採用ブランディングの価値とノウハウとは

人事

2019年09月09日(月)掲載

採用ブランドとは何なのでしょうか。

<採用ブランドとは> 採用市場において、企業が差別化され、選ばれるに至るイメージの総和。事業戦略・業績・設備環境・経営者・人材の質・社会性などの企業力、仕事のやりがい・若手への権限委譲・昇進のスピード・待遇に関する優位性など多様な観点によって構成される。  
リクルートワークス研究所 ワークス人事用語辞典より

簡単に言うと「他社と差別化出来る自社らしさ」でしょう。

採用における他社と区別できるブランディングで考えると、それは、求職者だけではなく現社員も含め『この会社で働くと「○○○」だから、他社とは違い魅力を感じる』と言うときの、「○○○」に当てはまる言葉が本質的な価値になります。

求職者(学生)だけに、企業ビジョンや働きがい、環境・風土・待遇・固有の技術などの魅力を認知させればよいのではないかという疑問を感じるかもしれません。その答えはNOです。なぜなら現役社員が思っている、この会社で働くことの「〇〇〇」と『採用ブランド』として打ち出していく「〇〇〇」にギャップがあると、ミスマッチが生じてしまうからです。

転職会議や就活会議・OpenWork(旧Vorkers)といった口コミサイトが求職者・新卒者の意志決定にも影響を与え始めています。企業側の情報だけではなく、リアルな声を知りたいという求職者の心理なのでしょう。

しかし企業からすれば、口コミの内容は必ずしも正確な内容ではないと感じる場面も少なくないと思います(書き込みは離職者も多いです)。そこで再び注目されているのが、採用ブランディングです。

採用ブランディングを行う4ステップ

①採用ターゲット層を定める

絞り込みは重要です。しかし「会社に適合する人材」もしくは「スキル面を求めている人材」かどうかで大きく変わります。

この会社で働くと「○○○」だからを、上記の2層に適した求職者目線を意識した設定が求められます。自分たちが何者か、どこに向かい、どうありたいのかが分かっている組織は、『採用ブランド』も強くなります。自社の強み・魅力を明確化すると、今度は実際に、そのブランディングが外部にどう見られているかを調査する必要があるでしょう。

②ブランドを「社員が享受」できているか

説明会や面接での自社イメージのアンケートあるいは、Web上のテキストマイニングは、やや好意的な調査結果になりがちです。
好意的な情報収集よりも大事なことは、「自社で働くと〇〇〇だから」というブランドを、全社員で体現できるようにすることです。つまり「その企業に入るとどんな人材になれるのか」「どんな成長を遂げることができるのか」が重要な観点になります。現社員で実現されていないようなことは、『採用』ブランドとして打ち出すことはお勧めできません。

③採用競合との差別化

少し矛盾しますが、競合と求める人物像がある程度バッティングしていないでしょうか。また認知度の高い企業の人事担当者でも、この経営方針で「うちで働くことの〇〇〇はこうです」と、競合を意識して明確に表現することは難しいのではないでしょうか。これは消費者向けのブランドと、求職者に対する「採用ブランド」が別物であることを示しています。

採用ブランディング視点に置き換えた3C分析として、「Company(自社)」「Customer(求職者)」、「Competitor(採用競合)」があります。また、キャリア採用での「人材要件(=ターゲット)」と「求める人物像(=ペルソナ)」の精度もよく言われますが、無意識に自社の都合の良い方に分析していないでしょうか。

むしろ「カスタマージャーニーマップ(以下CJM)」の、顧客が商品を知り、購入し、その後に評価やレビューを行うまでの一連の流れを時系列に並べる。そうした行動や心理状態を可視化するマーケティング手法の設計が、「相手の目線」で考える差別化への採用ブランディングにも役立てられるとして、注目されています。

④適切なアプローチ方法で継続的に発信

CJMの目的として、新卒者、若手社員、モデル社員へのヒアリングなどを通じて、情報を集めていき、最終的にフレームワークへと落とし込んでいきます。
【認知段階】【感情段階】の「興味・関心」は何であったか。【行動段階】の「検索」「比較」「検討」「内定・入社」「情報共有」のプロセスはどうであったか。それらのヒアリングからターゲットの行動や感情変化、対応策が浮かんできます。

各フェーズでどのような行動をとり、何を考え、何を感じているのかをマッピングすればCJMの完成です。「その組織が求める人物像(=ペルソナ)」にズレが少ないほど、採用広告やSNSなどにとどまらないリアルとの連携や、普段はあまり思いつかないような施策の立案も可能になります。

採用ブランディングを行うメリット~装飾情報よりリアルなブランディング数値の効果

自社で働くと「〇〇〇」の指標のひとつとして、企業方針や戦略を、社員全員に浸透させる上で有効な「従業員エンゲージメント」が、フェイスブックやツイッター、インスタグラムなどSNSの効果測定の値(エンゲージメントスコア)として注目されています。

例えば、株式会社リンクアンドモチベーションが主催するベストモチベーションカンパニーアワード(エンゲージメントスコアの高い企業10社を選出し、表彰する式典)の結果などを、ご覧になった方も多いと思います。

HR テックの市場規模拡大を見ると、企業規模・業種・創業年に関係なく、社員の生産性や満足度を高める施策に成功している企業が増加しています。HR テックに関するさまざまな記事やランキングを目にする機会も驚くほど増えました。

・新たな自社らしさ(オリジナリティ)はつくれる 

なぜエンゲージメント率が高いのか。「AI」とルーチンワーク的な仕事の代替に役立つ「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の普及により、付加価値の高い仕事ができる環境であるなど、短期間での成果は難しいですが、新たな自社らしさ(オリジナリティ)をつくることができます。広告を使用しなくても「会社に適合する」もしくは「スキル面を求めている」という求職者に対して認知度を高める手法も増えているのです。

・働くことに幸せを感じる社員が増える=『採用』ブランドを確立できる

採用ブランディングを行うには、自社の強み・魅力の明確化が必要です。言い換えれば自社を客観的に見つめ直し、耳の痛い情報も収集して何を整えなければいけないかを把握する工程が派生します。

この会社に入社したいと「思ってもらいたい人材」に、企業価値や信頼感を高めてブランドを築いていくような活動の結果、課題発見から諸制度や生産性向上、従業員満足度につなげることは、採用競合との差別化にもなります。

さらに応募の母集団を増やすことだけが主目的ではなく、CJMのフレームワーク作成時に、差別化された魅力を享受している現在のリアルな社員の声として発信していければ、より欲しい人材と直結するはずです。

採用ブランディングを行うデメリット~ノウハウがある企業の方が稀。だから効果が高い

採用ブランディングは、一般的に人事部が運用すると思います。マンパワーの問題もあれば、短期的に効果が出せるものでもありません。結果的に、経営マターとしてPLやBSと同じようにエンゲージメントスコアは欠かせない指標であると、大きなゴールとして社内設定される企業がまだ少ないのが現状です。

しかし、日本では働き方改革の文脈で語られることの多いエンゲージメントですが、表彰対象や記事になる企業や部署は、長い目で見ると業績を向上させている傾向があるようです。

・2つのエンゲージメントと社員を活かす環境

この社員エンゲージメントを大きく2つに分けると、1つは「コミットメント」です。これは企業と社員との結びつきと考えていただくと良いと思います。働く社員が企業の方向性にしっかり腹落ちして納得しているかという結びつきの強さのようなものです。もう1つが「自発的努力」。「与えられている仕事以上のことをやりたい」と社員が考えるような、もしくは「会社は私をそういう気持ちにさせてくれている」と感じるような状態です。

日本では特に、人口減少による人手不足や離職率の高さが懸念されていることから、人事部のHR テックサービスが強力な助けになる領域として、主に「求人の最適化」「採用管理の最適化」「組織エンゲージメント・マネジメントの強化」さらに「勤怠・労務の効率化」などで普及が進んでいます。

一方、業績相関の高い結果指標として、「社員を活かす環境整備」もあります。ビッグデータやAIを人事に活かすピープルアナリティクスは、頑張りや結果を評価するような制度がない、あるいは評価できる上司がいないケースに「適材適所」と「働きやすい環境」の2つを提供すべくトレンドになっていると言えます。

・必要なコストを見極めに外部スキルの活用

イメージの良い「経営理念」や「行動指針」などの価値観をどう表現していくのかという、一方的な情報発信であった時代は過去の話です。いまの採用ブランディングは求人だけではない企業の新たな強みを生みますが、自社に必要なHR領域のテクノロジーの見極めや導入コストがかかり、また3C分析、CJM、SNSに関する知識など多様な専門性も必要となっています。

とはいえ、このようなスキルを持つ人材採用は難易度も高く、どこから手をつけるか、何を活用するべきか。外部の専門家の力を活用する企業が増えている理由もわかります。

外部から見てどうかという知見者のアドバイスは、必要なコストやロジックを経営層や他部門長などへ説明する際に、人事部の助けになることが予測できるからです。

採用ブランディングを成功させる3つのポイントと重要点

自社の新たな「らしさや環境」をつくることと並行して、あとは「誰に」「何を」「どうやって」伝えるかを決めて運用するだけです。

①誰に
ターゲットは「求める人材」ですから、狭く深く絞り込むことが大切です。明確化することで、以降のメッセージや届け方の戦略が変わります。

②何を
「らしさや環境」が、働く上でどう有益であるのでしょうか。それをより具体的に伝えるには、どのような切り口がいいのでしょうか。また、どのタイミングでの情報発信がベストでしょうか。しかし、企業として伝えたいことを考えていると、「ターゲットから見て魅力的か」という観点を忘れてしまいがちです。魅力的な切り口になっているかは常に意識しましょう。

③どのように
自社ブログ・SNS・会社説明会が一般的ですが、講師を招いた勉強会を企画し、参加された方向けにオウンドメディアの活用や「現場と語るランチ会」を取り入れている企業もあります。

自社にあった採用ブランディングの発信者は、いずれも人事担当者だけで完結しません。

また、会社の価値観を言語化すること、つまり人や環境を含め、自社では何を大事にしているのかを言語化をすることで、逆に「応募のスクリーニング」をかける上でも重要です。
 
また、一貫性をもちながら情報発信は継続的にすることが大切でしょう。 長期にわたる企画やコミュニケーション設計だけでなく、客観的にその言語化で良いのかの判断も重要です。魅力的な切り口になっているかの見極めもクリエイティブな領域です。やはり専門家のスキルを活用することをお勧めします。

逆効果を起こさない知見も重要

例えば、フリマアプリを展開されている株式会社メルカリは、『Go Bold(大胆にやろう)』という言葉をミッションのひとつに掲げています。社員の方がイベントなどで『Go Bold』と書いているTシャツを着て、オウンドメディアなどを通じても『Go Bold』と伝え続けています。

軸がぶれていると「採用ターゲット」と合致せず、認知度の高さがむしろ災いし、大量の応募者から選考に多大な工数やコストを必要とするというケースもありえます。

採用ブランディングは、企業価値の向上と宣伝にもなる反面、「やってみたい」という安易な手法では、トーン&マナーへの知見もなければ、ネガティブな書き込みを起こすなど、逆効果になるリスクもお伝えしておきます。

関連コラム

ページTOPへ戻る