サステナブル素材開発をマネタイズにつなげる。消費者共感を得るためのブランド価値設計法とは

生産

2025年10月29日(水)掲載

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環境規制の強化や消費者意識の変化を背景に、サステナブル素材の開発や活用は事業継続に欠かせない条件となりつつあります。しかし、サステナブル素材には供給量の不安定さやスケールの難しさなどの壁もあり、マネタイズに悩む企業も少なくありません。

そんな中で、エシカルジュエリーブランドを創業し、日本におけるエシカル消費喚起の前線で活躍するプロ人材の白木 夏子氏は「誠実で透明性の高い素材活用はブランド価値の向上につながり、消費者や投資家から選ばれる企業となるチャンスでもある」と話します。企業は今、サステナブル素材をどのように理解し、取り入れていくと良いのでしょうか。最新動向やマネタイズへのヒントを伺いました。

サステナブル素材の開発や活用は、もはや「できればいいな」のレベルではない

サステナブル素材

——近年、サステナブル素材を用いた製品開発が注目されています。

白木氏:背景には、企業を取り巻く環境規制や法規制が年々厳しくなっていることが挙げられます。EUでは環境規制が強化され、ドイツでもサプライチェーン・デューデリジェンス法と呼ばれる新たな法規制が始まりました。

日本においても2022年にプラスチック資源循環促進法が施行されたように、素材レベルでの環境負荷を抑えるための規制が強化されています。今後もこうした規制が緩まることはないでしょう。より多岐にわたる製品群で、環境負荷の小さな素材を使うことが求められていくはずです。

サステナブル素材の開発や活用は、もはや「できればいいな」のレベルではありません。事業継続の必須条件になりつつあると言えるのではないでしょうか。

——サステナブル素材に対する消費者の理解やニーズも高まってきているのでしょうか。

白木氏:ミレニアル世代やZ世代を中心に、企業の価値観を重視して購買する意向が高まっています。価格やデザインだけでなく、どんな素材から作られているのか、企業としてどんな世界を目指しているのかも含めて商品が選ばれているのです。

私は大学の教壇に立っているため、学生たちと接する機会が頻繁にあります。ある学生はコスメやシャンプーを選ぶ際に「その会社の役員に女性がいるかを確認してから買う」と話していました。このように、自身のこだわりを持って購買する消費者が増えていると感じます。

ご承知のように、昨今ではSNSで情報がすぐに拡散されます。誠実で透明な素材選びをしている企業はブランド価値の向上につながりますし、逆に取り組まなければ、ブランド価値を毀損してしまうおそれもあります。

建材にもサステナブル素材。企業が新たな可能性を知るためのアクションとは

——サステナブル素材とはどのような素材を指すのでしょうか。改めてお聞かせください。

白木氏:代表例としては生分解性素材、バイオマス素材、リサイクル素材、CFP(カーボンフットプリント)対応素材などがあります。

消費者に響きやすいという観点でいえば、昨今は「どこから回収してきたかがわかりやすいもの」も注目されていますね。たとえばアパレル業界で活用されている海洋プラスチック回収繊維などは消費者にとってわかりやすく、ブランドとして何に貢献したいと考えているのか、メッセージも伝わりやすいと感じます。

逆に、「環境にやさしい取り組み行っているものの、なかなか伝わらない」と悩む企業もあります。企業としてはもちろん事業性を重視しなければならないため、マーケティングやブランディングにつながりやすい素材を選ぶことも重要だと言えるでしょう。

——企業の中には、サステナブル素材に興味を持ちつつも「自社の事業にはあまり親和性がない」と感じているケースもあるかもしれません。

白木氏:実際にそうした状態の企業は多いでしょう。一方、サステナブル素材が意外に思える形で活用される事例も増えています。

たとえば、最近では建材の分野でもサステナブル素材が活用されています。コーヒーチェーンで発生する大量の「コーヒーかす」は、通常はごみとして廃棄されてしまうのですが、これを天井や壁の建材として活用しているケースもあります。

この世の中には、日常的に大量廃棄されているものが他にもたくさんあります。日本の課題としてはプラスチックを使いすぎていることも挙げられますよね。夕食を1回作るだけで複数のプラスチックごみが出てしまうこともあります。このあたりも生分解性プラスチック(微生物の働きによって水と二酸化炭素などに分解されるプラスチック)などの出番があるのではないでしょうか。

——こうした素材活用の可能性を探るために、企業のアクションとしてどんなことが考えられるでしょうか。

白木氏:まずは消費者の声に耳を傾けると良いと思います。

前述のように価値観で商品を選びたいと考えている若者や、子育てが始まり子どもになるべく悪影響のない商品を買いたいと考えている人などは、特にサステナブル素材への関心が高い傾向があります。そうした人たちの声に耳を傾けることで、企業側では気付けない新たな発見をすることができ、次なる製品開発のヒントにつながるかもしれません。

同時に、意思決定の場に多様性を持たせることも重要です。若者や子育て中の人が意思決定に加わっている企業は、決して多くはないでしょう。同世代の同質的な人たちだけで製品開発を進めるのではなく、意思決定者の中にターゲット層が入っていない場合は取り入れていく検討も必要ではないでしょうか。

「コスト高で事業拡大が難しい」サステナブル素材活用を実現するには

——サステナブル素材の開発や製品化に向けて、企業が直面することの多い問題を教えてください。

白木氏:サステナブル素材は供給量が安定しないことも多く、コスト高で事業拡大が難しいという問題があります。

私自身もエシカルな素材にこだわったジュエリーを作っていますが、素材によっては海外から少量しか入ってこない石などもあります。そのため、金やプラチナなどリサイクルされた金属が日本でもたくさん調達できる素材を活用し、事業として拡大させてきました。

——担当部門から見れば、冷静に事業性を追求する経営層の理解を得るのは難しいかもしれませんね。

白木氏:いかにサステナブル素材の活用に意義があるとはいえ、マネタイズの要素が薄い提案を通すのは難しいでしょう。

ただ、経営層は短期的な売上を気にしているだけではなく、ブランディングへの影響も考慮しているはずです。新たな製品開発によってどんなメディアインパクトを生むのか。これも想定して提案に盛り込むと良いのではないしょうか。 

たとえば、自社の取り組みが業界誌や経済メディアに取り上げられることで、ブランドの信頼性や投資家からの評価が高まり、採用・取引拡大といった波及効果も期待できます。

最近ではサステナブル関連の専門誌だけでなく、一般層向けの雑誌でもサステナブルなファッションなどが取り上げられるようになりました。こうしたトレンドを踏まえることで、経営層を説得しやすくなると思います。

——その他に想定しておくべきリスクはありますか。

白木氏:取り組み方によっては、グリーンウォッシュ(※)につながりかねないことを認識しておきましょう。

表面的に「当社は良いことをやっている」と謳っていても、社内の人から見て「実は環境に悪影響をもたらす素材も使っている」などの実態があると、社外へも情報が拡散されて逆効果になってしまうかもしれません。どんなに美辞麗句を並べていても、社内の実態が伴っていなければ意味がないのです。

とはいえ、すべての要素が整っている企業は少ないのも事実です。サステナブル素材を扱い、現状を踏まえて真摯に取り組むことで、次世代の会社づくりのムーブメントを作り上げていくきっかけにできるかもしれません。

※ 企業が行う環境に配慮した活動や製品開発において、実態が伴わないことを宣伝したり、誇張して伝えたりする行為

サステナブル素材に込めた「メッセージ」をコミュニティ形成の起点に

——多くの企業が気にするであろうマネタイズについて、ヒントとなる取り組みがあれば教えてください。

白木氏:理想的なのは、自社のサステナブル素材開発や活用について消費者に深く理解してもらい、コミュニティ形成ができている状態です。企業が主導することなく、消費者が自発的にコミュニティを作る流れになれば最高だと思います。

とあるケースでは、特定のプロダクトが好きな消費者がファンとなり、コミュニティを作って盛り上がっています。サステナブルな事業活動を展開する企業側の理念に共感し、「この企業が提唱するような暮らしがしたい」と考える消費者が集まってコミュニティが形成、これがきっかけとなってブランドへの信頼度が高まり、実際にLTV向上などの成果につながっています。

ポイントは、サステナブル素材を活用して製品開発しながら、「それをどのように生活に取り入れてほしいか」「どんなふうに活かしてほしいか」といったメッセージも組み込んでいくこと。それがファンミーティングなどの小さな取り組みの起点となります。こうしたコミュニティマーケティングの取り組みは大いに参考にできるのではないでしょうか。

——ありがとうございました。最後に、サステナブル素材に関心を持ちつつ事業性やコストの面で慎重になる企業へ、プロ人材としてのアドバイスをお願いします。

白木氏:冒頭でも述べたように、サステナブル素材の活用は、企業の事業継続において今や欠かせない条件になっていると感じます。規制の後から対応するのではなく、先回りして取り組むことで、消費者や投資家から選ばれる存在になれるはずです。

またサステナブル素材と向き合いながら、透明性を持って発信していくことも重要です。小さな商品開発から始めて、成功事例を少しずつ増やし、企業ブランディングや消費者とのコミュニケーションに活かしてほしいですね。

【プロフィール】

HASUNA Co.,Ltd. Founder & CEO / 武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 教授 白木夏子(しらき・なつこ)
英ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て2009年に株式会社HASUNAを設立。ブランドの運営、SDGs/ESG、DE&Iに関する戦略コンサルティング、講演、研修事業を展開。ジュエリーブランドHASUNAでは、ペルー、パキスタン、ルワンダほか世界約10カ国の宝石鉱山関係者とともにジュエリーを制作し、 エシカル(=道徳的、倫理的)なものづくりを実践。その他にもセレクトショップ、化粧品、アパレルブランド、各種企業のブランドディレクションに携わり、2021年からSDGs経営、サステナビリティに関する研究と起業家の育成を行っている。

まとめ

サステナブル素材の開発や活用は、規制対応の側面のみならず、自社のブランド価値を高めコミュニティ形成によるLTV向上にもつながるメリットがあります。一方で、事業化に向けてはコスト高や事業拡大の難しさ、グリーンウォッシュのリスクといった壁も立ちはだかります。前例やノウハウがない企業では、社内だけで進めるのは難しいケースも出てくるでしょう。

専門領域における豊富な経験や知見を有する「HiPro Biz」のプロ人材を活用すれば、経験則に基づくアドバイスや実践を通じて、新しい気づきと出会えるかもしれません。社内では得られない新しい発見や経験を得るため、ひいては早期に成果へとつなげるために、プロ人材の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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