日本企業の低収益改革のカギは現場にある。リストラなどに頼らず、利益体質へ変える 10 の施策

経営全般・事業承継

2026年01月29日(木)掲載

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日本企業の多くが直面する「低収益」という課題。その背景には、目標設定のあり方や雇用慣行、商習慣といった構造的な問題が潜んでいます。大胆なM&Aやリストラに頼らず、事業部単位や現場レベルで収益体質を変えていくには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。

これまで1000件以上の変革プロジェクトを支援してきたプロ人材の高橋 透氏に、日本企業が低収益から脱却するための考え方と、現場主導の改革を成功させるポイントを聞きました。


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収益構造改革を成功に導く経営戦略の実践ガイド 変革を加速する10の施策と3つの準備

低収益から脱するために必要な10の施策

——日本企業の収益性低下の背景について教えてください。

高橋氏:前提として、必ずしも日本企業だけの収益性、成長が低いわけではなく、製造業だけ見ればアメリカとさほど変わりません。

しかし全ての産業でみれば、ROE(自己資本利益率)やPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)が欧米のみならず、中国をはじめアジアの上場企業と比較しても低い状態にあることは、経済産業省や会計事務所の各種レポートでも指摘されています。

背景には、大きくは3つの構造要因が挙げられます。

1つ目は、目標設定の低さです。多くの企業は前年実績に数%上乗せした、過去の業績の延長線上の目標を立てがちです。その結果、本来目指すべき水準と比べて目標自体が低くなってしまっています。そこに合わせて戦略を実行すると、達成するだけで精一杯となり、成長にブレーキがかかりやすくなるのです。

2つ目は、雇用環境の特殊性です。日本は従業員を解雇しづらい風土があり、人材が固定費化しやすい傾向があります。特に製造業では終身雇用の慣習が残っていることも多く、製造能力が余っていても雇用を守らざるを得ない状況が生まれます。

3つ目は、商習慣による価格設定の硬直性です。継続的、長期的な関係を重視するせいか、既存顧客の依頼に対し、低収益でも取引を継続してしまうケースも見られます。

こうした背景から低収益が続くと、研究開発や新規事業などへの投資が鈍り、イノベーションが起きにくい構造が固定化される懸念があります。

——では、低収益から脱するために、まず何をすればよいのでしょうか。

高橋氏:以下の10施策が挙げられます。

1.ポートフォリオ評価など業績の見える化
2.徹底した競合ベンチマーク分析
3.CFOによる事業部、事業部長のモニタリング
4.経営幹部評価、サクセッションプラン、ヘッドハントなどトップ人材改革
5.DX、M&A、事業売却含む収益構造改革プロジェクト
6.技術×市場×ビジネスモデルでの成長ドメイン戦略
7.アウトソーシング、DXでの本社改革の固定費削減
8.オープンイノベーションを含む新技術・新事業開発とステージゲート
9.小さく回すボトムアップ収益改革、変革文化づくり
10.経営改革のための取締役会の改革

上記に挙げた多くはリストラクチャリングですが、それらを行うにしても、「収益インパクトは低いが、短期でできる」ことから始めることが重要です。以下の図でいうと、左下ですね。日本企業の体質を考えると、収益構造改革に5〜7年、場合によっては10年ほどのスパンを想定してもいいと思います。



資料提供:高橋 透氏

実際、いきなり「5. 収益構造改革プロジェクト」に着手する企業も散見されます。一見ダイナミックで戦略的ですが、特にM&Aや事業売却は組織構造そのものを変えてしまう施策です。混乱を招きやすく、思ったような効果が出ないことも少なくありません。

アメリカの倒産した企業を見てみると、M&Aや事業売却を何年も繰り返していることが多いのです。その結果、人材の活力や企業文化が徐々に失われ、自力での成長が不可能になってしまっている。M&Aや事業売却は既存アセットを壊す側面も持ち合わせているのです。

——成功すれば収益インパクトは大きいものの、成功確率が高いわけでは決してなく、リスクが大きいわけですね。

高橋氏:たとえば、コンサルティングファームが加わる形でポートフォリオを見直し、収益性の悪い事業を売却、リストラを行った数兆円規模のグローバル企業では、人材の流出が続くケースが見られます。次々と辞めていくメンバーの仕事を課長や部長などのミドル層がやらざるを得ず、現場は疲弊する一方です。

ところが短期的には人件費が減るので利益が改善し、株価も上がります。株主からは内部事情がなかなか見えず、組織が瓦解に向かっていることにも気付かれないため、経営が評価されてしまう悪循環にもはまりやすい。これでは中長期的な成長からは遠ざかってしまう恐れがあります。

収益性を見直すカギはボトムアップにある

——収益インパクトは低いが、短期で実践できることから着手するにあたって、特に重視することはありますか?

高橋氏:「9. ボトムアップ収益改革、変革文化づくり」が特に重要です。価値観が多様化し、従業員の年齢レンジが広がる中、世代間の理解を深める場づくりは収益性にも影響を与え、ベテラン社員の技術伝承にも寄与するでしょう。縦割りの組織であれば、クロスファンクショナルチームをつくるのもいいです。

実際にボトムアップで収益改善に取り組んでみると、現場から有益な提案が出てきて驚くことが多々あります。値上げの可能性やコスト削減のアイデアなど、現場からの発案が営業利益を前年比数十パーセント押し上げるケースも珍しくありません。

ボトムアップの改善活動に手をつけていない企業は多いですから、その意味でも有効な施策だと思います。

——トップダウンではなく、ボトムアップで収益性を見直していくと。

高橋氏:はい。ただし、ボトムアップを成功させるためにはトップダウンの後押しが不可欠です。トップが従来通りのままボトムアップだけを求めてしまうと、かえって現場のモチベーションが下がりかねませんから。

そこで重要な要素となるのが、「3. 事業部、事業部長のモニタリング」「4. トップ人材改革」「10. 取締役会の改革」です。勇気を持って役員の業績モニタリングを行い、厳しい評価も行います。取締役会が形式的になっているのなら、あり方を見直す必要もあるでしょう。後回しになりがちですが、変革の雰囲気を醸成するためにこれらの3つは重要な施策だと考えています。

グループ会社の収益構造改革で、7年連続最高売上、最高利益を達成

——収益構造改革に成功した企業の事例を教えてください。

高橋氏:BtoBメーカーのグループ会社の事例を紹介しましょう。

近年、当社がグループ連結企業を支援する場合、グループ会社の収益力向上に注力しています。グループ会社の方が市場と近い分、収益インパクトが大きく、伸びやすいのです。収益構造が変われば企業の体質が改善され、その影響は最終的にホールディングスにも波及していきます。

紹介する事例では、コスト改善に関する研修を段階的に行いました。まずは役員からスタートし、小さなシミュレーションプロジェクトを実施。続いてリーダークラスの幹部約30人に声をかけ、一人一案コスト改善プロジェクトを策定しました。

その中で、製造過程で発生する破損や発注ミスを半減させるプロジェクトを実施し、1年以内に半分以下にまで減らすことに成功したのです。1年目から目に見えて利益が大きく改善されました。

また、並行して会社の収益構造改革の戦略を立てるワークショップを4〜5カ月かけて実施しました。幹部を3チームに分け、それぞれが戦略を考え、最後には社長に提言し、実行まで手掛けます。収益が上がるだけでなく、幹部の育成にもつながる研修です。

2年目からは、年1回2日間にわたる役員合宿を始め、組織や事業の戦略を徹底的に議論する機会も設けています。このようにトップマネジメントが変わり、ミドルを育成すれば、現場も強くなる。結果として、改善を開始してから7年経つ今も最高売上・最高利益を更新し続けています。

——まさにトップから意識を変えていったことで、最終的に現場の力を強めることができた事例ですね。

高橋氏:収益構造改革のきっかけを作ったのは、グループ会社の社長でした。やるからには上位者がその意味を理解した上で、責任を持って遂行する。そのようなスタンスを社長が貫いたからこその成果だと思います。経営層の理解があるほど、外部のプロ人材も力を発揮しやすいですから。

収益改革で重要なのは「自社の強さ」を信じること

——収益構造改革を実施するにあたって外部のプロ人材に支援を依頼するのは、どのような点で効果的でしょうか?

高橋氏:大前提として、健康状態を自分一人で把握するのが難しいように、事業を客観視できる外部パートナーの存在は不可欠だと思います。クライアントの事業内容や専門性について深い理解があり、良質な壁打ち相手として自立を支援できるプロ人材の価値は今後より高まるのではないでしょうか。

生成AIを使えば知識は得られますが、現場と伴走し、変革を行動へと落とし込む支援は人にしか担えません。現場に外部人材が入り、最終的に自走できる状態に導くアプローチが重要です。

特に課内、部内などボトムアップでの取り組みにおいて、プロ人材への依頼は有効だと思います。環境づくりをプロ人材と行い、環境が整ったら次のステージに進むという方法にすれば費用も抑えられますし、リスクを下げられますから。

——収益構造改革に関わる担当者はどのようにして改革に取り組んでいけば良いのでしょうか。

高橋氏:どんな企業にも必ず歴史があります。たとえ現在の収益が低迷していたとしても、企業体力とここまで支えてきた人材の力は間違いなくあります。自社の強さを信じ、従業員の皆さんの力を引き出すイメージで収益改革に取り組むことが重要です。

事業が立ち行かなくなった場合は構造改革が急務ですが、その場合も人や技術、マインドといった自社の良いところまで否定する必要はありません。状況が悪いとマイナスの部分に目が行きがちですが、自社の強みを伸ばすことを意識して進めていくとよいでしょう。

トップマネジメントの皆さんは、それぞれが現状を見つめ、自らが変わっていくことで、市場や現場に近い人たちとの一体感や信頼感が醸成されるでしょう。「やればできる」という実感が組織に広がると、成長の勢いは一気に加速します。

【プロフィール】

高橋 透(たかはし・とおる)
上智大学経済学部卒業後、大手メーカーに入社。その後大手コンサルティング会社を経て、経営コンサルティング会社ニューチャーネットワークスを設立し、代表取締役を務める。専門は研究開発戦略、新製品や新事業開発、エコシステム・ビジネスモデル戦略、顧客経験価値開発など価値創造領域。その一方で技術開発、製造現場のボトムアップ力強化と組織体質改革のためのブレークスループロジェクトを展開。これまで国内外で1000以上のプロジェクトを経験。

まとめ

低収益から脱却するためには、トップダウンの改革だけでなく、現場の力を引き出すボトムアップの取り組みが重要です。とはいえ、自社だけで収益構造を根本から見直すことは容易ではありません。高橋氏が語るように、客観的な視点で伴走できる外部のプロ人材の活用は、変革を継続させるための有効な手段です。「HiPro Biz」を通じて、自社の収益体質を見直す第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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