公共マーケットへようこそ~地方創生はビジネスチャンスになるか?~
2019年08月28日(水)掲載
地方創生というと、観光業や農林水産業に注目が集まりますが、それ以外の業種・業態の事業者にとって参入の機会はあるのか。あるいはもう一通り終わってしまった施策ではないのか、というような質問を受けることがあります。
地方創生に対してはいろいろな見方がありますが、単なるスローガンではなく、予算的な裏づけのある複合的な政策パッケージです。2015年から毎年6月に「基本方針」が、12月に「総合戦略 改訂版」が策定され、アップデートされつづけています。
今年6月に発表された「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」によると、今年度の第1期(2015~2019年度)終了に引き続き、来年度からの第2期(2020~2024年度)では、「継続は力」にし、より一層充実・強化するという枠組が明示されています。
地方創生の4つの基本目標
地方創生4つの基本目標のそれぞれに対応する事業は下記のようなものがあります。
「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」⇒「雇用」
「地方への新しいひとの流れをつくる」⇒「移住・定住」
「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」⇒「結婚・出産・子育て/働き方改革」
「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」⇒「まちづくり」
これらに関連する商品・サービスを持っている企業には、いずれも地方創生におけるビジネスチャンスがあることは間違いありません。
自社の強みを十分に活かせる分野において、自社のスキームを活かし、こうした公共の課題解決にあてはめ、住民の満足度を高めるという取り組みは、営業活性化策として大いに活用していける好機であると言えます。
「新たな視点」と3つのM
基本方針2019では、4つの基本目標を維持しつつ、第2期における重点を示す「新たな視点」が示されました。
この中には話題になった「関係人口」「Society5.0」「SDGs」などがトピックスとして含まれていますが、それとは別にここでは全体を通して読み取れるトレンドを3つ、頭文字がいずれもMであるのにちなみ「3つのM」として着目してみました。
1つ目のM move〈動かす〉
「地方へのひと・資金の流れを強化する」ということで、関係人口の創出や政府関係機関の地方移転といった施策が挙げられています。これらはつまり、短期的・長期的あるいは大なり小なり、とにかく「動かす」ことに予算を使うということです。
そのため、人材派遣や不動産仲介あるいは旅行観光といった業種にとどまらず、広い意味で移動に関する製品・サービスを持っている企業にとって参入の可能性があります。「交通」「物流」またはクラウドやモバイルを含む「情報」、リフォームや住設機器を含む「住宅」などの他、幅広い分野が考えられます。
2つ目のM make〈つくる〉
「地域」づくり、「ファン」づくり、「しごと」づくり、「まち」づくり…。地方創生には〇〇づくりが目白押しです。第2期では、第1期の取り組みに対する反省を踏まえ、単に人を送り込むだけではどうにもならないことがわかったことから、「ひとづくり」に焦点を当てるとしています。
外部から流入する人材が活躍できるように、あるいは将来の定住を視野に入れ、地方から東京へ出ていく前の高校生に対する育成に重点が置かれて予算が使われます。ここでも学校やその他教育産業に限らず、さまざまなスキル・ノウハウを持った企業にとって参入の機会があります。今後より一層必要とされるデジタル系やAIやドローンといった技術に関しても大きなニーズが見込まれます。
3つ目のM matching〈マッチング〉
「誰もが活躍できる地域社会」ということで、例えば女性・高齢者など様々な人たちが取り上げられており、 その人たちの居場所と役割をつくることに関連した事業に予算がつきます。もし自社の事業が、これらの人びとを対象としており、接点を持っていれば強みとなります。それぞれを対象とする事業に対し、対象となる人だけを集めて「マッチする」機能は、さまざまな場面で求められます。
これら「3つのM」を切り口として自社の製品・サービスを見直してみてください。重要なのは、ニーズに合わせて新規事業を興すのではなく、新たなマーケットとして地方創生を捉えるという考え方です。自社に対する自らの視点を変えること、これが公共マーケット参加のキックオフになります。
そして公的部門を対象とする事業のメリットである「ローリスク」を活かし、事業の拡大を図っていくことです。これは地方創生に限らず、あらゆる官公庁ビジネスに共通する重要なコンセプトでもあります。
※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。
執筆者Y.S氏
2019年3月までフリーペーパー出版社の行政協働事業部長、同関連会社の地方創生研究室長を兼任。10年以上にわたり、300にのぼる自治体実績を持つ官公庁・自治体向け営業の専門家。現在は独立し、官民協働コーディネーターとして、官民双方のアドバイザーとして活動。