事業の持続的成長とよいUXを両立できるのか?2つのチェックリスト
2020年07月07日(火)掲載
事業の持続的成長と良いUXは両立できるのか?
■持続的成長には、良いUXは欠かせない
サービスを継続的に成長させるためには良いUXが欠かせません。良いUXを提供し続ければサービスは使われ続け、売上や利益だけでなく、ユーザーの行動データも溜まり、結果として事業を成長させ続けることができます。
ここで、良いUXが持続的成長をもたらしている事業の例として、メッセンジャーアプリを紹介します。連載1と重複する箇所がございますが、ご了承ください。
某メッセンジャーアプリは、主にある国で使用されています。このアプリでは、インスタントメッセージ・EC・銀行取引・出会い・ゲーム・マーケットが1つのプラットフォームに統合されています。そのため、全てのサービスにおいて使い始めた瞬間からあらゆる他のユーザーと繋がることもできますし、既に入力した個人情報や決済情報を利用して他の有料サービスも即利用できる、という良いお客様体験(UX)を生み出しています。
具体的に、某メッセンジャーアプリの大きな機能として、電子決済・ミニプログラム・友達マッチングがあります。
まず、電子決済機能について紹介します。このメッセンジャーアプリ1つで、食事や本の注文、公共料金の支払い・診療やホテルの予約、メイド・ベビーシッターの雇用、タクシーを呼ぶなど様々な場面での利用が可能で、人々の生活インフラとしての大きな役割を果たしています。
次に、ミニプログラム機能について紹介します。ミニプログラムとは、某メッセンジャーアプリ内で使用できるインストール不要の軽量アプリのことで、こちらにはおよそ200万のミニプログラムがあるそうです。インストール時間や端末容量、通信データ等気にすることなく、ゲームやショッピング、動画などの様々なコンテンツをメッセンジャーアプリ内で楽しむことができるため、非常に高いユーザー体験を得ることができます。
最後に、友達マッチング機能について紹介します。携帯電話端末を振ることで、同じ瞬間に端末を振っている人々とオンラインで瞬時に友達になることができます。
この他にもお客様にとって有益な機能を多数備えているため、某メッセンジャーアプリは非常に高いUXを提供している事業と言えます。
逆に悪いUXでサービスを提供したときのことを考えてみましょう。例えば利益を重視するあまり、サービスの改善を怠ってしまう、もしくはユーザーに不利益があるような活動をしてはいけません。短期的には売上利益を伸ばすことができるかもしれません。しかしそのようなサービスは中長期的にユーザーのエンゲージメントを維持することができません。徐々にユーザーが離れていき、どこかでサービスの成長は止まってしまうでしょう。よって、良いUXなくして得られた事業の成長は、短命に終わると考えた方がいいでしょう。
ただし、良いUXが常に持続的成長をもたらすわけでもありません。良い体験を提供することは非常に重要ですが、同時に事業を本質的に成長させるための施策を打たないといけません。
また、良いUXを提供することが目的になってしまってはいけません。
■愛されるUXを作る6つのポイント
愛されるUXを作る6つのポイントをまとめてお伝えします。このコラムの連載を読んでいただいている方にとっては、前に紹介した内容と同じ箇所もありますが、復習も兼ねて改めて確認してみてください。
1:お客様が圧倒的にほしいサービスを見つける
まず全てにおいて重要なのは、お客様が使いたいサービス、欲しいサービスを作ることです。価格重要性調査やUXリサーチを行うことで、自分たちの作っているサービスがお客様にとって本当に欲しいものかどうかを事前に・定期的に調査しましょう。
2:なくては困らない存在にサービスを磨く
続けて、サービスがお客様にとってなくてはならない存在になることが重要です。自分たち担当しているサービスが、お客様にとってどのような形でなくてはならない存在になれるか、十分に考える必要があります。
3:コストパフォーマンスがいいことを理解してもらう
次にコストパフォーマンスがいいことを理解してもらうことが大切です。
ユーザーにとってコストパフォーマンスが良いかどうかは非常に重要です。数多くあるサービスを使うと、そのサービスにお金を払う価値があるか、サービスを使う時間をかける意味があるか、などコストパフォーマンスを常に評価しています。
4:サービスの価値を、余すところなく伝える
サービスの価値があり、コストパフォーマンスが良くても、お客様に価値が伝わらなければ意味がありません。サービスの価値を余すところなく伝えましょう。サービスの価値は本当に伝わっているのかを定性・定量の両方で評価する必要があります。
5:「エフォートレス」で簡単に使える設計を心がける
「エフォートレス」で簡単に使える設計を心がけましょう。
サービスが使いやすいものになること、それも他のサービスよりも何倍も使いやすくなることを意識しましょう。
エフォートレスであればユーザーが使い続けてくれる可能性は高いでしょう。
6:使い続けると益々いいことが起きる
ユーザーがサービスを使い続けると益々いいことが起きるという体験です。サービス提供者は、昨日よりも良いサービスをユーザーに届ける必要があります。そのためにサービスを継続的に改善すること、ユーザーが何に満足していて何を不満に感じているか、ユーザーの役に立てることはないかを継続的に探し続ける必要があります。
愛されるUXになるためには、圧倒的にコストパフォーマンス・価値が高いことが伝わる、簡単に使えて使い続けたいと思う、なくてはならないサービスになることを目指すことが重要です。そして、何よりも、まずはお客様欲しいサービスを理解することが大切です。
加えて、一度満足できるサービスができたとしても、その後ももっと良いサービスであり続けるために追求していくことが求められます。
持続的成長とよいUXを両立させる2つのチェックリストと事例
良いUXを通じて、サービスが使われれば使われるほど事業の売上利益が伸びるサービスを考えます。言い換えるならば、ユーザーにとってメリット・利益がある行動が、事業者の売上・利益をもたらすようにビジネスを作り直すということです。
事業主にとってのメリット・利益が、お客様にとってのデメリット・不利益になることや、あるいはその逆が起きることがないように、サービスの構造を見直しましょう。
事業者とお客様の関係がゼロサムゲームにならないようにする必要があります。ゼロサムゲームとは、複数の人が相互に影響しあう状況の中で、全員の利得の総和が常にゼロになること、またはその状況のことをいいます。業者にとってのプラスの出来事が、お客様にマイナスの状況であってはいけません。
お客様のメリットが事業者のメリットになるような、WIN-WINの関係、プラスサムの関係を、お客様と構築していきましょう。
では、持続的成長とよいUXを両立させるためにはどうしたら良いのでしょうか。
ここからは、先ほど紹介した6つのポイントのほかに重要な2つのポイントを紹介していきます。
■1:お客様のデータを集める
お客様のデータを集めることが有効です。お客様は何をしていて、何をしていないか、またお客様は何を望んでいて、何に満足をし、何を不満に感じているか聞かれなくともわかるようにしておきましょう。
お客様から、直接定期的にフィードバックをもらうのも有効です。
NPSなどを採用して、サービスに満足しているかを確認し、より質の高いサービスを提供するにはどうすべきかのアイデアをもらい、実践してみましょう。
お客様のフィードバックを重要に感じているとお客様に伝えそのフィードバックに合わせて適切にサービスを改善していくことでお客様が自分の使っているサービスへの愛着を高めてもらうことは、双方にとって非常に良いことです。
■2:高速でPDCAを回す
IT化やクラウド化によって、データがリアルタイムに得られるようになり、お客様のフィードバックがリアルタイムにわかるようになりました。データを活用して日々改善を行うことが簡単になり、今まで以上に高速でPDCAを回す重要性が増しています。
例えば、ECサイトはまさに高速でPDCAを回しているサービスとして考えることができます。
どんなに優秀なECサイトであっても、基本的には以下3つのレコメンド手法を組み合わせていることが多く、そのようにすることでユーザーが買い物をすればするほど求めている商品と出逢いやすくなるようにしています。商品を押し出す目的が明確な場合に、単純にその商品をレコメンドするルールベース、商品や求人などのコンテンツ属性(カテゴリー・値段・色など)を分析し、類似商品をレコメンドするコンテンツベースフィルタリング、ユーザーの行動履歴を基に好みの傾向を計算し、「この商品を買ったユーザーはこの商品も購入しています」とレコメンドする協調フィルタリングの3つです。
上記3つの手法の改善をどれだけ積み重ねたかが、お客様体験を決める大きなカギとなります。
そして、上記UXの改善はエンジニアだけが行う改善ではなく、施策の設計はマーケッターが、商材の調達はMDが、デザインはデザイナーが、発送は発送担当が、それぞれUXを考えながら連携を取る必要があります。
お客様のフィードバックやデータを終えたら素早く実践に移すことが重要です。せっかく何を改善すれば良いかが分かっても実行しなければ何の意味もありません。すぐに改善に生かせる行動力が非常に重要になります
まとめ
結論として、事業の持続的成長とよいUXを両立することは出来ます。良いUXを提供し続ければサービスは使われ続け、売上や利益も貯まり、ユーザーの行動データも溜まり、結果として事業を成長させ続けることができるでしょう。
まずは、圧倒的にコストパフォーマンス・価値が高いことが伝わる、簡単に使えて使い続けたいと思う、なくてはならないサービスになることを目指して愛されるUXを作りましょう。
そして、良いUXを通じてサービスが使われれば使われるほど売上や利益が伸びる、すなわち持続的に成長する事業を作っていきましょう。言い換えれば、ユーザーにとってメリット・利益がある行動が、事業者の売上・利益をもたらすようにビジネスを作り直すということです。
お客様にとって「エフォートレス」「圧倒的にコストパフォーマンスがよい」な状態を常に作り、データを集めて使い続けることで価値がより高まるようなサービスを設計し、高速でPDCAを回すことが重要です。
お客様のメリットが私たち事業者のメリットになるようなWIN-WINの関係、プラスサムの関係を構築していきましょう。
執筆者D.Y氏
東京大学卒業後、大手事業会社の担当部長として多くのの事業成長及び新規事業創出に貢献。現在は、会社を設立し、代表取締役と某国立大学情報学科の客員研究員を現任。
自らが代表を務める会社では、事業立上げ・グロースハック・DXを推進。その傍らで、事業投資・エンジェル投資を推進。