サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?成功事例や導入のポイントをわかりやすく解説
2022年06月14日(火)掲載
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新型コロナウイルスの感染拡大、働き方改革の推進、環境・人権問題への取り組みなどにより、ビジネスを取り巻く環境は、ここ数年で目まぐるしく変化しています。
また、消費者行動においては、Z世代と呼ばれる若者たちの台頭によって、製品・サービスの個別最適化を求める声は次第に大きくなっています。
これらの変化への対応が急務ではあるものの、従来の部分的なサプライチェーンの最適化では、対応に限界を感じている企業も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、近年注目を集めているサプライチェーンマネジメント(SCM)によるサプライチェーンの全体最適化について、詳しく解説していきます。サプライチェーンマネジメント(SCM)の定義や必要とされる背景、導入のメリット・デメリット、具体的な成功事例を通じて、サプライチェーンマネジメント(SCM)に関する理解を深め、ぜひ企業間連携の強化に役立ててください。
■サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?
■サプライチェーンマネジメントが求められる背景
■サプライチェーンの課題・問題点
■サプライチェーンマネジメントのメリット・デメリット
■サプライチェーンマネジメントの成功事例
■まとめ
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?
サプライチェーン全体での取り組みが加速する現在において、サプライヤー、製造業、物流業、卸小売業の連携はこれまで以上に重要となってきます。そのための手法として注目を集めているのがサプライチェーンマネジメント(SCM)です。
サプライチェーンの意味
サプライチェーンは、供給連鎖と訳され、商品・製品が消費者の手元に届くまでの流れを表す言葉です。私たちが目にする商品・製品は、原材料・部品の調達、工場での生産、物流拠点からの配送を経て、小売店や専門店で販売されています。商品・製品の供給を実現するためには、複数の企業との連携が欠かせません。
つまり、サプライチェーンは商品・製品の供給に必要な企業のつながりを鎖に見立てたものであるといえます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは、直訳すると供給連鎖管理を意味する言葉です。
市場に流通している商品・製品は、ユーザーの手に届くまでに複数の企業が関与し、バリューチェーンごとの事業活動を経て販売に至っています。サプライチェーンマネジメントは、この供給までの流れを全体最適化するためのマネジメント手法です。
サプライチェーンマネジメントを通じて、各バリューチェーンを担当する企業との連携を強化することで、一連の流れの高速化やコスト削減を期待できます。
サプライチェーンマネジメントの手法とは
サプライチェーンのマネジメント手法には、主に「予測・計画」「実行・実施」「評価・モニタリング」という3つのセクションがあります。
予測・計画は、商品・製品の需要から必要な数を割り出し、仕入・生産・補充計画を立てる工程です。この読みを誤ってしまうと、過剰在庫によって廃棄ロスが増大する、あるいは商品・製品数が足りずに機会損失を生んでしまうなどのデメリットにつながります。
実行・実施は、計画に基づいてモノの流通を効率化する工程です。この工程を通じてリードタイムを短縮していくことで、エンドユーザーに対してタイムリーな商品・製品の供給を実現できます。
評価・モニタリングは、計画と実績を照らし合わせ、効果や過程を評価・モニタリングする工程です。サプライチェーン全体で改善できる業務を定期的に洗い出すことによって、職場環境のアップデートだけでなく、市場の変化にも柔軟に対応できるようになります。
SCMとERPの違いとは
SCMと混同されやすい言葉として、ERPという表現があります。
ERP(Enterprise Resources Planning/エンタープライズ・リソース・プランニング)とは、企業資源計画を意味する言葉です。ここでいう企業の資源(リソース)とは、ヒト・モノ・カネ・情報を指します。ERPはこれらを有効活用するために、基幹業務を統合的に管理するための手法です。
SCMとの違いは、緩衝領域です。SCMが複数の企業にまたがる業務プロセスを管理するのに対して、ERPは1企業の経営資源を管理の対象としています。
サプライチェーンマネジメントが求められる背景
サプライチェーンマネジメントが再び注目されるようになったのは、「労働人口の変化」「ビジネスのグローバル化」「AI、IoT技術の変革」という3つの背景があります。
労働人口の変化
日本は少子高齢化が進んでおり、それに伴う労働人口の減少が問題視されています。
製造業においては、いわゆる職人技とも呼ばれる、技術者たちの繊細な手仕事に支えられてきました。しかし、熟練技術の伝承は誰でも簡単にできるわけではありません。加えて少子高齢化によって、長い年月をかけて後継者を育てることが難しくなり、製造業者はより効率的な技術伝承を求めるようになります。
一方、物流業では、長距離運行による労働時間の増大が問題となり、トラック運転手の減少・高齢化が進んでいます。しかし、越境ECの登場によって配送の多頻度化・小口化のニーズが増したことで、ドライバーの負担は増し、物流コストの上昇という新たな問題も抱えることになりました。これによって物流業では、物流センター機能や物流ネットワークの拡充を行い、従業員の負担軽減に注力する企業が増えています。
このように労働人口の変化がサプライチェーンにもたらした影響は大きく、部分的な最適化では限界が近づいているという現状から、サプライチェーンマネジメントによる全体最適化が求められるようになりました。
ビジネスのグローバル化
越境ECをはじめ、近年ではビジネスのグローバル化によって、海外から部品を取り寄せるだけでなく、海外に生産・物流拠点を持つことも珍しくありません。
しかし、事業活動のネットワークが広がる一方で、リスクも増大しています。新型コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンの寸断は、まだ記憶に新しい出来事でしょう。
このように広域化・複雑化するサプライチェーンを一元管理するためにも、サプライチェーンマネジメントの導入が必要といわれています。
AI、IoT技術の変革
第四次産業革命によるデジタル技術の進歩により、AI・IoTを主軸とした自動化・省人化に取り組む企業が増えています。
製造業ではインダストリー4.0の推進によるスマートファクトリー化、物流業ではロジスティクス4.0の推進によるスマートロジスティクス化が話題となり、データの利活用が進んでいます。
これによって、データ連携基盤が整い、サプライチェーンの全体最適化に対するハードルが下がったことで、以前よりもサプライチェーンマネジメントの導入を現実的に考えられる状態となりました。
サプライチェーンの課題・問題点
産業のグローバル化が進んだことで、サプライチェーンの課題は複雑化し、対処が難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。ここではサプライチェーンの課題として挙がりやすい5つのポイントをご紹介します。
欠品や過剰在庫が発生する
サプライチェーンでは複数の企業が関与している関係上、消費者の望んだタイミングで商品・製品が購入できる環境を作るためには、需要予測の精度が求められます。しかし、近年はECの台頭によって国内外から自由に商品・製品の購入ができるようになり、以前よりも需要予測が難しくなっている状況です。
そのため、店頭や倉庫にて欠品・過剰在庫が発生することも珍しくありません。消費者が欲しいものを確実に購入できるように環境を整えるには、需要予測のレベルを高め、サプライチェーン上で関わる企業とのスムーズな連携が求められます。
人的リソースが足りない
厚生労働省から発表された2022年8月の労働経済動向調査では、サプライチェーンの中核を担う製造業と運輸業において、慢性的な人手不足が起きていることが明らかになっています。
人的リソースが足りていない状況下でも円滑に業務を進めるためには、業務プロセスを抜本的に見直し、不必要なタスクの省略や、AIなどによる代替を行うことが重要です。企業が人材不足の課題と向き合うため、業務の効率化・省人化を着実に進めていくことは避けて通れないでしょう。
サプライチェーンの全体把握が困難
サプライチェーンでは自社での個別最適化が進む一方で、各社の連携を含めた全体最適化に課題を抱えています。この原因を占めているのが、全体像を把握するためのサプライチェーンの可視化ができていないという点です。
この可視化が進んでいないと、情報連携に遅れが生じるだけでなく、販売状況に応じて生産計画を修正する、販売実績を新商品の開発に役立てるなどの活用もできません。そのため、まずはデータを収集・加工・整理するための環境を構築することが重要です。
環境にやさしいサプライチェーン構築
内閣府が2022年に発表した日本経済2021-2022において、環境保護に対する社会の要請が強まり、サプライチェーンにも影響を及ぼしていることが触れられました。
具体的には2015年に採択されたパリ協定をきっかけに、脱炭素化やカーボンニュートラルの取り組みが始まっています。これらの取り組みが加速することによって、大手企業を中心にサプライチェーン上の企業に対して温室効果ガスの排出量の開示を求める動きが生まれている状況です。
この取り組みを怠った場合、サプライチェーンからの排除リスクが高まってしまうため、企業では環境にやさしいサプライチェーンを構築することが重視されています。
災害や海外情勢などの緊急時における脆弱性
パンデミックによる移動制限や、半導体をはじめとする重要物資の取り合いなど、近年では予期せぬ事態に対してサプライチェーンの脆弱性が明らかになっています。
また、日本は自然災害の多い国でもあるため、台風や地震に遭った際、サプライチェーンの寸断リスクを最小化するためにも、調達先・生産拠点・倉庫の分散や、部品の共通化、代替品の採用を通じて、有事の状況でも供給をストップさせない対策が求められています。
サプライチェーンマネジメントのメリット・デメリット
ここではサプライチェーンマネジメントの導入によるメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
サプライチェーンマネジメントの導入メリットは、「対応力の向上」「リソースの最適化」「在庫の可視化」「トレーサビリティの向上」「利益の最大化」にあります。
対応力の向上に関しては、情報集約による判断スピードのアップが関係してきます。サプライチェーン上の情報を一元管理し、供給や需要の変化に素早く対応することで、リードタイムの短縮が期待できるでしょう。
リソースの最適化に関しては、サプライチェーンの全体把握があって成り立ちます。どのタイミングで、誰を、どこに配置したほうが業務を効率的に進められるかという点において、前工程や後工程を担当する他社の状況が分かることで、よりリソースの活用を柔軟に考えることができるでしょう。
在庫の可視化に関しては、小売業や物流業だけのメリットではありません。在庫状況が正確に把握できることによって、過剰在庫や欠品を予防する以外に、生産計画の見直しにも役立てることができます。
トレーサビリティの向上に関しては、消費者に対する信頼性の担保に役立ちます。また、トレーサビリティによって全ての履歴が記録されることで、予期せぬ問題が発生した際も原因究明や回収作業がしやすいというメリットもあります。
利益の最大化に関しては、ユーザー満足度の向上に起因します。前述した4つのメリットによって顧客接点が拡大することで、エンドユーザーの新規獲得やロイヤリティ向上が期待できるでしょう。また、業務効率化によるコスト削減で、支出を抑えられる点も、結果的に利益を高めることにつながります。
デメリット・注意点
サプライチェーンマネジメントの導入におけるデメリット・注意点は、「導入コスト」「需給バランス」という点にあります。
導入コストに関しては、サプライチェーンマネジメントに要する金銭的・時間的コストが該当します。サプライチェーンマネジメントの導入には、システムの導入費・維持費はもちろん、業務プロセスの再設計や運用に向けた研修など、従業員にも負荷がかかります。この金銭的・時間的コストとの向き合い方によっては、サプライチェーンマネジメントの導入ハードルは高まるかもしれません。
需給バランスに関しては、全体最適化の都合が関係しています。サプライチェーンマネジメントの性質上、どうしてもメインストリームを重視するため、細かい要望をキャッチできない可能性があります。小さなニーズにきめ細かく対応することを経営理念としている場合、必ずしもサプライチェーンマネジメントの導入で利益を得られるとはいえないでしょう。
サプライチェーンマネジメントの成功事例
ここではサプライチェーンマネジメントに取り組んだ成功事例として、5社の事例をご紹介します。
日用品メーカー/A社の事例
A社がサプライチェーンマネジメントを通じて注力したのは、ロジスティクス部門の強化です。同社は品数の豊富さが競合優位になる一方で、膨大な数の商品をリアル店舗に滞りなく供給することに課題を抱えていました。
そこで同社はサプライチェーンマネジメントで流通チャネルを可視化し、物流拠点を起点にした在庫の最適化に取り組みました。店舗の発注情報より需要を予測し、生産工場から全国各地の物流拠点に必要な数だけの商品を輸送・保管することで、品切れによる機会損失を予防しています。
同社はこの基盤構築にサプライチェーン専門のエンジニア集団を組織し、他部門とも連携しながらオペレーションの高度化を行っています。
自動車メーカー/B社の事例
B社がサプライチェーンマネジメントを通じて注力したのは、人材・環境に配慮した物流改善です。物流業界では、兼ねてより慢性的な人手不足に悩まされており、カーボンニュートラルという共通課題への対応も求められていました。
そこで同社は複数の企業との協業プロジェクトを発足し、自社が持つCASE技術と、他社の持つノウハウを組み合わせることで、サプライチェーンの全体最適化を目指しました。
このオープンイノベーションを通じて、B社はトラック物流と軽商用車をつなぐ物流ネットワークの構築、サステナブルな電動軽自動車の普及など、自社だけでは実現しにくい高度な課題に取り組んでいます。
出版商社/C社の事例
C社がサプライチェーンマネジメントを通じて注力したのは、市場の可視化による需要開拓です。同社は出版社と書店の連携強化を図ることで、さらなる需要喚起を目指しました。
具体的には書店のPOSデータと、社内の仕入・営業・物流部門のデータを連携させることで市場の可視化を行い、流動的な読者のニーズを的確に捉え、在庫コントロールに向けた販売施策の提案につなげています。
食品メーカー/D社の事例
D社がサプライチェーンマネジメントを通じて注力したのは、需要予測の精度向上です。流動的な消費者ニーズに対応するためには、国内外のサプライヤーや取引先との連携が急務でした。
そこで同社はSCMシステムパッケージの導入を軸に、サプライチェーン上に存在する企業間でのシステム連携基盤の構築を目指し、PSI(生産・販売計画・在庫)の一元管理と、管理サイクルの短縮化を推進しています。
また、国際的な研究会などにも参加し、日本の商習慣の提言やグローバル標準の動向理解などにも積極的に取り組んでいます。
アパレルメーカー/E社の事例
E社がサプライチェーンマネジメントを通じて注力したのは、倉庫の自動化です。当時、同社は物流パートナーへの依存によって現場の実態を把握できておらず、現場の混乱による配送遅延などに悩まされていました。
そこで同社は、サプライチェーンマネジメント専門の部署を設立し、物流システムの改革に本腰を入れました。RFIDタグ、産業ロボット、AIカメラなどを駆使し、商品の入荷・検品・搬送・保管・出庫指示など、物流倉庫で発生する多くの作業の自動化に成功しています。
また、RFIDタグはリアル店舗でも活躍し、セルフレジでの一括読み取りによる待機時間の短縮、検品・棚卸の効率化、万引き防止にも役立てられています。
まとめ
本記事では、サプライチェーンマネジメント(SCM)の概要と求められる背景、SCM導入に関するメリット・デメリット、具体的な成功事例についてご紹介しました。
少子化による働き方改革の実施、グローバル化による消費者ニーズの多様化、カーボンニュートラルをはじめとする環境対策などにより、サプライチェーンの全体最適化を求める声は日に日に高まっています。
特にEUでは欧州気候法による法的拘束力が発生している関係で、CO2削減に非協力的な姿勢を見せてしまうと、サプライチェーンからの排除リスクが高まる可能性もあるでしょう。今後はこれまで以上に企業間連携を強化し、協働に課題解決に取り組むことが重視されます。
とはいえ、サプライチェーンマネジメントによる全体最適化は国内でも成功例が決して多いとは言い切れず、なかなか手を出しにくい印象もあるのではないでしょうか。「企業間での交渉が進まない」「データをどのように活用すべきか判断できない」「マス・カスタマイゼーション(多品種少量生産)や共同配送の仕組みをどのように構築すべきか分からない」「他社の事例を上手く活用できない」など、課題は多種多様です。
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