「採用がうまくいかない」本当の理由とは?大手企業が直面する3つの構造課題と打ち手

人事

2025年11月19日(水)掲載

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採用競争が過熱し続ける中、「求人を出しても人が集まらない」「採用が進まない」と悩む企業は少なくありません。

数多くの企業で採用活動や人事制度構築を支援するプロ人材の臼井 令子氏は、「採用がうまくいかない本当の理由は、人事のリソース不足ではなく、採用を支える知識や仕組みの欠如にある」と語ります。採用市場の変化、企業が見落としがちな課題、そして社内だけでは解決が難しい場面で、どのような支援が有効なのか。採用難時代を乗り越えるための戦略を聞きました。

問題は社内に「採用のプロがいない」こと

——採用難が続く中、現在の採用市場にはどのような変化が見られますか。

臼井氏:求人数と求職者数のバランスが大きく崩れています。ここ数年で求人数が劇的に増え、各企業が人材の採用に苦戦しているのが現状です。

コロナ禍後の一時期は新卒も中途も「希望する条件に100%合致していなかったとしても、まずは人数を確保し、人材を大量採用する」という時期がありましたが、その結果ミスマッチが増え、痛い思いをした企業も少なくありません。今はその反省から、厳選採用に転じている企業も見受けられます。

最近では大手企業でも「母集団は集まるものの、求める人物像に届かず採用がうまく進まない」というケースが目立つようになりました。採用活動そのものの難度が高まっていると感じています。

こうした状況への打開策としてAI活用が注目されています。求人票の作成などにAIを活用する企業も増えてきました。ただ、AIは既存の情報をもとに文章を組み立てるので、他社と似通った求人票になる傾向があります。無難な文章は作成できますが、他社にはない自社の独自性を出すことは難しいですね。だからこそ、人の知恵と経験が必要だと思います。

——企業の採用活動がうまくいかない本当の原因は、どこにあるのでしょうか。

臼井氏:多くの企業が「人事側のリソースが足りない」と言いますが、実際には“知識のある人材が不足している”ことが根本的な課題だと考えています。日本企業ではローテーションの一環で採用に携わる方が多く、いわゆる採用のプロフェッショナルが少ない傾向があります。

採用のプロとは、単に人を採用できる人ではなく、採用計画をデータと数学的な観点に基づいて立てられる人のことです。たとえば、今後何年でどれくらい退職者が出るか、職種ごとの必要数はどのくらいかを過去データを基に分析し、複雑な関数でシミュレーションします。必要な人材を社内で育てるのか、新卒を採用するのか、中途で採用するのか。そのあたりの計画を企業の中長期戦略や市場動向も読みながら設計する必要があります。

数年で異動する仕組みだと、こうした内容を網羅できる採用のプロは育ちません。 労働人口が減り、変化が激しい現在の採用市場で、採用のプロがいなければ適切な対応ができず採用がうまくいかないという流れになるのです。

採用難企業に共通する「要件定義」「採用手法選定」「選考プロセス」の課題

——もう少し具体的な問題についてもお聞かせください。要件定義の設計で悩む企業も少なくないようです。

臼井氏:どんな人を採用すれば良いか分からない、と要件定義に悩む企業はとても多いですね。私のところには「一から要件を洗い出して、面接シートを作ってほしい」という相談もあります。

こうした悩みは大手企業でも同様です。要件定義とは本来、中長期の計画に基づいて必要なポジションと人材を明確にするものですが、そこができていないケースもあります。採用計画人数でさえ、「昨年と比較してこれくらいかな」とほぼ根拠なく決められています。

——採用手法の選定が課題となっている企業も多いと聞きます。

臼井氏:さまざまな手法が登場し、何を活用したら良いか悩んでしまう気持ちはよく分かります。ただ実際のところ、本当に有効な採用手法は限られていると感じます。

人材紹介エージェントでいえば、職種や領域ごとにどこが強いかを知り尽くしておけば、大手数社との取引で十分かもしれません。その上で、ダイレクト・ソーシングやアルムナイ、リファラルなどの選択肢から、自社が着実に取り組めるものを選ぶことを推奨します。

「SNSをうまく活用すれば採用できますか?」と質問されることも多いのですが、大企業の規模になると、SNSを運用してもあまり意味がないケースも散見されます。トレンドに流されることなく、自社にとって本当に必要な手法を見極めた方が良いでしょう。

——採用プロセスにおいてどのような課題に取り組むと良いですか?

臼井氏:面接を変えれば、採用結果は大きく変わります。

多くの面接官は、自分自身が他社の面接を長い間受けていませんよね。採用部門のトップ層になると「自分が面接を受けたのは数十年前」という人も多く、他社の採用面接もリサーチできていません。面接は候補者との信頼関係を築く“対話の場”であり、時に心理的な駆け引きも求められます。「この言葉にこう返せば口説ける」といったパターンもあります。そうした知見を踏まえて面接官トレーニングを行うと、承諾率が劇的に向上することもあります。

面接の質が上がれば、候補者が「◯◯社の面接はとてもよかった」と口コミで広げてくれるかもしれません。エージェントに良い評判が伝わると、即戦力となる人材を随時紹介してもらえるようになります。逆に言えば、面接の質が低いと、それだけで大きな損失につながります。

本当に貢献してくれる「採用や人事制度のプロフェッショナル」とは

——採用難を解決する「勝ちパターン」をつくるには、どうすれば良いのでしょうか。

臼井氏:採用はスピードが問われます。他社に負けないスピード感で早く採用しなければいけない状況なのに「プロの担当者を3年で育てます」という計画は通じないと考えています。だからこそ、外部の力を活用することが重要だと思います。これはコストではなく投資です。仕組みづくりをしながら採用を動かさなければ、売上が落ちてしまうこともあるでしょう。

——どんな外部人材に頼ると良いですか。

臼井氏:数多くの企業を支援した経験のある人、かつ事業会社で採用業務を推進した経験のある人が望ましいです。なぜかというと、理想だけでは動かず、社内体制への配慮や動き方がわかるので、実行力のある支援が期待できるからです。

また、場合によっては福利厚生制度の改変や給与変更なども含めて実施する必要があるので、人事制度設計や運用にも通じている方だと安心です。

——外部の力を活用するとともに、現場の協力を得ることも重要だと思います。人事にはどのような工夫が求められますか。

臼井氏:たとえば要件定義で言うと、人事が提示した要件を現場に理解してもらうことが難しい、という問題もありますよね。

私が支援に入る場合はまず役員にヒアリングを行い、どんな人を求めているかを聞いて現場に共有しています。要は「経営層に聞いた」という事実が重要なのです。それを経営層の意思としてまとめて現場に共有することで、社内の認識のズレをスピーディーに埋めることができるでしょう。

逆に、現場から採用難易度が高く非現実的な要件が求められるケースは市場の情報を示しながら調整すると良いです。まずは現場の部長クラスから要件を伺います。たとえば、ダイレクト・スカウトサービスでその要件を検索すれば、該当者が少ない、もしくは0人という事実がすぐに可視化できます。そういった体感があれば、リアルな要件定義に落ち着きます。

長期的な視点で「人事部門の体制」を変える覚悟も求められている

——企業によって状況はさまざまだと思いますが、課題を紐解いていった結果、「採用」が最適な手段ではない場合もあるのでしょうか。

臼井氏:はい。採用しても採用しても離職が続いているような場合は、まず組織体制やマネジメントを立て直す必要があります。また、採用の前に配置の見直しや業務フローの整理を行うことも有効です。

解決策が採用であるとしても、「正社員でなくても良いのでは」というケースも多いですね。たとえば、特定のプロジェクトのみ必要となるポジションなどが該当します。その場合は、業務委託やフリーランスとして活躍してくれる人を活用することも有効でしょう。

このように、採用という一部分だけに着目するのではなく、採用の背景にある仕組みや人事体制を含めて見直すことが重要なのです。

——臼井さんのようなプロ人材を活用することで、企業にはどのような価値がもたらされるのでしょうか。

臼井氏:マンパワーの面と育成観点、社内全体の採用力向上に寄与できると考えています。

採用や人事のトレンドは年々変化していきます。情報収集にはそれなりの労力や時間が必要ですが、知見が豊富な外部のプロ人材はその領域を担保してくれます。このように、プロ人材が関わることで、人事メンバーが最新の知見を学び、結果的に採用スキルを高めることができます。

また、先ほど触れた、面接官トレーニングや現場への採用市場の情報提供などもそうですが、人事から直接言いにくい相手との間に入ることができるのも外部のプロ人材のメリットだと思います。

たとえば私が実施する面接官トレーニングでは、役員の方などに、面接のロールプレイングを見せてもらいます。細かく確認し、服装や表情、話し方、話すスピード、質問の内容、求職者の意向あげの方法、などについて丁寧にフィードバックを行います。「自分は問題なくできている」と思っている方や、自分より役職が高い方に対して、社内で指摘することは難易度が高いのではないでしょうか。しかし、プロ人材という第三者からの指摘だと真剣に聞いていただけるので、採用力も向上していきます。自社の状況に合わせてプロ人材をうまく活用いただければと思います。

——プロ人材を受け入れる人事部門は、どのように体制を整えると良いですか。

臼井氏:本気で取り組む前提であれば、「人事部門のメンバーを入れ替える」ことも視野に入れた方が良い場合もあるかもしれません。実際に私が支援に入る際には、現有メンバーの実力を踏まえ、この方の交代を検討してはどうかと、経営層に率直に提言することもあります。

長期的な視点で、人事部門の体制をも変えていけるか。真に採用難を乗り越えていくためには、そうした覚悟が求められるのではないでしょうか。

【プロフィール】

株式会社ポケットコンサルティング 代表取締役 臼井 令子(うすい・れいこ)
1995年にアーサーアンダーセンに入社、ビジネス&人事、組織コンサルティングのノウハウを蓄積したあと、ネットイヤーグループ株式会社の創業メンバーとして人事部門立ち上げ・運用・組織拡大にも携わった。その後、IBM ビジネスコンサルティングサービス株式会社(元プライスウォーターハウスクーパース)で人事や組織コンサルティングのほか、社員の働き方や意識改革などのプロジェクトにも従事。2010年にフリーのコンサルタントや研修講師として独立し、2017年に法人化。人事制度構築、採用・就活支援、コンプライアンス・ハラスメント施策・研修、営業改革、マーケティングなどのコンサルタントとして活躍している。

プロ人材紹介 臼井 令子氏

まとめ

「採用がうまくいかない」状況では、どこに課題があるのかを突き止めることが重要です。変化が激しい時代だからこそ、臼井氏のような人事のプロ人材とともに仕組みを整えることが、採用難時代を乗り越えるための第一歩だと言えるのではないでしょうか。採用の勝ちパターンを自社に定着させるため、「HiPro Biz」でプロ人材の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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