女性活躍の頭打ちは「構造」の問題──DEIを成長戦略へ転換する「組織構造の再設計」とは

人事

2026年03月17日(火)掲載

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女性活躍推進は、いまや企業にとって避けては通れない重要な経営課題です。2026年4月から施行される「改正女性活躍推進法」ではこれまで「常時雇用301人以上」の企業に義務付けられてきた男女間賃金差異の公表に加え、女性管理職比率の公表も含めて、対象が「常時雇用101人以上」の企業へと大幅に拡大されます。つまり、「女性活躍」に対する社会からの期待と要請は一層強まっていると言えるでしょう。

しかし大手企業では、上位役職者候補となる女性の不足や、男性社員が抱える不公平感、形骸化したDEI施策などに直面し、「次に何をすべきか」が見えず、打ち手が停滞している企業も少なくありません。

なぜ従来の取り組みの成果が頭打ちになってしまうのでしょうか。200社以上の組織開発を支援してきたプロ人材・中谷 真紀子氏に、女性の昇進意欲を引き上げる具体策や現場を巻き込むためのメッセージ設計、そして女性活躍の“その先”を見据えた人事の役割について聞きました。

▼DEI関連資料:
「反DEI」の潮流とこれから/パーソル総合研究所 上席主任研究員 佐々木聡 氏

「あとは何をすればいいのか」。次の手立てが見えない企業が多数

——多くの企業で女性活躍推進が重要課題となっています。中谷さんのもとへは、企業からどのような相談が寄せられていますか。

中谷氏:よくお聞きするのは「パイプラインの枯渇」、つまり上位役職者候補のプールに女性が少ないという悩みです。役員など上位役職者候補となる課長職・係長職層の女性が経験不足であったり、大きな責任を担うことへの意欲が乏しかったりするという問題に直面している企業が少なくありません。部長候補、役員候補と、上の階層になればなるほど候補者が不足する傾向にあります。

また、現場の男性社員や男性管理職が「逆差別感」と捉えるケースもあります。女性活躍推進の目標数値を追うなかで、現場の男性が「女性ばかり優遇されているのではないか」という印象を持ち、不公平感が蔓延してしまうのです。そうした空気を女性自身が感じて萎縮してしまうケースも多いと感じます。

さらに、「形だけのDEI」から脱却できない企業も多いのではないでしょうか。経営層のコミットメントが言葉だけに留まっていると、全社的な推進力が生まれません。

——企業がこうした状況に陥る背景には、法改正など外部環境の変化も影響しているのでしょうか。

中谷氏:間違いなく影響していると思います。

特に、2026年4月から施行される「改正女性活躍推進法」は大きな転換点となるでしょう。もはやDEIの取り組みはCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の文脈ではなく、企業が社会に対して果たすべき責任であり、同時に経営リスクとなる可能性もはらんでいます。

規模を問わず、上場企業からは「力を入れて取り組んでいる姿勢を見せたい」「何か開示できるものを示したい」という声が高まっていますし、女性役員を社外から迎えることも含めて検討する動きが広がっています。

こうした状況に対して、すでに人事はさまざまな打ち手を講じてきたことと思います。それでも成果が頭打ちになってしまい、「あとは何をすればいいのか」と、次の手立てが見えなくなっている。それが多くの企業の現在地ではないでしょうか。

昇進意欲を引き上げるために経営層が関わり、特別なアサインを提供する

——次の手立てが見つかりづらいなかで、人事はどのようなアクションを取るのがよいのでしょうか。

中谷氏:自社の現状の課題を詳細に分析し、さらに対応できる部分がないかを見直していくのがいいでしょう。

たとえば上位役職者候補のプールに女性が少ないという状況があるのなら、女性が上席を担いたいと思うような環境整備が求められます。企業によっては、経営トップや役員陣が個別に候補者の背中を押す「スポンサーシップ制度」を設けている例もあります。

単なるメンターではなく、実際に候補者の人事権を持つ役員が直接向き合うことで、現状の課題を把握し、対策と育成につなげているのです。一例として女性だけのタレントプールを作り、育成計画を立てている企業もあります。こういった取り組みを進めるにあたっては、施策の公開範囲を限定するなどの工夫とともに、適切な環境づくりが必要です。

また、育成においては、候補者の経験不足を補う取り組みも重要です。意思決定を伴う重要プロジェクトへ意図的に女性を配属し、成長を促す「ストレッチ・アサインメント」を検討する必要もあるでしょう。

支援先企業を見ていると、若手時代にいわゆる一般職として事務職しか経験しておらず、企画業務を任されなかったため、経験機会の違いによってスキル差が生じているケースも少なくありません。この時間を取り戻すための経験をいかに積んでもらうか。そのために、意思決定や責任を伴う高度な業務経験を積めるアサインとサポートが必要なのです。

——男性社員側の不公平感を解消したり、経営層からのコミットメントを強化したりするためには何が必要ですか。

中谷氏:職場全体の機運醸成には、エンゲージメントサーベイの結果や具体的な数値を根拠にジェンダーギャップに関する課題を設定し、研修やワークショップなどを通じて多面的に組織全体にアプローチしていくことが重要です。特に効果的なのは、「女性活躍」を最上位に置くのではなく「ジェンダーギャップ」を課題として捉え、解決に向けた意識変革を上位層が主導することです。トップが大事だと思わなければ広がっていきづらいからです。

——こうした施策を整えても、女性管理職比率などの数値目標をなかなか達成できない企業も多いようです。KPI達成に向けて施策を運用する際は、どのような点に注意すべきでしょうか。

中谷氏:同期入社の男女で昇進スピードに差が生じる、いわゆるプロモーション・カーブ(昇進曲線)を可視化することも有効でしょう。昇進スピードに差が出始める「魔の7年目」などのタイミングを特定し、ピンポイントで介入します。最終的な女性管理職比率だけではなく、7年目時点での女性社員比率、3年目時点での女性社員比率など、最終目標を達成するための中間目標値を設けることも効果的です。

また、これまでの施策の積み上げから離れて、ゼロベースで考えることも大切です。例えば、時短のマネージャーってどうやればうまく運用できるかを検討してみる。マネージャーが2人なら可能になるかも? リーダーの権限範囲を変えたらできるかも? など前提条件を変えて考えてみることです。それによって自社に足りない施策や運用面が見えてくるはずです。

現場へのメッセージでは「女性活躍を旗印にしない」ことがポイント

——女性活躍推進には、人事部門だけでなく現場の管理職や一般社員も巻き込んでいく必要があると思います。うまく巻き込むための秘訣があれば教えてください。

中谷氏:逆説的な言い方になりますが、「女性活躍」という言葉が、現場の共感につながりにくいケースもあります。

企業として本当にやりたいのは、属性に関わらず、価値を出せる人に重要ポストへ就いてもらうことですよね。しかし女性活躍という旗印のもとに配置などが決まると、選ばれた人の仕事ができるかどうかを別にして、属性の話しかしていないように感じる人も多いのではないでしょうか。

女性活躍という言葉があるせいで、現場では当事者意識を持ちづらくなる可能性もあります。女性だけでなく、現場の誰もが「これは自分のことだ」と思えるようにするのが重要だと考えます。

——どのように伝えるのがよいでしょうか。

中谷氏:ポイントのひとつは、マジョリティである男性管理職に対してのストーリーを構築し、味方につけていくことです。「女性活躍推進」は重要な課題ですが、女性を優遇することが目的ではありません。女性にだけ優しくするということではなく、属性に関わらず、異なる背景を持つ人が成果を出せるようにアシストするという考え方に立った制度設計や人材マネジメントが重要です。

そうしたストーリーでは、経営の言語で語ることも必要でしょう。優秀な人材を確保し、その人材が活躍できる環境を整えることは経営の重要テーマであり、特に日本においては今後の事業存続に向けて欠かすことのできない課題です。この認識を共有した上で、「多様な人材が活躍できない組織は、結果として優秀な人材から選ばれにくくなる傾向がある」という、企業としての生存戦略の文脈で語るのです。

現場の一般社員へのメッセージでも、女性活躍を旗印にしないほうがいいでしょう。「女性は、わかりやすい属性の一つに過ぎない。はたらく中では誰もがライフステージや役割の変化に直面する。そうした変化があっても、すべての人が活躍できるようにしたい」。そんなふうに伝えれば、誰もが自分ごととして考えられるのではないでしょうか。

プロ人材とともに「女性活躍の先にあるゴール」を実現する

——女性をはじめ誰もが活躍できる環境づくりは、自社だけでは難しいと感じている企業も多いと思います。外部のプロ人材と連携することで得られるメリットを教えてください。

中谷氏:すべての企業ではないですが、人事は前年を踏襲する形で計画を立てる傾向があり、翌年の計画を立てる際も積み上げから考えることが多いのではないでしょうか。人事部門内では「女性活躍推進担当」のような形でアサインされ、その他の人事の仕事とは役割が切り分けられて別組織として取り組んでいるケースもあると思います。

しかし、目的は政府目標である女性管理職を30%にすることではありません。本当は事業戦略や経営計画を達成することがゴールのはず。なぜ女性活躍なのか? なぜダイバーシティなのか? これからの取り組みを考えるためには、手段の意味を考え直す必要があると思います。

それらを考える際には、これまでの取り組みの積み上げや、人事部門内での役割固定から脱却して構造的な課題を見つけ出し、実行していく必要がありますが、なかなか自社だけでは難しいかもしれません。

プロ人材と協業することで、自社内では見えにくい構造的な課題を言語化し、海外も含めた他社の知見も取り込みながら、実行レベルまで落とし込める点が大きな価値だと考えています。本質的な成果に結びつけるには、自社の立ち位置や競争力を認識し、他国の知見も含めて外部事例から学んでいくのがいいでしょう。

——プロ人材と連携する際、社内人事とプロ人材はどのように役割分担していくことが望ましいでしょうか。

中谷氏:現状や課題を社員や経営陣はどう受け止めているのか、どんな温度差があるのかなどは、自社の人事でなければ把握しきれない部分があると思います。プロ人材には、そうした現場の実情や温度感をそのまま伝えていただきたいですね。その上で、外部との比較から見えてくる示唆については、プロ人材のほうが情報を集めやすく、言葉にも落とし込みやすいと感じます。

そうした連携ができれば、女性活躍だけにとらわれず、「多様性を活かして事業戦略や経営計画を達成する」という本来のゴールに立ち戻れるはずです。

【プロフィール】

People Trees合同会社 Co-CEO中谷 真紀子氏(なかたに・まきこ)
リクルートHD、江崎グリコ、参天製薬にて組織開発や人材開発、タレントマネジメント領域を担当し、2019年にPeople Trees合同会社を共同創業。200社以上のお客さまの人材開発や組織開発に携わるとともに、People Treesのチームづくりを推進。経営と従業員をつなぎ、制度に息を吹き込む風土醸成を得意とする。

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まとめ

法改正によって課せられる義務に目が行きがちですが、女性管理職比率を高めること自体がゴールではありません。本来の目的は、多様な人材が力を発揮し、事業戦略や経営計画を実現できる組織をつくることです。そのためには、スポンサーシップ制度やストレッチ・アサインメントによる意欲向上と実務経験の底上げ、プロモーション・カーブの可視化、評価制度の見直しといった具体策が求められます。

同時に、「女性活躍」という旗印に偏らず、すべての人が成果を出せる環境づくりという経営の言語で語ることが重要です。ゼロベースで戦略を再設計する視点を得るために、「HiPro Biz」でプロ人材との連携を検討してみてはいかがでしょうか。

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