管理職は「仕組み」で育成するーサクセッションプランを成功に導く4つの実践サイクル

人事

2025年10月23日(木)掲載

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近年、これまで以上に、多様なバックグラウンドを持つ人々が同じ職場ではたらくようになりました。しかし、多様性の中で人材を活かし、人の成長と成果を両立させるマネジメントを実践するのは簡単ではありません。マネジメント層(管理職)のスキルアップに向けたカリキュラム設計や、次世代育成を見据えた全社的なサクセッションプランの確立を課題とする企業も多いのではないでしょうか。

人的資本経営が強く求められる今、どのようにマネジメント層の役割を定義し、サクセッションプランを描き、実践すれば良いのでしょうか。数多くの企業へ人材育成計画や制度設計の支援を行うプロ人材の中島 篤氏に聞きました。

現代のマネジメント層は「人の成長」と「組織の成果」の両面で期待されている

——多様な人材と向き合う時代になり、マネジメントの高度化や複雑化が指摘されています。中島さんは現代のマネジメント層の役割や重要性をどのように考えていますか。

中島氏:多様な人材や多世代の人材が同時にはたらく時代となり、20代と70代が一緒にはたらく職場が当たり前の時代になりました。以前のように世代ごとに明確に役割が分かれているわけではありません。そうした中でマネジメント層は、「人の成長」と「組織の成果」という二兎を追うことを期待されるようになったと感じます。

これらは以前からマネジメント層が担う役割だったのですが、人的資本経営などの文脈もあり、より明確にそれが求められるようになりました。いわゆる「成果第一主義」といった言葉を聞かなくなってきたのもその表れでしょう。

——マネジメント層の強化についての企業側のニーズでは、特に「人材育成力」や「戦略思考力」を伸ばしたいという要望が多いようです。

中島氏:日本は伝統的に「背中を見て覚えろ」とか、「自分がやったほうが早い」といった文化が見受けられ、部下の成長の機会を奪ってしまうことが少なくありません。管理職がいつもバッターボックスに立って成果を出し続け、結果的に「部下が育たない」と悩んでいるケースがその典型です。

個人で打点を上げる能力と、チームで打点を上げる能力は異なります。マネージャーがどれほどホームランを打っても、メンバーが1本も打てなければ評価されません。チームで成果を出す能力が求められるのです。

また、マネジメント層の中には勉強熱心な人が多く、短期的な戦術を描くことには長けている一方で、中長期の戦略策定に課題を感じる人もいます。こうした背景があり、持続的な人材育成力や戦略思考力を重視する企業が増えているのだと感じます。

「新任マネジメント研修を受けて終わり」の終焉。継続的な学びの機会を設けることが重要

——マネジメント層の強化に取り組む際のステップについてお聞かせください。

中島氏:私は「役割定義」「昇格基準明確化」「育成機会設計」「一気通貫のフィードバック」の4つのサイクルを回すのが良いと考えています。

まずはマネジメント層に期待される役割を明確に言語化、数値化して定義することです。チームで成果を出せる人はどんな人なのか、マネジメント層に期待される姿を理解できるように組織として掲げることが重要です。

次に、昇格基準や評価基準を明確化し、「何をもってこの人をマネジメント層とするのか」を社内外に周知徹底します。

育成機会の設計も重要です。マネジメントが停滞しないようにするためには、マネジメント層が成長するための場を設け、それを持続的に運用していく必要があります。

そして、マネジメント層同士や経営層からのフィードバックを実施する機会をつくります。昇進すればするほどフィードバックをもらう機会は減りますから、そうした場を意図的に設計した方が学びと気づきの場が醸成されるわけです。

この4つのサイクルは一度で終わりではなく循環していくものを前提とします。仕組みを確立し、行動変容へのアプローチを継続していく必要があります。

——企業が失敗しがちなポイントや、特に注意すると良い点はありますか。

中島氏:「育成機会設計」には特に力を入れた方が良いでしょう。

私が支援したことのある組織では、管理職になるタイミングで評価者研修を受けるだけというケースもあり、ベテランマネージャーは「20年前にこの研修を受けたきり」だと話していました。多くの日本企業ではこのように「新任マネジメント研修を入れて終わり」になることが多いですが、それでは不十分です。

継続的な学びの場がないと、当然ながらマネジメント層は育ちません。研修後には学んだことを実践する場が必要ですし、効果測定も必要です。「話して教える」「見せる」「実践してもらう」「フィードバックする」は、アルバイトの教育でよく見られる身近な育成サイクルなのですが、マネジメント層にはなかなか実施されていません。

企業側には「マネージャーになった人は自律して成長してくれるだろう」という思い込みもあるのでしょう。しかし、人間は基本的にそうではありません。課長層でも部長層でも、持続性のある学習機会を提供することが、組織の持続的成長のために求められます。

——「実践」や「フィードバック」では、具体的にどのようなことに取り組むと良いですか。

中島氏:私の支援方法としては、研修後に参加者同士でフィードバックし合う「後日ワークショップ」を設けています。

ある一例では、研修を受けたグループごとに3か月に一度集まり、職場で実践していることや課題を共有しました。また、360度評価をテスト導入し、部下に研修後の管理職の変化を評価してもらう取り組みも行っています。上に行けば行くほど褒められる機会が減るので、部下からの称賛や感謝のコメントも有効です。成功体験が重なれば人は成長し、より大きな組織をマネジメントできるようになります。

これらの状況を人事が横断的に把握し、組織一丸となって解決していく課題を抽出しています。これは昨今トレンドであるタレントマネジメントの観点からも、経営層や人事が注視する必要があるポイントです。

外部人材を活用するプロジェクトは、社内の人材育成のプロジェクトでもある

——次世代を担う人材の育成に向けた、サクセッションプランの策定や運用についても悩む企業が多いようです。中島さんはどのように支援していますか。

中島氏:私はまず「なぜサクセッションプランが必要だと考えたのか」を必ず聞くようにしています。「マネジメントを担える人材がいない」のか、「候補者はいるけど育てられない」のかで、必要な対応が変わるからです。

後者は先にお伝えした通りですが、問題が前者であれば、経営計画や戦略に基づき、どんな人材をどのポジションに求めているかを確認し、要件定義を経て人材アセスメントや選抜に入ります。候補者は段階的に必要なポジションへアサインします。ここでも「任用して終わり」ではなく、持続的な学びと実践、フィードバックを繰り返していくと良いでしょう。

コロナ禍以降、人々の生き方はさらに多様化しました。今はさまざまな自己実現の形があります。だからこそ、自社のマネジメント層に求めることを明確にし、どんな価値を出してほしいのかを定義して、会社と個人が「WILL」「CAN」「MUST」をすり合わせることが重要だと考えています。

——「マネジメント層の強化のためにプロ人材の力を借りたい」と考えている企業へ、プロ人材の力を最大限に活用するためのアドバイスをお聞かせください。

中島氏:プロ人材活用のコツは、早期に巻き込むことだと思います。なるべく課題が複雑化する前に相談してほしいですね。「制度や仕組みを作ったものの、うまくいかない」「タレントマネジメントシステムが重要だと考えてツールを導入したものの、うまく活用できない」、こうした状況になる前に相談してもらえるのが理想的ではあります。

もちろん、「課題のこの部分の知見がなく、どうにかしたい」といった一部の課題を切り出して支援依頼ができることもプロ人材活用の良いところです。「こんなことを聞いていいのかな」と思わずに気軽に相談してください。「どこが良くないかそもそもわからないけど、現状がベストだとは思っていない」というレベルでも良いと思います。私たちはその段階からでしたら、組織サーベイを実施して、組織診断から伴走することもあります。

また、外部プロ人材活用は「社内の人材育成」にも貢献できます。たとえば私が参画した人事プロジェクトでは、経営層だけではなく、若手人事パーソンにも参加してもらうようにお願いしました。自分たちの意見が施策に反映される手応えを感じ、私のような外部の考え方や実践方法を若手に習得してもらうためです。こうした実践上での体験は、研修や社内だけでは得られない貴重な経験であり、次世代幹部の大きな成長機会にも繋がります。

外部のプロ人材を活用するプロジェクトは、人材育成のプロジェクトでもある。その意識を持って協働できれば、より大きな成果を得られるのではないでしょうか。

【プロフィール】

株式会社CAQNAL 代表取締役 / iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授 中島 篤(なかしま・あつし)
1976年福島県生まれ。東北学院大学2部経済学科卒業。在学中は(株)紀伊国屋書店で契約社員として勤務し、昼間就業・夜間就学という二足の草鞋で過ごす。

卒業後、2001年にスターバックスコーヒージャパン入社。その後ユニクロをはじめ、大手人材派遣業等、複数の業界や企業で、現場、人事部長およびコンサルタントとして就業。その後2011年の東日本大震災を機に、一拠点、一事業会社に縛られない働き方改革や地方創生に関心を持ちフリーランスとして活動。(株)PERSOLでの複業プロジェクト等を経て、2018年株式会社CAQNAL(カクナル)を創業。

現場経験を活かした伴走型コンサルタントとして、リアルな組織診断、解決策を信条とし、慣例や既成概念に囚われない組織人事の制度設計や採用・研修・労務・DXの支援を実施。また自身も地方創生の観点から、積極的にテレワーク・ワーケーションを推進。現在は宮城県仙台市と東京の2拠点生活を軸に、全国様々な地域での企業支援、官民連携、そして人との出会いや食と酒を楽しむことをライフワークにしている。2025年5月から月刊飲食店経営にて執筆連載中。

まとめ

中島氏の解説の通り、マネジメント層の強化とサクセッションプランの推進は、単発の研修ではなく、「役割定義」「昇格基準明確化」「育成機会設計」「フィードバック」という循環的な仕組みによって成り立ちます。日本企業に多い「研修で終わる」という課題を克服し、実践と評価を繰り返すことで、マネジメント層を育成していくことが重要です。また、多様化するはたらき方の中で、会社と個人が「WILL」「CAN」「MUST」を共有することも重要です。
課題が深刻化する前にプロ人材を巻き込み、内部人材と協働して仕組みを磨き上げることが、持続可能な人材戦略と組織成長の近道となるでしょう。マネジメント層の強化とサクセッションプランを推進していくために、「HiPro Biz」のサービス活用を検討されてみてはいかがでしょうか。

経営支援サービス「HiPro Biz」

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