DX人材の定義と求められるスキルとマインド、育成方法を解説
2023年04月03日(月)掲載
近年では業種にかかわらず、多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されているため、専門人材の採用や社員の育成は重要視されています。特にDX人材を自社に求める経営者、人事担当者は多いのではないでしょうか。
日本がDX化で遅れている背景には、このDX人材の不足が原因としてあげられます。
本コラムは、これからDX人材の採用や社員育成によるDX人材化に注力したい経営者や人事担当者に向け、DX人材の概要を解説します。DX人材の活用に向け、本コラムを参考にしてください。
DX人材とは?
経済産業省では、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
ビジネスがグローバル化した現代では、DXを積極的に推進する海外企業に後れを取らないためにも、企業はDX環境の整備を通じて、現場で活躍できるDX人材の採用・育成に注力する必要があるでしょう。
DX人材の定義
DX人材に明確な定義はありませんが、DX推進に必要なデジタル技術スキルを有している人材のことです。経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、DX推進に必要なスキルを「DX推進スキル標準」とし、以下の人材類型を定義しています。
人材類型 | 概要 |
---|---|
ビジネスアーキテクト | DXの目的を定め、関係者を巻き込みながら、DX実現に向けた一連のプロセスをリードする人材 |
データサイエンティスト | 業務変革や新規事業の立ち上げにおいて、データ収集・解析の仕組みの設計・実装・運用を担う人材 |
サイバーセキュリティ | デジタル環境下でのサイバーセキュリティ対策を担う人材 |
ソフトウェアエンジニア | 製品・サービスのデジタル化に向けて、システムやソフトウェアの設計・実装・運用を行う人材 |
デザイナー | ビジネスやステークホルダーなどの多角的な観点から、製品・サービスのあるべき姿をデザインする人材 |
DXには上記のスキルを持った人材の採用・育成が不可欠であり、このような専門人材がチームとして連携できる状態になることで、DXの推進力を高められるでしょう。
【日本企業の課題】DX人材の不足が深刻化
日本企業の課題は、DX人材の不足が深刻化していることです。総務省が2021年に発表した令和3年版 情報白書では、DX推進で不足している人材として、以下のポジションを挙げています。
- DXの主導者
- 新規事業の企画・立案者
- デジタル技術に精通している者
- UI・UXデザインに長けている者
- AI・データ分析に長けている者
専門知識を有する上記の人材の採用は容易ではありません。なぜなら、いずれのポジションもIT人材(IT企業や企業の情報システム部門に所属する人)に該当するからです。
2019年に経済産業省が発表したIT人材需給に関する調査によると、2030年にはIT人材が最大79万人不足するという試算結果が出ています。
つまり、DX推進で他社に後れを取らないためには、難易度の高いDX人材の採用に固執するのではなく、並行して既存の社員の育成にも注力するなど、幅広い選択肢を模索することが重要です。
そのうえでDX人材を獲得するには、次のようなアクションが求められます。
- 既存の社員でスキルが高い人材を、DX部門に配置転換する
- 中途採用で経験者を雇用する
- 資格取得を推進し、受験料や取得後の奨励金を用意する
上記は社内でできるアクションですが、社外研修やOJTもDX人材を育成する方法として非常に有効です。
企業に求められるDX人材のスキル・マインド・資格
DX人材は、企業が求めるレベルのスキルを備えている必要があります。企業に求められるDX人材のスキル・マインドについて解説していきます。
スキル
DX人材に必要なスキル・知識は、以下の5点です。
- プロジェクトマネジメント
- 新規事業の企画力・構築力
- IT関連の基礎知識
- データサイエンスの知識
- UI/UXの知識
プロジェクトマネジメント
プロジェクトマネジメントは、数あるスキルのなかでも特に求められるものです。
DXは今後さらに進んでいくと考えられ、トライ&エラーを繰り返す分野でもあります。仮説検証プロセスを実行しながら、先に進めていくことが求められます。
DX分野の課題や現状を常に収集・整理し、どのような状況になっても仕事を適切にマネジメントできるスキルが必要です。
新規事業の企画力・構築力
新規事業の企画力・構築力は、DX人材に必要な能力です。DXは組織や事業の変革を意味し、デジタル化の先に新規事業などの企画や、既存事業の再構築を求められます。DX推進は痛みを伴う変革のため、率先して意思決定できる人材のほうが適しているでしょう。
IT関連の基礎知識
IT関連の基礎知識は、DX人材に求められるスキルの1つです。DXには、ITやデジタルの技術を業務やビジネスに活用することが不可欠です。
Webの知識やシステム開発、アプリの専門性がなければ、DX分野の課題が浮き彫りになったときにうまく解決できない可能性があるでしょう。そのため、IT・デジタルの専門知識や技術を身につけた人材が求められます。
また、技術関係者と共通言語で会話するためにも、高いITリテラシーは必要です。
データサイエンスの知識
統計学などデータサイエンスの知識は、DXに携わるうえで非常に重要な知識です。特に、データサイエンティストやAIエンジニアには必須の知識といえるでしょう。
UI/UXの知識
UI/UXは、ユーザーがどのように行動するのか、どのように感じるのかを分析し、その結果からビジネスモデルと照らし合わせることが必要です。システム開発の段階でユーザーを第一に考える想像力や汎用力が不可欠といえます。
マインド
DX人材に必要なマインドは、以下の4点です。
- 周囲を巻き込む
- 課題を自ら定める
- 好奇心
- 主体性
周囲を巻き込む力
周囲を巻き込むことは、DX人材に欠かせないマインドです。
DXのプロジェクトには、さまざまな立場の人たちの協力が必要です。そのチームをリードする人材には、全社戦略に基づいてメンバーにビジョンやミッションを共有し、士気を高める力が求められるのです。
課題を自ら定める
課題を見つけ、解決のために取り組むことは、チームメンバー全員に必要なマインドです。
DXに取り組む際は、「DXの方針がなかなか定まらない」「仮説検証を上手く乗り越えられない」という大きな壁が立ちはだかることもあるでしょう。だからこそ、課題を解決するための思考力や実行力が求められます。
好奇心
好奇心は、DXに関する知識やモチベーションに深く関係します。DXは最終的なゴールに至っていない企業も多く、まだ手法に確固たる正解が存在していません。テクノロジーの進歩によっては、DXの手段が変わってくることもあるでしょう。
この場合、好奇心がある人材のほうが、新たな技術をキャッチアップしやすいといえます。そして、新たな技術を自社でどのように活用するかというフェーズにも至りやすいといえるでしょう。
主体性
DXには能動的なアクションが求められるため、主体性のある人材のほうが適しています。課題発見力とのかかわりも大きく、本人のモチベーションを左右します。
DX人材に必要な資格について
ITやシステム系の知識が求められるDX人材がスキルに関連する資格を持っていると、優秀な人材を探すときの指標・参考になります。DX人材のスキルを見極めるための10の資格を、ポジションごとにご紹介します。
基本/応用情報技術者
高度 IT人材となるために必要な知識・技能を持つことを証明する資格です。基本情報技術者はITエンジニアの登竜門ともいわれ、上位ポジションの指導のもと、システムの企画・要件定義に参加し、システムの構築・運用に貢献できるスキルを有しているといえるでしょう。
一方で応用情報技術者は、基本情報技術者の上位資格にあたります。前述の業務をリードするだけでなく、経営戦略やIT戦略の策定や評価指標の設計まで行えるスキルを有しているでしょう。
AWS認定
Amazonが提供するクラウドサービス「AWS」の実践スキルを証明する資格です。取得している場合、アーキテクト、データサイエンティスト/システムエンジニア/プログラマの適性があるといえるでしょう。
ITコーディネータ
経済産業省の推進する資格で、経営とIT双方の知見を持っていることを証明します。取得している場合、ビジネスプロデューサー、ビジネスデザイナー、アーキテクトの適性があるといえるでしょう。
ITストラテジスト
ITを活用した事業戦略の策定から提案、推進までを担う高度IT人材を証明する資格です。取得している場合、ビジネスプロデューサー、ビジネスデザイナー、アーキテクトの適性があるといえるでしょう。
AI実装検定
AIに関する知識・実装力を証明する資格です。取得している場合、アーキテクト、データサイエンティスト/AIエンジニア、エンジニア/プログラマの適性があるといえるでしょう。
プロジェクトマネージャ
ITプロジェクトのプロジェクトマネジメントの知識・スキルを証明する資格です。取得している場合、ビジネスプロデューサー、ビジネスデザイナー、アーキテクトの適性があるといえるでしょう。
データベーススペシャリスト
データベースの幅広い専門知識を持ち、ビッグデータの活用ができることを示す資格です。取得している場合、アーキテクト、データサイエンティスト/AIエンジニアの適性があるといえるでしょう。
Python3エンジニア
DXの推進に欠かせない機械学習やAIを扱うプログラミング言語「Python」の基本的な使い方や仕組み、基本的な文法などの知識を証明する資格です。取得している場合、エンジニア/プログラマ、データサイエンティスト/AIエンジニアの適性があるといえるでしょう。
CIW JavaScript Specialist
JavaScriptのスキルに長けていることを証明する、海外でも通用するグローバルな資格です。取得している場合、Web系やアプリ系、ゲーム系のエンジニアの適性があるといえるでしょう。
ネットワークスペシャリスト
ネットワーク全般について幅広い知識を持ち、大規模なネットワーク環境を構築できる能力を証明する資格です。取得している場合、インフラエンジニア/クラウドエンジニアマの適性があるといえるでしょう。
DX人材を確保する方法
DX人材は人手不足に陥っています。新たなDX人材を獲得する方法は、以下の2つです。
- 採用する
- 育成する
採用する
DX人材を確保するために必要なのは、デジタル技術、データ活用に長けた人材を採用することです。しかし、DXを専門分野にする人材は簡単に採用できません。デジタル人材に求められるスキルだけでなく、ビジネスパーソンに必要である実行力、調整力、課題発見力というスキルを重視することも重要です。ITやDXに詳しい人材だけを採用すればいいとは限りません。
将来的にDXは、IT業界のみならず他業種に浸透し、活用されていくと考えられます。ただし、全領域の知見に詳しい完璧な人材を探すことは難しいでしょう。つまり、DX人材を採用するときは、自社が必要とするスキルや期待する役割の具体化が大切となるのです。
育成する
DX人材を確保するには、社員の育成も1つの方法です。高度なスキルを持つ人材を外部リソースで補い続けると、ノウハウの蓄積に課題を抱える可能性が高いからです。
社内人材の育成に成功すれば、自社事業に精通したDX人材を確保するという大きなメリットが生まれます。
DX人材の育て方
DX人材を育てる方法として、以下の3点があります。
- 人材への投資を検討する
- 社内育成と並行して外部リソースも活用する
- データ活用を社内全体で共有する
それぞれ、具体的に解説していきます。
人材への投資を検討する
DXの推進には、システムではなく人材への投資が不可欠です。具体的には、以下の方法が考えられます。
- 座学
- OJT
座学で、DXに必要な知識やマインドをインプットします。社外講師の研修やオンライン講座を活用することで、スキルの習得を支援できます。メンバーに自発的な行動を促すためには、DXの重要性が理解できるような情報開示も重要です。また、社外講師による研修をおこなうと、DXの成功事例を知ることができ、当事者意識も共有できるため、マインドセットをするうえで効果的です。
続くOJTでは、座学でインプットした知識やマインドを実務に活かしていきます。社内でおこなわれるため、大規模なプロジェクトを立ち上げる必要はありません。社員一人ひとりが実行力やリーダーシップを身に付けるには、小規模で始めることがおすすめです。
社内育成と並行して外部リソースも活用する
社内育成と並行して外部リソースを活用することで、DX人材の育成は強化できるでしょう。システム開発の担当者であるエンジニアやプログラマという技術者を、未経験者から育成することは困難です。社員のモチベーションや時間をコントロールしつつ、一人前の技術者にまで育て上げるのは、非常に時間がかかるからです。
そのため、短期的なリソース確保は外部委託を活用し、長期的には社内の人材だけで完結できるように、育成カリキュラムを立てていくと良いでしょう。
データ活用を社内全体で共有する
社内データを会社全体で共有することも、DX推進人材の育成においては重要です。社内全体でDXに関するデータを閲覧可能にすることで、誰もが短時間で学習できる環境構築につながるからです。また、学習環境の構築は社員のモチベーションアップにもつながります。
データを社内全体で共有すると会社情報の透明化が図れ、同時にこなすべきタスクも明確になります。
まとめ
DX人材の定義や、DXに必要とされる職種、人材育成方法のポイントなどを紹介してきました。DX人材の育成や業務は、大手企業を中心におこなわれ、経済産業省など国をあげての育成も始まっています。他の職種を担当している人も、将来的にDXの分野に関わる可能性は十分にあります。
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