DX時代の企業ブランディングと採用戦略
2020年10月13日(火)掲載
DX時代の企業ブランディングと採用戦略
DXとは?
新聞を読んでいても頻繁に目にするようになりました「DX」という言葉について、
まずはこちらの言葉の解説をさせていただきます。
「DX」とは、Digital Transformation(以下、DX)の略として使われている言葉です。総務省より、このDXという言葉自体は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされており、 その意味合いは「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」となります。
また、我が国でも、経済産業省(以下、経産省)がこのDX推進に力を入れていくことが方針とされています。具体的に、我が国では、「DX推進ガイドライン Ver.1.0(平成30年12月)」により、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
つまり、DX推進の目的は強い企業(競争優位のある企業)を作ることを目的としていることがわかります。
もちろん、この背景には「生産性向上」や「労働人口の減少」また、「古い基幹システムからの脱却」という課題解決を解決するためということになるでしょう。
※古い基幹システムのまま事業を進めていることで、生産性があがらない企業が多く、経産省によると、人材不足と古い基幹システム問題で2025年から2030年までの間に、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると言われています。
・DXとは、Digital Transformationのことであり、デジタル化をし、強い企業を確立することを目的としている。
DX時代の企業ブランディングとは
本論の企業ブランディングの目的は採用戦略に向けてという意味合いになりますが、本質的には採用ブランディングと企業ブランディングは統合されていきます。
では、「DX時代の企業ブランディング」とは何でしょうか。
企業ブランディングとは?
この前に、「企業ブランディング」とは何かということをまずは説明させていただきます。
経営資源を考えるとき、「人・モノ・金」と考えられていましたが、その後、情報化社会が進み、「人・モノ・金・情報」と言われるようになりました。しかし、今では、第5の経営資源として、「ブランド」も重要であると言われています。つまり、経営資源は「人・モノ・金・情報・ブランド」という考え方になります。
このように重要さを増す「企業ブランディング」ですが、その意味は、企業経営における第5の経営資源といわれる「ブランド」を戦略的に高める施策や方策を指します。特に社会における企業信頼を高める方策のこと指します。
つまり、「企業と社会の関係性・つながり」に関するテーマになります。そのため、「具体的な製品の売上アップ施策」とは異なります。
例えば、この企業ブランディング(関係性構築)のために、例えば、企業メセナ(企業主導の文化・芸術活動)やCSR(企業の社会的責任)活動に力を入れている会社も多くあるというのが現状ではないでしょうか。
ではDX時代の企業ブランディングはどうするべきなのか
それでは、話を戻しましょう。
今までの「企業ブランディング」に関する説明を踏まえたうえで、「DX時代の企業ブランディング」というワードになると、企業ブランディングはどのように変わるのでしょうか。 ここではいくつかのアプローチを考えてみます。
まず1つ目のアプローチです。例えば、経済産業省と東京証券取引所ではデジタルトランスフォーメーション銘柄を設け、株式市場で展開しています。その株式銘柄の選定基準については「DXも具体的な取組み(ビジネス・業務の変革)」となります。評価基準の詳細は「稼ぐ力・成長への貢献、将来性・発展性、環境や社会への貢献」を基本に置き、「革新的な生産性向上」「既存ビジネスの変革」「新規ビジネスの創出」から構成されています。
つまり、この選定基準通りに実施、この銘柄に含まれることが一つの企業ブランディングとなります。
続いて、別の視点としては、DX時代の企業ブランディングの伝達方法について考察します。広義の意味においてのステークホルダーに対し、効果的・効率的に自社のブランディングを伝達しなければいけません。また、これを従来の縦割りのデータ管理で行うのではなく、横串で行う必要があると思います。
例えば、株主全体へのコミュニケーションではなく、「株主かつ主要顧客」というセグメントの方にはどのような関係構築が好ましいのかなど、より個別的なコミュニケーションを効率的に実現させていくことが重要だと考えられます。
・企業と社会の関係性・つながりをテーマにするものが企業ブランディングであり、それはDX時代の前から非常に重要なものである。
・DX時代の企業ブランディングでは、はデジタルトランスフォーメーション銘柄の選定基準を満たすような戦略が求められるのはもちろん、株主だけではなく主要顧客などにも目を向けた、コミュニケーションを実現することが重要。
DX時代の採用戦略とは
このような中で採用戦略はどう変わっていくのでしょうか。
本質的に変わることは何もないでしょう。データやデジタルを組み込んで効率的に行うということになると思います。
例えば、新卒採用を考えるときに、母集団形成を重要視する会社もまだ多いのではないでしょうか。もちろん、一人一人の学生としっかり向き合い、コミュニケーションを取ることに関して否定するつもりはありません。
しかし、社内の人材の特徴を分析・調査することでマッチングしそうな学生を絞り込むことは、それほど難しいことではありません。
いわゆる適性検査というツールを活用することで母集団形成は確保しつつも、面接する人数を減らし、絞り込んだ学生とより濃密なコミュニケーションをとる方が、結果的な採用後のミスマッチは大きく軽減されるでしょう。
また、絞った学生を帰納的に考え、どこに出現するのかを分析することで、求人広告費をより効率的に分配することもできるようになります。
そして、このようなデータ分析の活用が、DX時代の採用戦略となります。データとデジタルを活用し、生産性を高めながら、「よい人材を採用する」という結果を出すことが採用担当には求められます。
では、具体的に何からはじめていくのか?具体的に何からはじめていくのか、これに関しても、原則的には今までの採用戦略の構築と大きな違いはないと私は考えております。
通常のステップを大まかにと振り返ると以下の通りです。
① 理念・ミッションの実現へ
② ①を実現するために立てた中期経営計画(ビジョン)の達成
③ ②を実現させるために必要な人材を明確にする
④ ③の人材が出現する場所で効果的な広告を露出する
⑤ ④で集めた応募者と人間関係を構築しながら選考する
⑥ ⑤で内定となった人材が入社し、活躍するようにフォローする
この流れの中において、データとデジタルをしっかりと活用し、生産性を向上させることを考えていきます。
例えば、既存社員の人物タイプを分析し、求める人物要件を具体的にする
例えば、求める人物はどこに出現するのかを分析する
例えば、早期退職者の傾向を分析する
例えば、動画を活用し、面接の品質を担保する
例えば、面接を一部オンライン化させ、表情分析をかける
例えば、入社者以外の応募者とのコミュニケーションを自動化させ、関係構築を図る
例えば、教育・研修をデジタル化・オンライン化させる
少し考えてみるだけで、今のやり方の延長線上に少し知恵を加えることでできることがたくさんあることをご理解ください。
DX化される中で、人事や採用担当に求められる最も大切なことは何かというと、それは「自分の頭で考えて、業務にあたること」になります。DX化し、データやデジタルであらゆる情報が容易にまとめられるようになります。今まではそれをまとめる作業が仕事になっていた方も多いと思いますが、これからはその情報をベースにどう動くのかということを考え、会社に提案していくことが求められます。
ぜひ、自社のDX時代の採用戦略を考える過程を、皆さん自身がDXで活躍できる人材にバージョンアップする機会に活用してください。
・DX時代において、データを元に思考することが、今後活躍する人材には求められることになる。
DX時代、エンジニア採用は鍵になるか
またDX時代に需要が急増するのはエンジニア職です。DX化される中でも採用の本質的な部分は変わらないと述べましたが、エンジニア採用も大きく変わることがありません。
しかし、テクノロジーやデータ活用を目標にする世の中が新興すると、エンジニアを採用する難易度が上がってくることは間違いがありません。エンジニア採用ができない背景として考えられることは複数あります。
現場に携わらない人事が採用をしている
例えば、現場に携わらない人事が面接をしている例などがあげられます。このため、現場を全く知らない人事が、求人広告を作成し、知識がないため抽象度の高い記事になってしまい、人が応募してこない背景があります。
さらに、案件の詳細は機密情報だとして、採用する際の広告に案件がどういったものか書いていない例もありますが、そういった場合も要注意です。エンジニアの仕事内容、どういった職種で採用になるのか、その詳細をできる限り善処して記述しましょう。
キャリアや将来性に不安がある
転職するエンジニアの多くが、給料を理由に退職していると言います。エンジニアの需要は高まっていますので、社外に出ると需要は非常に多くあります。それにより、いつでも転職しやすくなっています。
また、自社の将来性に不安があると転職してしまったり、自社のビジョンに少しでも乖離を覚えると辞めてしまったりなど、市場価値の高いエンジニアだからこそ、エンジニア自身もどこに行っても困らず、なかなか定着が難しいものです。
・エンジニア採用に悩む企業は多く、それは社内体制などに課題があることが多い。
・エンジニアは市場価値が高く、流動性の高い人間であることが一個の特徴であり、そこを対策していくなど、採用の手段が重要になる。
まとめ
DX化する中で、企業ブランディングがどうなっていくべきか、どのような採用戦略を作成するべきか説明してきました。VUCA時代と呼ばれる今、不確実なことが多く、さまざまな面からブランディングを考案し、採用戦略にまで落とし込んでいく必要があります。今、多くの企業が取り入れているのが、社外視点の活用です。今後のブランディングや採用に関して、お困りのことがあった際は、HiPro Bizなど自社以外の視点を取り入れ、外部人材を活用することも時に重要になります。
執筆者K.S氏
採用定着支援の専門家である採用定着士®の育成機関である一般社団法人採用定着支援協会を運営。開講から1年6か月で北海道から沖縄まで全国に社労士を中心に200名以上が受講。「お金をかけず定着する人材を採用する」(労働新聞社)など著書多数。