製造業の現場変革事例~IoT・AIの活用プロセス・メリットとは~

システム

2019年06月15日(土)掲載

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IoTやAI、ビッグデータとは

 IoTやAI、ビッグデータといったワードをよく耳にするようになりました。そして、製造業のようなハードの業界でもIoTやAIを活用し、モノ売りからコト売りに変化を遂げる企業の例も増えてきました。では、このように最新のテクノロジーを活用し、ビジネスモデルを変革するに当たり、必要なマインドセットや求められる考え方とはどのようなものでしょうか。

IoTやAI、ビッグデータを考える前に重要なこと

  まず、IoTやAIから発想するのではなく、実業を深く知る人、例えば販売会社や顧客と一緒に考えることが重要です。一方、販売会社や顧客側では、メーカーのエンジニアと協業することにより、自分たちでは解決できなかった事やアイデアをIoT・AIの力を使って解決できるかもしれません。このような関係性を普段から育むこと、共同の実践の場を作ることが重要になります。
IoTやAIは既に比較的容易に入手可能なものになっています。こういった技術を開発する側ではなく、技術を使う側としては、上記のようなオープンなスタンスを取ることが重要です。

 実に多くの会社でIoTやAIなどのデジタル技術の活用がなかなか進まないという悩みがあります。その時はIoTやAIをまず横に置いて、販社や顧客との場を作ることを優先すべきでしょう。

IoTやAI、ビッグデータを考える前に重要なこと~大切な共通理解~

 では、他社も含めてIoTやAIの活用を進める上で重要なものは何でしょうか。一つの鍵となるのが「プロセス」に着目することです。生産でも販売サービスでも、その組織的活動を観察すると工程や仕事の連鎖があります。工程や仕事を1つの言葉でプロセスと呼ぶことにしましょう。

 組織的活動では、 1つ1つのプロセスを異なる設備や人が行い 、うまく出来たかどうか検査や判断を行った上で次のプロセスに引き渡します 。ここでは、うまく出来たかどうか判断をする項目のことを管理項目と呼びます。

 これを前提とした場合、基本となる重要なポイントは以下の4つになります。

ポイント① プロセス全体の連鎖の把握

  生産や販売、必要であれば稼働現場に至るプロセス全体の連鎖を、出来るだけ多くの部門から参加をして確認します。具体的にはものづくり事業であれば、ものの流れとそれに関係する情報(図面、レシピ、作業指示、実績報告、検査情報など)を一つの大きな図にします。
その上に課題や気になる事を追記していき、何をやれば大きな効果につながるかを検討します。

 最初は大まかな単位でいいのですが、全体を描くことが大切です。集まってやっているうちに、異なる職場のやっていることを理解できるようになり、自分が起こす間違いがどのような影響を及ぼすかなど、関係者の間に共通理解が醸成されます。うまく書き出せるようになったら、段々と細かいところまで確認していきます。このように進めると実に細かいプロセスが多くあることが認識できるでしょう。

ものと情報の流れ図の簡単な例
(組立で不具合が発見されたらその1個の製品は成形や材料調合でどのような条件を通ってきたか即座に遡るためにはどうしたら良いかなどを、この図の上でディスカッションします)

ポイント② ものさしを持つこと

 全体のパフォーマンスや、各工程や業務の良し悪しを評価するものさしを再点検します。自社にとってどのような生産方式が良いのか、在庫に対する考え方、原価管理に対する考え方など基軸となる考え方について再点検します。あまり明確でないことがあれば考え方そのものについて議論することが必要になります。行き詰った時には、他社との比較やオープンになっている改革事例が大いに参考になります。

ポイント③ 「流れ」の改善

   基軸となる考え方の例として、流れに注目した改善の考え方(TPS、TOC、渋滞学、バリューチェーン)や品質管理の考え方はどのような産業でも適用可能な考え方であり、かつIoT/AIの貢献が大きいと言えます。参加者がこのような考え方を共通に理解しておくとコミュニケーションが効率的になり、活動がスムーズに進むようになります。基本となる考え方やその用語を統一することは継続的に改善する能力の一つになり、長い目で考えてもとても重要です。

ポイント④ データ(事実)による管理

   IoTを導入すると多くの生データがとれるようになります。しかし、データから新しい異常の検知方法を探ったり、不良やトラブルの原因を探っていくには、普段からデータの見方と固有技術との擦り合わせ力を鍛える必要があります

AIはまだその見方を教えてくれるレベルには至っていません。例えば、ある工程の不良現象とその要因の関係について機械学習をさせるとしましょう。要因AとBの組み合わせ条件が機械学習によって出されたとしても、それが技術的にどういった理屈となるか判然としないことが起こりえます。その場合自信を持って対策が打てません。データの見方と固有技術の擦り合わせの力をつけていくことで、何をIoT/AIにやらせるか明確な目的を持つことができ、ツールとしてのIoT/AIを有効に活用することができるようになるでしょう。

ポイント⑤ しくみの改善

 例えば、不良を出さないために検査を強化することは必要ではありますが、不良を出さない工程に改善し標準化することが重要です。動作分析によるリードタイム短縮よりも在庫基準の見直しや工程バランスの改善を重視します。しくみの改善の方が効果が大きく、かつ、効果が継続します。

POINT

・プロセス全体をまとめた図を作成し、各部門で確認する。
・各工程や業務の良し悪しを評価するものさしを再点検する。
・基本となる考え方やその用語を統一することによって、「流れ」を改善する。
・データの見方と固有技術を擦り合わせる力をつけ、IoT/AIをツールとして使えるようになる。
・一件ずつ不良を解決するのではなく、不良を生み出す「しくみ」の改善を重視する。

AI・IoTの導入活動を進めた事例におけるよくある問題

 上記で活動を進める上で重要なポイントを述べましたが、進めていく中でよく上がる問題に着目していきましょう。まずは、よく上がる実際の問題を列挙してみます。

・各部門が独自に活動を行なっており、方向性を合わせることができない
・データは取っているが他の現場では必要ないため紙のままにしている
・ある特性が測れると良いのだが手間や測定の難しさから、人が経験から判断している(本当に良品条件になっているのか説明が難しい)
・新たなデータを取りたいが現場の負荷が上がってしまう
・守るべきことをきちんと守っているのか確認が必要になった
・現在の作業標準や規格がどのような考え方や原理に基づいて設定されているのかわからない
・データによる管理が十分に浸透していないため使いこなせない
・データ分析の結果が現状の理屈や経験と離れていて理解がしがたい
・中心となるスタッフの負荷が高い
・パイロット活動の現場スタッフが日常業務に手一杯で時間をさけない
・標準モデルを作りたい本社の思惑と現場の問題を解決したい現場の優先度の調整が必要になる
・コンサルタント会社から優秀な方に来ていただいているが、社内の人材がネックとなっていて契約期間内の落としどころを調整せざるを得ない
・現場の作業はたしかに早くなったが残業が減らない
・受注納入リードタイムの短縮はできたが売り上げに繋がらない
など。

POINT

・部門間や本社と現場の間で方向性に違いが生じる。
・データを取るのに負担がかかる・データの活用法が分からない。
・現場の作業標準や規格の基となっている考え方や原理がはっきりしない。
・受注・納入リードタイムが短縮されたものの、売り上げアップや残業軽減に繋がらない。

課題解決に向け、IoT標準データ基盤構築の必要性

 では、これらのよくありがちな問題を解決するにはどのようにすれば良いのか。それには、あらゆる現場で共通に使えるIoT標準データ基盤の構築が重要です。IoTやAIに関する取り組みは個別のテーマから始めるスモールスタートができること、将来異なるテーマにも共通に使えること、他の事業所でも共通に使えることが求められます。

 生産現場を例にすると、品質と生産性だけではなく、安全やCO2や電力の削減、作業者やスタッフのトレーニングなど多くのことを同時に行うことが求められます。これらの現場に必要なデータの種類は数千~数万に上ると言われていますが、データはその時々の必要性に応じて様々な部門が使う必要がでてきます。

 IoT標準データ基盤は、様々な部門が、多くのデータを取得し、加工・警報・連絡などに利用することできるように標準的なデータとして提供します。1つの現場で行うプロジェクトには不要ですが、工場全体、グループ全体で取り組むプロジェクトの場合、なくてはならないものになります。IoTの基盤を流れる生データは多種多様ですが、データの構造を良く観察すると共通する構造があり標準化が可能です。

 「全体プロセスの把握」で触れましたが、現場には工程や仕事の連鎖があり、これをプロセスと呼ぶことにしました。そして、各プロセスにはその出来栄えを評 価するための管理項目があります。現場帳票をつぶさに観察すると、管理項目以外にも、日付、プロセス名、担当者、設備№、部材№、オーダー№などが記録されています。現場帳票にも同じように、日付、プロセス名、担当者などが記載されています。実はこれらを整理すると共通の項目が多いことがわかります。製品やプロセスが似ていれば同じような項目になることもわかります。これらを便宜上、管理項目の属性項目と呼ぶことにし、対象とする現場のあらゆる管理項目とその属性項目を整理します。

 例えば、あるプロセスにおいて製品の温度を管理項目とします。この温度が異常だった場合に、原因を特定しなければなりませんが、関係者と検討した結果、部材AとBの場合の製品の温度を比較することにしたとしましょう。属性項目は比較や分類の基準として良く使われますが、それを通じて原因のありかを絞ってい きます。

 各プロセスの管理項目とその属性項目を整理することによって、データの構造を標準化することができます。データが整理された形で素早く入手ができれば良いと考え、グラフや分析プログラムは適宜最適なものを使うことにします。そうすることであらゆる問題に共通に使えるIoT標準データ基盤が実現できます。

 世の中にはIoTデータ基盤として様々なシステムが提供されていますが、上記のように現場データの整理をしたうえで導入することをお勧めします。

POINT

・現場データを管理項目、属性項目の枠組みで整理する。
・各プロセスの管理項目とその属性項目を整理することによって、データの構造を標準化する。
・現グラフや分析プログラムは適宜最適なものを選ぶ。

外部視点を利用してIoT・AIをスムーズに導入

ここまでご紹介した通り、IoT・AIを活用するには、既存の全体プロセスを図にまとめ、部門ごとの基本方針を共有する必要があります。その上で、現場データを整理し、標準化することによって初めて、IoTやAIをフルに活用できる環境が整えたことになります。

 しかし、今までIoTやAIの導入を前提とせずに収集してきたデータを一からまとめ直すには、専門知識があり、経験に富んだ人材の協力が不可欠となってきます。また、情報データの基盤を構築したあとでも、AIを用いた分析プログラムは適宜最適なものを選ぶ必要があるので、ここでもプロフェッショナルな人材が必要となってきます。

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