海外営業戦略を再構築するには。市場理解から販路開拓までの実践ステップを解説

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2025年11月20日(木)掲載

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世界情勢の混迷、それに伴う地政学リスクに起因して、現在、多くの企業に海外事業の拡大や見直しが求められています。不確実性の高まるグローバル市場のなかで販路を開拓し、成果につなげる営業体制を確立するには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。

日系及び外資系の大手企業において海外営業戦略の策定や、海外拠点の構築を手がけた経験を持つプロ人材の茂手木 真治氏にお話を伺いました。

日本企業の進出先は新興国へシフト中。国ごとの特性を踏まえた営業戦略を

——近年、日本企業の海外事業展開の動向をどう見ていますか。

茂手木氏:ここ4~5年ほどで、企業の海外進出先が北米や欧州から中国、シンガポール、マレーシアなどにシフトしつつあると感じています。ご相談をいただく顧客企業のなかにも、新興国への事業展開を検討するケースが増えています。グローバル市場が成熟に向かうなかで、まだ成熟しきっていない新興国にチャンスを見出す機運がより高まっているのではないでしょうか。

——先進国と新興国では進出の際のポイントは異なるのでしょうか。

茂手木氏:国ごとに言語や文化、法律、商習慣が異なるので、進出先の特性を踏まえた営業戦略が必要です。たとえば、私の経験から言えば、東南アジアの国ではビジネスにおいて人脈や関係性が重視される傾向があるので、現地におけるパートナーづくりが重要なポイントになります。一方で、東アジアに目を向けると、台湾でのビジネスでは意思決定者との接点が非常に重視されました。こうした事情があるため、それぞれの国の特徴をリサーチしたうえで営業戦略を構築することが欠かせません。

ただし、それ以上に重要なのが、商材の特性です。同じBtoBの商材であっても、製造機械などの高単価商材と、機械部品などの点数が多く単価の低い商材とでは、営業のフローや注力するポイントが大きく異なります。たとえば、製造機械の場合、販売後のサポートやメンテナンスが重要となるため、販売体制は直販が適しています。柔軟かつスピーディーにサービスを提供するためにも、現地拠点を設ける必要があります。一方で、機械部品の場合は、販路開拓が重要であるため、現地の代理店を確保するチャネル戦略にリソースを投下することが重要になります。このように、海外事業の展開時には進出先のリサーチとともに、自社の商材の特性を踏まえた営業戦略を推進する必要があります。

「両面作戦」で顧客候補のサプライチェーンを把握する

——では、海外事業の拡大や展開を目指す企業は、まず何に着手すべきでしょうか。

茂手木氏:まず取り組むべきは、進出先の選定や市場理解です。戦略的に進出先を選定し、その市場の環境や特性を理解したうえで営業活動を展開しなければ、長期的な成果は望めません。逆に、場当たり的に進出先を決めてしまうと、一時的に売上を上げられても、事業の継続性に欠けることが多いです。

たとえば、最近はアメリカやドイツでの政策転換などが影響し、欧米でEV市場の成長が鈍化しています。こうしたなかでは、欧米市場を目当てに電気自動車部品を製造していた企業は、進出先の転換が迫られると思います。しかし、「欧米市場が縮小しているからアジア市場に乗り換える」といった安直な戦略では成功は期待できません。特に、EVやスマートフォンのように、世界中の部品メーカーがこぞって売り込みをしている製品は競争が激しく、採用に至るハードルも極めて高いです。そうした環境を勝ち抜くには、緻密な情報収集と戦略実行が求められます。

では、具体的に、どのように進出先を選定するのか。まずは顧客になりうる企業のサプライチェーンを幅広い情報からリサーチし、アプローチすべき地域や拠点をあぶり出します。昨今、グローバルサプライチェーンを構築している企業は多いです。そのため、本社は北米に所在していたとしても、製品の組み立てなどはまったく異なる地域や国で行っている場合があります。そうした企業にアプローチするには、組み立てなどを行っている現地の拠点と接点を持つのが効率的です。自社製品の「窓口」がどこなのかを明らかにするために、サプライチェーンを深く理解する必要があります。

——情報収集をする際のポイントやTipsはありますか。

茂手木氏:「両面作戦」を実行することです。仮にサプライチェーンを詳細に把握したとしても、必ずしも契約を得られるわけではありません。営業のプロセスで失注する可能性は当然あります。そのため、複数の顧客候補に対し、同時並行でリサーチとアプローチを進めることが重要です。個人的な経験から言えば、欧米企業は日本企業に比べて、両面作戦的な情報収集が得意な印象があります。特定の顧客候補に固執することなく、柔軟に候補を絞り込んでいくのが重要です。

——顧客候補を絞り込んだ後、次のフェーズでは何をすべきでしょうか。

茂手木氏:進出する地域や顧客候補が決まった後には、事業の具体的な計画を練ります。このフェーズでのポイントは「いかに信憑性のある計画を立てて社内を説得するか」です。海外事業はリスクが高いことから、本社の経営陣が投資に後ろ向きになり、十分な予算や人員が確保できない場合があります。当然、リソースが不足していれば成果は挙げにくいです。

そのため、営業担当者は再現性のある計画を立てて、経営陣をはじめとした社内の信頼を得なければなりません。たとえば、顧客候補が公表している経営計画をもとに需要を予測して中期的な売上の見通しを立て、さらにチャレンジングな目標を提示するなどして、経営陣の期待を喚起します。このフェーズでのよくあるミスが「弱気」になることです。いくら正確に需要予測や目標を立てたところで、それらの数字が堅実すぎると社内の信頼も得にくいでしょう。収集したデータに依拠しつつも、いかに期待を醸成する目標を立てられるか。そして、それを達成するための意欲をアピールできるかが、このフェーズの重要なポイントです。

語学、スピーディーな対応…海外での営業活動を加速させるには

——現地での営業活動をスタートした後に注力すべき点を教えてください。

茂手木氏:一定の成果を得て、現地法人や事業部門の規模が拡大した場合には体制構築が必要になります。しかし、その規模に至るまでは、まずは成果を挙げることを至上命題にして、目標達成にコミットすることです。そのためにも、このフェーズでは顧客候補へのアプローチや信頼関係構築に注力しましょう。

一つのカギになるのが語学です。通訳や現地の支援者を伴って提案するのも手段の一つではあります。しかし、自ら自社の強みや導入した際のメリットを語るのと、支援者に代わりに語ってもらうのとでは、言葉の響き方が違います。私自身、これまで長年にわたって海外での営業活動に従事してきましたが、「言語の壁」によって案件が停滞するケースを度々経験しました。そのため、事前に社内から現地の言葉に精通した人材を招聘するなどの手筈は整えておくべきでしょう。

語学に加えて、スピーディーな対応も欠かせません。物理的に距離が隔たると、情報収集や共有にタイムラグが発生しやすく、競合他社に対して不利になる恐れがあります。より迅速な対応力を備えるためにも、現地法人の設立は有効ですし、国内拠点勤務であっても、顧客の要望に応じて素早く現地へ赴ける体制は整えておいた方がよいと思います。

——最後に、海外事業展開を検討している担当者に向けてメッセージをお願いします。

茂手木氏:海外事業の展開は「情報」「手法」「体制」が一体となることが求められます。いかに幅広い情報を集め、適切な手法を選択し、現地の環境に適した体制を築くかが、成功の鍵となるでしょう。しかし、そうした手法や体制が国や商材によってバラバラなのが難しいところでもあります。そのため、海外事業の展開を目指す際には、豊富な知見を有する外部人材の力を借りるのも一つの方策だと思います。

また、海外事業には本社からの支援も欠かせません。単に事業の進捗を管理するだけではなく、営業プロセスをレビューしたり、定期的な会議の機会を設けたりするなど、継続的な接点を持って事業を後押しするのがよいでしょう。海外事業に携わる従業員は往々にして不安です。不確実な環境のなかで自らの手で事業や組織を立ち上げていく困難に常に直面しています。そうした従業員に、国内事業と同様の熱量と粒度で支援を行い、組織として事業推進していくことが、海外事業を確実に前進させるための重要な一手となります。

【プロフィール】

茂手木 真治(もてぎ・しんじ)
日系及び外資系の企業において、一貫して営業活動に従事し、有形/無形双方の商材を経験。直近12年間は半導体検査装置の製造企業に在籍し、執行役員・営業副本部長として海外営業を統括するほか、米国子会社 社長兼CEOとして経営再建を指揮する。全世界の顧客(Intel、Appleなど)との連携で売上を80億円から500億円へ成長させた。また、シンガポール企業の買収プロセスを主導し、M&A後の統合を成功裏に実施した。

まとめ

海外事業の営業活動において、フェーズごとに押さえておくとよいポイントがあることがわかりました。ただし、「国や商材ごとに適切な手法や体制は異なる」という点には留意が必要でしょう。つまり、進出を目指す国や地域が異なれば、適切な戦略も異なるということです。

このような状況では、茂手木氏も述べる通り、海外での事業展開や営業活動に豊富な知見を持つ外部人材の支援が有効です。「HiPro Biz」には数多くの実績を有するプロ人材が多数在籍しています。プロ人材の力を借りて、自社の次世代戦略を前進させてはいかがでしょうか。

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