コロナショックによる物流機能の変化 / 企業に求められる変化とは
~物流BCPの必要性が高まっている~
2020年05月20日(水)掲載
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は、人類の健康を脅かすとともに、
世界経済の先行きを不透明にしています。IMF(国際通貨基金)は経済成長率に深刻な影響を与えるという見方をし、WEO(世界経済見通し)は大半の国の2020年成長率をマイナス成長になると予測しています。 ( 参考:https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2020/04/14/weo-april-2020)
企業業績が厳しくなる見込みですが、企業が検討する業績向上策は、①売上増加策(販売促進プロモーションなど)、②売上原価率の低減策、③販売管理費の削減策(広告宣伝費・旅費交通費・交際費・マイナスの削減 および物流費率等の低減)などが考えられます。
今回は、日本の企業活動においていわゆるコロナショック後、物流機能などがどのように変化していくかを考えたいと思います。
コロナショック発生以降の物流現場の状況
(1)テレワークが困難な物流業務
・製造業や商社など、荷主企業の物流拠点業務および物流企業の拠点業務は、製造業の製造ラインや部品加工業務などと同様に、モノ(商品)の入出庫・保管・輸配送などの業務についてはテレワークが困難な業務と言えます。
(2)物流現場の荷動きの変化
・荷量が増えている物流の仕事は、在宅が増えたことでスーパーやドラッグストアーなどへの食品配送があります。特にカップ麺やレトルト食品、缶詰、冷凍食品、お菓子などの賞味期限が長めの食品が増加しているようです。
・荷動きが悪い理由は、コロナウイルス発生後に中国などの海外から輸入する部品や製品の入荷が減り、それによって製造ライン停止や、在庫が品薄になったことで荷量が減少している企業があります。また建築現場など資材が供給不足になり、工期遅れなどの影響が発生している建築・住宅関連商材の物流業務があります。
(3)多忙な物流会社と、荷量が減少している物流会社
・EC (電子商取引)による購入増加で、宅配業は多忙になった仕事の一つにあげられます。緊急事態宣言後は在宅率が高いと予想されるので、その時期は再配達率も減少し、配達効率が向上しているかもしれません。
・生産量が低下していることで、機械など工業製品の中長距離輸送の仕事が減少している模様です。それにより、急な荷量増加時にトラックと貨物のマッチングを行う求車求貨ビジネスにも影響が出ています。従来はトラックに対して貨物の引き合い件数の方が多かったですが、逆転して貨物の件数の方が少なくなっているようです。
減少した貨物の仕事をしていた運送会社は、大手運送会社や大手倉庫業などの物流企業に仕事を求めて
営業活動を活発にしているようですが、貨物の減少はしばらく続くと私は考えています。
コロナショック以前からの兆候が、コロナショック以降に加速すると推察される変化
(1)BCP視点での物流拠点の再配置
・2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の大阪北部地震・台風被害などが発生した日本列島は、次に自然災害がいつ発生するのかわかりません。常に災害に備える重要度が増しました。東日本大震災以降は物流BCPの重要性を認識する企業が増加し、関東地方に本社や拠点を置く企業の動きが迅速であったように記憶しています。関東地方は災害がいつ起きてもおかしくないと言われ続けていると共に、意思決定できる多くの役職者が勤務していることも一因だと考えられます。
・2018年の大阪北部地震と台風被害の発生は、自然災害がいつ、どこにでも発生することを再認識する機会になり、物流拠点の再配置を課題化する企業が増加しています。物流拠点の分散化や、古い施設を統廃合する動きなどもあります。
・残業時間の抑制と、走行距離・時間を考慮したエリアに、物流拠点の再配置を考えることも増えてきました。
・自然災害がいずれかのエリアで発生した場合、他の拠点で業務を補完することや人的応援をすることが可能でした。
コロナショックは、発生予測が困難であるのみならず、今後も各地で頻発する懸念や、人の移動を抑制することもあることから、
企業は物流BCPの見直しと、さらなる体制づくりが喫緊の課題になってきました。
(2)新型コロナウイルスの影響による変化 (物流拠点)
・コロナウイルス感染が発生した拠点は、消毒の為にしばらく業務を停止せざるを得なくなります。その拠点に人の応援を出すことも難しくなります。
・リスクヘッジの観点から、できる限り少ない人手で運営できるようにロボット・自動化設備などの導入、手荷役業務の削減などが検討課題になります。
・製造業・商社の荷主物流拠点は、従来は大型化・統合する施策の目的は効率化とコスト低減でしたが、近年に自然災害が多発していることから、リスクヘッジとしての観点も鑑みるようになってきています。機能が止まることの損失予測が経営判断に大きく影響してきています。
・首都圏や近畿圏のDC拠点(在庫型物流拠点)の再配置の検討案として、1拠点に集約するのではなく2~3拠点で在庫・出荷するというしくみがあります。そのようにすることで、もし1拠点が機能しなくなった場合は、他の拠点である程度の業務補完ができるようにする考え方もあります。企業にとって売上構成比の高い商圏は、リスク回避策がビジネスを継続できるようにすることが重要なテーマになってきています。
・製造用部品・原材料の調達先を1社にしない(複社購買)および倉庫の分散化などは、コストを重要視するかあるいはライン停止や欠品を避けることが重要かの経営判断が必要になるきっかけになったと思われます。
(3)新型コロナウイルスの影響による変化 (ドライバー不足)
・以前よりドライバー不足が問題になっていましたが、2019年の消費増税後から荷動きが悪くなっている兆候に続いて、2020年のコロナショックの発生後は仕事が急減している運送会社があります。運送会社は輸配送業務に応じた歩合給を導入する企業も多いため、多くのドライバーは仕事が減ると収入が減ります。コロナの影響が長引く場合、ドライバーは業界内転職または異業種への転職も考えるようになると予測され、荷量が増加した時にはドライバー不足がより深刻な状況になると懸念されます。
・平ボディ車ドライバーは、ロープ掛け、シート掛けなどの技能が必要であることから中高年ドライバーが多く若手が少ないのが現状です。
平ボディドライバーは今後も不足すると予測され、運賃も高めの傾向です。平ボディが必要な荷主は、スポット契約から期間契約によって囲い込みが進んでおり、平ボディ車のスポット調達はますます難しくなるでしょう。
(4)新型コロナウイルスの影響による荷主の施策及び運賃の変化の方向
・荷主は荷量の平準化に取り組み、トラックをできる限り定期便化することが、荷主および取引先にとって最適なしくみになると考えるようになってきています。荷主は今まで以上に販売計画と輸配送量の予実精度が求められます。販売・生産・調達・在庫・配送業務フローの再構築ができる企業が、効率化とリスクヘッジの先進企業になると私は考えております。
・この数十年にわたって販売価格のダウンが続いてきましたが、コロナショックがこの転換期になるかもしれません。
極端な価格の変動はないでしょうが、低価格戦略が減少するきっかけになるかもしれません。引き続き物流費や人件費の負担増加が予測され、効率化に向けた新たな設備投資も必要であると考える企業は多く、今回のコロナショックのようなリスク発生に際し、売上の減少にも耐えられる企業体質を目指す重要性を認識された経営者が多いのではないかと思います。
・運賃
令和2年4月24日国土交通省より、改正貨物自動車運送事業法により設けられた「標準的な運賃の告示制度」(参考:https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000213.html)に基づき、標準的な運賃が告示されました。 現時点では貨物減少と原油価格が下がっているので、この運賃が浸透していくには少し時間が必要かもしれません。しかし、運送会社はドライバー不足の対応と、2024年に迫ったドライバーの残業時間短縮に向けた施策を実践する必要があり、コロナショックが終息して経済活動が活発になった後には、運賃は次第に上昇していくものと推測します。
(5)取引先とのパートナーシップ
・今回のコロナショックで、海外依存率の高い製造業・商社は、調達先と製品(商品)の重要度分析をして重要度が高いと判断すれば、国内を重視することや複社購買に転換することも予測できます。従来のモノの動きが変化することで、製造業・商社・運送会社にビジネスチャンスが生まれる可能性があると考えられます。
パートナーシップを醸成できる取引の重要性が高まるでしょう。
・運送会社の経営課題は多く、特にドライバーの拘束時間と作業内容の改善は喫緊の課題になります。
運送会社は取引先とパートナーシップ関係を重視する取引を重視していくことが肝要です。
従来のままの取引条件や業務内容では、運送会社の課題解決が困難なままになります。
荷主も取引先を選別しますが、運送会社も荷主を選択する時代になっていくと考えられます。荷主が、ビジネスを継続していくために必須である物流業務をいかに改善していくか、業務効率を向上させていくかも重要な課題になります。
コロナショックは、企業の課題に対して、パートナー企業と共に取り組むきっかけになりそうです。
※2020年4月27日時点でのニュースや情報などに基づいて記述しました。
執筆者M.M氏
不動産業界の大手企業にて営業課長、経営企画室参事、グループ会社取締役を務める。
定年退職後、現在は中小企業診断士として活動中。
大手企業、中小企業の経営、営業戦略、物流改善などの診断・助言を行いながら、経営管理面、
仕組みづくり、現場視点を重視した支援を行う。