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経営戦略論

経営全般・事業承継

2020年03月24日(火)掲載

戦略とは

戦略の定義は様々で、それぞれ紹介すると論文になってしまう。一言でいえば、環境との適応といえる。もう少し踏み込むと、方向性と資源配分といえる。進むべき選択肢が東西南北だとして、東に進むか西に進むか決めないと決まらない。資源は有限であるので、いきなり全方位とはいかない。仮に東に進むとして経営資源の100%を東に配分するのか、北東にも少し配分するかを意思決定しなければならない。明確にすることだ。

近しい言葉に戦術というのがある。戦国武将に言わせれば、どの国と戦うかは戦略で、どう戦うかが戦術になる。ちなみに、戦略はstrategyであるが、これはストラティジオス(将軍)が語源で、戦術のtacticsは軍隊を動かすという意味である。

戦略論に限らず、経営学というのはメタアナリシスであるので、実証研究などを通じて共通するもの、多くを説明できる理屈が見つかると理論となる。何故、そのような理論が必要かといえば、勝利を収めるためである。経営の目的は、継続することである。ラッキーで勝つことはあってもpure luckは何回も起きない。よって、戦略論が必要となる。

思い起こすと幸運だったということもあるだろう。それは、必然と考えるべきだろう。何度も考え、試行錯誤を繰り返し、修羅場を経た者にのみギフトはやってくる。パスツール曰く“Chance favors the prepared mind”である。

環境変化と戦略論の変遷

社会や環境が変われば戦略も変わる。80年代は規模の経済を追求する時代といえる。魅力な市場を如何に占有するかが勝負でポジショニング学派という。90年代に入ると先進国の市場は成熟化し、グローバル化が急速に展開される。ちなみにインターネット元年といわれる年は1995年である。この時代になると差別化(注1)が競争優位を決めるという考え方が出てくる。ケイパビリティ学派である。2000年代に入るとリアルオプションやゲーム理論といった柔軟なモデルが一般化する。柔軟というのは、リスクテイクのことをいう。そして、シュンペーター型、つまりイノベーションが中心的議論となる。以前のコラムで紹介したVUCA時代においては、リニアな発想では駄目だということだ。創造が求められる。

カスタマーエクスペリエンスという言葉も一般的に使われるようになってきたが、背景にあるのはサービス化である。日本の場合、GDPの70%、就業者の70%がサービス業(注2)という意味であるが、本質は異なる。多少乱暴な言い方であるが、モノを作って儲かる時代ではないという意味だ。例えば、ブルドーザーやタービンというような重機は、データを基に事前にメンテナンス時期を知らせてくれる。ジョブ理論(注3)でいえば、欲しいのは重機ではなく、休まず土を掘り続けることが目的であり、価値の重心はデータに移行しつつあるという話だ。当社の製品の品質は安心です、しかも安価ですというのは、単に機能的ベネフィットを言っているだけで顧客に感動は与えていない。

もう一つの大きな流れはビジネスモデルである。個人的にはサービス化の流れの一つととらえているが、要は他業界での成功モデル、つまりアイデアを学習しようというものだ。サブスクリプションなどはその一つである。ここで留意すべきことは、単に他業界を真似るということではない。イノベーションとは生活様式を変えることを意味する。つまり、生活者に新たな感動経験を与えるものでなければならない。当社はB2Bであるから、当社の製品やサービスはコモディティであるからイノベーティブなことは望めない、と考えるのではなく、むしろその逆だと考えてほしい。ブランディングという発想が重要だ。

良い戦略があるとすれば

前段の議論からいえば、変化に対応したものといえる。また、この問いは経営者に求められる総合的能力及び組織に求められる総合的能力を問うことになる。何故なら、総合的能力がなければ価値ある戦略は創造できない、または巡り合わないからである。ちなみに正しい戦略という問いはない。それに価値があるかないかである。

戦略のフレームワークはSWOTにあるように、基本は外部環境と内部環境の組み合わせである。言い換えれば、時代の追い風に乗るか、強みを活かすかである。両方に該当すれば望ましい。

時代の追い風に乗るのであれば時代を先読みしなければいけない。先読みというより、実際は未来に行って現実がそれに近づいているかを検証する感覚である。Forecastというよりwaitingに近い感覚ではないだろうか。この予見の繰り返しの結果、“これはいける”という市場を発見または確信に近いアイデアが出たとする。これは外部環境に対する対応能力である。しかし、自社に必要なケイパビリティ(強み)がない、または経営資源の再編を要するとする。これは内部環境の問題である。良い戦略というのは、外部環境に対するものと内部環境に対するものの両方と有機的関係が求められる。

実践力が良い戦略を見出す時代へ

以前、IBMの(元会長)ガースナー氏が“戦略はわかっている。実践が課題だ”という趣旨のことを述べたことがある。実践とはexecutionのことで徹底実践といってよいだろう。この問いはVUCAの時代になってより強烈に問われることになる。一つはダイナミック・ケイパビリティで、もう一つは創発である。

ダイナミック・ケイパビリティ(注4)は経営資源をダイナミックに再編する能力である。外部と内部の経営資源を戦略に基づいて最適に再構築し、経営資源を使いこなす高度なマネジメントである。よって、オープン・イノベーションもその一つと考えている。オープン・イノベーションの提唱者であるH.チェスブロー博士の著書の表題は、“Open innovation- The new imperative for creating and profiting from technology”である。Imperativeというのは、ぜひともしなければならない、必須であるという意味である。

プロダクトサイクルが早くなり、サプライチェーンがよりグローバル化され、顧客ニーズは多様化し、インターネットによって情報そのものが価値を持ち、共創価値(CSV)がベーシックな価値観になった時代において、ダイナミック・ケイパビリティは必然だということだ。日本は垂直統合モデルを好む傾向にあるが、他社からお声がかかる、うまくチームを組める文化をもっているかが戦略として問われている。

もう一つの創発とは何か。事業の仮説‐実験‐検証の繰り返しである。戦略には意図的なものと偶発的なものがある。VUCAの時代において、当初の計画通りにものごとは進まない。特に新事業においてはその90%以上の割合で、意図的に追求した戦略が、最終的に企業の成功を導いた戦略と同じではなかったという研究報告がある。(注5)

これに類する研究は多い。J.クーゼスはその著書(注6)で実験をとりながらリスクを取る重要性を述べている。失敗そのものが貴重な体験をもたらし、それによる学習は成功をもたらすというものだ。また、実践力が結果として業績に反映されるという実証研究論文(ハーバード・ビジネススクール、スタンフォード、MIT共同研究)も発表された。 日本人はあまりリスクを取りたがらないのかもしれない。

経営戦略立案のステップに関しては様々な文献もあるが、新聞の1面を予測通りか確認して読む感覚を養い、仮説を持ち、勇気をもって先ずは小さく(Little Bets)そして徹底実験し、市場の反応をじっくり観察し洞察した上で仮説を改善していく試行錯誤を俊敏に繰り返すことが基本である時代になった。

(注1) 差別化はdifferentiationで優位性competitiveとは異なる。Competitive advantage(競争優位)であるためには差別化が有効だということ。真似されないもの(inimitable)である。
(注2) 内閣府:第三次産業の景気動向について
(注3)Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice
(著)Clayton M Christensen, Taddy Hall 他  顧客が求めているのは片づけたいジョブ(仕事)だという考え方。顧客データや市場分析で示されるデータではない。顧客セグメントという発想そのものが発想そのものを狭めている、といった考え方。(要約:宮川 雅明)
(注4)“D. J. ティース ダイナミック・ケイパビリティの企業理論 “D. J. ティース (著), 菊澤研宗, 橋本倫明, 姜理恵 (翻訳)
(注5)“How Will You Measure Your Life? “ (Harper Collins USA 2012) Clayton M. Christensen
(注6)The Leadership Challenge: How to Make Extraordinary Things Happen in Organizations(2012) James M. Kouzes (著), Barry Z. Posner (著)

執筆者M.M氏

大手コンサルティング会社を経て米国NYにてコンサルティング会社設立。自動車、電機、精密機器、家電などのメーカーや小売、物流、製薬、IT、公益法人など幅広い業種での支援実績を有する。事業開発・組織開発・人材開発の3領域を中心に、多様な課題を解決してきた。英国国立大学大学院の特定教授。

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