不動産業界のDXの成功事例を紹介 メリット・デメリットや進め方も解説
2023年05月08日(月)掲載
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2018年に、経済産業省から『DXレポート』が発表されました。このレポートでは、新たなデジタル技術を使ったビジネスモデルを導入する、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)をスピーディに進めていく重要性が記されています。
これをきっかけに、自社でもDX推進を検討している不動産業界の方も多いでしょう。不動産業界ではコロナ禍により、急速にDX化が進んでいます。
そこで本コラムでは、不動産業界でこれからDX化を推進したいと考えている方に向けて、導入方法や事例を紹介します。
※参考: DX レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~/経済産業省
不動産業界の現状
不動産業界は、DXが進んでいない業界といわれてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うテレワークの普及などで、急速にDXが進むようになりました。
ここでは、不動産業界のDXの課題を理解するために、不動産業界全体の現状を解説します。
根強く残る古い業務体制
不動産業界のDXが遅れている背景には、業界特有のアナログな業務フローから抜け出しにくいことがあるといわれています。
実際に、不動産の売買や賃貸物件の契約業務の現場では、紙の書類やFAXを使用するなど、アナログな業務体制が根付いている企業が多く見受けられます。
また物件の選定でも、内見や来客対応などの業務は対面が前提とされてきました。そのため、現場に旧来の体制が染み付いてしまっています。
徐々にDX化が進み始めている
アナログな業務体制だった不動産業界にも、コロナ禍を機に少しずつDX化が進み始めています。
例えば、これまで物件を探す場合には、現地に出向いて物件を内見したり、営業担当と対面でやりとりしたりするのが一般的でした。しかし、対面を避けたいと考える顧客が増加したことで、非接触・非対面による営業方法が確立されつつあります。
このように、世の情勢や消費者のニーズに合わせて、不動産業界でもDXが進んできました。
DX推進のメリット・デメリット
不動産業界でDXを進めると、どのようなメリットやデメリットがあるのか気になる方は多いでしょう。
ここからは、不動産業界のDX推進の具体的なメリットとデメリットを解説します。
DX推進のメリット
不動産業界のDX推進のおもなメリットは、以下の3つです。
従業員の生産性向上
紙の書類管理やデータ入力など、利益に直接結びつかない業務がデジタル化されることで、業務の効率化が進みます。
業務の効率化によって余ったリソースは、営業活動やお客さまとの密なコミュニケーションなどのコア業務に充てられるようになり、従業員および組織全体の生産性向上につながります。
業務の効率化はDX事例が多く、参考になる企業も見つけやすいでしょう。
顧客満足度の向上
システムなどを導入しオンラインで業務を完結できる環境が整うことで、利便性が高まり顧客満足度の向上につながります。
また、2017年から不動産賃貸契約や売買契約時の重要事項説明のオンライン化が順次解禁されています。オンラインの環境が整っていれば、場所や時間を選ばずにリモートで契約が可能となったことで、さらなる顧客満足度の向上が期待できるでしょう。
さらに、オンライン上で契約業務を完結できるようになれば、従業員の働き方も自由度が増すため、顧客だけでなく従業員のモチベーション向上にもつながります。
※参考:不動産取引のオンライン化に関する取り組みの現状(IT重要事項説明・書面の電子化)/国土交通省
優位性が得られる
経済産業省ではDXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
DXに取り組むことで新たな付加価値やビジネスモデルが創出しやすくなり、市場における競合優位性の獲得が期待できます。
DX推進のデメリット
DX化にはメリットがある一方で、もちろんデメリットもあります。ここでは、不動産業界でも考えられる、DX推進のおもなデメリットを2つ紹介します。
実現までに長い期間や初期費用がかかる
DX推進は、実現までに長い期間や初期費用を要するケースが多くあります。後述する成功事例を有する企業でも、実際には約2年半かけて新しいシステムを導入したケースがあります。
DX推進に向けてシステム導入をする際は、その準備期間にも相応の時間や費用がかかることを考慮しなければなりません。
導入直後の負担が増加する
DXのシステム導入後はこれまでの業務環境が変化し、新しい作業を覚えるための時間と労力が発生するため、従業員に負担がかかります。
従来のやり方から新しいやり方に移行するには余裕のある移行期間を設け、さらに研修の実施やマニュアルの作成に取り組むなど、スムーズに移行できるよう整えると良いでしょう。
以上、不動産業界のDX推進によるメリットとデメリットを解説しました。
不動産業界のDX成功事例
ここでは、不動産業界のDX成功事例を4つ紹介します。それぞれの事例が自社でどのように生かせるか参考にしながら、ぜひチェックしてください。
決済システムと会計システムを統合した事例/A社
1つ目は、もともと独立していた決裁システムと会計システムを統合してフルクラウド化し、業務効率を向上させた事例です。
各システムの統合前は、同じデータを両方のシステムに入力する必要があり、作業として二度手間が発生していました。しかしシステム統合で多くのムダをなくし、ペーパーレス化やモバイル化・脱ハンコも進めたことで、受発注や会計の業務の約3割削減することを可能にしました。
業務の効率化を実現した好事例です。
契約手続きを効率化した事例/B社
2つ目は、不動産売買の契約書類作成および署名・捺印を電子化するシステムを導入した事例です。
従来は、新築分譲マンション・一戸建の売買契約時に、顧客ごとに異なる必要書類の準備や、複数書類への署名・捺印作業、印紙の準備、郵送作業など業務が煩雑でした。
そこで、契約時の必要書類作成やステータス管理、署名・捺印などの手続きを電子化するDXシステムを導入し、業務の効率化を実現しました。
商談から契約まで顧客がオンラインで手続きできるようになったほか、社内業務においても、取得書類の確認時間の削減や、システムへの承認機能の搭載によるワークフローの円滑化も実現しました。
多くの手間がかかりがちな不動産手続きで効率化を実現し、顧客と従業員、双方の負担を軽減できた好事例です。
物件のレコメンドと非対面のモデルルーム見学予約を実現した事例/C社
3つ目は、顧客が求める条件に適した物件の紹介や、モデルルーム見学予約を自動化した事例です。
C社はコミュニケーションアプリの公式アカウントを作成し、顧客にアプリ上で簡単な質問に答えてもらうことで、おすすめの物件情報を自動的に返信するシステムを構築しました。
顧客は、おすすめ物件から見学したい物件をアプリ上で簡単に予約でき、モデルルームの見学時は予約画面を見せるだけで入場可能です。
これにより、営業担当者がつかない非対面のモデルルーム見学を実現しました。また、顧客情報の記入やヒアリングの手間などを省くことで来場者の負担を軽減し、マイペースにモデルルームの見学が可能になりました。
利用者数が多いアプリの活用により、導入後のイメージが湧きやすい事例です。
物件予約から鍵受け渡しまでの業務を自動化した事例/E社
4つ目は、Web上で物件の検索から内覧予約ができ、顧客の都合のよい日時に内覧が可能となるスマート内覧を実現した事例です。
E社は新興の不動産テック企業であり、DXにも積極的に取り組んでいます。
従来は内覧の際、顧客と仲介業者が予定を合わせて実施します。その際、顧客を案内する担当者は、顧客を案内する前に近隣の不動産会社に事前に鍵を受け取りに行かなければなりません。また、鍵を紛失するリスクも抱えていました。
そこで、完全非対面の賃貸借契約が可能になる仕組みを構築することに。その結果、物件の予約から内覧までの業務を無人化・省略するスマート内覧を実現しています。
スマート内覧ではスマートロックを採用しており、パスワード入力でドアが解錠される仕組みのため、鍵を不動産会社に受け取りに行く必要がありません。スマートロックに一時的なパスワードを設定することで、セキュリティ面も安心です。
また、物件内の案内は、モバイル端末に表示されるアバターが担当することで、非対面で完結できるようになりました。
手間や時間を大きく取られていた業務を効率化し、セキュリティ面も向上させた事例です。
不動産業界に有効なシステムの事例
DX推進に向けシステム導入を検討している方のために、ここでは不動産業界に有効なシステムを5つ取り上げて紹介します。
ローコード開発プラットフォーム
ローコード開発プラットフォームは、高いプログラミングスキルがない人でも、アプリやシステムの開発ができるプラットフォームのことです。
通常、アプリ開発にはプログラミングスキルが必要です。しかし、ローコード開発プラットフォームを使えば、たとえばシステムに精通していない一般社員が、業務を効率化させるアプリを作成し生産性を上げたりすることも可能になります。
ローコード開発プラットフォームは、DXやデジタル化に関する知識やノウハウを持ち合わせていない不動産事業者や、小規模にスタートしたい場合に有効的でしょう。
マーケティングオートメーション(MA)
マーケティングオートメーション(MA)は、マーケティング業務の自動化を実現するツールです。
人力でデータ収集と分析をすると、膨大な時間や労力を要します。しかしMAではそれらのマーケティング活動を自動化できるため、業務の効率化と生産性向上が期待できるでしょう。
セキュリティマネージドサービス
セキュリティマネージドサービスとは、企業のセキュリティ運用を外部企業が請け負うサービスのことです。
DXの推進とともに、より強固なサイバーセキュリティ対策が求められ、システム部門の負担は大きくなります。その際に外部企業へ委託すると、自社にセキュリティ人材を確保する手間をかけずに、セキュリティ強化を担保できます。
現在日本では、サイバーセキュリティ分野に関する人材が不足しているといわれているため、コストや運用の負担を抑えてセキュリティ対策したい場合は、セキュリティマネージドサービスが有効的といえるでしょう。
チャットツール
チャットツールは、リアルタイムに相手とやりとりができるコミュニケーションツールです。
チャットツールの利点は、スピーディなコミュニケーションが可能な点と、情報共有のしやすさにあります。複数人と同時にコミュニケーションを取れるため、プロジェクトや部署のメンバー全員に情報を伝えたいときにも役立つでしょう。
メールでも、複数人への一斉送信は可能ですが、チャットツールは内容を確認したときに反応しやすくなっています。また、受信した側が内容を閲覧したかどうかを、送信した側が既読マークなどで認識しやすいのも特徴です。
生産性の向上や顧客満足度の向上などに利点があるでしょう。
チャットボット
チャットボットは、“チャット”と“ロボット”を合わせた言葉で、自動応答プログラムのこと。
Webサイトなどにチャットボットを導入すると、顧客からの問い合わせに自動で対応してくれます。これにより、カスタマーサポートなどの業務効率の改善が可能です。
今後は、人工知能の発展次第でより的確な応答ができるなど、高度なカスタマーサポートツールとなることが期待されています。
不動産業界におけるDXの進め方
不動産業界の事例と、DX推進に有効なシステムを理解したところで、ここからはDXをどのように進めればよいか解説します。
目的を明確にする
まずは、DXの目的を明確にしましょう。「流行っているから」「他社が進めていて、よい事例があるから」などの理由だけで取り組むと、上手くいかない確率が高まります。
自社の課題を徹底的に洗い出し、DXをどのような方針で進めるかを十分に検討しましょう。
中長期的な計画を立てる
次にDX推進の計画を立てます。いきなり大きな変革を起こそうとすると社内が混乱し、従業員の負担も大きくなります。そのため、段階的にDXが推進されるよう中長期的な計画を立て、余裕のあるスケジュールを組むと良いでしょう。
初期は対象を絞り、小さなデジタル化から始めるのがおすすめです。スモールスタートであればリスクが軽減しやくすく、成果を出せた際は他の部門・部署にも横展開できるため、DXを現場に浸透させるきっかけになるでしょう。
システムの選び方のポイントを押さえる
DX推進に有効なシステムを選ぶ際は、以下のようなポイントを押さえましょう。
- 既存システムと連携できるか
- 拡張性があるか
- 誰にでも使いやすいか
それぞれ詳しく見ていきます。
既存システムと連携できるか
既存のシステムと連携ができなければ、データの引継ぎなどに大幅な時間と労力がかかってしまいます。そのため、既存のシステムとの連携が問題なくできるかを確認しましょう。
拡張性があるか
近年は顧客の価値観が多様化し、複雑な要望が増えています。目の前の課題解決だけではなく、新たな付加価値やビジネスモデルの創出にもつなげられる可能性があるかも事前に調査できると良いでしょう。
誰にでも使いやすいか
DX推進は全社的に取り組み、多くの従業員が難なく使えるシステムであることが大切です。ITリテラシーにかかわらず、操作性やわかりやすさなどに着目し、誰もが使いやすいシステムを選びましょう。
最新情報を取得し続ける
デジタル技術は常に進化し続けます。新しい技術の登場により、不動産DXにもさまざまな事例が登場するでしょう。そのため、DX推進に向けて実行し始めた後も、不動産業界の最新の情報を取得し続け、自社のDXの参考にしていきましょう。
まとめ
不動産業界のDXの現状と成功事例を紹介し、DXの具体的な進め方を解説しました。
DXを成功させるには、システムの導入前から導入後まで、長期にわたって取り組む必要があります。まずは、自社の課題を徹底的に洗い出したうえで、DXの目的を明確にしましょう。そして、紹介した成功事例や具体的な進め方を参考にしながら、DX推進の計画を立ててみてはいかがでしょうか。
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