技術継承を円滑におこなう若手育成の取り組み方を解説

経営全般・事業承継

2023年03月06日(月)掲載

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日本の少子高齢化は深刻化しており、製造業にも技術継承問題として影響しています。

このまま技術継承問題が続けば、後継者が見つからず、事業譲渡もおこなえないまま廃業を余儀なくされる会社が増えるでしょう。

技術継承問題の解決糸口となるのは、後継者と熟練技術者との円滑な技術継承と最適な環境づくりです。

そこで本記事では、国内の製造業にとって技術継承が求められている背景を紹介します。さらに技術継承を円滑に進める取り組み方や、今後の若手人材確保などについても説明します。

技術継承の方法で悩まれている方や、今後の人材確保を検討されている方の参考になれば幸いです。

技術継承とは

技術継承

技術継承とは、事業を継続するために後継者にスキルや知識を伝え、未来に受け継いでいくことを指します。

厚生労働省が2019年に発表した資料によると、技能継承に問題があると回答した製造業の割合は86.5%でした。また8割以上の企業が技能継承に不安を持っていると回答しました。

一方で、技術継承がうまくいっている製造業は労働生産性が高く、新人がひとりで仕事を担当できる技能者になるまでの時間も短いという結果がでています。

順調な企業は、ベテランと新人との技術継承の取り組み方法が確立されており、さらに業務に支障が出ないよう生産性向上に向けて環境整備も実施済みであることが多いのです。

技術継承では技術や技能を伝承するだけでなく、人材育成しやすい環境づくりも重要となります。

技術と技能の違い

技術習得には「技術」と「技能」の習得が不可欠です。「技術」と「技能」は混同されがちですが、ふたつの意味を理解することで、適切な技術習得と技術伝承につながります。

「技術」とは物事に対する方法や手段を指し、言葉や知識などから習得できる方法や手段です。そのため見える化しやすく、マニュアルなどから習得しやすいのが特徴となります。

一方「技能」とは技術を使いこなすために必要な能力を指し、言語化が困難である特徴があるため時間や経験が必要です。

また、技術を得ていても実際に経験がなければ技能習得はできません。技能とは、技術習得し手を動かし、経験を積むことで積み上がります。

技術継承が求められる背景

かつては「ものづくり大国」といわれた日本ですが、現在では少子高齢化や後継者不足に陥っており、多くの問題を抱えています。諸外国の技術力向上を皮切りに、生産性やクリエティブな観点でも、日本の製造業の力は弱まっているといえます。

国内製造業の生き残りをかけるには、後継者に技術継承して未来に引き継がなければなりません。

しかし、現状において技術継承がうまくいっている企業は少なく、ベテラン勢が退職してしまうと生産性の低下が懸念されます。また、技術が継承されなければ、技術そのものが失われ、日本の製造業はますます生き残りが厳しくなるでしょう。

続いて、技術継承が求められる背景をさらに深掘りしていきます。

海外技術の向上

これまで日本の製造技術やスキルは、海外企業からも一目置かれていました。

しかし、最近の海外企業は勢いを増しています。その要因は日本企業の海外進出や、海外進出によって国外の製造拠点を展開したことによる技術や技能の流出です。

さらに近年はIT技術の発展によって、製品のコモディティ化が進んでいます。これまで匠の技と評され、品質面でアドバンテージを得ていた日本製品ですが、先進技術によって品質の差が着実に埋まっているのです。

これによって、QCD(Quality;品質、Cost;コスト、Delivery:納期)のバランスで海外企業が選ばれることも珍しくなくなりました。

そして、海外の技術力による製品・サービスの低廉化が進んだことで、技術継承とIT導入が遅れている日本の製造業は競合優位性で後れを取る状態となっています。だからこそ、日本がグローバルで活躍していくためにも、得意とするものづくりの技術継承の重要性が高まっているのです。

熟練技術者の高齢化

熟練技術者の高齢化は、技術継承が強く求められている要因のひとつです。

特に高度経済成長を支えた熟練者が高齢化となり、定年退職で製造業を離れてしまっています。

また、技術継承にはスキルや時間を要するため、熟練者に負担がかかるのも懸念されています。

少子高齢化と熟練者の高齢化は今も続いており、早急な対応が必要です。

企業存続の危機

半導体産業では1988年に50.3%のシェアを獲得していた日本ですが、2019年時点で10%まで落ち込んでいます。このように、製造業では日本のシェア率の低下が深刻化している状況です。

このまま技術継承がおこなわれないと、日本の製造業はますます衰退していき、結果的に廃業に追い込まれる企業は増えていくでしょう。

技術継承の問題点

技術継承が求められる製造業ですが、取り組みが進まない要因が複数あります。企業の考え方から仕組み作りまで、技術継承の課題を以下で解説します。

技術継承を軽視する企業

技術継承を重視していない企業も多く、技術継承を熟練者にすべて委ねてしまうケースがあります。

企業が技術継承を現場に委ねてしまうと、後継者の技術習熟度が把握できません。若手育成が満足なレベルまで到達しないまま、ベテラン勢は退職してしまうことも起こり得るため、満足な技術継承が行えない傾向にあるのです。

そのため、技術継承を受ける後継者はどのような知識と経験があり、それをもとにどのような教え方がいいのか。企業と熟練技術者の連携が必要です。

技術継承で起こる熟練技術者の負担増加

通常作業に加えて若手育成を行うことは、どうしても熟練技術者の負担が増えることになります。

また、仕事を教えることに慣れていない熟練技術者もいます。そのため、技術継承の進捗次第では、熟練技術者と後継者双方がストレスを感じることもあるでしょう。

熟練技術者の負担を軽減する対策や、企業側が技術継承を業務として考え、熟練技術者が抱える作業をフォローすることも重要です。

技術継承が仕組み化されていない

技術継承のノウハウやOJTの仕組みが確立されていないと、技術を習得できない場合や継承のレベルにばらつきが発生します。また、社員の負担も増加します。

技術伝承をスムーズに進めるためには、マニュアルの作成、ツールやシステムの導入、担当役職の設置など、仕組み化が不可欠です。

後継者は意欲的という思い込みがある

後継者が技術やノウハウの習得に対して、意欲的とは限りません。今はさまざまな情報へ簡単にアクセスできるため、後継者自らが人から学びを得ようと考えない場合もあります。

後継者が受け身になってしまうと、ベテラン勢からは意欲的と感じられず、技術継承が円滑に行えないケースも想定できます。

後継者とベテラン勢の意識のギャップを埋めるには、技術を継承する目的や意味、継承を達成したあとのメリットを、双方が理解することが重要です。

一方でベテラン勢は「何か質問があれば若手から聞いてくる」、「きっと理解しているはず」と思いこまず、技術継承の意味やメリットをお互いに共有しておくのが大切です。

マニュアルがあれば技術継承は安易と感じている

マニュアル通りに技術継承をおこなえば、円滑に若手育成が進むとは限りません。

なぜならマニュアルは、作業の内容や手順を記したものであり、熟練者の勘やコツが言語化されておらず、技術の中核を後継者に伝えることができないからです。

また、独自の方法で作業している、効率化された作業が更新されていないなど、マニュアルに記されていない問題が出てくることも考えられます。

したがって、従業員のノウハウを定期的に収集し、体系化したマニュアルを作ることに加えて、その内容を定期的に更新することが求められます。

技術継承問題を解決する方法

若手に技術を継承する際、基本となるのがOJTです。OJTとは若手が熟練技術者と一緒に作業を体験し、技術や知識、ノウハウなどを体系的に教育する方法です。

若手育成にOJTは基本とされますが、確実に技術継承が成功するとは限りません。なぜなら、OJTは技術継承する熟練技術者にも負担がかかるため、企業のサポートなしでは成し得ないからです。

では、企業と熟練技術者はどのようにして若手育成に取り組むのが効率的なのか。以下で解説します。

技術承継を動画に残す

技術継承の問題解決として、動画を活用した技術継承が有効です。マニュアルだけではなく、いつでも確認できるように、スマートフォンやインターネットなどから技術伝承のコツなどを紹介する動画を作成します。

動画は熟練技術者の目線やスピード、手元などが確認しやすく、体系的に何度も学べます。言語化がむずかしい感覚的な技術を伝えるためにも、動画は有効です。

動画を作成することは、熟練技術者の負担を減らすことにもなり、作業工程を客観的かつ広く共有できるので、技術継承に大いに役立つでしょう。

熟練技術者へのサポート整備

人材不足に悩む企業で重要なポジションを担う熟練技術者がOJTをおこなうと仕事が停滞し、負担もかかります。企業側は、技術継承も業務のひとつとして認識することが重要です。
企業側が技術継承の重要性や内容を理解し、就業時間内に指導時間を設け、作業の調整などをおこなえば、熟練技術者の負担が減らせるでしょう。

後継者の知識や経験に合わせたOJTの実施

OJTを行うためには、後継者となる若手社員の知識や経験、技量などのスキルを把握しておく必要があります。

後継者のスキルを把握すると、未習得の技術や技能獲得に向けた計画が立てやすくなるうえに、熟練技術者側もムダや負担が少なく技術継承が可能です。

さらに、育成方法は口頭や動画で教えるべきなのか、あるいは実際に作業を行う回数を重ねて教えるべきなのかなどが明確になるでしょう。

技術継承の仕組み化

技術や技能継承を次世代へ引き継ぐには、わかりやすいマニュアルと効率性が求められます。

例えば言葉だけでなく、図解や画像などでビジュアル化したマニュアルを用意し、口頭や対面でおこなっていた教育を、スマートフォンでも見られる動画講義にするなど、人材教育を仕組み化すると技術継承がよりわかりやすく効率的になります。

若手人材の確保

人材育成の取り組みを強化しても、若手人材の確保が大前提となります。しかし、少子高齢化により、人材確保は大きな課題です。

SNSや企業説明会でものづくりの楽しさや社会的意義などの情報を発信するだけでなく、就職を控えている学生に向けて、大学や高校とのつながりを構築するなど、あらゆる方法で取り組む必要があります。

まとめ

日本の高度経済成長を支えてきた製造業ですが、現在は海外企業の技術向上や、ITイノベーションによってシェア率の低下が深刻化しています。

後継者に未来の製造業を託すには、技術継承の必要性やメリットを理解してもらい、さらに教育の仕組み化や環境を整えることが必要です。

技術継承問題に向けて、現場だけに任せるのではなく、企業全体の取り組みをおこなっていきましょう。

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