システム戦略におけるボトルネック。乗り越えるための「デジタル人材のパラダイムシフト」とは

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2025年06月30日(月)掲載

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生成AIの台頭により、市場環境やビジネスのトレンドはさらなる加速が予想されます。変化し続ける環境に対応し、生産性や競争力を向上させるには、デジタルと一体となった経営が必要不可欠です。しかし、システム戦略の実践に頭を抱える企業は決して少なくありません。

DXブームも佳境を迎え、成功事例も多数現れる中、なぜ変革が停滞してしまうのでしょうか。30年以上のコンサルタント経験を通じて、数々の企業のIT戦略や業務改革を支援してきた株式会社Terry’s & Company代表取締役の佐々木宏氏にお話を伺いました。

「システム開発」と「システム戦略」は似て非なるもの

――現在の日本企業におけるIT課題は何だと考えていますか。

佐々木氏:組織の規模や業種業態による差異はありますが、大きくいえば二つの課題があります。一つ目が「2027年問題」です。「2027年の崖」の問題により、多くの企業に基幹システムの刷新が求められています。しかし、従来、日本企業は業務にシステムを合わせる開発が主流であったため、仕様が複雑化してブラックボックス化していることが少なくありません。

平成から令和にかけての時代を「失われた30年」と称することがありますが、この頃には企業は業績の伸び悩みからITへの投資を抑制していました。そのため、既存のシステムの老朽化が激しく、事業の競争上のボトルネックにもなっています。

こうした状況を踏まえ、ソリューションが想定する標準業務プロセスをベースにERPを導入する「Fit to Standard」という手法で基幹システムを刷新したい、という要望が強くなってきています。そもそも大規模なシステム投資を長年凍結してきた企業にとって、いきなり企業の根幹である基幹システムを刷新することは、極めてハードルが高くなっていると言えるでしょう。

二つ目の課題は、DX投資を積極的に行ってきた企業を中心に、データ活用やAI推進などを通じて自社のビジネスモデルを更に変革し、事業競争力を高めたいというニーズも強くなっている点が挙げられます。

しかし、これについても実現は簡単ではありません。データ活用やAIなどの最新技術を活用した業務改革は、単なるシステム刷新とは異なり、より高度なITに関する戦略とロードマップの策定が、その前提条件として求められるからです。

つまり、現場のニーズや業務に合わせてシステムを構築したり保守運用したりすることも勿論重要ですが、一方で、経営戦略や事業戦略との整合性を踏まえながらITの戦略や具体的な施策を実行していくことは、これまでのシステムや企業ITの在り方とは似て非なるものと言えます。

前者は一定の実務経験があれば実行できますが、後者はビジネスへの理解や戦略を構想するフレームワーク、プロジェクトを推進するためのコミットメントやモチベーションなど、より広範な能力が求められます。従来、日本企業でシステム開発を担っていた情報システム部門は、前者に偏重しがちで、後者は必ずしも得意でないケースも多いです。近年、既存の情報システム部門とは別に、経営者直轄のDXの専任組織を立ち上げるケースが増えているのは、こうした背景があるからだと言えます。

つまり、今日本企業に求められているのは、専門的知識の習熟を促す一方で、ビジネスモデルへの理解やリーダーシップの養成を図る、総合的なデジタル人材の育成が大切なのだと感じます。

――既存のIT人材のスキルの底上げが急務であるということですね。

佐々木氏:近年、経営層やマネジメント層の方々のITやデジタルへのリテラシーは急速に高まっています。私自身、企業支援に携わる中で「こんなことまで知っているのか…」と驚かされる場面が少なくありません。ITの実務経験はなくても、システム戦略の要点や勘所を理解している経営層はどんどん増えていると思います。

一方で、近頃は技術や開発手法の進化が目まぐるしいため、継続的に学習しなければエンジニアであってもスキルや知識がすぐに陳腐化してしまいます。「現場の要望に対応する」といった受け身で業務に臨んでいるだけだと、自社のシステム戦略の実現を妨げる要因にもなりかねないのです。

メンバーのモチベーションを引き出すプロジェクト推進とは

――では、企業がシステム戦略を実現するには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

佐々木氏:前提として、ITやデジタルツールは経営戦略を実行するための手段という点を明確に意識する必要があります。そのため、まずは経営戦略を明確に定めることが重要でしょう。それによって初めて、個別のIT戦略を明らかにしていくことができるようになります。

そのうえで、理想的なシステム環境やオペレーションを具体的な形に描き出し、ITやデジタルツールを実装していくAs-Is/To-Beモデルを活用します。

ただし、この取り組みにも総合的な知見や勘所を押さえた取り組みが必要です。一口に「理想的な姿」と言っても、自社のビジネスモデルやオペレーション、ITシステムの構成、また自社の企業文化などを踏まえてITビジョンを描き出す必要があり、それは容易ではありません。

また、仮に構想ができたとしても、プロジェクトの推進や開発などには一定以上のリソースやモチベーション、実行ノウハウが求められます。これらを一貫して実行し、取り組みを実現するには、いくつも壁を乗り越えなくてはいけません。

そのため、私が企業のシステム戦略を支援する際には、幅広い領域で伴走型のサポートを提供しています。

――具体的に、どのような支援を提供しているのか教えてください。

佐々木氏:事業の方向性や抱える課題の識別、IT戦略の策定から、As-Isの分析やTo-Beの構想、要件定義、ベンダーの選定、プロジェクト後のシステムの定着など、幅広い領域で伴走型の支援を提供しています。また、プロジェクトメンバーへの1on1コーチングなども実施しています。

IT戦略立案に関しては、目指したい自社の将来像や事業戦略の中で予測されるリスクなどの糸口が見つかれば、戦略として描くことは難易度がそこまで高いものではありません。それを組織全体で議論し進めていきます。むしろ戦略推進のために、1on1コーチングが切っても切り離せないと私は考えています。

先ほども述べた通り、システム戦略の取り組みにおいては、自社のビジネスモデルやシステム環境の「理想的な姿」を思い描きます。そうすることで、理想と現行とのギャップも明らかになり、現状の組織には足りない知識やスキルも見えてくるでしょう。

これはプロジェクトを前進させるために欠かせないプロセスです。ただ、場合によっては、理想とのギャップが大きすぎて、プロジェクトメンバーのモチベーションやコミットメントを低下させる恐れもあります。実際に、目標までの道のりが遠すぎて、システム戦略の気運が弱まり、取り組みが頓挫してしまう企業は少なくありません。

その場合、実行計画の中でフェーズに分けて進める、といったプロジェクト計画上の方法論もありますが、私はプロジェクトメンバーの方々への1on1コーチングも重視しています。要件定義などと並行して、プロジェクトメンバーの不安や不満などに向き合い、新たなスキル習得や知識のアップデートなどに前向きに取り組めるよう、行動変容を促します。

こうした取り組みを通じて、プロジェクトメンバーを価値観がパラダイムシフトされ、「理想的な姿」の実現に向けたコミットメントを後押しするのです。成長速度は本当に人によるのですが、3カ月の人もいれば、1年かかる人もいます。その人に合った方法を模索し成長を支援しています。

「情報システム」とはよく出来た言葉で「情に報いるシステム」とも読めます。プロジェクトマネジメントやベンダーコントロールなどの一般的なITスキルはもちろん、モチベーションやコミットメントといったITや業務に関わる全ての方々の情緒的な能力をいかに引き出すかが、システム戦略を成功に導くポイントだと思います。

基幹システム導入前の構想策定に1年以上。長期的視野でコミットが必要

――佐々木さんが支援してきた中で印象的な事例があれば聞かせていただけますか。

佐々木氏:とあるプロジェクトの事例ですが、構想段階で約1〜2年、システムの実装までを含めるとさらに数年を要しています。決して短い期間ではありません。しかし、システム戦略とは単なるITシステムの開発や導入ではなく、経営者のコミットメントの下で、企業全体のビジネスモデルやオペレーション、ひいては人材を変革する取り組みです。

そう考えれば、一定程度の期間を見越して、長期的な視野で臨む必要があると分かると思います。そうした長い道のりを、経営者やマネジメント層の方々と一致協力しつつ、実行に関わる人たちのモチベーションや熱意を持続しながら前進していくのが、システム戦略を実現するうえでは欠かせない要素だと言えるでしょう。

まとめ

ITの専門的知識に加え、1on1コーチングといった人材面でもプロジェクトを支援する佐々木氏のアプローチは、長期的なコミットメントを前提とするシステム戦略において大きな力を発揮することが分かりました。しかし、こうした取り組みを自社の人材のみで実践するのは容易ではありません。長い道のりに伴走する外部の支援者の力を借りるのも、一つの手段ではないでしょうか。「HiPro Biz」には豊富な経験を持つプロ人材が多数登録しています。システム戦略を実現に導くよきパートナーをお探しの企業は、ぜひサービスの活用をご検討ください。

経営支援サービス「HiPro Biz」

<プロフィール>

株式会社Terry’s & Company 代表取締役 佐々木宏(ささき・ひろし)
1994年、株式会社富士総合研究所に入社後、政府系システムの開発、保守運用を皮切りに、1997年に中央クーパースアンドライブラント・コンサルティング株式会社、2000年にはアンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア株式会社)での勤務を経験。2005年10月に株式会社Terry’s & Companyを設立し、代表取締役に就任。業務改革およびシステム導入プロジェクトのコンサルティング経験が豊富で、導入〜展開まで一貫した支援を得意とする。

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