インダストリアルIoT(IIoT)とは何か?
2020年07月21日(火)掲載
インダストリアルIoT(IIOT)とは何か?
インダストリアルIoT(以下IIoT)とは、「産業用のIoT」を指します。産業といっても第一次産業から第三次産業までが私が学校で習った産業ですが、第四次産業や、一次+二次+三次=六次産業やそれに四次を加えた十次産業という言葉まであります。本論と離れてしまうので説明は割愛させていただきますが、とにかく多種多様な中でもIIoTに関しては第二次産業の事例が多いようなので、今回は主に製造業のIoTをIIoTとして取り上げたいと思います。
インダストリアルではないIoT
インダストリアルではないIoT(一般的なIoT)は何かというと、区別するためにコンシューマIoTと呼ぶこともあるようです。我々が普段生活で使用している機器が様々な情報をインターネットに繋げ、集まったデータを価値のあるものに変換して活用されることです。例えば、家にある電気製品の使用電力が取得・集計されて、電気製品別に使用状況が分析され、省エネのアドバイスを行うなどが実現されています。
IoTは既に私たちの生活の中に浸透しているので、もう少し身近な例を紹介します。
例えば検索サイトです。有名な検索サイトがいくつか存在しますが、パソコンやスマートフォンにて検索サイトを開き、分からない言葉や調べたいことを入力すると、関連サイトに導いてくれます。世界中の人が使う便利なものですが、入力されたデータは収集され、アカウントを持っている(=個人情報登録をしている)と、どのような人が何を調べているのか、何に興味を持っているのかを把握できてしまいます。さらに同じような年齢や趣味をもっている人の傾向も分析できてしまいます。その結果を使って効果的な広告をユーザに表示するという価値を生み大きなビジネスが成り立っています。まさにIoTの代表事例ではないでしょうか。
すなわち、情報を発信し取得するだけではなく、集まった情報を今まで考えもしなかった使い方で新たな価値として提供できるのがIoTです。
インダストリーといえば ”4.0”
IIoTの話を始めなければなりませんが、その前にもう一つIndustry 4.0 のことを頭に入れておかなければなりません。これは第4次産業革命を意味する言葉ですが、そもそも産業革命とはどのようなことを意味するのでしょうか。
第一次産業革命では、鉄道の発達で遠距離の移動が楽になり、第二次産業革命では、石油、電力の活用により車が登場し、第三次産業革命ではコンピューターが仕事の仕方を変えてきました。それらに伴い、多くの仕事や商品が無くなってきました。例えば、肉体労働が減り、交通手段としての馬車が無くなり、タイプライターなどが無くなりました。
そして、現在身近に使用されているものとして代表されるスマートフォンには多くの機能やアプリケーションが備わっています。地図、財布、カメラ、新聞、本、音楽プレイヤー、テレビ、ラジオ、ゲーム等、新しい機能だけではなく、今まで他の製品でしかできなかったことがスマートフォンで実現され、多くのものが不要になりました。私も昔はデジタルカメラや音楽プレイヤーを持ち歩いていましたが、今はスマートフォンだけを持ち歩いています。買い物に行かなくても買い物ができ、買ったものが手元まで配送されます。
すなわちIndustry4.0の本質は、無くなっていく仕事や製品があるということ、または仕事のやり方が劇的に変わるということなのです。それを実現する手段が、IIoTということです。
製造IoTとIIoTの関係
製造業では製造IoTという表現を使っていることも多いと思います。製造設備や作業者から製造に関する情報を取得して見える化や分析、予知保全などを行うといった事例が増えています。従来設備の稼働については作業者が記録し報告していたり、熟練者が五感で異常を予知していたり、予知できずに故障して対応していましたが、徐々に自動で行うことが可能になってきました。IIoTの中でも製造に特化したIoTが製造IoTと言えるでしょう。
エッジコンピューティングの発展
製造IoTは、半導体製造や化学プラントのように、従来から多くの情報を取得できていた業態もあれば、そうではない業態もありますが、近年安価な仕組みであらゆる製造現場の様々な情報を取得することが可能になっています。情報を取得する最前線の仕組みを「エッジコンピューティング」と言います。従来自動で取得できなかった情報を、様々なセンサーや設備のコントローラ等からあらゆる情報が取得できます。
<センサー例>振動センサー、熱センサー、赤外線センサー、生体センサー、画像センサー
生産管理が激変する可能性
エッジコンピューティング技術が発展して、製造設備の予知保全や作業や設備の日報の自動化も進んでいますが、製造現場の範囲にとどまるのは非常にもったいない話です。製造設備や作業者から取得したデータは、多くの企業が従来から保有している生産管理情報と合わせて活用すると、今まで生産管理システムが超えられなかった壁を超える仕組みが構築可能になるかもしれません。
生産管理は、理論的には人が介在しなくてもできる業務が大半ですが、実践ではそうではありません。何がそのギャップかというと、計画通りにモノづくりができないことが多いからです。急な需給調整や顧客からの納期変更、部品の納入調整や設備が停止したりする中で、能力の限界寸前の生産を人間の調整でまかなっていることが多いのです。その状況がリアルタイムに把握でき、人間の判断をルールで表現すれば、状況に応じた様々な調整が自動でできる可能性もでてきました。
IoTのT(Things)は、設備や作業者だけではなく、生産計画やBOM(Bill Of Material:部品構成表)、部品情報など生産管理上の様々な情報だとすれば、それら大量の情報を活用すれば、製造現場だけではなく、工場の間接業務も効率化、自動化が視野に入ってくると考えられます。
サプライチェーンマネジメントとIIoT
さらに、情報がインターネットに繋がることで、サプライチェーンが繋がります。社内外の倉庫拠点の在庫情報や物流会社の輸送に関する情報、材料や部品の供給会社や製造委託先、出荷先の顧客企業とも情報連携が可能になり、会社間で有益な情報をやり取りすることも可能ですし、部品在庫や製品在庫の最適化、在庫量に応じた生産計画の自動立案、納期調整の自動化など、これまで技術はあったものの、実用化が困難であったところにも導入のハードルが下がってきたといえます。 在庫の持ち方や、需給調整は人の経験やスキルに依存していましたが、IIoTによって形式知化され、自動化が進むでしょう。
IIoTの課題
IIoTはメリットばかりではありません。以下に示す課題の解決をしながら進めていく必要があります。
(1) セキュリティ
インターネットに繋がるということは、常にハッキングの脅威にさらされるリスクがあるということを忘れてはなりません。重要な技術情報やその他重要な会社情報が流出してしまうリスクだけではなく、悪質なコンピュータウィルスに感染してデータを消去されたり、誤動作を誘発させられたりと様々な被害を想定し、対応する必要があります。
(2) 品質(堅牢性や安定性)
産業用で求められるのは、簡単に止まったり壊れたりしない堅牢性や安定して動き続けることです。事業運営の継続を妨げるような仕組みでは産業用として認められないでしょう。実用化には機器やシステムにそれなりの品質が求められ、導入にあたり十分なテストが必要になります。
(3) コスト
情報を取得するための機器・通信インフラへの投資や、ビッグデータの保管、データ分析、情報システム開発など、場合によっては非常に大きな投資が必要になります。IoTで期待されることは、新たな価値の創造でもありますが、大量のデータを取得して分析を行う、或いは予知などを期待してAI技術を導入したりした結果、期待通りの結果を得られないこともあります。リスクを考えると投資力のある会社とそうでない会社の格 差が開いてしまう結果にもなります。投資対効果の事前検証が非常に難しい分野でもあるので。仮説立案、PoC(Proof of Concept:概念実証という重要な検証工程)、スモールスタートから実施するなど、進めるうえでの慎重な投資計画と工程計画が求められます。
(4) 人材
経済産業省のDXレポート(DX:デジタルトランスフォーメーション)に登場する「2025年の崖」が話題 になっているようです。この背景は企業がデジタル化を進める上で既存の情報システムがブラックボックス化して刷新が困難になっていることと、デジタル化、IoTを進めて新しい情報システムへ移行することへの足枷になっているということなどです。
多くの企業の情報システム人材は内部よりも外部に依存していることや、人材が高齢化して新しい技術に対応できないことなどもあり、今直ちに進めたいIIoTに関する技術者が不足している問題がすでに顕在化しています。
私が昨年、製造現場の設備から情報を取得して、上位システムで見える化まで行った際にわかったことは、設備に関する技術(生産技術)と設備の情報を社内ネットワーク上で扱う情報システム技術の両方がわかる技術者が非常に少ないということです。プロジェクトマネジメントもノウハウが必要ですし、組織間のコミュニケーションを円滑にするブリッジ・エンジニア含めたチーム構成も非常に重要です。今後経験を積んだ人材が多く育っていくと思いますが、まだ不足の感は否めません。
製造業におけるIIoTの可能性
課題はありますが、AI技術によるデータ活用の幅も広がり、5Gによる通信技術の進歩により、安定して大量のデータを取得して活用することが期待されています。製造業は技術的な見地のおいても、まだ伸び代がある分野です。今のうちに将来像を描きながらエッジコンピューティングを進めておかなければ、進んでいる企業との格差はますます広がってしまいます。
この分野は、現時点で日本が遅れている分野であると言われていますが、日本の製造業ならではの良さはIIoT先進国が簡単に模倣できるものではありません。また、取得した情報をどのように活用するかは、未成熟でこれから期待される分野でもあり開拓の余地が十分にあると思っています。
執筆者K.S氏
早稲田大学理工学部卒業後、エレクトロニクス業界の企業に入社し、生産技術部門勤務。売上数千億円規模のデジタルプロダクト事業にてSCM導入とマスカスタマイゼーションを効率的に実現するPLMの活用を牽引した経験も有り。現在は、製造業界の企業のCDOとして、IoTや全社デジタル化を推進中。