成果の出せるIT・RPA活用による稼働工数削減
2019年10月02日(水)掲載
RPA等の先端技術は、国が推奨している働き方改善、業務改善の取り組みを支える技術として、大きな注目を浴びています。
しかしながら、こういった先端技術はイメージだけが先行し、実際は正しく使いこなせている企業が少ないのが現状です。また未だに多くの企業では、興味はあるものの、導入効果がわからないために、導入に踏み切れないということも多いかと思います。
今回は、業務改善の達成をテーマに、どのようにこれらの先端技術を活用して稼働工数削減を達成していけるかを見ていく事にします。
大前提としてのIT化の導入
RPAは言わずともITをベースにした技術であるので、そもそも社内のITリテラシーが低く、IT化対応自体が出来ていない企業では、当然ながらこのような技術の恩恵を受ける事はできません。まずは社内のIT化を進め、アナログな働き方をデジタルに変えていく労力が一番初めに必要となります。
また、IT化を進めるだけでも、場合によっては大きな稼働工数削減が達成され、業務改善の目的を達成できるケースがあります。RPAの前にまずはIT化の進め方について詳しく解説していきます。
1. 現状のアナログな働き方の分析と対策
以前より、紙を使ったアナログな働き方は減少傾向にありますが、未だに多くの企業でIT化が進んでおらず、受発注の管理、請求業務等の経理処理等を紙で行っているケースもあります。人間というものは怖いもので、こういった作業が不便だと気付いていても、経路依存症といって、従来の方法に囚われてしまったり、そもそも環境によっては、このようなアナログな方法が古いということに気付かない場合があります。
RPAはデータがデジタル化されているという大前提が無ければいかなる使用も出来ないため、まずは日々の業務の中で、デジタルでなくアナログに依存している割合がどの位あるのか、またその稼働工数がどの位なのかを整理し、把握する事がIT化による業務改善の第一歩となります。
2. アナログな働き方をデジタルへ
上述したような、紙による業務の中で、デジタル化が出来そうなものに関しては、デジタル化の対応を進めていくことで、大きな業務改善に繋がる可能性があります。その際に、受発注管理であれば受発注管理システムの導入、会計管理であれば経理システムの導入といったように、適切なシステムの導入によりIT化を進めていくことになります。
一昔前では、このような基幹システムの導入はコストも高く、後戻りが出来ない大変な作業でしたが、最近はクラウドサービスの恩恵を受け、安価なクラウド上でのサービスで、これらのシステムが提供されていることが多く、導入リスクも抑えられるようになってきています。
ただし、いずれにしろシステムの導入は、それまでそのようなシステムを使用した経験の無いユーザにとっては未知のものですので、使用に慣れるまでには一定の時間がかかります。ここを根気強く乗り越え、最適なシステムを安価に導入(または開発)する事がデジタル化の第一歩となります。その際に、実際にシステムを使用し、導入前に比べてどの位の稼働削減工数を削減できたか把握しておくことも大事です。
3 .コミニケーションツールの活用
現在、ラインやメッセンジャー等のチャットツールの普及により、チャット上でのテキストのコミュニケーションや、ビデオ会議等に対する抵抗も少なくなって来ました。
また、社内でもスラックやチャットワーク等のチャットツールの利用が加速し、メールでのコミュニケーションよりもチャットの柔軟なコミュニケーションが、仕事においても有効性が認められてきました。加え、働き方改善という視点から、ホームオフィス、リモートオフィスといったように、オフィスに縛られないリモートでの働き方も増えてきており、そこにもチャットツールの有効性が確認されています。
ビデオ会議ツールでは、ズームやウェアバイ(旧アピールイン)等のツールが脚光を浴びており、特に、グーグルクローム等のブラウザがあれば、どこからでもリモート会議が可能になるウェアバイは非常に使い安く、画面共有等の機能も備えている事から、国内外でリモート会議を快適に行う事ができ、結果、大きなコストと時間の削減に繋がります。
4 クラウドの活用
一昔前までは、ワードやエクセル等のファイルはクライアントPCで作成し、メール等で共有するという方法がメジャーでしたが、クラウドが普及し、これらのファイルの編集や、共有等も全てオンラインで行えるようになってきました。これにより1つのファイルを複数人で編集を行う等ということも可能になり、より効率的に、柔軟に働ける環境が整ってきています。
これらのファイルには、PCからもスマホからもシームレスにアクセスでき、バックアップ等もクラウド上で自動的に作成されるため、ファイルを物理的に無くしてしまう心配もありません。
また、先程も少し触れましたが、会計アプリ等、多数のアプリがクラウドベースで非常に安価で提供されているため、クラウドサービスを使いこなす事で、稼働工数削減に繋がるだけでなく、スマートなシステム化が達成できます。
これらのIT化の力は非常に大きく、それだけで、当初予定していた業務改善が達成されるケースもあります。またRPAを導入するための下地として必要不可欠な作業です。
正しいRPA導入による稼働工数削減
RPAという言葉は、国が推奨する、働き方改善、スマートワーク等という言葉の影響もあり、大幅に業務改善を達成し、無駄な稼働工数を削減するためのテクノロジーとして、AIと並んで現在非常に脚光を浴びています。
国内の多くの企業がRPAに取り組み、今やバズワードのようになっていますが、実際RPAがどのようなものなのか、RPAで何が出来るのか等は正しく把握できていない企業が多い印象を受けます。
今回はRPAについて簡単に説明し、稼働工数削減を達成するための、正しい導入方法に関して説明します。
RPAとは
RPAとはRobotic Process Automationの略で、単純に繰り返しが発生するようなホワイトカラーの業務をロボットにより自動化することで、単純作業から人間の労力を解放し、より生産的な仕事に人間の労力を割けるようにすることを目的としています。
既にエクセルのVBAや、従来のバッチファイル、自動化のためのスクリプト等で、同じ事が達成できるのでは無いかとお考えの方も多いと思いますが、これは実にその通りで、そういったものも含めてRPAと呼ばれている傾向があります。
それではなぜ、世間がこれほどRPAに注目しているかというと、従来は、エクセルのマクロや、あるアプリケーションのAPI等、その製品や機能に特化した自動化を対応させる事が主だったのに対し、画像認識等の技術を用いて、これらのアプリケーションを跨いだ自動化を(一部)可能にしているため、エクセルシートから値を読み込み、経理アプリに自動入力する等、よりフレキシブルな自動化が可能になっている点がRPAの持つ大きなアドバンテージです。
またこれらの機能がプログラミングを必要とせず、ツールとして提供されていることも大きなメリットです。
RPAの弱点
いきなりRPAの弱点について言及する事もおかしな話ですが、幾らアプリケーションを跨いだ自動化といっても、全てが完全に作動するわけでなく、自動化に対応していないアプリケーションがある場合や、そもそも自動化をさせるべきでないようなプロセスも多々存在しています。
また、RPAは画像の裏に埋め込まれているタグ情報や、画像認識等の技術を用いてオブジェクトを認識するため、OSやアプリのバージョンアップ等で、それらに変更があった際に動かなくなってしまうケースや、自動化のプロセスを考えると、本来は望ましくない方法で自動化を達成している部分があることもあります。
何も考えずに自動化ロボットを多く導入してしまうと、後でメンテが出来ない野良ロボットが大量に存在してしまう結果になり、逆にコストが高くついてしまう事もあります。
また、RPA(クラス1に関して)は、人による判断や、複雑な処理分岐等には対応できないため、いつもルールの決まった単純作業で無ければ自動化の敷居は高くなります。
正しいRPAの導入方法
それではこれらの注意点を踏まえて、正しくRPAを導入するためにどのような作業が必要かを説明します。
導入1 業務フローの書き出し
何よりも重要になるのが、どういったプロセスを自動化させるかを決定する事で、この部分は自動化対象の作業の業務フローをしっかり可視化する必要があります。そのフローの中に人による判断が必要な箇所があったり、幾つも処理分岐があり煩雑で有ったりする場合、自動化には適さないフローになる可能性があるので、この時点で、どれだけ正確にフローを決めることができるかが重要になります。
また業務フローを可視化した際に、現在このフローにどれ位の稼働工数がかかっ
ているかも把握しておく必要があります。そういったKPIを事前に設定しておかなければ、自動化した後の効果の検証が難しくなります。
導入2 RPAツール(RPAを実現する手段)の決定
業務フローがしっかりと定義でき、それがルールベースで決められる(人間による複雑な判断を必要としない)フローであれば、いよいよ自動化ロボを実装していく作業になりますが、ここで気を付けていただきたいのは、RPAツールの導入が必ずしも正しいわけではないということです。
エクセルだけで完結しているフローであれば、VBAだけで十分です。また、あるアプリに閉じている自動化であれば、そのアプリのAPIを用いて、スクリプトを実装するだけで十分なこともありますし、その方が保守やメンテの工数を加味してもリーズナブルです。
それでもどうしても、やりたいことがアプリ間を跨いでしまいRPAツールに頼らざるを得ない場合は、その部分の作業をなるべく最小限にし、バージョンアップが必要の無いOS上で、アプリケーション等もバージョンアップ無しにそのまま使用し続けることが望ましいです。
これが難しい場合は、OSのバージョンアップ等のタイミングで、ロボットが確実に実行できるか等の作業の確認を常に行うことが望ましいです。
RPAの導入効果検証
RPAツールを導入し、実際に自動化を達成した後、これが正しく運用されなければ何の意味もありません。また、自動化ロボ自体は正しく動いていても、業務担当者がこれを正しく実行できなければ意味が無いので、ロボの実行方法の指導なども必要になります。
その上で、始めに想定したフローが自動化され、想定していた稼働工数を削減できたかどうかを検証する必要があります(KPIの評価)。
このような小さな成功体験を積み重ねる事で、社内の担当者も自動化ロボの便利さについて学んでいけるので、他の作業も自動化できるのでは無いか等、より大きな稼働工数削減に繋がっていきます。
執筆者T.E氏
通信会社大手にて開発業務を担当後、ドイツおよび日本のIT企業にて検索システムの研究開発に従事。その後、人工知能(NLP)開発を日本およびカナダの大手ベンチャーにて行う。その後、独立。