「DX推進ができる組織の秘訣」セミナー開催レポート
2019年10月09日(水)掲載
イベント&レポート概要
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」をテーマにしたイベントが2019年9月2日に渋谷のTECH PLAY SHIBUYAにて開催されました。関心が高まる一方で、うまく進められていないという声も多いDX。今回は、実際に各企業でDXの推進に関わる3名が登壇し、具体的な成功事例・失敗事例を交えながら、“DXを実行しきる“組織になるためのノウハウを紹介しました。当日の模様をダイジェストでレポートします。
講師プロフィール
岩沢 武夫氏
株式会社毎日新聞社
執行役員デジタル担当 兼 デジタルトランスフォーメーション委員会副委員長
1985年に毎日新聞社入社。東京本社経済部で財務省、日銀、総務省、IT業界などを担当、デスクを経て、社長室でデジタル戦略や新規事業を担当。2009年からデジタルメディア局統括プロデューサー、局長を経て、2017年6月から執行役員。同7月にはベンチャー支援のための毎日みらい創造ラボを設立し代表取締役社長を兼務、18年10月にはスポーツニッポン新聞社とデジタル新規事業を共同で取り組むための株式会社CYMESを設立し、代表取締役社長を兼務。
友澤 大輔氏
パーソルホールディングス株式会社
CDO(Chief Digital Officer)兼 グループデジタル変革推進本部 本部長
1994年にベネッセコーポレーション入社。その後、ニフティ、リクルート、楽天などを経て、2012年にヤフー入社。マーケティングイノベーション室(本部)を新設。2015年4月に、マーケティングとコミュニケーションの双方を担当するCOO直轄のマーケティングセントラライズ組織であるマーケティング&コミュニケーション本部を新設し、本部長に就任。2018年10月からパーソルホールディングスへ転じ、2019年4月にCDO(Chief Digital Officer)兼グループデジタル変革推進本部本部長に就任。
鬼石 真裕氏
株式会社Kaizen Platform
フェロー
NTTデータでエンジニアを経験後、リクルート・ビズリーチ・グリーで、戦略・プロダクト・営業・事業責任者などを歴任。Kaizen Platformでは、福岡市との戦略提携・10000人のクリエイターネットワークの構築・カスタマーサクセス立上げを経て、300社のB2B大手営業・マーケティングの責任者を務める。2018年7月より、Kaizen Platformフェローに就任、同時に独立し、複数社のアドバイザーなどを務める。
section 1
各社の取り組み紹介
セミナー前半では、登壇者3名がそれぞれの企業におけるDXの取り組み状況を紹介しました。
トップに登壇したパーソルグループの友澤大輔氏は、「デジタル化を進めてきた会社が、もう一歩進んでデジタル変革をどう成し遂げていくのか、という難しい局面にある」と現状を説明。2018年10月の入社以来、経営陣に対してデジタル化やデジタル変革とは何なのか、目線を合わせることに努めてきたと話しました。
そのなかで「デジタル化=業務プロセス改革」と「DX=介在価値変革」と2つを区別。前者のデジタル化は、業務プロセスは変えず、アナログな部分をデジタル化していくこと、後者のDXとは既存の業務プロセスをいったん無視し、新たなユーザー体験を創出すること、と話しました。大企業ではデジタル化からスタートするものの、成功しない事例も多く生まれ、その取り組みをやめることや、業務プロセスを一度無視することが難易度が高いながらグループ全体でDX推進に取り組んでいると語りました。
続いて、毎日新聞社でDX推進に携わる岩沢武夫氏が登壇。
取り組みの背景として、発行部数減が進む中で、紙を前提としたビジネスモデルからの脱却が至上命題であることを説明しました。会社の大半を占める記者の「紙至上主義」マインドを変えていくため、昨年稼働したコンテンツ管理システム開発のタイミングに合わせ、「社員の意識改革」と「組織の見直し」の三位一体改革を進め、記者にデジタル変革をするための当事者意識を植え付ける取り組みを続けてきたと紹介。
また、DX委員会アドバイザーにアマゾン・ジャパン出身の外部専門家を招くなど、外部人材も活用。中期経営計画に「超新聞」を掲げ、単なる紙からデジタルへの置き換えではなく、「デジタルで新聞コンテンツの価値を再定義する」ことを目指していると語りました。
3人目に登壇したのは、各企業のDX支援を担うKaizen Platformフェローの鬼石真裕氏。
これまで大手企業とベンチャーの両方に勤務し、さらにエンジニア、マーケティング、営業など幅広い職種を経験してきたことが、現在のDXコンサルタントとしての活動に活きているといいます。鬼石氏が考えるDXとは、「デジタルを手段に世の中を“革新的に”より良くする」こと。それによって顧客の体験が革新的に変わる、あるいは企業にとって実績が大きく上がる、といった結果を伴ってこそのDXであると解説。
リアルでできることがデジタルでできるようになる、ことだけではなく、顧客の体験がどう変わるのかを考えよう、とメッセージしました。またリアルをデジタルで置き換えた事例として、ジャンルが異なるブランドをECで統合したときに、顧客が支持していたブランドがなくなってしまって、良い成果につながらなかった失敗事例も紹介し、顧客の体験がどう変わるかをイメージしながら進めていく重要性を指摘しました。
section 2
登壇者3名によるパネルディスカッション
section 2では、岩沢氏、友澤氏、鬼石氏の3名がパネルディスカッションを展開。TECH PLAY事業責任者を務めるパーソルイノベーション株式会社・片岡秀夫氏をモデレーターに、“DXを実行しきる“組織になるために必要なことについて意見を交わしました。
DXを推進する上でのポイントは?
友澤氏は、変革を進める上で壁となる「チェンジモンスター」の存在がプロジェクトの進行に大きく影響することから、組織編成は重要なポイントだと指摘。特にそこでのクイックウィンでの成果を出すために、成功・失敗が曖昧なダッシュボード導入などの可視化を最初におこない、DXを推進する組織・キーマンを明らかにすることの重要性に言及。また、過去の失敗事例を挙げて「顧客視点とデータドリブンは、DXをうまく進める上で不可欠な要素」と語りました。
岩沢氏は、毎日新聞社での取り組みを振り返り「トップダウンでの号令だけでは進まない。いかに“自分ごと”にさせるかがポイント」と語り、編集も営業も、デジタル・紙の区分なく責任を持つ体制に変換したことで、意識が変わってきたことを紹介。ページビューをはじめとする読者の反応を速やかにフィードバックし、記者がデジタルの双方向性を実感できるような取り組みを重ねてきたことを説明しました。そういったボトムアップでの意識改革と、トップダウンの号令、の両方で推進する必要があると話しました。
鬼石氏は、過去の失敗例をもとに、プロジェクトの最初の段階での設計の重要性を強調。手段が目的化してしまっていたり、最初にデザインした目的・イシュー設定が曖昧だと、推進しながらねじれていってしまうことがあると話しました。DXを進めた先に顧客にどのような体験を提供するのか、目指すところをスタート時にきっちりと詰めておくことが、その後のプロジェクトの成否を左右すると指摘しました。
DXを推進する際の優先順位のつけ方は?
友澤氏は「サイロ化しているものをデジタルやデータの力でうまくつなげ、ユーザーにより良い体験を提供できるようになることが企業側にとっての最大の価値」と説明した上で、優先順位として「ばらばらになっているものをユーザー視点でどうつなげるのかを考えることが先決。そのために、DXの定義の話とかではなく、まずは模範作りやクイックウィンを大事に、見える化をすることで、いろいろな人の理解を得たり、巻き込んだりしやすくなる」と回答。
鬼石氏は、初めの設計の重要性に再度言及し、次の段階として「①現場のキーマンを巻き込んで小さな成功体験をつくり、②成果を大々的に発信してその人をヒーローにし、③社内の理解や支持を広げ大きな変革につなげる」という3つのステップを、実例を交えて解説。クイックウィンで実施し、社内外PRを徹底的にやるべき、と強調。その際の目標設定については「ケースバイケースだが、中期的な灯台になるような方針がとても重要である」と話しました。
岩沢氏は、取り組み開始当初、編集のメンバーが総じて“抵抗勢力”だったことを明かし、編集の責任者を DX の責任者にしたことで状況は180度変わった、そして編集に続いて営業、さらにバックオフィスとデジタル変革がしやすい部署から変革に取り組んでいる、と話しました。加えて「デジタル収益を上げるという共通のゴールに向けて、数字を共有することを最初から徹底した」と振り返りました。
担当者がまず着手することは?
友澤氏は自社での取り組みを例に、「上流の人たちの理解を揃える」「現場のキーマンを探す」「その人を巻き込んで組織をつくる」の3つを、最初に着手することとして紹介。「ただしその際に、DXに対する期待値が上がり過ぎると、高い目標を達成できずに失速するケースも多いし、期待値が小さいと投資もされない。期待値を適度にコントロールして成功体験を現場と分かち合えるかが鍵になります」
岩沢氏は、変革を実現していくには「取り組みが進んでいる、効果が上がっているという実感を、一人ひとりが持てるようにすることが大事」と語り、成果を逐次共有するような仕組みを整えることを提案。
鬼石氏は、「シンプルに1つ挙げるなら、社内のことに誰よりも詳しくなること。『自社におけるDXとは何か』を考える上で、現時点での会社のアセットや、競合と比較しての強み・弱みなどを正確に把握しておくことはとても重要」と回答。
組織づくりや外部人材活用におけるポイントは?
友澤氏は、コミュニケーション力や協調性といったソフトスキルが高い人をトップに据えた方がうまくいくと語り、加えて、社外の知見を取り入れるなど、客観的なアドバイスを得ながらプロジェクトを回すこともポイントとして指摘。また、エンジニアが育つ環境として、挑戦する打席数=プロジェクトが十分にあること、それに対する適切な評価の仕組みをつくることが重要と解説しました。
鬼石氏は「エンジニアは非エンジニアに評価されることを特に嫌がるため、内製化を図るのであれば、最初にエンジニアマネジャーのポストを担える人材を、フルタイムでなくても良いので見つけることが重要。その体制が整うまでは内製化しない方がいい。」と説明。また、特化したスキルで活動する個人が増え、大手企業側もそうした個人を受け入れる体制が整ってきている潮流に触れ、「経験がある人を少ないかどうでもいいから入ってもらって、その人の経験と時間を買うこと。そうするとそれに食らいつく内部人材も育っていく。」と助言しました。
岩沢氏は、ベンチャー支援やデジタル新規事業推進を目的にした別会社を立ち上げ、そこで別の給与体系・人事制度を整えることで、優秀なエンジニアの採用に取り組んでいることを紹介。外部アドバイザーの活用に際しては「何のためにサポートしてもらうのか、という目的や役割を明確にすることが大切。綿密にディスカッションを重ねながら、われわれが目指す方向を肉付けし、強化をしてもらう役割で参画いただいています」と説明しました。
まとめ
参加者への事前アンケートでは、自社の状況として「DXの取り組みをまだ始めていない」または「始めたばかり」という回答が3/4を占めた今回のセミナー。そのため具体的なノウハウへの関心は高く、パネルディスカッションでは、参加者が匿名で質問できる「Sli.do」を使った質疑応答も活発におこなわれました。最後に登壇者から、「DXは会社の未来を担うプロジェクト。楽しんで取り組んでほしい」(鬼石氏)、「仲間を増やし、できることから少しずつ実績を上げていくことが大切。いっしょに頑張りましょう」(岩沢氏)、「今日のこの集まりも一つの縁。情報をうまく共有させながら進めていければ」(友澤氏)と激励のメッセージが贈られました。