Amazon元事業部長が語る「AfterコロナにおけるDX推進とは」

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2020年12月14日(月)掲載

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イベント&レポート概要

「AfterコロナにおけるDX推進」をテーマにしたオンラインセミナーが、2020年10月22日に開催しました。新型コロナウイルスの影響で企業活動に大きな影響が出る中、業務の継続や成長を実現する上でデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応はますます重要となっています。本セミナーでは、DX推進の課題や取り組み方、求められる組織の在り方などについて、Amazon元事業部長で現在は日本のテックベンチャーでCOOを務める講演者が語りました。当日の模様をダイジェストでレポートします。 

講師プロフィール

白子 雅也(はくし・まさや)氏
P&Gでマーケティング・ブランド経営に従事後、Amazonに入社。9つの事業部でEコマース事業の拡大に尽力。Prime NowとAmazonフレッシュの日本代表も務めた。独立後、事業育成コンサルタントとして事業戦略、マーケティング施策、⼈材育成などの⽀援サービスも提供。2020年、「建設×IT」のスタートアップであるSORABITO株式会社のCOOに就任。

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デジタルトランスフォーメーションとは?

講師の白子雅也氏は自己紹介に続き、「デジタルトランスフォーメーション(DX)とは何か」をひも解くところから講演をスタート。2018年に経済産業省が発表したDX推進のガイドラインからキーワードを抜き出し、それらを整理し直して次のようにラベリングを行いました。
①顧客や社会のニーズの理解(=問題)
②製品・サービス・ビジネスモデルの変革(=目的)
③業務・組織・プロセス・企業文化風土の変革(=選択肢)
④データ・デジタル技術の活用(=手段)
⑤競争優位の確立(=結果)

「このうち①、②、③は、デジタルであろうがなかろうが、企業活動において必須のこと。つまりDXとは、普段ビジネスで取り組んでいる①、②、③を、より早く、より正確に、より大量に実行するために、デジタル技術を活用することだと言えます」と白子氏。

よくあるイメージとして「DX=データ・デジタル技術の活用」と解釈されがちな現状に触れ、それはあくまでも手段に過ぎないことを指摘。DXの定義として「わたしたちがビジネスで取り組んでいる『問題の理解』『目的の設定』『行動の選択』という基本活動を、デジタル技術でより上手く実行する仕組みを作ること」と解説しました。

日本企業で考えること、Amazonで学んだこと 

白子氏は、これまで事業育成コンサルタントとして多くの日本企業に関わってきた経験から、DX推進で起こりやすい問題として、「選択肢の議論に終始してしまう」ことを挙げます。

原因として、先のDXの定義で触れた①の問題や②の目的が明確に合意されていない点を指摘。「問題や目的の本質的な議論がないまま、『とりあえず何か新しいことをやってみよう』『結果が良くないから別のことやってみよう』と、行き当たりばったりになりやすい。また、意思決定の基準が曖昧なため、選択肢をどうするかという議論に長々と時間を費やすことになり、振り返りもできないので知見が貯まりません」と白子氏。こうした悪循環に陥らないためにも、最初に問題(現象・原因)と、目的(目標)に合意してから、選択肢を考えることが重要だと助言しました。

一方、Amazonで得た学びの一つとして、同社が注力する「企業活動の自動化」というキーワードを紹介。既存の企業活動の機械化・自動化を進め、工数が空いた人材に新たな活躍の場を提供し、その人たちが次の成長源を開拓する、というサイクルが確立されていることを説明しました。

「結果としてAmazonでは、変化していくことを当然と考える人材が育ち、その人たちがつくった新しいビジネスが資金をもたらす。こうしたサイクルを創業以来一貫して回し続ける中で、無形の企業の文化として、企業活動の自動化が根付いてきたのです」と白子氏は説明しました。

DX推進のためにできること

今般のコロナ禍によってリモートワークが急速に浸透した半面、「リアルの世界での発見に基づいた課題の抽出」や「新しい目的設定へのチームメンバーの巻き込み」、「選択肢の協議と意思決定」が難しくなったことを痛感していると白子氏は言います。昨今、コロナを乗り越えるべくDXを積極的に推進する企業の事例も増えています。一方でこの先、感染拡大が収束して日常が戻ってきたときに、安堵感から結果的にDXが先送りされる事態が懸念されます。

そこで白子氏は、AfterコロナにおけるDX推進のポイントとして、「逆算で経験を蓄積する」ことを提案します。より具体的には、「問題のある業務に対し、まずは一つでも選択肢を実行してみる」→「その結果を踏まえて目標を設定する」→「その目標が達成されるとどんな良いことがあるかを言葉に置き換え、目的を定義する」→「それによりどんな問題が解決するかまで考えを広げ、問題を再認識する」という、逆算の進め方を紹介。また、DXを推進する上では、外部の客観的な視点や知見を活用することも有効だとアドバイスしました。

「いまDXに取り組むか否かによって、企業や組織における今後の成長カーブの軌道は大きく分かれるはずです。コロナ以外にも、温暖化、災害の多発、少子高齢化など、この先もさまざまな環境変化が起こることは間違いありません。それらに備えつつ、新しい成長源を開拓していく。そのための能力やインフラ、企業の文化・風土を、DXも活用しながら育てていくことが重要です」と白子氏。「DXは、やるしかない。取り組まないという選択肢は、もはや無いと思います」と締めくくりました。

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講演終了後は質疑応答の時間が設けられ、セミナー視聴者からの質問コメントに白子氏が回答しました。一部をご紹介します。

Q.DX推進の際に、よくある課題とその乗り越え方は?

A.「上長からDX担当を任された人が、できることを考えて全社に展開していく、という進め方は失敗しやすいと言えます。なぜなら、部署同士で利害や力関係は複雑に異なるため、DX担当者が各部署に横ぐしを通そうとしても難しく、一向に進まない、となりがちです。打開するために大切なのは、DX担当者が成功事例を作れる場所を見つけること。DX担当者の存在意義を示すような成功事例を小さくても良いので作り、それを社内で共有・宣伝して、取り組みを横展開していくことが大切です」(白子氏)

Q.部署間で連携してDX推進を加速するためのポイントや工夫とは?

A.「DXとは、デジタル技術という手段を導入することではなく、それにより問題を解決する、目的を達成することが本質。まずはそこに視点を合わせることが必要です。その上で、『部署を超えて共通で解決したい問題は何か』『その問題がどうなれば、目的が達成されたと言えるか』を部署間で話し合い、しっかりと言葉に落とし込んでからDXに着手することが重要でしょう。そこが定まっていないと、行き詰まるたびに、選択肢の議論を延々と続けることになってしまいます」(白子氏)

Q.DX推進担当のリーダーやメンバーに必要となる素質・スキルとは?

A.「まずは試してみるという大胆さや勇気に加えて、その結果をきちんと分析する素養・スキルが備わっていることが理想的です。必ずしも1人が両方を備えている必要はなく、そうした人たちをペアにすることも有効でしょう。その場合、各人に期待する役割を明確に指示することや、『選択肢を実行する→結果を分析する→それを踏まえ新たな目標を設定する』というサイクルの確立をチームのミッションに据えることも大切になります」(白子氏)

Q.経営層を巻き込むためポイントは?

A.「経営層がほしいのは、信頼できるストーリーや信頼できる選択肢。つまり、ここで必要になるのが『成功例』です。この部署でこのような取り組みを進め、こんな良い事例が生まれた、という成功例を数値で示すことで、『DXの取り組みを全社的に広げれば、このくらいのコスト削減が期待できる』といった提案も説得力を持ってきます。経営層自らがDX推進の旗を振る可能性も高まるでしょう」(白子氏)

まとめ

コロナ禍を受けてオンラインのライブ配信型で開催された今回のセミナー。参加者からはコメント機能を通して、DXに関して日ごろ感じているさまざまな課題や質問が寄せられ、セミナー後半では白子氏がそれらを一つひとつ取り上げながら回答しました。Afterコロナにおける新たなセミナーのあり方を、講演者、参加者の双方が体感する機会ともなりました。 

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