音声コンテンツ業界のこれから

マーケティング

2020年06月02日(火)掲載

2020年は音声コンテンツ業界のはじまりの年です。国内、海外問わず新規参入や大型買収など、日々大きく変わる業界地図やコンテンツの創出など面白いことが頻繁に起きています。今回は、ビジネス、テクノロジー、社会という側面から、音声コンテンツ業界の将来のお話をしたいと思います。

コロナ禍の影響で起きたコンテンツ業界の地殻変動

現在、新型コロナウイルスの影響により、非常事態宣言、ロックダウンなど、人の行動が制限される事態になりました。この制限により、コンテンツ業界にも大きな影響を受け、地殻変動が起きています。このコラムではコンテンツ業界のこれまでと将来のお話しをします。

コンテンツ業界において、人と人のコミュニケーションは必須です。一人でもお客さんがいれば成り立つのがコンテンツ産業のコンテンツと呼ばれているものだからです。このコンテンツ制作において、テレビ、映画、アニメ、音楽、雑誌などさまざまなメディアでコンテンツ制作が行われていましたが、今回のコロナ禍で一気に変化が起きています。自粛生活や外出禁止の強い要請などの影響でコンテンツ制作ができないコンテンツ業界があります。映画やテレビ業界などはもちろん、写真撮影ですら制作ができず、苦境に立たされている業界もあります。
立場変わって、コンテンツを受け取る側、メディアを受け取る側はどう変わったのでしょうか。外出自粛、外出禁止により、仕事を含むコミュニケーションのほとんどが在宅で行われるようになりました。この変化が、コンテンツ業界にも影響しています。主にエンターテインメント関連コンテンツのサービス利用者数が伸びています。動画配信サービスはもちろん、Gameなども軒並み伸びています、またテレビ、ラジオなども利用者数が伸びきており徐々に数字として出てきています。

この地殻変動で何が起きているのでしょうか。それはコンテンツ利用者側の需要とコンテンツ製作者側の供給のバランスが大きく変化したことです。今は活況なエンターテインメント関連のコンテンツですが、この需給バランスが継続していくと明暗が別れてくることが想像できます。それは制作において必要としていた、人と人のコミュニケーションの部分です。このコミュニケーションが「オンライン」でも可能な業界であれば明るい未来が、「オフライン」のみの業界であれば課題の大きな未来が訪れると私は考えております。

音声の魅力を後押ししたテクノロジー

前章でコンテンツ業界全体のお話をさせていただきましたが、ここでは音声コンテンツ業界のお話をさせて貰えればと思います。今年が音声コンテンツ業界の元年や、始まりの年など注目の業界と言われているのは、海外市場の影響が大きくあります。特に、米国や中国の市場拡大が主な影響です。米国では、音楽配信サービスを手掛ける大手有名企業が音声コンテンツに注力しています。各企業は音楽コンテンツだけではなく音声コンテンツにも注目し、そのコンテンツ制作に自主制作またはコンテンツ制作企業の買収を繰り返しています。中国では、数億人を超すユーザーを集めている音声配信サービスもあり、こちらはかなりの注力分野となっています。なぜ、音声コンテンツにそこまで注力しているのか、そこには、テクノロジーとビジネスモデル、さらには社会的背景が影響しています。

まずテクノロジーですが、市場ではアップルのエアーポッズを筆頭に、無線イヤホンの進化が音声体験を劇的に変化させています。音を聞く体験、音を持ち運ぶ体験においてこの変化は、ウォークマン、アイポッド(アイチューンズ)などに続く転換点の一つかと考えられます。このような市場全体のトレンドに合わせて、音声体験は国ごとにも変化が起きていました。米国は、ポッドキャストを含めた音声配信は持続的に伸びていましたが、さらに伸ばしたテクノロジーは、「スマートスピーカー」です 。このスマートスピーカーの普及が米国の音声コンテンツの拡大に寄与しています。音楽に関連する権利関係の係争なども発生する中、音声コンテンツは米国コンテンツ業界の数少ない希望なのかもしれません。中国では、スマートスピーカーの普及もありますが、そもそも音声の配信というのは、音声コミュニケーションの下地の上に成り立っています。音声コンテンツは、生配信や収録などの方法で制作されるのですが、ここに心理的ハードルがある場合があります。CGM的な爆発的普及をさせるにはこの心理的ハードルがクリアにならなければコンテンツが生まれづらい状況になります。このあたりの詳細は割愛しますが、この音声配信の心理的ハードルが、中国ではウィーチャットという音声コミュニケーションが成り立っていた背景があると考えられており、ツイッターのように気軽に配信が可能となっております。さらには各界の著名人の参加もあり爆発的な普及となっています。米国と中国を見ましたが、音声配信において日本はどうでしょうか。

日本市場でも、以前は音声市場が注目産業、勢いのある業界だったときがあります。昭和はラジオが大衆メディアであった背景もあり、音声コンテンツは隆盛を極めていました。しかし、昭和末期から平成に入り、テレビが大衆メディアとして一番手に躍り出ます。いわゆるラジオ離れも起きるのがこのときです。この要因には諸説あります。音声デバイスの進化が止まっていたことや法律の規制などです。わかりやすいテレビというメディアが茶の間を席巻し、ウォークマンなどが音楽を中心とした使い方として捉えられて、音声市場の停滞が始まります。これは平成が終わるまで暫く続きます。ラジオの市場規模も当然伸びませんでした。ほかにも要因として、タレント等の契約に関する権利関係がウェブに適応できなかった点も影響が大きいと考えられます。ウェブに適応できなかったため、スマートフォンの波にも乗り遅れるなど、時代に取り残された業界でした。ただし、それでも後発ながら世界的なトレンドに突き動かされる形で日本でも音声コンテンツ業界が始まります。スマートスピーカーの普及、ラジオ業界からの出資を受けた音声スタートアップの台頭などが現在の日本の音声コンテンツ業界を盛り上げています。

音声で社会が変わる、生活が変わる

今、わたし達の情報獲得手段の中で一番利用されているものは、スマ-トフォンです。スマートフォンの画面を見るのが一番の情報獲得手段であり、その次がパソコンかもしくはテレビでしょう。それは、情報の伝達手段が口伝から始まった一連の流れにおいて、現段階での主流です。しかし、それが未来永劫続くのかは誰にもわかりません。そのような情報獲得手段のアップデートに対して、音声スタートアップが提案しているのは、情報獲得手段が音声に変わる体験です。すでに変化の兆しは訪れており、音声でエアコンを消すことや音声で照明を点けることは実践されているかと思います。スマートフォンも音声でコントロールできます。ところが、音声スタートアップが目指しているのは更に先の未来なのです。

ここにきて、はじめて私の取組みをお伝えすることにします。私は音声スタートアップにてマーケティングを行っています。対クライアントに対して、ボイスマーケティングを提唱しております。ボイスマーケティングとは、マーケティングの一連の流れである、商品を作って市場に届けるすべての要素において音声を活用して行う提案です。音声で商品を作り、そして音声で市場に商品を届けることで新しい価値を提供しています。スマートフォン画面が主流の現在ですと、まだ認知度が低いボイスマーケティングですが、スマートフォンが終わり、音声が情報獲得手段になった場合に一気に花開くマーケティング手段だと考えております。

音声スタートアップが目指している音声による情報獲得手段ですが、これはスマートホームやMaaSなどとの取組みにインフラとして提案できると考えております。例えば、スマートホームを例にあげますと、話す冷蔵庫や話すバスルームが出てくることが考えられます。お風呂の温度やバスルームの湿度などを音声によるコミュニケーションで解決する際に、お風呂場で何かを提案するとします。シャンプーでもいいですし、フレグランスでもいいですし、入浴剤でもいいです。ジャスト・イン・タイムで情報を提供し、音声による購入で翌日には配送されるかもしれません。他にも、例えばMaaSであるとすると、自動運転の運転者に対してボイスマー ケティングをします。自動運転は、段階によりレベルが違うのですが、未来10年以内にはレベル3になると私は考えております。レベル3は、運転手が座席にいて、ある程度手動での操作が残る段階です。 通常の手段ですと、運転手には商品を届けることができませんが、例えばここにボイスマーケティングを導入すると考えてみます。運転手に対して、話す冷蔵庫がインターネットを通じて、食料品の有無を提案する、或いは不足を連絡します。現在の食材でできるレシピの提案などもしてくれるかもしれません。このタイミングで不足している食材をインターネットのスーパーに注文すれば、自宅に到着した際には届いていることも有り得るでしょう。

このような世界観を想定しているのが、ボイスマーケティングであり、音声スタートアップです。すでに米国や中国では動きがありますし、日本でも一部の都市では実証実験を行っているところもありますが、まだ音声によるインフラ環境の構築、もしくは音声体験による情報獲得は行われておりません。

まとめ

音声コンテンツ業界は、現在の新型コロナウイルスの影響でどのような状況になっているのかという質問に対しては、現段階では実は無風もしくは少し追い風程度であると感じています。スマートフォン画面が情報獲得手段であるため、動画メディアや活字メディアのコンテンツが継続して注目されており、音声コンテンツ業界までは大きな影響がありません。しかし、冒頭で述べたようなコンテンツの需給バランスや、スマートフォン画面からの情報獲得手段の限界(目の疲労や、大量の情報)などの課題は多くありますので、私はいずれ訪れるのであろう音声の時代に向けて、ボイスマーケティングの普及や音声コンテンツの制作ノウハウの蓄積を行っています。もしご興味があれば、音声コンテンツ業界もウォッチしてみてください。それでは、また。

執筆者N.M氏

新規事業企画、部門立ち上げ、および部門マネジメントを経験。スタートアップやベンチャーのアクセラレーターの経験を経て、新規事業開発のコンサルティング業務を行う。現在は、音声メディアのスタートアップにてプロデューサーを行う。

関連コラム

ページTOPへ戻る