新規事業開発を成功に導くプロセス(進め方)

新規事業

2022年05月11日(水)掲載

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世界経済が猛烈な勢いで変革していくなか、多くの経営者たちが危機感を覚え、未来への投資として新規事業開発部を立ち上げています。しかしその一方で、新規事業開発に失敗した例は枚挙にいとまがありません。

本コラムでは、新規事業の開発における矛盾と解決策、ワークフレーム、成功プロセス、成功事例について解説します。

新規事業開発

新規事業開発における矛盾と解決策

デジタル化の急速な進展により、新概念が低コストかつ短時間で実体商売に転化する環境が普及し、世界経済の変革を猛烈な勢いで推し進めています。AI、IOT、仮想通貨、ブロクチェーン、量子コンピュータ、モノからコトへのスローガンなどはその現れの一端にすぎません。

経営者たちが、「うちは新技術や変革に対応できているのか」と不安になり、内部キャッシュが豊富なうちに未来へ投資しようと、新規事業開発部を立ち上げようとするのは頷けます。

ところで、中小企業であれ大手企業であれ、企業となれば、一定の規模・組織・歴史をもった既存事業を運営中です。それらの事業は、利益を出しているか損失を出しているかに関わらず、その企業に広範囲な知見・能力というアセットを蓄積しています。

新規事業の創出となると、これまでの知見・能力の延長線上にない要素を求めることになります。規模も大きく老舗企業ほど、濃密に蓄積された知見・能力アセットが邪魔して、この新要素に気づく目を曇らせ、せっかく担当者が考案した新事業の価値を理解できずに或いはリスクテイクに尻込みして、反故にしてしまうことが多々起こります。

一方、「いくら突飛でもいいから新規事業を開拓しろ」と、トップからの命令であっても、企業にとってせっかく蓄積している知見・能力アセットをまったく活用しないで、それとは無関係な新事業を検討するのはリスクも大きく、またもったいないことでもあります。

この邪魔になったり使わないのはもったいなかったりする、この一見矛盾を帯びる「知見・能力アセット」とは何なのか。それは、技術的な製品ストックもさることながら、製造、研究・開発、販売、顧客、組織運営、知財・ノウハウ、資金運用、アライアンス、そして役職員の人的関係等々、企業活動で得たあらゆるソフト・ハードのアセットのことです。過去に失敗した事業のデータベースもこのようなアセットの一部となります。

そこで、この「新規事業開発によくある、企業に蓄積された知見・能力アセットをめぐる矛盾」を解決するポイントがどこにあるかを考えてみると、それは、新規事業の創出とは、新商売の創出であり、新製品の開発ではないことの理解にあることに気づきます。

新商売を創り出すのであれば、蓄積された「知見・能力アセット」を十分活用して、まったく新しい事業(商売)を生み出せるからです。

開発手法(フレームワーク)

新規事業の開発方法には、代表的なものがあります。いくつかご紹介します。

リーンスタートアップによる高速な効果検証

新規事業の開発手法として特に有名なのが、リーンスタートアップです。リーンスタートアップは、仮説をもとに小規模・短期間で事業をスタートさせ、顧客の反応を的確に確認しながら、より顧客のニーズに沿った製品・サービスをつくりあげていきます。

リーンスタートアップのメリットは、小規模・短期間でスタートさせるため、コストや時間を節約しながらニーズに沿った製品・サービスを開発できることです。また、検証段階から顧客のレビューを行うため、リアルな顧客の声をいち早く得られます。レビューをもとに改善を繰り返すことで、新規事業成功の確率を高められるという利点もあります。最初は最低限の機能でスタートさせ、トライアルを繰り返すことで精度を高めていく手法のため、フィードバックを繰り返すことと、失敗を許容する環境が重要です。

既存アイデアの組み合わせによるアイデア創出

新しいビジネスのアイデアは、何もないところから生み出すイメージをもつ方も多いかもしれません。しかし多くのサービスやアイデアのもとを辿ってみると、既存のものを組み合わせて成り立っていることが多いのも事実です。この手法を使ってアイデアを創出する際は、情報収集として他社の成功事例を調べるなど、多くの情報をインプットする必要があります。

この手法のメリットは、たとえ0から1を生み出すスキルがなくても、ビジネスを組み合わせるテクニックが磨かれれば、新しいアイデアを生み出せるという点です。また既存ビジネスの動向から、新規事業を立ち上げた後の展開を、ある程度予測できるという部分も利点でしょう。

オープンイノベーションを有効活用し、人材や技術の不足を補う

オープンイノベーションは、他社や研究機関との協業、外部のプロ人材などを活用し、社内・社外の垣根を越えてアイデアやノウハウを取り入れ、新しい技術・製品・サービスを創出することです。

オープンイノベーションのメリットは、言葉通り、開かれた環境で開発を進められることです。社内だけでは技術、ノウハウ、リソースが不足している場合は、大きな効果が期待できます。外部人材を活用することで、知識の習得や事業推進のスピードアップなども望めます。新規事業開発には、さまざまなステップ・課題を乗り越えながら進めなければなりません。ステップ・課題によっては、外部のプロ人材を有効的に活用することも視野に入れましょう。

成功プロセス(進め方)

新規事業を考案し、実現するためには、以下のようなポイントを検討する必要があります。全て満点で用意することは困難でしょうが、多くを満足させればさせるほど新規事業開発がスムースに進み、始動後の運営管理も確実になります。

社内体制の明確化

まず、新規事業開発を行う社内体制について明確にしなければなりません。新規事業開発のためどのような組織(開発、決定、運営管理)にするのかを考える必要があります。理想は、新規事業毎にその開発から実施、運営管理まで、独立した一気通貫の人事(責任者)、会計財務体制を組むことです。

新規事業開発のため、新たに人材を採用することもあるでしょう。新たに人材を採用する場合は、チーム内における自身の役割を正しく認識し、その重要性を理解できるよう育成する必要があります。チーム内で新規事業開発におけるビジョンを共有し、役割が認識できる環境づくりを進めましょう。また、人事政策を検討する際、減点主義は厳禁です。失敗を許し、取り返すチャンスを担保する人事政策が必要です。

そのほか、 新規事業開発のためにどのような資金を用意するのか、あるいはどのように使わせるのかを明確にしたり、新規事業の評価基準の設定も必要です。新規事業の評価基準は、設備投資の評価基準と決して同じではありません。

保有する知見・能力アセットの棚卸し

次に、保有する知見・能力アセットの棚卸しです。進め方は、まず、過去および現在の商品と技術の棚卸し(プロファイル分析、成否分析)を行います。次に、研究開発中の製品および技術の棚卸し(プロファイル分析)を行います。そのあとは、過去および現在の販売方法の棚卸し(プロファイル分析、成否分析)です。最後に、過去および現在のアライアンスの棚卸し(プロファイル分析、成否分析)を実施しましょう。

棚卸しが終わったら、それぞれの商品・製品・技術のコア・バリューを徹底的に討論し、析出します。コア・バリューはその商品・製品・技術の背景にある深い思想の中に横たわります。そこまで議論を重ねて潜っていってえぐりだします。コア・バリューはある種の普遍性を持っているはずです。

新規事業ターゲットの明確化

新規事業に限った話ではなく、事業にはターゲットが明確に定まっていることがとても重要です。すきま産業やニッチマーケットなどと呼ばれますが、ライバルのいない市場を探すことが新規事業開発では成功の秘訣ともいわれます。たとえばターゲットを「男性」とだけ設定しては、あまりにも市場が広すぎます。男性のなかでも「甘いものが好きな男性」「鉄道が好きな男性」「会社で管理職をしている男性」など、年代・趣味・ライフスタイルなど、多様な視点からターゲットを絞っていくと、おのずとターゲットに対する競合数とターゲットの潜在的な悩みが顕在化するでしょう。そこから自社のアセットを生かせる競合の少ない市場を見つけ出せます。

システム発想で開発を行う

新規事業を成功に導くには、ビジネスをシステム発想で捉えることが必要です。成功している新規事業の多くは、システム化することで生産性を高め、コストや情報の優位性を向上していこうとする共通点があります。どこをシステム化すべきかについては、事業規模や性質によってそれぞれ異なるため、生産分野はもちろん、販売・マーケティング・運営・管理など、幅広い視点で見極めましょう。たとえすでに成熟している産業への新規参入であっても、システム発想で事業化することによって、新たな市場の創造も可能です。

ビジネスモデルの検証を高速で回す

新規事業開発の際には、クレームなどを恐れて「完璧な状態でリリースしよう」と思うかもしれません。しかしそれは顧客の声に耳を傾けず、机上検討にばかり時間を割いてしまう恐れがあります。結果的に、ニーズに沿わない内容になる、時間をかけすぎるあまり競合他社に先を越されてしまうなど、事業の失敗につながりかねません。こうした事態を避けるためにも、プロジェクトに対する市場からのフィードバックを素早く検証し、学習を積み重ねる仕組みをつくることが重要です。検証工程を高速で回すためには、最初から事業計画を綿密にしすぎず、最低限の準備でスタートさせるとよいでしょう。スタート後に顧客の反応を見ながらレビューを素早く吸収し、改善を繰り返しながら軌道修正できる柔軟さが、新規事業を軌道に乗せるコツといえます。

新規事業開発の成功事例

新規事業開発の成功例を、いくつかご紹介します。

大手輸送機器メーカーの小型ビジネスジェット機

オートバイ、自動車メーカーとして名高いA社が新規事業として開発したのが、小型のビジネスジェット機です。A社の小型ビジネスジェット機は、同類機と比べて燃費が良く、スピードが速く、高く飛べるという魅力があり、2020年には小型ビジネス機のシェアで5割を越えました。ビジネス機の主要市場である北米のニーズをキャッチするために、開発拠点は米国に設置。エンジン位置などに革新的要素を取り入れながら、技術的に進んだ機体をつくりあげました。常に新しいトレンドや技術を最初に搭載するというA社の使命に則った、技術を駆使した成功例です。

新しい形の賃貸不動産

インドのユニコーン企業であるB社が日本で展開したのが、従来の賃貸不動産の慣習とは異なる賃貸サービスです。敷金礼金なしといった賃貸契約における縛りをなくしたほか、家具家電付きという特長も功を奏し、サービス開始当初から大きな話題になりました。既存プレイヤーが根強いとされる賃貸業界において、テクノロジー企業としてのノウハウを活かしながら独自路線を展開した例です。

自動車メーカーによる送迎支援システム

自動車メーカーであるC社が新規事業として開発したのが、介護事業者向けの送迎支援システムです。簡単に送迎計画が立てられる機能、施設とドライバーの連携ができる機能、送迎業務の見える化ができる機能などを搭載。さまざまなシーンで通所介護事業者の送迎業務をサポートし、送迎業務に関する課題を解決しています。元々C社が販売していた車両は、比較的高齢者に地域の足として利用され福祉業界との高い親和性がありました。それがきっかけとなり、新規事業として開発されています。

まとめ(新規事業開発の技術的な補足事項)

本コラムでは、新規事業の開発における矛盾と解決策、ワークフレーム、成功プロセス、成功事例について解説してきました。

最後に、新規事業開発の技術的な補足事項を記載いたします。

発案者が責任者となり、彼・彼女が新規事業の提案、投資決定獲得、投資後の事業運営・管理までを一貫して行う体制がベストです。

PLではなくCFが新規事業の評価の原則です。投資回収期間による評価ではなく、一定期間中に投資額の何倍、何十倍のキャッシュを生み出すかを評価基準とします。

その事業を構成する諸仮説を明確化し、目標(定量的ゴール)から遡行してのマイルストーンを作成し、そしてそのマイルストーンによるリスク管理(予実管理ではない)を行い、マイルストーン毎に目標に向かっての事業運営の軌道修正を行います。

イノベーションの重要性を理解したうえで適切な判断を行い、協働による相乗効果が生まれるように環境や体制の整備。そのためには、「正しい評価体制」と「支援する環境の整備」が大切です。

※記事は執筆者個人の見解であり、パーソルキャリア株式会社の公式見解を示すものではありません。

執筆者N.N氏

1975年、大手商社へ入社し、電力プラントの輸出業務、民間発電所の投資事業などに携わる。2004年に同社新規事業開発部長となり、ベンチャー事業への直接投資と育成を主管。2007年よりエンジェル投資家・インキュベーターとして独立し、上場会社、非上場会社の新規事業の開発・育成を支援。

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