専門家の事例から学ぶ新ブランドを成功させるために必要なことは?

新規事業

2020年08月19日(水)掲載

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新規事業は、「たった1人の情熱」があるかどうかで、成功の可否が決まると言われています。新ブランドの導入、新規エリアへの進出に関しても同様です。また、マーケティングとは、「売れる仕組み作り」とも言われます。 
筆者は約30年間にわたり、化粧品メーカーのマーケティングを担当してきました。ここではその経験をもとに、具体的な実例(成功例・失敗例)を入れながら述べてみたいと思います。

過去の失敗から学ぶ

まずは失敗事例から記載します。
今から約25年前、化粧品業界の販売方法は美容部員を介してのカウンセリング販売が本流であり、まだドラッグストアでのセルフ販売が絶対的主流になる少し前、且つ、今では当たり前のインターネットでの化粧品販売がようやく出始めた頃でした。社長の大号令の下、「インターネット販売+店頭でも販売」の新ブランド導入が決まり、筆者はそのマーケティング(販売促進)を担当することになりました。
この新ブランドの販売方法は、店頭には商品を全く置かず(テスターは設置しますが)、店頭設置の端末または自宅のパソコンでのWEBカウンセリング実施後に、お客様の肌に最適な商品が自動的に選択されて自宅に配送されるという、従来にはない全く新しいやり方でした。自宅からも店頭の端末からも購入可能、いわば「ネットとリアルの融合」のような先駆的な商品・販売方法でした。

ブランド名は「A」。「漢方」の考え方を取り入れた商品コンセプトで、端末画面でのきめ細かなWEBカウンセリング(Q&A)、化粧水だけで顧客の肌質に合わせて数十種類、他に乳液、クリーム、健康食品(サプリメント、スープ)等もあり、購入の組み合わせでは何と数千通りにもなりました。

「ブランド」とは、「とがっていること、そのブランドでなければ実現できないこと」が肝と言われますが、まさにその通りのブランドでした。
しかし、敢え無く、1年超でブランドは完全撤退しました。あまりにも早過ぎた終結でした。 この場合、何故上手くいかなかったのでしょうか。以下で、失敗要因を記載します。

仕組みは画期的・先駆的であったと、今振り返ってみてもそう思いますが、結局はひとりよがり・自己満足のブランドであったとも感じます。あっけない終結、ブランド完全撤退でしたので、仕組みそのものをその後に全く生かすこともできませんでした。

・常に顧客を主語に考えて、分かり易く簡便な仕組みを心がけるべきであった。
・事前調査は十分だったのか? 
・我慢してでも仕組みだけは継続・別展開すべきではなかったのか? 健全な赤字部門があってこそ良い会社になると何故もっと主張できなかったのか? 
・最終的には、「たった1人の情熱」が足りなかったのではないか?

幻のようなブランドでしたが、現在では化粧品業界もインターネット販売・インターネット広告全盛の時代です。

『「売れる仕組み」はあったのにな、あのまま仕組みを改善・継続していけてたら…。』
返す返すも後悔しきりです。

成功事例から学ぶ

今から10年程前のことです。現在では中国の化粧品市場規模は日本の2倍以上ですが、当時はまだ日本の市場規模が大きい頃でした。中国市場への本格進出を目指すこととなり、導入候補ブランド(日本で発売済)の事前調査を実施すると、以下の状況がわかりました。

・日本ブランドの 「安心・安全、肌にやさしそう」 という評価は、欧米系ブランドと比較して格段に高い。
・メイクよりスキンケアが売れそう。
・当時の中国は大気汚染PM2.5全盛時代であり、日本ではメイクの常識、ファンデーションは肌に良くないのでそれほど使用しない。

この調査結果を踏まえて、導入したブランド名は「B」。 コンセプトは「日本の安心・安全」を基に商品開発された「敏感肌」用基礎化粧品です。現在の日本もそうですが、敏感肌用化粧品市場は、スキンケアのメイン市場ではありません。しかし、確実に一定の市場規模があります。
当時の中国化粧品市場の薬系敏感肌用ブランドは、外資(欧米系)ブランド3強時代でしたが、ここにメイドインジャパン(安心・安全・やさしい・少しおしゃれ)が割って入るチャンスは十分にありました。このBブランドは、日本ではドラッグストア・GMSで3尺2段程度に並べるセルフ販売的な商品で、マーケティング投資も多くはないブランドでしたが、
中国では、

結果、日本円で約2000円(中国の感覚では倍の4000円)もする洗顔クリームが飛ぶように売れました。日本で洗顔料といえば1000円未満が今でも主流であるにも関わらず、中国では高価格の洗顔料が大量に売れるとは、予想を超えた新しい驚きでした。

何故売れたのでしょうか。それは中国の女性は大気汚染(PM2.5)により、1日何回も顔を洗うため、というのが大きい理由でした。当時の中国女性は仕事中のお昼休みにも顔を洗うほどであり、肌に良い洗顔料を探していました。化粧水・乳液・美容液と同じように、洗顔にもお金をかけるのが中国流行の最先端であったということです。
このBブランドは、その後も洗顔料に特化し(洗顔料のラインナップも増加)、今では中国だけで数百億円を売るブランドに成長拡大しています。その売上の約半分を洗顔料が占め、日本のスキンケアブランドの品種構成比とは全く違った形になっています。
価値観というのは、人によって、ましてや国によっては全く違うということを実感・体感した経験でした。
確かに、日本で売れているものが海外でも売れる可能性は高いですが、日本ではそれほど売れてなくても、何か一つのトリガーで海外では爆発的に売れることもあるということです。

ブランド「B」を中国スキンケア市場に導入した後に、満を持してメイクアップ市場へと導入を決めたのが、ブランド名「C」です。日本ではドラッグストアを中心に、セルフ販売(横幅3尺の什器展開)をしていたブランドです。
当時の中国の物価は、上海で日本の約1/2、 中国全体では1/3ですので、日本ではセルフで売れても中国では絶対に売れない価格です。

結果、単店の売上では、日本一売れる店舗の3倍以上を記録する店舗が出現しました。その後も、このブランドは順調に店舗数・売上共に右肩上がりを継続中です。尚、嬉しいことに、中国仕様販売什器は、その後の日本国内のスタンダードにもなりました。

3つの事例を纏めると、新規事業・新ブランド展開に必要だと実感したことは次の3点です。

「負けに不思議の負けはなし」とはよく言われますが、やはり失敗事例の方がその後のやり方の工夫に繋がっていくと思います。「成功体験 < 失敗は成功の元」ですね。また、人間の習性として「自分にとって良い情報はよく見るが、悪い情報は見たくない。所詮、多くの人は見たいと思う現実しか見ない」とも言われます。見たくない現実をじっくり見て、分析・課題抽出・対策検討しなければとも強く思います。以上、筆者のマーケティング経験での実例でした。

最近、筆者の友人が中国ビジネス(越境EC事業)を起業し、少しお手伝いをしています。ご存じのように、中国だけではありませんが、海外進出には、リスクとコストが付き物です。 国内の認知・シェアはある程度あったとしても、必ずしも中国でそのまま売れるとは限りません。

海外進出には大きく分けて、次の3つの方法があるかと思います。

① 直営店(店頭販売) ② 直営店(インターネット販売) ③ 越境EC  


①は人・物・金・時間(様々な手続き等)が膨大にかかります。しかも、日本においても相当な知名度がなければ難しいと思います。ブランド「B」「C」共にこのパターンでしたが、初期投資がかかるので利益が出るまでは最低でも数年を要するでしょう。
②は手軽ですが、海外での販売許可に時間はかかりますし、ランニングコストもかかります。インターネット維持経費、物流費、モール手数料・欠品ペナルティ、在庫リスク等もあり、月約300万円の売上でようやく利益ゼロ、認知拡大の為のプロモーションをやればやるほど赤字です。
③は、現地での面倒な販売許可も必要なく、日本の商品をそのまますぐに売ることができ一番低リスク・低コストですが、それでも物流コスト・在庫リスク・代理店コストがかかります。加えて、認知拡大への工夫・投資を継続しなければ売れません。

海外(中国)には進出してみたい、越境ECもやってみたいという企業の皆さまに、新しいビジネスメソッドや最適な低コスト・低リスクの 「B to B to C」手法を支援すべく、友人は現在奮闘中です。

新型コロナウイルス禍で国内のインバウンド需要は全く見込めず、ノーバウンド状態がまだ続く中、化粧品市場に限らず国内需要も暫くは確実に停滞が見込まれるでしょう。しかも国内市場は、パイの取り合い状態が続くと筆者は予想しています。 
従って、売上拡大を目指すには、海外進出(アジア、特に中国)に目を向けざるを得ない状況です。
海外進出に目を向けているものの、どのような攻め方をすればよいかわからない・社内にノウハウがない等、様々なお悩みを抱えている企業の皆さまも多いかと思いますが、その際はぜひご相談ください。

執筆者Y.U氏

大手化粧品メーカーにて直近まで約30年マーケティング業務に従事。
国内・海外の事業計画・販売生産計画・市場調査・販売促進・教育企画・エリアマーケティングを担当し、
化粧品マーケティングに関する知識と実務経験豊富。 今後はコンサルタントとして活動予定。

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