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これからの中間管理職の役割とは?
2020年03月13日(金)掲載
プレイング・マネージャーという都合のよい概念
中間管理職とは何かという問いそのものを問う必要がある。役割を語る前によくありがちな実態を見てみよう。トップマネジメント層とメンバー社員の、中間層に属する人材をミドルと呼ぶことにする。多くのミドルはプレイング・マネージャーである。時期が来ると予算、目標そして評価をする。主な仕事はスペシャリストである。過去の人件費圧縮そして今の人手不足を受け、限られた人員で業務をこなす。必然、プレイングをしなければならない。また、その方が慣れている。時々、部下から例外処理などの質問も来るため、それに応える。部下から相談されるだけ良い方かもしれない。最小限の報告だけの人もいるだろう。部下も上司がばたばたしているので何とか自分でこなす。クレームや問題が発生した場合はその時に対処すればよい。
一方で、働き方改革の流れを受け、残業は極力避ける。無理にお願いするとパワハラだと言われかねない。部下に言うくらいなら自分でやった方が気楽だ。とにかく日々の仕事をこなす。
リーダーシップ論にSL(Style of Leadership)理論というのがある。メンバーの成熟度で関わり方を変えていく。例えば、メンバーが若手中心なら指示型、ある程度一人でできるのであればコーチング型といった具合だ。ミドルの、そして本来最も重要な役割は人材育成といってもよい。しかし、主にプレイヤーなのでメンバーの状態を観ることより仕事の進捗や外注先のアウトプットを確認することに注力してしまう。つまりマネジメントは中心ではない。マネジメントとは何なのかもあまり考えていない。
ミドルの役割の変化
70年代、日本の管理者論の草分けである畠山芳雄氏は管理者には3つの役割があると述べた。革新機能、維持機能そして育成機能だ。80年代に入り、ヘンリー・ミンツバーグはマネジメント(ここではミドル・マネージャーと理解してよい)には10の役割があると述べた。大きく3つに分類が可能であり、対人関係における役割、情報に関する役割、意思決定に関する役割である(注1)。とにかく幅広い。同じ頃、ウォーレン・ベニスはマネージャーとリーダーを分けることによってリーダーシップの必要性を強調した。激化するグローバル競争の中、変革型リーダーシップが求められた。そこには中間管理職という議論はなく、リーダーシップとは何かが問われた。
今はVUCAの時代(注2)といわれている。この言葉は2009年に紹介された。その間、オープン・イノベーションが2003年に発表され(注3)協創が当たり前とされた。2011年にはCSV(注4)が発表された。
顧客とのタッチポイントは多様化し、カスタマー・エクスペリエンスは当たり前となり、顧客を含めた多様な関係性が価値を創造する時代へと変化した。当然、ミドルの役割も大きく変わった。
中間管理職に求められるチームの学習能力
最近、ホラクラシーやティール組織など組織論が盛んである。これが意味するのは、マネージャーは柔軟に対応しなければならないということだ。先述のヘンリー・ミンツバーグは、組織は5つの形態になるといっているが、組織にはこれといった決まった形はないと理解できる。組織は戦略に従うというように(注5)、外部環境に対し、内部環境である組織は柔軟に変化しないといけない。VUCAワールドにおいて、世の中は益々複雑で多文化的になっている。これはあらゆる分野で技術進化が起こり、専門化が進んでいることを意味する。つまりマネージャーは、様々な分野の専門家とネットワークを組みながら新たな価値創造や問題解決をしなければならない。リニアな発想で答えが得られる時代ではないとすれば、流動的で未知なるものに対し、求められるリーダーシップはチーム活動ということになる。
常に最高のメンバーと人員、潤沢な資金そして時間が与えられている訳ではない。従来は最適なメンバーを構成すればおのずと結果が得られたかもしれない。今は、限られたメンバー、協力先などとチームを組み、未知なるものに挑戦しないといけない。そこに求められる個人能力は、多様なメンバーの感性や考えを聴き取る能力であり、プロセスを見出し、実験を奨励し、失敗を学習として次のステップへ俊敏に展開していく試行錯誤能力である。
安定や確かな結果を期待する組織文化を持つ組織には適さないかもしれないが、確かな結果を得られる事業などは本来無い(健全な競争原理に反する)。そして、この能力は個人に留まってはいけない。本来、製品・サービスというのは相互依存する人々とプロセスによって生み出される。つまり組織学習能力が求められる。しかし、これは今に始まったことではない。ケイパビリティ学派のいうVRIOモデルのOはorganization arrangement to execute a strategyの略であり、コア・コンピタンスも同様といってよい。ただ、焦点が組織からチームというよりコアの単位、流動的で試行錯誤を基本とした活動プロセスに深化したといってよい。
今後仕事は、多様な協調、多様な知識、多様な場所(空間)を求めるだろう。マネージャーは限られた資源で、仮説‐実験‐検証‐改良を繰り返しながら推進していくチーム・リーダーでなければならない。エイミー・C・エドモンドソンは、このチーム活動を“活動と省察のプロセス”と述べている(注6)。
中間管理職という発想からの脱却
戦略によって、機能(組織)、業務プロセス、人材(役割)そしてそれらをマネジメントする仕組み(制度と運用)も変わる。ミドルを中間管理職と位置づけ、そのように呼称をするのは組織の自由である。先ず、重要なこと、必須なことは戦略と組織と役割が柔軟そして自律的にリンケージすることである。複雑で未知なるものを限られた資源、専門家そして外部と協働していくには、明確なビジョン及び目標が必要となる。そこに共感することで挑戦は可能となる。中間管理職に何を期待するかの前に、彼らがわくわくするような目的を創造する必要があり、挑戦する環境(文化)を提供することである。
戦略を実現するための長期的人材モデル、人材プール戦略をもって、どのようなミドルが必要なのかを考えることそのものが問われている。
チーム学習という観点から求められるミドルの能力をいうのであれば、①ゴールに対し情熱を持っていること、②不確かであっても前進する行動力を持っていること、③多様な情報を収集しチームと共有し分析できること、④多様なメンバーの意見を聴き認知できること、⑤失敗を恐れず実験を繰り返し学習する内省力があること、ではないだろうか。
ちなみに役割というのは期待される行動様式であるので、先ずはテーマ(業務、課題、プロジェクトなど)を設定する必要がある(注7)。上記にあげた5項目は、どのようなテーマであってもチームを担うリーダーに求められる能力である。
管理職という位置づけにするのであれば、経営側という立場となる。つまり次代のビジネスリーダー候補を意味するので、相応のスキル、実績そして人間力について高いハードルを設けて任命する必要あるだろう。何故か。それはVUCAの時代において、価値を創造する、生産性を高める、これらは簡単ではないからだ。
(注1)Harvard Business Review Henry Mintzberg on Management
(注2)VUCAとは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)をいう。“Leaders Make the Future: Ten New Leadership Skills for an Uncertain World“ Bob Johansen(著)
(注3)Open innovation- The new imperative for creating and profiting from technology(2003年)imperativeというのは、ぜひともしなければならない、必然という意味である。その後、2006年 Open Business Model : How to thrive in the New innovation Landscape、2011年 Open Service Innovation : Rethinking your Business to Grow and Compete in a new Eraとサービス化でのオープン・イノベーションへ進化している。
(注4)2011年、Creating Shared Value (HBR論文) Michael E. Porter(著)
(注5)Structure follows Strategy. ( Alfred D. Chandler, Jr.)
(注6)Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy (2012) Amy C. Edmondson(著)
(注7)役割とは期待される行動様式であって、業務でもなく肩書でもない。“プロジェクト・マネジメント実践”(産業能率大学出版部)宮川 雅明(著)
執筆者M.M氏
大手コンサルティング会社を経て米国NYにてコンサルティング会社設立。自動車、電機、精密機器、家電などのメーカーや小売、物流、製薬、IT、公益法人など幅広い業種での支援実績を有する。事業開発・組織開発・人材開発の3領域を中心に、多様な課題を解決してきた。英国国立大学大学院の特定教授。