その要員計画で本当に中計は実現できるか?──経営戦略と連動する人材設計の新常識
2025年11月27日(木)掲載
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企業の持続的な成長を支えるためには、「経営戦略に基づく人材戦略」の構築が不可欠です。中期経営計画(中計)の数値目標を達成するためには、採用数や人員配置の調整にとどまらず、「どんな人材が、どのようなスキルを持って、どの部署で活躍すれば良いか」という要員計画の精緻化が求められます。
しかし、多くの企業では依然として要員計画が「人事労務の延長」として扱われがちであり、経営戦略と十分に連動していない実情もあります。中計などの経営戦略に基づいて要員計画を進めるためには何が必要なのでしょうか。人事制度設計やグローバル人材マネジメントに精通するプロ人材の東野 敦氏に聞きました。
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AI時代に中期経営計画を実現する「戦略的要員計画」策定ステップ
■「悲観的なシナリオ」も冷静に見据え、部署ごとの要員計画を策定する
■HRテクノロジーを活用し、新たな要員カウントルールで「実質戦力」を把握
■本来の目的に向けてデータを収集し活用すれば、経営への大胆な提案ができる
■まとめ
「悲観的なシナリオ」も冷静に見据え、部署ごとの要員計画を策定する

——まず、「なぜ要員計画が重要なのか」という背景からお聞かせください。
東野氏:要員計画とは本来、経営戦略の中心に置いた方が良いと考えています。従来のように人員数を算出して労務費を出すようなレベルではなく、もっと精緻に、経営戦略や人事戦略の中心に要員計画があるべきではないでしょうか。
しかし、大企業でもこれが実践できていないケースが散見されます。
グローバル展開している企業の場合は、海外のマンパワーや人的リソースをどう生かすかという視点が中計に盛り込まれていないケースが多いですね。海外拠点にも即戦力となるローカル人材がたくさんいるはずですが、どうしても日本人の新卒採用を前提に計画を立ててしまう。結果として、中計と連動していない要員計画になってしまうわけです。
一方、国内展開を中心とする企業では人材育成と要員計画を別の部署が担っていて、それぞれ別の仕事だと考えているところがあります。「誰がいつ退職して」「女性管理職がどの程度の比率で配置されているか」といった、数字を細かく把握する仕事になってしまっているのです。
——経営戦略や人事戦略の中心としての要員計画を策定する上で、経営層や人事部門が押さえておくと良いポイントは何でしょうか。
東野氏:「人を育てる」という観点が抜けている企業が多いと感じます。
たとえば中計に「事業を拡大する」という目標が盛り込まれているとします。人事部門の多くは、その実現に向けて「とにかく採用を頑張る」という発想になってしまうことがあります。育成の視点がないと、結果的には事業全体の生産性を落としてしまうかもしれません。
では、どのように人材育成の視点を盛り込むと良いのか。前提としては「自社の事業でどこを伸ばすのか」「どこを縮小させていくのか」を考え、部署ごとに人材ポートフォリオを策定し、部署ごとに要員計画を立てる必要があります。
外資系企業はこのあたりの決断が早いですが、日本企業の多くは縮小に慎重で、すべてを一律に考えてしまう傾向が見受けられます。
経営側がなかなか口にできない悲観的なシナリオについても、人事は冷静に考えておきましょう。推奨したいのは「ボトム」で計画を立てること。つまり、「事業が縮小した場合には最低限この人数でやっていける」と想定し、事業が成長した場合に備えて育成計画も同時に盛り込んでおくのです。
HRテクノロジーを活用し、新たな要員カウントルールで「実質戦力」を把握

——具体的な要員計画策定のステップについて教えてください。
東野氏:まず要員計画の前に、「どんな人材がいたら事業が伸びるか」を考えることが重要です。次に人材ポートフォリオを可視化し、人事課題を抽出して、定点観測ができるようにします。
その上で、人的資本ベースの理想と実際の要員とのギャップから、必要な採用計画や社内補充計画を具体化していきます。この際には、退職予定者なども踏まえて計画を立てることが重要です。
また、「要員カウントルール」の調整も重要だと考えています。わかりやすく単純に比較すると、即戦力となる若手社員と退職間近のシニア社員では、実際の稼働状況が異なることもありますよね。それらを加味して、現場にとってのメリットとなるようなルール調整が必要です。
——従来とは異なる要員カウントルールを導入し、円滑に運用していくためには、どのような工夫が必要でしょうか。
東野氏:昨今の生成AIによるHRテクノロジーの進化を存分に活用すると良いでしょう。
生成AIの能力は上がっています。人材ごとに異なる複雑な測定も、より簡単になっていくと考えています。「こんなスキル」「こんな評価」「こんな成果」といった人材ごとのデータを流し込めば、要員計画の精緻化がしやすくなるはずです。
——要員計画をうまく進めているケースでは、どんな取り組みが見られますか。
東野氏:さまざまなデータを集めてタレントマネジメントシステムに集約し、これを見ながら経営陣で「人材戦略会議」を開いているケースもあります。採用の段階から人材データを収集し、一人ひとりの強みを可視化して、数千人規模の中から経営課題に応じた最適な人材を見つけ出せるようにしているのです。
こうした取り組みに共通しているのは、見たことのないものや、やったことのないことに挑戦する勇気があることだと感じています。人事部門にとって、研修や制度改革などは過去にも似た取り組みがあるので導入しやすいですが、人材ポートフォリオの理論体系化はまだまだ新しく、未知の分野でしょう。経験のない取り組みだからこそ時間がかかってしまうという事情はよくわかります。しかしこのままでは、本来の要員計画を実現できません。
本来の目的に向けてデータを収集し活用すれば、経営への大胆な提案ができる

——前例のない要員計画の取り組みを進めていくためには、経営層の深い理解を得ることが欠かせないと思います。人事部門はどのようにアプローチすれば良いでしょうか。
東野氏:DXと同じように、経営戦略に基づく要員計画を策定、運用するためには経営者の意思決定が重要であり、役員陣が目的を理解して迅速に動くことが重要です。
そのためには、人事から経営へドラスティックな提言をしていく必要もあるでしょう。現在は多くの企業でタレントマネジメントシステムを導入しているはずです。まずは大量のデータを集めることに集中し、それを社員番号に紐づけてAIで分析すれば、非常に豊かな経営情報になるはずです。
たとえば会議ログを取得して、そこからファシリテーション力の高い人材を分析したり、ファシリテーション力とパフォーマンスの相関を確認したりすることも可能になります。こうしたデータがあれば、経営への大胆な提案も可能となります。
——データ収集と活用に向けては、人事と現場の連携も重要だと考えます。HRBPのように、人事がより事業の現場へ入っていく取り組みを強化すると良いですか。
東野氏:それはケースバイケースではないでしょうか。
強いブランド力を持ち、強固な既存事業を発展させていく必要がある企業では、人事が事業の現場に入り込んで動くことは確かに重要だと感じます。
一方、事業ポートフォリオが頻繁に変わる企業の場合は、HRBPのような部門人事の仕組みが実はあまり向かないケースもあるのです。人事が事業の現場に入りすぎると、どうしても人への感情が大きくなってしまいます。大きく路線変更しようとする際に、事業側のHRBPが抵抗勢力になってしまうこともあるので注意が必要です。
——人事と現場が適切な距離感を保ちながら連携し、要員計画に基づく大胆な組織改革を進めていくためには、どのような工夫が考えられますか。
東野氏:私たちのような外部のプロ人材を活用することは、有効な打ち手の一つだと思います。
元来、要員計画やタレントマネジメントのような領域は、人事として「あまり外部に言えないもの」でした。そのため今でも他社の成功例や取り組み事例を知る機会が少なく、社内にある知見を頼ることしかできないケースも珍しくありません。そんなときには、さまざまな業界や企業のナレッジを知るプロ人材を頼っていただきたいですね。
要員計画を精緻化するためにタレントマネジメントシステムを導入しても、データ漏えいを防ぐことが第一目的になったり、使用者の権限設定だけで数か月かかったりと、「失敗しないための仕組み」にとらわれてしまうケースも多いです。そんなときにも、プロ人材は「何のためにやるのか」を原点から問い直してくれるはずです。
要員計画に取り組む本来の目的は、人材を育て、事業を成長させること。企業がその本質に立ち返って取り組めるよう、私も尽力していきたいと思っています。
【プロフィール】
People Trees合同会社 Co-CEO/社長 東野 敦
富士重工業(現SUBARU)、本田技研工業、江崎グリコなどに在籍し、人事領域における製造業のグローバル化や制度設計、タレントマネジメント、シニア活躍推進等において企画~実行までを担当。在職中にPeople Trees合同会社を共同創業し、2020年9月より独立。300社以上の人と組織の課題解決に伴走し、人事制度設計をはじめ、海外法人の人事面での支援、タレントマネジメントシステムやテクノロジー導入による生産性向上にも寄与している。
プロ人材紹介 東野 敦氏
まとめ
要員計画は、単なる人員数カウントや管理のための手法ではなく、経営戦略の実現に欠かせないものです。経営層と人事、そして現場が適切に連携し、AIやデータを駆使して人材ポートフォリオを可視化することが、真の人材戦略の第一歩となります。人事が冷静なシナリオ設計と大胆な提言を両立し、育成、採用、配置の最適化を進めることで、企業は環境変化に強い組織へと進化できるでしょう。HiPro Bizには東野氏のように人事知見が豊富なプロ人材が多数登録しています。人材を育て、事業を成長させる要員計画を策定、運用するために、HiPro Bizでプロ人材を活用してみてはいかがでしょうか。
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