ピープルアナリティクス(HRテック)とは~HRの重要テーマ〜

人事

2020年10月19日(月)掲載

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ピープルアナリティクスは人事のデジタルシフトを考える上で非常に重要な仕組みです。企業内に蓄積された様々なデータを統計解析・可視化することにより、これまで「KKD(勘・経験・度胸)」と言われてきた人事業務を大きく変化させる可能性のある施策です。
しかし、日本でもピープルアナリティクスという言葉が大きく扱われるようになって数年が立ちますが、なかなか企業内に浸透して新しい成果が出てきたという話を聞くことがありません。今回はピープルアナリティクスに興味があるけれども、何から始めたら良いかわからないという方向けのコラムを書かせていただきます。

ピープルアナリティクスとは

そもそもピープルアナリティクスとは 、ペンシルバニア大学の発表した定義では、以下の通り定めています。
People analytics is a data-driven approach to managing people at work.
つまり人材マネジメントに関わる様々データを活用して、人材マネジメントの意思決定の精度向上や業務の効率化を実現する手法とされています。

人材マネジメントには採用・育成・配置・評価・労務など様々な要素がありますが、それぞれの施策における意思決定を何に基づいて実施しているのかを考えることからスタートすることが大事です。

図:筆者作成

例えば、
採用:なぜこの人を採用することを決めたのか?
配置:なぜこの人をこの部門に配置することを決めたのか?
というように、その意思決定を何に基づいて決定したのかを考えていくと、共通認識が持てておらず、数値で表すのが難しいことが実情ではないでしょうか。

ピープルアナリティクスに限らずですが、うまくいった人材マネジメント施策の再現性を持つためには、言語化と数値で表すことが重要です。

また労務の観点では、現在日本では働き方改革が推進され、労働時間管理が非常に重要になっている一方で、コロナによるリモートワークの拡大により、その把握が非常に難しくなっています。
上司や労務担当者が毎日の個人の労働時間や状況を把握できてるというのは理想ですが実際には難しいのが現実です。
労働時間にどのような変化があったか、どのような変化が起こりそうか(45h/月超過が起こりそうなど)、個人の状態に問題はないかなど、データから分析・可視化することで適切に把握し、早め早めに必要な対応していくことが可能になり、業務の効率性・生産性向上につなげることが可能になります。

ピープルアナリティクスの活用方法

「アナリティクス」というと分析のスキルを持った人材が人事部内にいない、分析ツールが部署内にないということで諦める方もいますが、ピープルアナリティクスの実施にはレベルの段階があり、どのような会社でも「今から」始めることができるステップがあります。

ステップ1:データの集約・整備
ステップ2:データの可視化
ステップ3:データでの要因分析
ステップ4:データでの予測分析

ステップ1:データの集約・整備
実は最初にして最大の難関がデータの集約・整備です。
前述した通り人材マネジメントに関わる人事施策は多岐にわたり、その都度データが発生しますが、システムごとにデータの仕様や共通キーが異なるため、データを集めてくることが困難になります。

データの集約・整備については以下のように各Data SourcesからData Lakeへデータを一本に集約するところからはじめ、分析用にData Martに加工して分析に活用できるようにすることが大事です。

図:筆者作成

ステップ2:データの可視化
アナリティクスというと、細かいエクセル 計算や分析ソフトウェアを活用など、専門知識がないと実施が難しいというと感じる方もいらっしゃいますが、まずは集約されたデータを誰が見ても理解できる情報に「可視化」するということも重要なステップです。

人事システム(労務・教育など)それぞれには可視化の仕組みがついているもの多いかと思いますが、売上や家族データなど他のデータと組み合わせたとき、部署や年代層別といった見る角度を変えることなど、データの組み合わせ・見る角度によって見えてくる景色が異なることもよくあります。

図:筆者の勤める会社の製品画面

以前の会社で実際にあった話をご紹介します。営業の幹部から「最近若手の退職者が多い気がするので、人事部で対策を立てて欲しい」という話があり、実際の入社年度別の退職率を計算してみると、全体ではほとんど変化がないことがわかりました。そこで見る角度を変えるため、部署別・職種別・評価別・採用経路別(海外大・外国人・第二新卒など)にデータを可視化してみたところ、採用経路別での海外大卒と第二新卒、そして高評価者の退職率が他より高いことが判明しました。

そしてそれらのデータに退職が入社何ヶ月目で起きやすいかを時系列に見ていくと、あるタイミングでの退職が高いことがわかり、入社後に一律のフォローアップからグループ別にタイミングを変えてフォローアップすることで退職を抑えることにつながりました。

このように実際に分析をせずとも、人事部門として抱えている課題に対して、仮説を構築し、それに必要なデータを収集・可視化するだけでも大きな成果につなげることが可能です。

ステップ3:データでの要因分析
要因分析は、ステップ2までの集団に対する傾向から、より個人に対する傾向を発見するための分析となります。つまり、何が要因で退職するのかを明らかにして、その要因を取り除いていくことになります。
エクセルで可能な分析としては、相関分析・回帰分析・t検定・x二乗検定などがあります。

具体的な分析の手法は本コラムでは記載しませんが、データから要因を特定して、その要因に対して具体的な施策を打つことで、より効果的な結果につながる可能性が高くなります。

ステップ4:データでの予測分析
予測分析はデータマイニング、予測モデリング、機械学習などのさまざまな統計手法を用いて、現在と過去の事実を分析して、将来起こる可能性のある出来事の予測を行い、早い段階で対処をすることが可能になります。

予測分析を実施するにはソフトウェアやプログラミング技術など専門知識が必要になってくるため、分析チームを作り活動することをお勧めいたします。

データによる予測をすることで、ターゲットを洗い出し、早めの対策を打つことが可能になります。

例)退職予測に関する社内でのフロー

図:筆者作成

なぜ今ピープルアナリティクスが必要なのか

近年、ジョブ型やメンバーシップ型など人材雇用の変革に関する議論が活発になってきていますが、その議論の大前提は、企業側が年功序列を前提とした終身雇用の放棄と個人側のキャリアの多様化(企業への依存度の低下)があげられると思います。

この流れはこれまでの企業 > 個人の関係性から、企業 = 個人により近づいていると考えています。

そのような環境変化の中、人事領域においてもこれまでのマス管理ではなく、社員一人ひとりの状態管理(エンゲージメント向上やパフォーマンス管理)が必要となってきており、ピープルアナリティクスはその社員の状態管理の実現(EX:Employee Experience)になくてはならない仕組みであると考えています。

これまでの組織・カテゴリー単位の管理から、今後社員一人ひとりの状態管理という視点で分析をしていこうとすると、これからは人事がこれまで持っているデータだけでは十分でないと考えています。
下表の通りこれまで人事が持っているデータは静的・ドライなデータが多いですが、今後はより動的・ウエット(本人視点)のデータ取得が必要となると考えています。

図:筆者作成

社員のキャリア意識などの内面に関するデータや、メールやチャットなどのネットワークデータなどを増やしていくことで、より効果的・リアルタイムの分析が可能になっていくと思います。

最後に

ここまでピープルアナリティクスの概要と活用、今後の展望を記載させていただきましたが、HR領域のデジタルシフトはこれから着実に進んでいくと思います。

自社の能力・技術で実現してけることが一番良いですが、様々なサービス・業者をうまく活用して実現することも可能ですので、早めに動いていくことが大切です。
今回はピープルアナリティクスにフォーカスしましたが、最後にHRのデジタルシフトに関係する施策を図表でまとめておりますので、参考にしていただければ幸甚です。

図:筆者作成

執筆者R.N氏

現在、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上級研究員。大手電機メーカーにて人事総務を14年半経験。労務関連を経て採用や教育、人事企画や制度立案・導入・運用まで実施。現在は大手電気通信事業にてHRtechの社内導入責任者を担当。採用関連でのメディア出演や講演経験実績もあり

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