【弁護士監修】フリーランス新法とは?下請法との違いなど、企業が知っておくべきポイントをわかりやすく解説
2025年02月04日(火)掲載
2024年11月1日に通称「フリーランス新法」が施行されたことにより、フリーランスに業務を委託している企業は、今後この法律に基づいて業務を依頼する必要があります。担当者の中には、「フリーランス新法と下請法の違いを知りたい」「対応すべき内容や注意点を押さえたい」という方もいるのではないでしょうか。
この記事では、フリーランス新法の概要や企業に求められる対応、違反した場合の罰則などをわかりやすく解説します。
フリーランス新法とは?いつから施行される?
まずは、フリーランス新法における基礎的な内容を押さえましょう。法律の概要や対象者の定義、対象となる取引について解説します。(2025年1月時点情報)
フリーランス新法の概要と目的
フリーランス新法は正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」といい、「フリーランス保護法」と呼ばれることもあります。
近年、はたらき方の多様化によってフリーランスの数が増加傾向にある中で、契約や金銭面のトラブルも多く見られることが課題となっていました。そこで、フリーランスが安心してはたらける環境の整備を図ることを目的として、2024年11月1日にフリーランス新法が施行されたのです。
なお、目的は以下の2つに大別され、それぞれで所管省庁が異なることもこの法律の特徴です。
1.フリーランスと企業間における取引の適正化
2.フリーランスの就業環境の整備
1.は公正取引委員会および中小企業庁が、2.については厚生労働省が執行を担当します。規制内容が一律ではなく、業種や分野を問わず適用され、対象範囲が広いことにも注意が必要です。
※参考:公正取引委員会フリーランス法特設サイト(https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024/)対象となる「フリーランス」「発注側の企業」の定義
フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」、発注する企業を「業務委託事業者(または特定業務委託事業者)」としていますが、この記事ではわかりやすく、受託側を「フリーランス」、発注側を「企業」として解説します。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
フリーランスとは
フリーランス新法の第2条では、フリーランスを「業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの」と定義しています。
・個人であって、従業員を使用しないもの
・法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
企業や団体に所属しない個人で「フリーランス」と名乗っていても、従業員がいる場合や、一般消費者と取引を行っている場合は対象外です。反対に、法人であっても一人社長のように他の役員や従業員がいない場合は、この法律の適用対象です。
なお、ここでいう「従業員」とは「週の所定労働時間が20時間以上、かつ31⽇以上の雇⽤が⾒込まれる者」を指し、この条件に満たない短時間、短期間勤務の労働者は、従業員にカウントしません。
発注側の企業とは
一方の、業務を発注する企業側で適用対象となるのは、以下のいずれかに該当する企業です。
・個人であって、従業員を使用するもの
・法人であって、二以上の役員がいる、または従業員を使用するもの
つまり、「従業員を雇用している法人や個人事業主」が対象になると言い換えられます。あくまで事業者間に適用するものであると認識しておきましょう。
対象となる取引とは
フリーランス新法の対象となる取引は、発注側の企業と業務を受託するフリーランスにおける、事業者間の委託取引」です。「一般消費者がフリーランスに仕事を依頼する」「物品を売買する」といった場合は、同法の対象外です。

業種や業界による制限はなく、企業からフリーランスへ委託する全ての業務が対象となります。委託内容の例は、以下の通りです。
・物品の製造、加工委託
例:家具の製造、部品の加工など
※不動産は対象外
・情報成果物の作成委託
例:ゲームソフトや顧客管理システムなどのプログラム作成、アニメーションやイラストの制作など
・役務の提供委託
例:運送、コンサルタント、営業、演奏、セラピー、物品の修理など
また、契約上は業務委託であっても、業務の依頼や指示についてフリーランスに許諾の自由がない場合など、実態として「労働者(事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者)」とみなされる場合があります。この場合はフリーランス新法ではなく、労働基準法などの労働関係法令が適⽤されます。
フリーランス新法の義務内容と、具体的な対応策
この法律は、フリーランスへ業務を委託する全ての企業に一律で義務が課されるわけではありません。企業が満たす要件や業務委託期間などによって義務内容が異なるため、自社がどのケースに該当するかを把握した上で対応することが重要です。

義務項目 | 具体的な内容 |
---|---|
1.書⾯等による取引条件の明⽰ | 業務委託をした場合、書⾯等により直ちに取引条件を明⽰する |
2.報酬⽀払期⽇の設定・期⽇内の⽀払 | 発注した物品等を受け取った⽇から数えて60⽇以内のできる限り早い⽇に報酬⽀払期⽇を設定し、期⽇内に報酬を⽀払う |
3.禁⽌⾏為 | フリーランスに1カ月以上の業務委託をした場合に7つの禁止行為を行わない |
4.募集情報の的確表⽰ | フリーランスの募集に関する情報を掲載する際、「虚偽の表⽰や誤解を与える表⽰」をせず、内容を正確かつ最新のものに保つ |
5.育児介護等と業務の両⽴に対する配慮 | 6カ月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両⽴できるよう、フリーランスの申し出に応じて必要な配慮を行う |
6.ハラスメント対策に係る体制整備 | フリーランスに対するハラスメント⾏為に関し、「ハラスメント禁止の方針の明確化」等の措置を講じる |
7.中途解除等の事前予告・理由開⽰ | 6カ月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、 ・原則として30⽇前までに予告する ・フリーランスから理由の開⽰の請求があった場合にはそれに応じる |
ここでは、取引全般に適用される1.の「書⾯等による取引条件の明⽰」と、1カ月以上の取引における3.の「禁止行為」、6カ月以上の取引における5.「育児介護等と業務の両⽴に対する配慮」、7.「中途解除等の事前予告・理由開⽰」について解説します。
フリーランスと取引をする場合全般に適用される義務
全ての企業に適用される義務は、書面等による「取引条件の明示」です。フリーランスへ業務を委託するときは、直ちに書面またはメールやSNSなどの電磁的方法で取引条件を明示することとなっています。
明示方法は発注する企業側が選ぶことが可能ですが、口頭による明示では満たされません。なお、契約自体は口頭による合意でも成立するため、「取引条件の明示」と「契約」を混同しないようご注意ください。
取引条件として明示する事項は以下の9つです。
1.給付の内容
2.報酬の額
3.支払期日
4.発注側企業・フリーランスの名称
5.業務委託をした日
6.給付を受領する日/役務の提供を受ける日
7.給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
8.(検査をする場合)検査完了日
9.(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項
これらを踏まえ、担当者は以下の対応ができているかをチェックするとよいでしょう。
□取引条件を明示するための書面の作成 | ・上記の内容が書面に記載されているか |
□既存書類・契約内容の見直し | ・契約書や発注書のひな形や内容がフリーランス新法に対応しているか ・必要に応じて契約の再締結が行われているか |
□支払方法・期日変更の検討(義務項目2に該当する企業) | ・原則、納品から60日以内となるような期日設定ができているか |
フリーランスと1カ月以上の期間取引をする場合に適用される禁止行為
期間が1カ月以上の契約の場合には、適用される禁止行為があります。ここでいう「1カ月以上」とは、契約の更新によって1カ月以上の期間継続して行うこととなる取引を含みます。
フリーランスへ1カ月以上の業務委託をした場合、以下の7つの行為が禁止されています。
1.受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)
2.報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)
3.返品(受け取った物品を返品すること)
4.買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
5.購入・利用強制(指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)
6.不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)
7.不当な給付内容の変更・やり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)
フリーランスと6カ月以上の期間取引をする場合に適用される義務
期間が6カ月以上の場合は、1カ月以上の場合における義務に加えて、「育児介護等と業務の両立に対する配慮」と「中途解除等の事前予告・理由開⽰」の義務が適用されます。それぞれについて詳しくご紹介します。
育児介護等と業務の両立に対する配慮
企業には、フリーランスが妊娠や出産、育児、介護と業務を両立できるよう配慮することが義務付けられています。単一の契約期間だけではなく、契約の更新によって6カ月以上の期間継続して行うこととなる業務委託を含むことに注意しましょう。例えば、2カ月ごとの契約でも、更新して3回目の契約では通算6カ月以上となるため、3回目の委託契約時点からが適用の対象です。
具体的には、フリーランスから「子の看護により予定していた作業時間の確保が難しく、納期を少し繰り下げたい」「介護のためオンラインでの業務に変更したい」などの申し出があった場合、企業は、「納期を変更する」「関係者と調整する」など、対応を検討し、実施しましょう。
ただし、企業には、業務を委託する全てのフリーランスの育児や介護などの事由をあらかじめ把握して配慮することまでは求められていません。申し出の内容によっては、実施できないこともあるでしょう。その場合は、実施できない旨と理由の説明が必要です。
中途解除等の事前予告・理由開⽰
6カ月以上の業務委託契約を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、「原則として30日前までに予告すること」「予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合は、理由の開示を行うこと」が必要となります。一方的な契約解除をしてフリーランスとのトラブルを防ぐためにも、義務を順守して誠意のある対応をしましょう。
フリーランス新法における罰則
フリーランス新法に違反した場合、罰則として行政指導、企業名の公表、罰金などを受けることになります。
フリーランス新法の違反が疑われる場合、まず行政(公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣)による指導や助言、是正勧告が行われます。それでも必要な措置がなされない場合は、命令や企業名の公表があり、命令に従わないなどの悪質な場合は50万円以下の罰金が科されます。
違反の内容によって所管する省庁は異なりますが、いずれの場合でも、フリーランスが行政に法律違反を申し出たことを理由に、取引数量の削減や停止など、不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
自社の従業員による違反行為は、違反した従業員個人だけではなく、事業主である企業も罰則の対象となります。新しい法律のため、内容を知らない従業員もいることを考慮し、社内で周知して法律違反を予防しましょう。
フリーランス新法と下請法の違いとは
フリーランス新法と下請法は、どちらも委託取引の適正化を目的とする法律です。両者は、義務内容や罰則など多くの点で共通していますが、いくつかの違いもあります。大きな違いは「保護の対象」と「資本金要件の有無」で、具体的には以下の通りです。
項目 | フリーランス新法 | 下請法 |
---|---|---|
保護の対象 | フリーランス(従業員を使用しない個人事業者) | 資本金1,000万円以下の下請事業者(一部抜粋) |
規制の対象 | ・資本金要件なし ・フリーランスに業務を委託する企業全般 |
・資本金要件あり ・資本金1,000万円超の企業による発注のみ |
法律の目的 | ・取引の適正化 ・フリーランスの就労環境の整備 |
・取引の適正化 ・下請事業者の利益保護 |
それぞれの目的の違いにより、下請法では「建設業法における建設工事」や「企業が自ら用いる役務(運送、コンサルタント、営業、演奏、セラピー、物品の修理など)を他の事業者に委託する」ことは対象外です。
一方、フリーランス新法は業種や業界の限定がないため建設工事も業務委託の対象で、企業が自ら用いる役務の提供をフリーランスに委託することも対象となります。下請法で規制の対象となっていなかった企業にもフリーランス新法が適用されることもあるため、注意しましょう。
また、企業は取引相手のフリーランスについて実態を確認することも大切です。委託相手がフリーランス新法の保護対象であれば、企業は法令順守のため、適切な対応を検討し、実施しなければなりません。
2021年3月に策定、2024年10月に改訂された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では、企業とフリーランス間の取引における下請法や労働関係法令の適用関係を示しているため、参考にするとよいでしょう。
まとめ
フリーランス新法は、フリーランスの取引の適正化と就業環境の整備を目的とした法律です。フリーランスへ業務を委託するほぼ全ての企業が対象となる一方で、企業に求められる義務は取引期間などによっても異なります。法令を順守してトラブルを回避するためには、自社の対応を十分に確認するとともに、下請法との違いを理解しておくことも大切です。フリーランスへ業務を委託する企業は、社内に法律の内容を周知して、適切な対応ができるようにしましょう。