DX戦略を成功に導く「DXフレームワーク」の概要と活用方法を解説
2025年06月26日(木)掲載
デジタル技術が台頭する現代のビジネスシーンでは、DXへの対応が欠かせません。そんな中、DX戦略を効率的に進めるために、経済産業省が提案するDXフレームワークを取り入れる企業が増えてきました。
そこで本記事では、DX戦略の概要をおさらいした上で、DXフレームワークを導入するメリットについてお伝えします。自社のDXを円滑に進めたいとお考えの経営者や管理者の方々は、ぜひ参考にしてください。
■DX戦略とは
■DX推進のために求められること
■DXフレームワークとは
■成功するDX戦略の設計に活用できるフレームワークとその活用例
■DX戦略にフレームワークを活用する注意点
■DX推進を成功させるために意識したいポイント
■DXフレームワークは、企業のDX戦略を成功に導いてくれる
DX戦略とは
DX戦略とは、デジタル技術を活用して企業全体のビジネスモデルや業務プロセス、組織体制を見直し、持続的な競争優位を確立するための指針です。これは、部分的なIT化やシステムの導入にとどまらず、企業の経営戦略と密接に結びついた全体的な変革を意味します。
DX戦略を実行すれば、業務の自動化や効率化によってコストの削減が期待できるほか、従業員が本来注力したい業務に集中できる環境を整えることが可能となります。例えば、定型業務にかかる工数の削減によって、顧客対応にかけられる時間が増加すれば、顧客満足度の向上につながるでしょう。ひいては生産性が高まることで、売上の拡大にも寄与するかもしれません。
また、デジタル技術の発展により急速に変化する市場や、顧客ニーズに柔軟に対応できる体制を整えることは、競合他社との差別化にも直結します。デジタル技術を取り入れた変革は、単なる流行ではなく、企業の将来を左右する投資価値の高い取り組みといえるのです。
DX推進のために求められること
DXを本格的に推進するためには、まず企業がデジタル化の本質を正しく理解し、それを実現するためのステップを明確にする必要があります。経済産業省の「DXレポート2」では、DXを「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、ビジネスモデルを変革すること」と定義しています。
このような全社的な変革を進めるには、まず「短期間で着手可能な課題」に取り組み、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。例えば、業務の一部をデジタルツールで効率化する、部門ごとに課題を洗い出して迅速に解決する、といった実践的なアプローチがDX推進の第一歩となります。
DX推進を成功させるためには、今すぐできることに取り組む行動力と、目指す場所を示す戦略的ビジョンの両方が求められるのです。
(出典:経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』)
DXフレームワークとは
DXの実現には、戦略的な視点と段階的な変革によるアプローチが欠かせません。こうした背景を受けて、経済産業省によって提案されたものが「DXフレームワーク」です。
このフレームワークは、企業が自らのDXの取り組み状況を可視化し、次に取るアクションを明確にするための指針となるものです。具体的には「ビジネスモデル」「製品、サービス」「業務プロセス」「ITプラットフォーム」「組織、文化」の5つの領域に対し、それぞれの進行度を4段階で評価します。
- 未着手
- デジタイゼーション(アナログデータのデジタル化)
- デジタライゼーション(個別の業務のデジタル化)
- デジタルトランスフォーメーション(事業全体の変革)
これにより、自社が抱えている課題を俯瞰し、具体的な改革の方向性を描けます。
(参照:経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』)
DXフレームワークで重要となる領域
DXは特定の部門だけの取り組みではなく、全社的な合意と協働の下で進める必要があります。成功に近づけるためには、以下の3つの領域を押さえておく必要があります。
組織戦略
DXを進める上で最初に取り組みたいことは、社内の体制づくりです。経営者や業務部門、IT部門が対話し、共通のゴールに向けて意思疎通を図ります。
事業戦略
次に「DXによってどのように事業を展開していくか」という視点が重要になります。従来の事業を見直して新たなリソースを生み出し、新規事業の創出に投資しましょう。
推進戦略
DXでは、全ての施策を一度に実施するのではなく、小さく始めて速やかに改善を繰り返す「アジャイル型」のアプローチが効果的です。段階ごとに、スピード感を持って実施すると良いでしょう。
DXフレームワーク導入による具体的なメリット
DXフレームワークの導入によって企業が受けられる恩恵は、次の通りです。
DX戦略の明確化と組織全体の方向性を統一できる
DXフレームワークを導入すれば、自社が「どの領域で」「どのレベルまで」DXを進める必要があるのかを、視覚的に把握できます。DXの進捗状況が領域ごとに可視化されることで、改善が必要な部分や強化したいポイントの整理に役立つはずです。
さらに、この整理を基に各領域の現状を俯瞰し、具体的なアクションプランを策定することで、組織全体の方向性を統一できるでしょう。
推進プロセスの標準化と効率化がかなう
DXフレームワークの導入により、企業内の業務プロセスが統一され、標準化が実現します。
業務が標準化されていないと、従業員ごとに手順が異なり、業務内容にばらつきが生じます。その結果、業務の引き継ぎが難しくなり、ミスやトラブルの原因となりかねません。一方、標準化が進めばどの従業員でも同じ手順を踏むことができるため、業務の効率化が図れます。
また、標準化された業務はシステム化しやすく、DX推進に大きなメリットをもたらします。
組織のDX成熟度を向上できる
DXフレームワークを活用することで、組織のDX成熟度を可視化できます。成熟度の数値化によって、進捗が停滞している部分に的を絞った支援策を講じられるようになるため、取り組みが進むにつれて内容をアップデートしていくことが可能になります。
こうしたサイクルを繰り返していくことで、組織全体の「DXの理解度」と「実行力」が徐々に向上し、最終的には自立的にDXを推進できる文化へと成熟していくのです。
成功するDX戦略の設計に活用できるフレームワークとその活用例
DXの推進には、自社の現状を多角的に把握し、戦略を立てることが求められます。その際に有効なのが、戦略設計のフレームワークです。ここでは、DX戦略に活用できる代表的な6つのフレームワークとその活用例を紹介します。
SWOT分析
SWOT分析は、自社を取り巻く環境を「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つに分けて整理する分析手法です。内部環境と外部環境をプラス要因とマイナス要因に分類することで、現状の俯瞰が可能です。
例えば、自社が置かれている環境を分析し、以下のようにSWOT分析を行います。
強み(Strength) | 既存の従業員をAI領域に再配置できる |
弱み(Weakness) | IT化が遅れている業務がある |
機会(Opportunity) | AIを活用した人材の需要が高まっている |
脅威(Threat) | 人材を採用する競争が激化している |
このように現状を整理することで、自然と取ったほうが良い戦略が見えてくるはずです。
PEST分析
PEST分析は、企業の外部環境を「政治(Political)」「経済(Economic)」「社会(Social)」「技術(Technological)」の4つの視点から分析する手法です。外的要因がDX戦略に与える影響を把握する際に役立ちます。
例えば、技術革新が急速に進む環境下で、政府のデジタル政策や労働人口の減少を考慮しながら、新技術への投資判断を行うといった具合です。PEST分析を通じて、社会トレンドを見極めることで、適切なDXのタイミングや重点領域を判断するための材料になります。
3C分析
3C分析は「顧客(Customer)」「自社(Company)」「競合他社(Competitor)」の3つの視点から、市場環境を把握する手法です。マーケティングや事業戦略立案の基盤として広く活用されています。
DX戦略に活用するケースでは、以下のような観点での分析が有効です。
顧客(Customer) | 顧客のニーズをデジタルでどう満たすか |
自社(Company) | 自社の技術や人材の強みをどのように活かすか |
競合他社(Competitor) | 競合他社がどのようなデジタル戦略を進めているか |
このように3C分析を用いれば、競合他社との差別化につながる施策を導き出すことが可能でしょう。
アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスは、市場と製品をそれぞれ「既存」と「新規」に分類し、4つの成長戦略を導き出すフレームワークです。
市場浸透戦略 | 既存の市場×既存の製品 |
新市場開拓戦略 | 新規の市場×既存の製品 |
新製品開発戦略 | 既存の市場×新規の製品 |
多角化戦略 | 新規の市場×新規の製品 |
例えば、既存の市場×既存の製品では、AIを活用して製造プロセスを最適化し、需要拡大に対応する「市場浸透戦略」が考えられます。このように、アンゾフの成長マトリクスは、自社の事業計画を立案し、成長戦略を検討する際に用いられます。
ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスの全体像を9つの構成要素に分けて、視覚的に整理するフレームワークです。
- 顧客
- 提供価値
- チャネル
- 顧客との関係
- 収益
- リソース
- 活動
- パートナー
- コスト構造
IoTを用いた保守点検の自動化を例にすると、「提供価値」は保守作業の効率化、「リソース」はIoT機器や通信システムといった具合に構造化が可能です。これを基にしたDXの実施によって、ビジネス全体にもたらす変化を可視化できます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、企業の活動を一連の価値創造プロセスとして捉え、どの工程が付加価値を生み出しているかを明確にする手法です。
例えば、製造業を例に考えると、調達に製造、出荷、販売といった各プロセスに対し、デジタル化の余地を検討することになります。この場合、製造段階でのIoT導入や、販売後のデータ収集によるサービス改善などが具体的な施策として浮かび上がるでしょう。
DX戦略にフレームワークを活用する注意点
フレームワークは有効なツールですが、活用方法を誤ると、かえって分析の精度や施策の実行力を損なうリスクがあります。ここでは、DX戦略にフレームワークを導入する際に特に注意したい2つの点を解説します。
分析では主観的な意見ではなく定量的なデータを活用する
フレームワークを活用する際に意識したい点は、主観ではなく客観的なデータに基づいて分析を行うことです。
特にSWOT分析や3C分析などの手法では、担当者の印象や感覚によって内容が左右されると、戦略の土台があいまいになり、意思決定を誤るリスクが大きくなります。そのため、具体的な数値データがあれば、問題の深刻度や改善の余地が明確になるでしょう。
OK例 | 顧客対応のレスポンスに平均24時間以上かかっており、業界標準である12時間よりも2倍長いため、顧客満足度が低下している |
NG例 | 顧客サポートの品質が悪い |
信頼できる数値や実績をフレームワークに落とし込めると、分析の客観性と戦略の実効性を高められます。
組織全体にDX戦略の目的や目標を浸透させる
フレームワークで設計したDX戦略は、現場で実行されてこそ意味があります。単なる資料として終わらせないためには、組織全体が戦略の目的や目標を理解し、日々の業務の中で意識できる状態を構築することが重要です。
DXは一部門や特定の担当者だけでなく、組織全体の変革が求められる取り組みです。フレームワークで明確になった目標に対して、経営層から現場の従業員までが同じ方向を向いて動ける状態をつくることが、DX成功の鍵となります。
DX推進を成功させるために意識したいポイント
DXを成功に導くためには、明確な戦略と組織全体の協力体制が不可欠です。最後に、DXを推進するときに意識したい3つの重要なポイントを解説します。
導入目的と目標に関する、組織へのていねいな説明
DXフレームワークを導入する際は、その目的と目標を明確にし、組織全体に漏れなく確実に説明することが重要です。目的や目標があいまいな状態のまま進めると、各部門や従業員の理解度に差が生じ、推進の妨げとなります。
全員が共通の認識を持つことで、初めて組織全体が一体となってDXに取り組むことが可能になります。
関連記事:生産性向上を実現する社内DXとは?必要性や進め方・具体例も解説
DXフレームワークを基軸とした、推進体制の整備と役割分担
DXを効果的に推進するためには、フレームワークを基軸とした推進体制の整備と明確な役割分担が必要です。経営層から現場まで、各層が自らの役割を理解し、連携して取り組むことで、DXの進行がスムーズになります。
経済産業省の「DXレポート2」でも、企業が取り組むアクションとして「DX推進体制の整備」が挙げられています。
(参照:経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』)
KPIの設定と具体的なアクションプランへの落とし込み
DXの進捗を測定し、目標達成に向けた具体的な行動を促すためには、適切なKPI(重要業績評価指標)の設定とアクションプランへの落とし込みが不可欠です。
KPIは、DXの目的や目標に基づき、具体的かつ測定可能な指標として設定することが望ましいとされています。これらを考慮したKPIを設定し、実際の行動に落とし込めば、DXに向けた効率的な取り組みがかないます。
関連記事:DX推進における企業課題とは?実現に向けたポイント・進め方を解説
DXフレームワークは、企業のDX戦略を成功に導いてくれる
本記事では、DX戦略とそれに用いるDXフレームワークについて紹介しました。
DXの実現には、適切な戦略とKPIを設定した上で、全社を挙げて段階的に取り組む必要があります。その際は、経済産業省が提案するDXフレームワークをはじめ、SWOT分析やPEST分析といった、さまざまなフレームワークを活用しましょう。 なお、DX戦略の策定には外部のプロの手を借りることも効果的です。
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