デイビッド・ウルリッチが提唱する戦略人事とは?人事機能、役割、要件、事例を解説

人事

2020年05月12日(火)掲載

日本でも、大企業を中心に「戦略人事」を取り入れる企業が増えてきました。

しかし、まだその数は少ないのが現状です。そこで、企業競争力を高めるために必要不可欠である「戦略人事」について、わかりやすく説明します。

戦略人事とは-従来の人事戦略との違い

「戦略人事」は、1990年代に米国ミシガン大学の教授 デイビッド・ウルリッチが提唱した考え方です。彼の著作である『MBAの人材戦略』にまとめられています。

この「戦略人事」という考え方は、管理業務に留まらず、人事部は経営者のビジネスパートナーとしての位置付けです。企業目標の達成のために、積極的に経営に参画させます。

従来の人事戦略は、労務管理や給与支払いなどの管理業務が中心であり、経営に直接関わるというよりは、企業を影で支える要素が強くありました。

しかし、「戦略人事」では、人事部も企業目標を実現するための大きな担い手となることが求められます。このため、従来の人事戦略から「戦略人事」へ移行することを“守りの人事から攻めの人事へ”と表現されることもあります。

POINT

・「戦略人事」は、1990年代に米国ミシガン大学の教授 デイビッド・ウルリッチが提唱した考え方である。デイビッド・ウルリッチの著書には、『MBAの人材戦略』がある。
・「戦略人事」では、人事部も企業目標を実現するための大きな担い手となることが求められる
・従来の人事戦略は保守的な面も大きかったため、「戦略人事」へ移行することを“守りの人事から攻めの人事へ”と呼ぶ。

戦略人事が叫ばれる背景や導入のメリット

そもそもなぜ「戦略人事」が注目されているのか

「戦略人事」が注目されている背景には、大きく2つの理由があります。

●①IT技術に起因するスピードの速さ

1つは、「IT技術の発達により、ビジネススピードが速くなったこと」です。

インターネットの普及により、ビジネスが進展するスピードは、以前と比較して格段に上がりました。今も技術革新やIT化の流れは止まらず、ビジネスを取り巻く環境は日々変化しています。
このため、スピード感のある企業目標の策定と経営戦略の実行が重要視されており、対応するための企業力向上が求められています

●②日本型雇用の崩壊

2つ目は、終身雇用や年功序列、大量採用などの「日本型雇用の崩壊」です。従来の日本の雇用ではなく、海外からの刺激を受けた個人スキルを重視する転職ありきの雇用になったことで、多くの企業において「戦略人事」を検討する必要が出てきました。

かつての日本の高度経済成長期は、「終身雇用」、「年功序列」、「大量採用」を軸に人事システムは構築されていました。当時は、終身雇用と年功序列で給料が上がる安心感があり、高いモチベーションで会社へ忠誠心を持って勤める従業員が多かったことに加え、企業側も大量採用が可能な時代でした。

この雇用システムは、当時の日本の状況にはよく合っており、かつては一定の成果を出していたと言って良いでしょう。

しかし、現在は、働くことへの価値観の変化や少子高齢化による労働力不足、そして冒頭に述べたIT技術の発達により、従来型の人事制度では企業運営を円滑に進めることが難しくなっています
企業目標を達成するための人事システムの実現には、限られた人材を最大限戦略的に活用し、目まぐるしく変化するビジネス環境に適応することが求められています。

このような状況下により、 海外でも定評のあった「戦略人事」を取り入れる企業が増えてきているのです。

「戦略人事」を導入するメリット

ビジネススピードの発達や日本型雇用の従来の体制の崩壊を受け、このような状況下で、「戦略人事」を取り入れるメリットは多くあります。

●スピード感のある人事を展開できる

最も大きなメリットは、「スピード感のある人事を展開できる」ことがあげられるでしょう。

「戦略人事」では、企業目標を達成するためにはどのような人材が必要かを考えた上で、人事計画を策定します。そのため、企業目標や経営戦略と人材戦略が融合されているので、スピード感のある人事を展開することができるのです。

もし、従来型の人事を行なっている場合、企業目標と人材戦略にズレが生じる可能性がありますが、「戦略人事」は、企業目標をもとに人材戦略を策定するため、そのようなことが起きにくくなります。

●経営戦略を明確化できる

また「企業目標や経営戦略をより明確化できる」ことも大きなメリットの一つです。
大企業では、定期的に企業目標や経営戦略を策定していますが、中小企業は、限られた人材で日々の業務を行なっている企業が多く、企業目標や経営戦略の未策定であることも少なくありません。

ですが、「戦略人事」を取り入れることで、今まで曖昧になっていた企業目標や経営戦略が明確化されるメリットがあるのです。

●人事部の孤立を防ぐことができる

他にも、人事部が企業目標を実現するため部署であることを従業員に浸透させることで、人事部の孤立を防ぎ、社内に連帯感が出る可能性もあります

POINT

・IT技術発達によるビジネススピードの加速や日本型雇用の背景を受け、「戦略人事」が最近注目されてきた。
スピード感のある人事を展開できたり、経営戦略を共有でき人事部の孤独を防ぐことができたりするのが「戦略人事」の導入の大きなメリットである。

デイビッド・ウルリッチが提唱する戦略人事に必要な機能(BP、OD&TD、CoE、OPs )

ウルリッチは「戦略人事」に必要な4つの機能を提唱しています。

1. BP(ビジネスパートナー)

一つ目は、人事部は経営者のビジネスパートナーとして、経営に積極的に参画していくべきだという考え方です。従来型の人事では「守りの姿勢」が強かったですが、「戦略人事」では、経営戦略を実現するため、人事部の積極的な関わりが求められます。

2. OD&TD(組織開発&人材開発)

OD &TDでは、従業員へ経営目標を浸透させて、経営目標を実行出来る組織作りや人材育成を行います。具体的には、企業理念を実行できる組織作りや研修の実施を行うことです。

3. CoE(センター・オブ・エクセレンス)

エクセレンスというのは「優秀」「卓越した」という意味で「優秀な人事部」であるべきという考え方です。つまりは、「戦略人事」を実現するためには、人事業務に高いスキルを持つ「優秀な人事部」として機能しなくてはならないということです。

4.OPs(オペレーションズ)

これまでの従来型人事業務の根幹とも言える、入社事務や労務管理などの日常業務を指します。「戦略人事」を行ったとしても、人事の基本業務であるルーティーン業務を正確かつ効率的にこなすことも非常に重要です。

「戦略人事」に必要な4つの機能

1. BP(ビジネスパートナー)
2. OD&TD(組織開発&人材開発)
3. CoE(センター・オブ・エクセレンス)
4.OPs(オペレーションズ)

戦略人事導入のよくある課題

実際に「戦略人事」を取り入れる際には予め課題を予測しておく必要があります。

よく起こる課題としては、「戦略人事の重要性を認識していない」「変わることを恐れる」ということがあげられます。
例えば、人事部が「戦略人事」の重要性を認識していても、経営者が反発するというパターンや、逆に、経営者が「戦略人事」の重要性を認識していても、人事部や従業員が変化を恐れて導入の障壁となるパターンも想定されます。

「戦略人事」は、これまでの人事制度を一変することや、経営目標の策定および共有を行うなどの大きな負荷がかかるため、 経営者、人事部、従業員が重要性を理解し、変化を受け入れることが求められます

しかし、社内の理解が一致しなかったり、変わることを恐れてしまい、「戦略人事」の必要性を感じながらも導入が頓挫してしまったりするということも少なくありません。

このようなことが起きないようにするため、「戦略人事」を導入すると決めたら、社内の意思統一を行うことが成功の鍵と言えるでしょう。

POINT

・「戦略人事」導入の際は、戦略人事の重要性を認識していない、もしくは変わることを恐れている人がいたりする場合があるため、その点は課題である。
・戦略人事を導入すると決めたら、社内の意思統一を行うのがおすすめ

戦略人事導入へのステップ

では、実際に導入する際には、どのような準備と手順が必要なのでしょうか。具体的に、「戦略人事」の導入へのステップをみていきましょう。

1. 企業目標の理解

「戦略人事」を取り入れる目的は、企業目標の実現です。そのためには、企業目標をよく理解することは外せません。中小企業では、企業目標が未策定の場合もありますので、その場合は、企業目標などを策定することから始める必要があります。

2. 経営目標を実現するための人材像の設定

次に、企業目標を実現するための人材像を設定します。この人材像は、人事業務の指針になるので非常に重要です。

3. 目標値の設定

「戦略人事」を取り入れた効果がはっきりとわかるように目標値を設定しPDCAを回します。

戦略人事導入のステップ

・ 「企業目標の理解」→「経営目標を実現するための人材像の設定」→「目標値の設定」
・目標値設定後はPDCAを回して改善に努める。

まとめ

テクノロジーの発達やグローバル化により、現代は簡単に先を読めないビジネス環境にあります。
そのような状況の下では、業績を大きく左右する「人財」を最大限生かすために「戦略人事」を導入して、他社との競争優位性を確保することが生き残りを左右するかもしれません

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