中小企業が新卒採用を成功させる方法

人事

2020年02月28日(金)掲載

ますます苦戦する中小企業の新卒採用動向

「大手新卒求人サービスに出稿しても、なかなかエントリーしてもらえない」「面接に至る学生が年々減ってしまっている」など、新卒採用がうまくいかず、悩む中小企業が増えています。文部科学省の「学校基本調査」によると、2018年3月卒の大卒就業者数は436,156人です。大卒比率が高まっているなか、新卒就職自体は増えていますが、企業の採用意欲が上回っており、中長期的な大卒求人倍率は増加傾向にあります。

中小企業の新卒市場は、なぜ厳しくなっているのでしょうか。最大の理由は、採用予算がある大手企業による採用のスピードが増し、囲い込みを強化していることでしょう。新卒採用に注力する大半の企業が、3年生の夏休み・冬休みにインターンシップを実施しており、とりわけ大手企業において優秀な参加者を早期内定につなげる動きが活発化しています。大手新卒求人サービス会社が発表している4月1日時点の内定率は、20~35%。軒並み対前年5%以上の伸びを見せています。

知名度やブランド力に加えて、採用予算が大きい企業に多くの学生が集まり、中小企業が新卒向けの求人情報サイトに埋もれてしまい、発見されずに終わる傾向は変わりません。予定の人員を確保できず、新卒や第二新卒の人材紹介サービスを頼るなど、中途採用にシフトをする企業も少なくないようです。

一方、学生の志向に目を向けると、安定や給与・待遇の重視度は相変わらず高いものの、「やりたい仕事ができる会社に行きたい」「将来性がある会社を探している」という声も増えています。働き方改革や同一職種同一賃金など、労働環境に関わる制度が変わっていくなかで、学生の注目ポイントは「どのような仕事をしたいか」「社風や会社の雰囲気が自分に合うか」という「内容や相性重視の就職」にシフトしてきています。このような声に応えられれば、中小企業も自社にフィットする学生を採用できる可能性が高まります。

需給バランスの変化により、ますます厳しくなる新卒採用マーケットですが、学生の行動が多様化するなか、発見率の向上や自社の魅力訴求によって採用に成功している中小企業も存在します。大事なことは、「何を伝えるか」「どう伝えるか」を明確にすることです。従来の手法を踏襲するばかりでは、学生に出会うことは難しいでしょう。

中小企業の「2021年版新卒採用方法」とは?

ここからは、中小企業が新卒採用に成功するための重要なポイントを紹介します。新卒求人サイトか、人材紹介サービスかと「採る手段」「伝える方法」に走る前に、明確にしておきたいことがあります。それは、自社の魅力と求めるターゲットです。誰に何を訴求するのかが定まらなければ、数多くの企業をチェックしている学生の目を留めることはできません。

最初にやるべきことは、自社が展開するサービスの社会的価値や顧客満足、将来像について、学生が理解できるように言語化することです。企業としてのポリシー、サービスの強みが具体的になればなるほど、競合他社と差別化できるようになります。「自分に合う会社」を探している学生に対して、企業・組織の風土や職場の雰囲気を伝えるのも重要なポイントです。

求めるターゲットを言葉にしようとすると、「自発的に考え、行動できる人」というよくある表現になりがちです。独自性のある短い言葉に落とし込めれば理想的ではあるのですが、無理にまとめようとせず、「活躍のモデル」「成長のステップ・シナリオ」を作れればいいのではないでしょうか。自社のビジネスに必要なコアスキル、適性、志向などを軸に据えながら、ターゲットにも多様性を持たせることができれば、ほしい人材からのアクセスを増やせると思います。

自社の魅力や強み、ターゲットから、最終的には募集要項の詳細までを固められたら、「採用コンセプト」としてまとめて関係者と共有しましょう。目的はエントリーを増やすことではなく、いい採用ができることです。「求人原稿に反映させて終わり」ではなく、広告や自社サイトによる募集から、面接におけるチェックポイントや選考プロセスまで、一貫性があるコンセプトとして機能させられれば理想的です。

中小企業でも勝てる新卒採用方法

「何を伝えるか」が明確になったところで、「いかに学生に発見してもらい、興味喚起・誘導ができるか」を検討します。採用予算に限りがある中小企業でも工夫できる採用手法を、いくつか紹介しましょう。

最初に考えたいアプローチは、従来の慣習を見直す「通年採用」です。メリットは大きく3つあります。1つ目は、新卒採用のベーシックなフローや大手企業と求人サービスの動向に振り回されることなく採用を進められることです。2つ目は自社の新卒サイトを常時オープンにしておけるため、年度ごとの制作コストや運用コストを抑えられることです。3つ目は自社サイトを継続的に育てて、検索エンジン対策(SEO)強化まで図れれば、採用単価を大きく改善できることです。

自社の強みとターゲットが明確になれば、自社サイトやSNSから発信できるメッセージやコンテンツの充実度が高まるのです。新卒求人サービスや人材紹介サービスへの依存度を下げて、採用効率を高める方法として、自社サイト強化・育成と通年採用は有効な手段です。

過去の常識に捉われない採用という意味では、「地方など遠隔地に住む学生へのアプローチ」も検討したいプランです。活用したいのは、全国の都道府県にある新卒応援ハローワークとのWeb面接システムです。東京や大阪でホテルに泊まって就職活動を行っている学生に、地元にいながらでも面接を受けられると伝えれば、候補者との出会いの機会を広げられるのではないでしょうか。

このほか、積極的に取り組みたい採用手法として、「1DAYインターンシップなど学生とのライトな接点創出」「大学の就職課とのリレーション構築による説明会などの実施」「自社サイトの求人情報を軸とした検索エンジン型求人広告の活用」「求人特化のターゲティング広告」などがあります。いずれも新卒求人サービスのように大量の学生に対してアプローチする手法ではありませんが、大手企業や人気企業と競合せずに情報を届けられるのが魅力です。

学生が中小企業に求めるもの

2019年に労働政策研究・研修機構が実施した「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」によると、新卒で就職した若年層が3年以内に正社員を辞めた理由の上位に「キャリアアップするため」「仕事が上手くできず自信を失ったため」「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」「人間関係がよくなかったため」「肉体的・精神的に健康を損ねたため」「会社に将来性がないため」という項目が並んでいます。これらは、中小企業が自社の強みをどう訴求していくかの参考になるのではないでしょうか。

業績が高い社員を抜擢するフレキシブルな登用制度、新入社員へのサポートが充実している職場、社長や役員と直接話せるような風通しのいい風土など、大手企業ではなかなか実現できない要素があれば、学生に対する効果的な訴求ポイントになりえます。人事制度や環境に強みがない企業でも、仕事の中身とやりがい、事業の将来性などをしっかり伝えられれば、エントリーの動機づけができる可能性があるということです。

過去には、新卒求人サイトを使わなければ、学生との接点を創れない時代がありましたが、検索エンジンの精度向上や多様なサービスの出現によって、中小企業が工夫できる余地が広がっています。まずは、採用コンセプトの構築と自社新卒サイトの強化が重要です。さらに、安価に利用できるサービスの活用を検討してみてはいかがでしょうか。新卒採用に成功しているのは、知名度が高い大手企業だけではありません。

執筆者奥山 真 氏

大手人材会社2社に在籍。メディア事業、Webサイト運営事業にて、編集・媒体企画・広告商品企画を担当。2014年に独立。採用サイトプロデュース、BtoC業界の人材紹介事業、ミドル・シニア領域のマッチングサービスを展開している。

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