人材育成とは?基本的な考え方や人材活用の目標設定方法

人事

2020年05月15日(金)掲載

画像

企業において、人材は育つものなのでしょうか、あるいは育てるものなのでしょうか。業種、事業規模、経営者の考え方、創業以来の社風などによって答えは一様ではないでしょう。しかし、現実には多くの企業の人事担当者は人材を育てるために日々汗をかいています。

企業を取りまく変化の速さ、グルーバル化の進展などにより、企業はこれまで以上に人材育成の重要性を感じ取り、主体的に取り組み始めています。ここでは人材育成の考え方や目標設定の方法を、実際の成功事例と併せてご紹介します。

人材育成とは

普段当たり前のように使われている「人材育成」という言葉ですが、ここで改めて定義を確認してみます。人材育成とは、俯瞰できる視野に長期的に立ち、企業に貢献できる良質な人材を育成することです。

人材育成と人材教育の違い

人材育成は、人材教育のように良識を養うだけではなく、主体性、自立性をもった人間として、特定分野のスキルを学び、経済活動に寄与することに重点を置きます。

つまり、人材育成は企業の業績向上と従業員の能力発揮を統合し、自ら思考できる人間を育て上げるためのものです。企業は社員が能力を有効に発揮できる環境を整えることで、成長を促し、最終ゴールである企業の業績向上につなげていきます。これを長期的なスパンで計画を立案・実行することこそが「人材活用」の真骨頂です。

人材育成と人材開発の違い

人材育成は社員が持つスキルの平均値の底上げを目的としているのに対して、人材開発では個々のスキルを高めることが目的となっています。そのため、人材育成と人材開発では、対象者やゴール設定が異なります。

人材育成の対象者は、新入社員や管理職です。育成内容としては新人研修やマネジメント研修などの階層別研修が該当します。これらの研修は業務を進めるうえで必要なスキルを習得するためのものであり、そのゴール設定は一律となります。

一方で、人材開発の対象者は、企業に所属する全ての社員です。さらに人材育成とはゴール設定が異なり、個々のスキルや成長度に合わせて個別に設定されます。

つまり、人材育成が対象者のスキルを基準値まで高めるものであるのに対して、人材開発は全社員のスキルを最大限に高めるものであるといえるでしょう。

人材育成の目的

それでは人材育成の目的を少し具体的なレベルに落とし込んでみてみます。人材をただ市場価値の高い人間に育てることだけが、人材育成の目的ではありません。自社で活躍する人間に育成するにあたり、副次的な目的や効果があります

帰属意識を高める

人材育成をすることによって、会社への帰属意識が高まります

企業の経営理念、ビジョンに沿った形で人材育成が行われることで、個々の社員の理念に対する理解が深まることが期待されるのです。

研修などで部署の垣根を超えた交流が生まれ、社員同士がお互いを認識し、考え方を知る機会が生まれます。それによって社内コミュニケーションが活性化し、連帯感や企業への帰属意識を高める効果が生まれると言えます。

連帯感や帰属感に関連して、従業員エンゲージメントという言葉も注目されています。従業員エンゲージメントが高くなると企業経営にプラスの影響をもたらすともいわれており、多くの企業が「従業員エンゲージメントを高めるための取り組み」を積極的に行っています。

エンゲージメントとは、会社にどれだけコミットするかという意味で、コミットすればするほど高い成果を上げやすいと言われています。 以下の記事を参考にしてください。

社員の専門性やスキルを相互的に高める

社員の専門性やスキルを高めるというのは人材育成の最も基本的な部分です。しかし、ここで求められているのはただ単に個人のパフォーマンスを上げるだけではなく、他の部署や担当の人と適切な連携をとって、相互にシナジーを生み出していくことです。

社員が相互的にスキルを高め合う仕組みを作れるようにすることで、経営側が継続的に人材活用のアクションを定期的に起こさなくても、自然発生的に人材が育ちます。そのための教育、制度設計を行うことが大切です。

退職を防ぐ

期待されて入ってきた新入社員が3年以内に退職することは珍しくなくなってきました。定年まで勤務する気持ちで入社してくる社員も、以前と比べれば大分減っているでしょう。残業や昇進に関する考え方など、人生における仕事の意味付けが以前の世代とは異なっています。

また、企業の中核として活躍する中堅社員も、機会があれば転職することにためらいを感じない時代です。アメリカほどではありませんが、人材の流動性が進みつつあり、実際に転職マーケットも大きくなっています。

企業は採用活動に大きな時間とコストをかけ、採用した人材をさらに時間とコストをかけて育ててきました。退職されては大きな損失になります

しかし、社員に成長を実感できるプログラムを提供し、高いレベルでモチベーションを維持させることができれば、退職を減らす有効な手段になる可能性があります。もちろんそのためには、部下のサポート役である上長に対しても、しっかりした教育が必要になります

人材育成において大切なことは目標設定

人材育成に取り組むうえでの課題は、リソースとノウハウの不足が挙げられます。

リソースが足りない

1つ目は社内のリソースが足りず、人材育成に時間を割けていない点です。この背景には管理職へのタスク集中 の常態化が要因として挙げられます。特に管理職に人材育成を任せたい場合は、既存のタスクを適切に分配し、負荷を軽減することが重要です。

また、人材育成では習得すべきスキルの優先度や時間軸があります。一度にあれもこれもと詰め込んでしまうと、人材育成を任せたい人物の時間が足りないだけでなく、 受講者が内容を理解し、スキルとして獲得することが難しくなってしまうでしょう。

そのため、人材育成では習得してほしいスキルの優先順位を決め、適切なスパンを取って実施していくことが重要です。

ノウハウが足りない

2つ目は育成ノウハウの不足により、人材育成の難易度が上がってしまっている点です。この背景には職種や階級ごとに必要なスキルをマッピングできていない、評価との結びつきが薄いことで社員のモチベーションが下がっているなどが要因として挙げられます。

また、近年は1on1のニーズが高まっている一方で、管理職の育成方法が属人化してしまい、カリキュラムが体系化できていない企業も多いのではないでしょうか。

特に人材育成は、育成すること自体が目的化しがちです。そのため、まずは人材育成の目標を立てましょう。スキルマップに沿って期日や状態を決めた後は、社員がモチベーションを保つためにも、スキル習得をどのように評価するかを明確にすることが重要です。

人材育成において大切なことは目標設定

人材育成の目的について説明してきましたが、目的を達成するためには、目標設定が最も重要です。

具体的なゴールがなければカリキュラムをこなすだけになり、企業も社員も人材育成の効果を測ることができなくなるからです。コストと時間をかけて行う以上、成果がある程度可視化できなければ人材育成の妥当性にも疑問符がつきかねません。

目標設定の意味

普通の社員研修などでは、社員は業務多忙な合間を縫って義務的に参加し、ただ漠然とプログラムを消化するだけというケースが多いのではないかと思います。

社員の成長を図るには適切な目標を設定することでモチベーションを向上させ、主体的に取り組むように促すことが必要になります。目標設定を行い目標がクリアできれば達成感を得られ、様々な面で好影響が出てくるでしょう。いずれは会社全体の利益に繋がります。

社員に正しい目標を設定できるよう促すポイント

●目標を具体的にする

目標は具体的である必要があります。抽象的な目標では成果を計ることができません。一つのアクションで成果を把握できるようにすることで、達成できたかそうでないかが明確になり、進捗を把握しやくなります。

●数字を使用した目標にする

出来れば数字的な目標を入れることが望ましいです。しかし、こちらはケースバイケースであると言えます。数字で達成しているかどうかが適切に判断できない場合もあるからです。簡単に数字を意識させるには、期限やスケジュールを設けるのがおすすめです。期限やスケジュールを決めると、「あと数日」と社員に数字を意識させることができます。

●達成度の進捗を可視化する

定期的に達成度の進捗を管理し、こまめにミーティングをしてチームの団結力を高めると良いでしょう。可視化できることは進捗確認がしやすいだけでなく、社員の団結力を向上させる機会にもなり得ます。

人材育成の方法・手順

人材育成の具体的な方法として、「組織の現状把握」「企業が求める組織、社員の理想像を描く」「施策の具体化、取り組み」という3つのプロセスがあります。

組織の現状把握

1つ目は現状を分析し、課題を特定することです。これは人材育成における課題だけでなく、ビジネス戦略やチーム連携など、組織全体としての課題が該当します。

課題を特定した後は、経営戦略やリソース状況を踏まえて、解決すべき優先順位を決めていきましょう。

企業が求める組織、社員の理想像を描く

2つ目は企業が求める組織と社員の理想像を描き、その実現に必要な業務やスキルを洗い出すことです。この際に社員のキャリアプランを明確化することも重要になります。

そして、キャリアプランと人材育成が結びつくことで、育成の必要性などを社員が理解しやすくなるでしょう。

施策の具体化、取り組み

3つ目は実際に施策の内容を詰めていく工程です。人材育成にはOJT、Off-JT、eラーニング、グループディスカッションなど、複数の方法があります。複数の手法を組み合わせて行うという選択肢もあるでしょう。

数ある選択肢の中で、スキルの習得を効率的に進めるためには何が良いのかを検討し、具体的な施策を決めていきましょう。

人材育成ができる人の特徴

人材育成で成果を出していくためのスキルとしては、「目標管理スキル」「コミュニケーションスキル」「ロジカルシンキング」「クリティカルシンキング」の4つがあるとよいでしょう 。

目標管理スキル

目標管理スキルは、目標を明確に設定するだけでは不十分です。社員には得意不得意があるため、どちらか一方に偏りすぎず、バランスを取ることが大切になります。

また、目標に対する成果指標やアプローチ方法など、達成の基準やルートまで決めることで、目標の達成率に加え、改善点の客観視や社員の自主的なモチベーションアップを促すことにもつながります。この際、年次や役職ごとに必要なスキルを一覧化すると、より分かりやすいでしょう。

コミュニケーションスキル

人材育成における指導には、コミュニケーションスキルも必要です。社員に対する傾聴スキルや、適度に称賛の言葉をかける、ティーチングとコーチングの使い分けなど、人材育成でのコミュニケーションには幅広いスキルや工夫が求められます。

やるべきことだけを支持する、苦手なことばかりにスポットをあてるなど、一方的なコミュニケーションでは、社員のモチベーションが下がりかねません。社員の自発的な成長を促すためにも、強制や叱責には注意が必要です。

ロジカルシンキング

物事を筋道立てて説明するには、ロジカルシンキング(論理的思考)が欠かせません。特に人材育成でアドバイスが必要なシーンでは、そのアドバイスに対する納得感があるのとないのとでは、その後の成長度合いが変わってくるでしょう。

論理が破綻・飛躍した場合、それだけで自分の考えが相手に伝わりにくくなります。特に人材育成では原因や結果の整理が求められるため、ロジカルシンキングができることで、解決への糸口を見つけやすくなるのです。

クリティカルシンキング

ロジカルシンキングと類似した言葉が、クリティカルシンキング(批判的思考)です。ロジカルシンキングが推論をベースに筋道を立てるのに対して、クリティカルシンキングでは物事の妥当性を重視し、より多角的な仮説立てを行い、物事の本質を見極めます

クリティカルシンキングでは結論に至るプロセスで一度立ち止まり、さまざまな角度から不安材料を当てていき、先入観などを排除していきます。特に事実と意見を区別するときに効果的な思考法です。

人材育成の成功事例

ここでは人材育成の成功例として、3社の事例をご紹介します。

家具販売店/A社の事例

家具・インテリア用品の販売を手がけるA社は、社員の知識・経験の拡張と組織の活性化を目的に、定期的に配置転換を行うという教育制度があります

この配置転換と並行して、短期間で課題解決に取り組む経験や、キャリア・適性に合わせた専門性の拡大などを積み重ねることで、一流のスペシャリストへの成長を支援しているのです。

・会社の取り組みや改善施策をベースとした階層別研修
・分析力や提案力を養うための他社調査書
・多様なキャリアを知るための業務体験
・理論や提案方法を学ぶための通信講座

同社はその他にも幅広い取り組みを通じて、社員の成長をより多角的に支援するための仕組みづくりを行っています。

IT企業/B社の事例

大規模なプラットフォームサービスを提供するB社では、社員の成長機会を増やすための取り組みとして、学習と成長のサイクルを効率化するための仕組みを取り入れています

・課題解決や目標達成を支援する1on1ミーティング
・役職者の評価を通じてチーム運営に携わる会議
・社員1人ひとりに合わせて育成方針を個別最適化
・多様なキャリア形成を目的とした異動制度

その他にも、クリエイター向けのオンライン学習コンテンツ、TOEIC IPテストの社内受験などを通じて、社員1人ひとりの可能性に対する気づきを与え、成長を促すための機会提供に注力しています。

製造業/C社の事例

精密機器メーカーとして事業を展開するC社は、自社のグローバルな事業特性を活かして、より多様な成長機会を与えるための活動を行っています

・語学力や国際的なビジネススキルを学ぶための海外研修
・グローバル規模で活躍する人材育成を目的とした国際出向制度
・次世代を担う技術人材の育成に向けた分野横断型の研修
・DX教育を強化するための研修施設の設立

同社は階層別研修だけでなく、選択研修や自己啓発なども取り入れ、社員の主体的なキャリア形成をサポートしています。

また、発明、品質、調達、生産性、環境活動など、幅広い取り組みに対する認定・表彰制度を設けることで、社員のモチベーションを支え、成長に対する意欲の増進を目指しています。

まとめ

人材育成は、企業の経営ビジョンに沿って継続的かつ長期的に取り組むものであり、人的にも資金的にも多くのコストがかかります。近年では重要な経営課題の一つとしてこれまで以上に重要視されてきています

HiPro Bizは、人材育成をはじめとする企業の経営課題を専門家の経験や知見によって解決する新しい経営支援サービスです。登録された専門家の中から状況に合わせた最適な人材を提案し、アドバイスにとどまらない「実働型」の経営支援を行います

ぜひお気軽にお問い合わせください。

関連コラム

ページTOPへ戻る