海外展開を目指す日本企業が抱える課題とは?解決策や注意点を解説
2023年09月27日(水)掲載
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人口が増加している東南アジアなどの国や地域では、経済発展により消費購買力が上昇しています。そのような背景から、海外展開を考える企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、海外進出を考えている企業担当者の方に向けて、日本企業の現状や課題、解決策などを紹介します。自社の海外展開を考えている方は、ぜひ検討材料にしてください 。
海外展開を目指す日本企業の現状
まずは、海外展開を考える日本企業が増加している背景について解説します。
人口減少による国内需要の低迷
日本では中長期的な人口の減少が見込まれていますが、海外を見渡すと先進国の中間層や富裕層の人口は横ばいです。さらにアジア一帯では、中間層と富裕層の人口は増加すると予想されています。
GDP(国内総生産)も日本は今後の成長があまり期待できない状態ですが、アジアでは中国を筆頭に各地 で飛躍的な成長が見込まれています。そのため、日本企業が今後も成長していくためには、海外からの需要に応じた事業展開が必要となってきます。
海外への輸出は増加傾向
2021年の日本企業の輸出額は83兆914億円で、前年の2020年から21.5%上昇しています。コロナウイルスによるさまざまな規制が緩和されたことで、今後も増加することが期待されます。
ただし、鉱物性燃料をはじめとする資源価格の高騰などが原因で、輸出と同様に輸入額も増加傾向にあり、貿易収支全体としては1兆円以上のマイナスになっている点にも留意が必要になるでしょう。
※出典:通商白書2022(経済産業省)海外展開をする際に抱える課題
海外展開を考えるうえで避けて通れないのが、言語や文化の違い、予算などの課題です。ここでは、海外進出の際に立ちはだかるさまざまな課題の一部をご紹介します。
言語の問題
まず問題となるのが、言語の壁です。日本人に馴染み深い英語が話せれば、基本的には多くの国・地域でコミュニケーションがとれます。しかし、英語を使用し ない国や地域で事業を展開する場合、現地の人たちが使用する言語を話す必要があります。この場合、その 地域で使用する言語が使えないと、現地での業務はおろか採用した従業員とのコミュニケーションも困難になってきます。
このように、言語の問題は海外展開での課題の1つとして認識されていることから、海外での事業展開を担当する従業員には現地でよく使われる言語の習得が求められます。
文化の違い
国・地域が違えば、文化も大きく異なります。海外展開の際、日本で認められた製品やサービスの価値と日本国内での成功体験をそのまま持ち込んでも、うまくいくとは限りません。そのため、製品やサービスを海外展開する際は、現地の人たちから見て魅力的なものになるよう、経済状態、現地に住む人たちの価値観、需要などに合わせて改善する必要が出てきます。
また、日本であたり前になっている 案件の持ち帰りなどの行為は、海外では通用しにくい傾向にあり、国内と同じように行動すると、商談が流れてしまう場合があります。海外ではスピーディな意思決定が重視され、商談内容にも判断をその場で明確に示す傾向があるため、海外展開では現地の文化を考慮したうえで行動するようにしましょう。
予算の問題
海外展開を成功させるには現地での情報収集が欠かせません。より計画性のある施策を立てて実行するには、情報収集に予算を割く必要があります。
インターネット調査は、現地に住む人物に簡単な情報収集を依頼するレベルであれば低コストで実施可能です。しかし、より高度な情報を収集する目的で本格的な調査を実施するとなると、ときに調査会社への依頼も必要になるかもしれません。 必要に応じて、現地の公的サービスや助成金の利用を検討しましょう。
適切な人材の確保
適切な人材の確保も、海外展開の際の課題として認識されています。海外展開で必要とされる人材は主に以下の通りです。
- マネジメント層
- 現地技術者およびエンジニア
- 現場作業者
人材の確保が不十分なまま海外事業を進めた場合、想定していたような成果を得られない可能性があります。 まずは、自社が海外事業を展開するうえでどのような人材が必要なのか、洗い出す必要があるでしょう。
海外展開をする際の課題の解決法
海外展開をする際の課題には、次のような方法で対処してみてはいかがでしょうか。
進出する国の文化に詳しい人材を確保する
海外展開を成功させるには、進出先の国・地域に詳しい人材の確保がとりわけ大切です。なぜなら現地では、業務を通じて現地の人たちと密にかかわることから、現地の文化や習慣などへ の理解も求められるためです。
助成金・補助金制度を活用する
海外展開には、まとまった資金が必要です。十分な資金の用意が難しい場合、助成金や補助金制度の活用も検討してみてはいかがでしょうか。
例えば、東京都が実施している「東京都中小企業制度融資」は、条件を満たすことで1企業当たり50万円まで原則無料で支援してもらえます。※2023年9月時点情報
企業の海外進出を手助けする助成金・補助金制度は数多くあるので、自社で利用できるものがないか探してみましょう。
海外展開で失敗しないためのポイント
海外展開を失敗に終わらせないためには、事前準備が重要です。ここでは、海外展開の際に押さえておきたいポイントを紹介します。
海外展開の目的を明確に決める
海外展開は、自社での位置づけや目的を明確にしたうえで実施しましょう。海外展開の位置づけを明らかにするには、以下に挙げる自社の実情へ の理解も必要になってきます。
- ビジョン、経営方針、経営面における課題、戦略、財務状況
- 自社業務の全体像と流れ(商流、物流、金流、情報流の再確認によるビジネスモデルの明確化)
上記をそれぞれ整理すると、自社の現状と課題点を明らかにできるため、海外展開が適切な選択肢なのか判断できるようになるでしょう。 一般的に、主な海外展開の目的は以下のとおりです。
- 取引先企業の海外進出にともなう対応
- コスト軽減
- 海外市場への参入
取引先企業の海外進出にともなう対応には、すでに取引がある企業との関係維持を目的にしたケースと、先に海外展開した企業との取引量が減少した場合に取引数回復を目的に実施するケースがあります。
コスト削減は、原材料費や人件費 など製品製造にかかるコストカットが目的です。また、自社製品を海外輸出する場合、輸出先での関税障壁への対策の一環として海外展開が選択肢に浮上するケースもあります。
海外市場への参入は、国内市場では一定以上のマーケットシェアがあるものの将来性を考えて新たに海外市場を開拓しようとするケースと、すでに国内市場が頭打ちであることから海外市場への本格的な参入を考えるケースがあります。
社内体制を整える
海外展開は、社長や経営陣のように発言力や決定権を持つ人物と海外展開の担当者の双方の同意を得ながら進めることも重要になってきます。
海外での事業展開は国内よりもリスクがともないやすく、柔軟な対応が必要です。当初の計画とおりに実務が進まないこともあることから、想定外の事態に直面した際の行動などをあらかじめ検討しておくようにしましょう。
引き際を見極める
海外展開をしてもやむを得ない事情から撤退や移転が必要になることもあります。
海外展開した企業が撤退や移転を選ぶ理由として、主に以下のようなものがあります。
- 受注先や販売先の開拓と確保が困難
- 生産コストが上昇
- 生産および品質管理が困難
- 現地企業とのトラブル
また、現地の政情不安や自然災害などのように、企業の努力では回避できない外的要因も存在します。このように、海外展開は一定のリスクがともない、内容も多岐に渡ることから、企業として適切な対策・対応をとることが求められます。
為替リスクに気を付ける
海外展開では、為替リスクを避けて通れません。特に輸出入取引事業をおこなっている場合は、外貨建資産が多いと為替差損を被るリスクが高く、当初想定していた利益を下回るどころかむしろ赤字取引になる可能性もあるため注意が必要です。
為替差損(為替レートの変動によって生じる損失のこと)によるリスク回避策としては、契約成立から間をおかずに為替の先物取引を実行し利益を確定する方法があります。先物外国為替取引約定書の契約が必要なため、金融機関との連携強化を おこないましょう。
海外展開に成功する日本企業の事例
海外展開に成功している日本企業ももちろんあります。ここでは、すでに海外展開に成功した日本企業の事例を紹介します。
食品業界/A社の事例
海産物の製造・卸売をおこなう食品業界のA社は、海産物の消費量が国内では減少の一途をたどっていることを受けて、海外で新しい市場を開拓する目的でイギリス向けに昆布製品の輸出を開始しました。
併せて、扱い方をはじめ製品への理解を深めてもらうため、シェフを対象に、出汁のとり方と食材とのペアリングがテーマのセミナーを開催しました。旨味に対する関心の高さと海外市場開拓の手応えを感じたA社では、さらなる海外進出も検討しています。
電機業界/B社の事例
電機業界のB社は、アジア地域に合弁会社を設立し、現地で製品を製造していました。価格競争の激化により取引先の大手メーカーからの受注量が減少したため、合弁会社を解消して海外での製造業から撤退しました。
その後B社は、自社が特許を取得した技術を活用した空気清浄機の輸出に乗り出します。輸出先の国では空気清浄機になじみがありませんでしたが、まずは空気清浄機そのものと自社製品の付加価値の認知度を高めようと、業務用製品として販売を開始したとのことです。
今後は、海外輸出による売り上げをさらに伸ばし、また人員配置や予算配分なども輸出に特化した社内体制に調整していくそうです。
製造業界/C社
インドへの海外展開は難易度が高いといわれるなか、大手メーカーのC社は同国内での市場シェアを一定数獲得しています。
経済成長が著しいインドでC社が海外展開を成功できた要因は、徹底したローカライズにあると言われています。 同社は、インド国内で販売する製品の開発、製造、販売の各フェーズと付属するプロセスを、すべてインド国内で一貫して対応しています。
そのため、言語、宗教、ワークカルチャーが独自に発展しているインドでも、現地に受け入れられやすい製品が作られ、市場からも好意的に受け入れられているのでしょう。
まとめ
日本では人口減少や少子高齢化により国内需要が先細り傾向にある一方、東南アジアなどの国・地域では、中間層と富裕層の人口増加が見込まれているため、海外に設置した現地工場での製造輸入以外に、日本製品の海外輸出に力を入れたいと考える企業もあります。
日本企業が海外展開をおこなう場合は、言語や文化の違い、予算の確保が大きな課題となっており、また適切な人材確保が難しいことや、生産コストが上昇しやすいことも懸念材料として挙げられます。
こうした海外展開にともなう課題は、進出先の国や地域に詳しいグローバル人材の確保や、助成金・補助金制度の活用などにより解決できることも少なくありません。海外展開を検討する際は、その目的を明確にしつつ、社内体制を整備することを意識してみてはいかがでしょうか。