Cookieレス時代の勝ち筋を探るあなたへ。ファーストパーティデータ活用で生まれる新たな商機とは
2025年09月24日(水)掲載
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Cookie規制の強化やプライバシー保護の流れが加速するなか、従来のサードパーティデータに依存したマーケティング手法は限界を迎えつつあります。こうした背景から注目されているのが、顧客との直接的な接点を通じて得られる「ファーストパーティデータ」です。
一方で、データの収集や分析、活用にはコストや体制整備が必要であり、現場の担当者や経営層にとっては大きなハードルとなることも少なくありません。ファーストパーティデータの特徴やメリット、活用に向けた具体的なステップに加え、さらに一歩進んだ施策として登場している「ゼロパーティデータ」の重要性まで、デジタルマーケティング分野で豊富な経験を持つ竹永 靖氏にお伺いしました。
■まず問われるのは、ファーストパーティデータ活用に向けた「期間とコスト」を覚悟すること
■戦略立案からデータ収集や規制遵守、分析活用に至るまでの具体的ステップ
■低評価も貴重なデータ。「ゼロパーティデータ」活用の可能性とは
■まとめ
まず問われるのは、ファーストパーティデータ活用に向けた「期間とコスト」を覚悟すること

——Cookie規制やプライバシー保護強化の流れについて、近年の状況を教えてください。
竹永氏:Cookie規制はここ数年で急速に進行しています。EUの取り組みや改正個人情報保護法、ブラウザによる自主規制などによって、企業にも大きな影響が及ぶようになりました。外部データに依存したマーケティングから、顧客との接点に基づいたマーケティングへとトレンドが移り変わりつつあり、対応を急いでいる企業も多いのではないでしょうか。
とはいえ、企業が独自に顧客と接点を持ってデータを集めるのは簡単ではありません。特別なノウハウが必要であることに加え、大きなコストがかかることもあり、対応に二の足を踏むケースが多いですね。
——昨今ではファーストパーティデータ活用に注目が集まっています。従来のセカンドパーティやサードパーティのデータ活用と比較して、ファーストパーティデータにはどのような特徴やメリットがあるのでしょうか。
竹永氏:外部データに依存しなくてもマーケティングを進められるので、コスト面での効果は大きいでしょう。ただし、ファーストパーティデータを活用していくための取り組みは数年単位になることが多く、流通業においてはPOSシステムなどとの連携で追加コストがかかることもあります。そうした期間やコストを含めて、経営としての意思決定が求められます。
——担当部門としては、いかに経営層に納得してもらうかも重要ですね。
竹永氏:はい。取り組みそのものは中長期ですが、短期的な成果も見えやすくしておくことが重要だと思います。
ファーストパーティデータの活用にあたっては、当初から新規顧客獲得に注力した戦略を立てることがあります。これが経営層を説得しきれない原因になっているかもしれません。そもそも新規顧客の獲得はハードルが高いケースが多いため、来店したことのある顧客にもう一度振り向いてもらう方が、たやすいかもしれません。当初の1年は既存顧客の分析を通じてバスケット単価を上げることに注力してみてはいかがでしょうか。これによって、短期的な成果も見えやすくなるでしょう。
どうしても経営層の納得を得られない場合は、共同データを使ったり、他社のポイント制度と連携したりといった従来の方策が有効な場合もあります。企業規模や課題によっては、ファーストパーティデータにこだわり過ぎないほうがいいかもしれません。
とはいえ、自前のデータが一番であることは間違いありません。どれくらいの期間とコストを覚悟して準備ができるか、それは経営者次第であるとも言えます。
戦略立案からデータ収集や規制遵守、分析活用に至るまでの具体的ステップ
——ファーストパーティデータ活用に向けた、具体的なステップを教えてください。
竹永氏:まずは戦略を立案し、目指すゴールを定義します。前述のように「初年度から新規顧客獲得を目指すのか、それとも既存顧客のバスケット単価向上を目指すのか」といった軸を決めることが重要です。
次にデータ収集体制を構築する必要があります。自社が獲得できる、あらゆる顧客データを集めていかなければなりません。
また規制の遵守も重要です。顧客からの問い合わせに対応するコールセンターを設けられるか、社内にその対応ノウハウがあるかを確認します。自社で用意できない場合は、外部への相談も選択肢に入れるべきでしょう。
その上でファーストパーティデータの分析や活用を進めていきます。社内の複数部署に情報共有する際には、マーケティングの専門用語ばかり使うのではなく、「リピート率」などの分かりやすい言葉で伝えていくことを心がけましょう。重要なのは社内の各部門でデータをしっかり活用できるようにし、PDCAにつなげていくことです。
——ファーストパーティデータの活用が企業にとってデメリットになる可能性もあるのでしょうか。
竹永氏:外部由来のデータと比べて、自社で直接顧客から集めたデータのほうが確度は高いでしょう。自社の取り組みなので聞きたいことを自由に聞き、集めたいデータを自由に集められますから。
ただ、アクティブ顧客に偏ったデータになりやすい点には要注意です。たとえば顧客10人あたり2人しか会員がいない場合、そのデータに基づいて考える施策は、20%の顧客にしか刺さらないものになってしまう可能性があるのです。こうした事態を防ぐためには、最初の段階で会員募集の入り口を簡単にして、自社の会員をできる限り増やしていくことが重要です。
低評価も貴重なデータ。「ゼロパーティデータ」活用の可能性とは
——さらに一歩進んだ取り組みとして、アンケート情報など顧客自身が積極的にデータ提供する「ゼロパーティデータ」をうまく収集し、活用している企業もあると聞きます。
竹永氏:ゼロパーティデータを集めるには、「顧客の好みを聞かせてもらう」ための仕掛けが重要です。好みを聞かれれば顧客は本当の関心を教えてくれるもの。逆に好みを聞いてもらえない状態だと、顧客は離れていってしまうかもしれません。
顧客が積極的に書いてくれる口コミも重要です。たとえば、製品購入時に「製品登録」してもらうことも重要な入り口です。製品に興味を持って買ってくれた顧客の声は、とても重要なマーケティングデータとなるでしょう。顧客が好きで購入したものなら、レビューも気持ちよく書いてくれる可能性が高いです。
——低評価のレビューを書かれてしまうリスクもあるのでは。
竹永氏:それも含めて貴重なデータなのです。クレームを申し入れるお客さまはありがたい存在で、何も言わずに去っていかれるほうが企業としては痛手のはず。だからこそ、低評価レビューの中で具体的なクレームを書いている顧客に対しては、すぐにカスタマーサポートが対応してフォローするのがよいでしょう。製品自体には満足いかなくても、その会社への信頼性は高まるはずです。むしろ、低評価レビューを的確にフォローすべきかもしれません。
——今後、ファーストパーティデータやゼロパーティデータを活用してより良い顧客体験を提供したいと考えている企業は、竹永さんのような外部人材の知見をどのように活用すべきでしょうか。
竹永氏:企業としては、どんなパートナーを選ぶか見極める力を磨くことも重要だと感じます。冒頭でも述べたように、ファーストパーティデータ活用の取り組みを始めるにあたり、外部人材によっては最初から新規顧客獲得ありきの目標設定で話を進めることが多いように感じます。それは実績や効果を出しやすいためと考えられますが、最も重要なのは既存顧客の「つなぎとめ」や離反顧客の「返り咲き」であると考えています。その外部からの提案は果たして本質的な企業としての目標と合致しているのか、見極めを行った上でパートナーを選ぶことが重要ではないでしょうか。
【プロフィール】
株式会社take 竹永 靖(たけなが やすし)
1964年生まれ。大手航空会社で営業やツアーコンダクターなどを務めた後、大手エンターテインメント事業会社で小売部門にかかわり、その後、数社でECサイト構築、運営に携わる。2010年からは大手ホームセンターやそのグループでECやデジタルマーケティング全般を担当し、ECサイト活用やポイント会員管理、経営から考える会員戦略を手がけ、現在は大学院博士課程でマーケティング手法や理論を防災や、都市計画開発に応用する研究に取り組む。
まとめ
Cookie規制やプライバシー保護強化の流れを受け、ファーストパーティデータの重要性はますます高まっています。竹永氏の解説の通り、自社データは精度と自由度が高く、顧客にパーソナライズされた体験を提供する基盤となります。一方で、収集や活用にはコストや体制整備といった課題があり、戦略的に進める必要もあります。自社の顧客基盤を強化し、持続的な競争優位を築くための一歩を踏み出すために、プロ人材の活用を検討されてみてはいかがでしょうか。