールディングスへの転籍を経て、人事データをより活用した人事戦略を推進するために2018年4月にタレントマネジメント企画室を新設した経緯などを説明しました。

山崎は「タレントマネジメントとデータ活用をいかに紐づけて推進するかを考えながら、パーソルグループ全体の人事の戦略を立てることが現在の私のミッションです」と紹介。その方法として「個別になりがちな人事施策をデータでつなぐことが重要だと考え、実行しています」と話し、分析事例の一つに「適性ポジションレコメンド分析」を挙げました。これは、過去の公募制度の応募履歴やそのほかの人事情報を参考に予測モデルを構築し、その人に合ったポジションをレコメンドするもの。

「ここでポイントは、人間が予測した結果と照らし合わせ、検証を行いながら運用している点です。具体的には、社内のキャリアアドバイザー有資格者が対象社員の異動先を個人と機械に予測させ、双方の類似度を分析。その結果を踏まえて統計モデルを構築し、運用しています。この工程を踏むことが、社員の納得感だけでなく人事としての納得感にもつながると考えています」と述べました。

次に、デジタルHRを導入して実感したメリットや重要点として「管理」、「工数削減」、「意思決定」、「平等性」の4つを列挙。「管理」に関しては、HRのデータが少ないからこそ、適切に収集・管理し、蓄積していく努力が必要だといいます。また、データの可視化が促進されることで人事業務の「工数削減」が期待できることや、データを元にした客観的な事実によって「意思決定」のスピードと質が向上したことを紹介。「平等性」については、「人事のさまざまな意思決定は社員の人生を左右しかねません。人の勘に頼ると、どうしても目立っている人が推薦される、役員の目にとまった人が昇格する、となりがちでしたが、データを活用することで、表出ていない人の可能性を予測し、平等に人事施策を提供することが可能になります」とデジタルHRの意義を語ります。

最後に「まだまだ発展途上の領域。取り組みを始められている企業の人事担当の方々といろいろな事例をシェアし、進化させていければと思います」と会場の参加者に呼びかけました。

section 3
ソフトバンク株式会社 中村亮一氏による
HRテクノロジー活用の先進企業における実践事例のご紹介②

3人目に登壇したのは、この分野の先端企業として多くのメディアに出演している、ソフトバンク株式会社の中村亮一氏。冒頭でAIの歴史や概要を説明した後、「機械学習」と「深層学習」の違いを解説。判断軸を人工的に加えることで分け方を自動的に習得する「機械学習」に対し、分けるための軸を人口知能が自分で見つけるのが「深層学習」であるものの、人事の分析においては、深層学習は適用しにくいという現状を指摘しました。その理由は「深層学習では『AIがなぜそう判断したか』がブラックボックス化しがちであり、それでは人事の意思決定には使いづらいためです。どのようなデータをもとに、どのような分析を経てその結果に至ったのかが明白であることが重要になります」と述べました。

また、ソフトバンクで実際に行っている事例として、IBM Watsonを使ったエントリーシートの分析を紹介。「Watsonに機械学習をさせ、エントリーシートの合格・不合格を予測させます。合格と予測されたものはそのまま次の面接のステップへ。不合格の予測が出た全体の25%に相当する分だけを採用担当者が読み、合格・不合格を判断します。以前はすべてのエントリーシートを人の目でチェックするのに680時間を要していたのが、AIの活用により170時間まで短縮されました」と中村氏は明かします。

「なぜ人事にテクノロジーが必要なのか」について中村氏は、さらなる成長を目指して多くの企業が新領域の事業に挑むなかで、「組織力」に大きな変化が起きていることを理由の一つに挙げました。これまでのように、やるべきことが明確で、全ての社員が同じ方向を向いて進んでいた時代とは違い、これからは個の力が最大限発揮されることが組織力の向上につながる時代に。それに伴うマネジメント環境の変化も、データ活用が重要性を増している一つの要素だと解説しました。

加えて、データ活用の意義として、「公平・公正」、「再現性」、「生産性」を挙げます。まず、これまでの勘や経験にとらわれることなく、データを基準として公平・公正な判断をつけることが可能になります。また、一定の判断軸、基準を共有することで、特定の個人に依存することなく、再現性の高い業務遂行・サービス提供が可能に。そして、業務が可視化されることでRPA化やアウトソーシングが可能になり、より高度な業務に集中することで、生産性の向上にもつながるといいます。

「これからのHRに求められるのは、『才能発掘・才能開花をいかに促していくか』だと考えます。AI化が進む昨今は、1人の際立った才能が、これまでとは比較にならないほど多大な影響を及ぼす時代。その才能を埋もれさせず、発掘するためにデータを活用することが重要になります」と中村氏は締めくくりました。

section 4
講師3名によるパネルディスカッション

続くパネルディスカッションでは、講師3名が会場の参加者からの質問に答えながら、デジタルHRの展望や事例をさらに掘り下げて解説しました。

「ピープルアナリティクスのシステムベンダーの選定で留意すべき点は」との質問には、(中村氏)「自分たちが何をしたいかを最初に決め、それを実現しやすく、かつ扱いやすいものを選ぶのが一番良いと思う。最初から重たいシステムを持つのではなく、APIやロボットでデータを連携させ、アウトプットだけを整える方法もこれから増えると感じています」、(山崎)「分析の際はできる限り中身のロジックが見えるシステムを使ったほうが、結果に対する納得度が高く、その後の意思決定にも使いやすくなります」と、それぞれ回答。

「デジタルHRがうまくいっている企業に共通する特徴は」との問いに、(岩本氏)「いろいろな人を巻き込みながら、プロデュースし、結果を出していく『デジタルHRプロデューサー』的な人がいるかどうかが非常に大きい。まさに中村さんや山崎さんのような人です」と述べました。

「入力者の主観が入るようなデータの質を均質化するために注意している点は」との質問では、(山崎)「議事録などの言葉尻が曖昧な部分を補ったり、客観的に見て意味がわからない箇所は訂正して入力し直すなどしていますが、主観が入るデータについてはそれほどコントロールしていません。主観は主観で、重要な面もあると考え、本人が主張していることはできる限りそのままの形で管理するようにしています」と解説。

最後にメッセージとして、(岩本氏)「『私は人を見る才能があるので、テクノロジーは必要ない』と言う人事担当の方もいますが、ならばその才能をデータにしてみんなに広げてみませんか、とお伝えしたいですね。データサイエンスのテクノロジーを特殊なものと考えず、スマホを使うように気軽に使ってみてほしい。そうしたツールもたくさん出てきているので、企業の競争力を高めるために活用してみてはどうでしょう」と呼びかけました。

自社の人事情報室がスモールスタートだったことに触れて、山崎は「最初はデータも少ないので、1人でも業務を回すことが可能だと思います。最初から予算を潤沢につけて組織を作れる会社はそうそうないと思うので、あまり気負わずに、ぜひ、小さな規模から少しずつ始めていくことをおすすめします」とアドバイス。

中村氏は「近年、デジタルHRを導入する企業も増えていますが、大切なのは、倫理観を大事にしながら、目的をしっかりと持って運用していくこと。『分析結果は人を活かすために使う』というポジティブな用途を前提にし、その目的を忘れずにいることが重要で、そうでなければ従業員からデータ収集への協力は得られず、人事の信頼性も失われてしまうでしょう。そのことを常に心にとめて、スタートしてほしいと思います」とメッセージを送りました。

まとめ

今回のイベントには、人事領域におけるテクノロジーの活用に関心を持つ大手企業の人事担当者を中心に、約50名が参加。満席の会場では、参加者が熱心にメモをとったり、スライド資料を写真に収めたりする姿が見られました。パネルディスカッション終了後も、登壇者に個別に質問や相談をする参加者が多く、テーマへの関心の高さがうかがえました。

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