工場DXとは? DXが進まない理由や成功事例を解説
2023年04月03日(月)掲載
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近年、工場DXが注目されています。
かつて日本をけん引してきた製造業は、海外メーカーの躍進もあり、競争力の低下が懸念されています。
また、SDGsなどのキーワードをもとに、企業に対して社会的責任を求める声が海外を中心に広まっており、日本の工場においても改革が必要です。
しかし、日本の製造業では、改革を推進するためのDXが遅れていると言われています。本コラムでは、DXが工場にどのような変化をもたらすのか、DXが進まない理由、具体的な事例を詳しく解説します。
工場DXとは
はじめにDXの定義について確認していきましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、データやデジタル技術を用いて、業務プロセスやビジネスモデルを改革して、組織自体を変革させる取り組みです。
経済産業省は「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」内で、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
そして、DXのなかでも工場に関連する言葉が、スマートファクトリーです。
スマートファクトリー(スマート工場)とは?
スマートファクトリーとは、ものづくりのスマート化というテーマをもとに生まれた言葉で、AI・IoT・ビッグデータなどを活用し、エンジニアリングチェーンやサプライチェーン上の活動が最適化された状態を指します。
スマートファクトリーの目的として、経済産業省は次の要素を挙げています。
- 品質の向上
- コストの削減
- 生産性の向上
- 製品化・量産化の期間短縮
- 人材不足・育成への対応
- 新たな付加価値の提供・提供価値の向上
- リスク管理の強化
※出典:「スマートファクトリーロードマップ」〜 第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて 〜(経済産業省)
スマートファクトリー化が実現すると、企業は高品質・高付加価値な製品を低コストかつ短期間で製造できるだけでなく、技術継承や設備の予知保全など、さまざまなシーンでメリットがあります。
何より、データに基づいた意思決定ができるようになるため、客観性・透明性が高く、企業は迅速な経営判断が可能になります。
工場におけるDXの必要性
かつてMade in Japan(メイドインジャパン)の製品といえば、匠の技と呼ばれるほど品質に定評があり、世界で高く評価されてきました。しかし、インターネットの普及により、海外の製品も手軽に入手できるようになった今、産業競争はグローバル化しています。
近年では海外企業が新しい技術を取り入れ、高品質で安価な製品を量産できるようになったことでコモディティ化が進行し、機能や価格での差別化が難しくなりました。
また、消費者の動向が所有(モノ消費)から体験(コト消費)に移行するなど、市場に求められる価値も変わってきている状態です。これらの背景から、日本の工場も消費者のニーズに合わせたものづくりが重要となっています。
工場DXを推進することによって、これまで手作業でおこなってきた仕事を自動化できるようになれば、新しい製品・サービスの開発にリソースを費やすことも可能です。
特に人口減少が進む日本にとって、人材不足の解消は欠かせません。工場DXを推進することは、企業として競争力を高めるだけでなく、従業員の満足度の改善にもつながるでしょう。
日本の工場DXが進まない課題
工場のDX化が求められるなか、なぜ日本の製造業では思うように工場のDX化が進まないのでしょうか。日本の工場が抱える課題をご紹介します。
消極的な設備投資
日本の製造業のなかには設備投資に消極的な企業も多く、IT設備の導入が進んでいない、あるいは生産設備の老朽化が進んでいるケースがあります。
設備投資に消極的な理由としては、VUCA時代における先行きの不透明さ、設備導入による費用過多や、設備を使う従業員の知識不足など、さまざまな理由が考えられます。
また、ITの導入によって生産性を上げる具体的なイメージができていないこと、技術者や責任者の不足などが、工場のDX推進が遅れている大きな理由です。
このまま新しいIT技術を取り入れず、DXを推進しない従来の方法を続けていると、グローバル化が進んだ現代社会において、市場の変化や技術進歩に対応できなくなることが懸念されています。
人員不足
日本では人口減少が深刻化しており、工場に限らず、多くの企業で人員不足が課題となっています。特に工場ではまだ属人的な業務も多く、労働力の確保は必須です。このまま人員不足が進んでいくと、今までと同じ業務量を処理しきれなくなります。そうなれば事業の縮小は避けられず、結果として事業の継続自体が困難になってしまう可能性さえあります。
そのような状況を避けるには、従業員が対応していた業務をAI・IoTなどのテクノロジーと分業し、業務プロセスを再構築することで、少ない人数でも業務を遂行できるように変革する必要があります。
技術継承の遅れ
ものづくりを支える製造業の工場では、優れた職人の技術によって高品質な製品が生み出されてきました。
しかし、その技術は職人の経験や勘に基づいたもので、継承が難しいのです。また、同時に継承先となる若い世代の人口が減っていることも影響しています。
一方で海外の製造業では、職人の勘や経験のような感覚に頼らず、IT技術を用いて品質を保っています。IT技術により属人化した業務をへらすことで、安定的な技術継承を可能としているのです。
これらの課題を乗り越えるためには、経営者や工場の責任者だけでなく、現場の従業員の理解も必要となるでしょう。
DXが製造業にもたらすメリット
工場のDX化は、日本の製造業で非効率となっている業務体制の課題解決に役立ちますが、それ以外にも多くのメリットがあります。
データの見える化により、効率的な工場運営ができる
DX化によって工場に存在する数多くのデータの可視化が可能です。例えば、設備の稼働データなどを収集・分析し、事前に故障を予測できます。
また、工場の導線や作業を分析によって無駄を発見し、生産性を上げる取り組みにもつなげられるでしょう。
生産コストを削減できる
IT技術の導入により、工場の設備や稼働データを収集・分析します。無駄が発生している課題を洗い出し、改善することでコストを削減可能です。
また、改善によってできた余力で、より生産性の高い業務に人員をあてることもできます。DX化の機械導入にはコストがかかりますが、適切な計画策定とその後の効果測定で、長期にわたるコスト削減を目指しましょう。
生産性の向上につながる
DX推進により、業務の効率化、自動化、が実現できれば、生産性の向上が期待できます。
自動化により生産スケジュールの正確性や省人化が進めば、生産ラインは安定化し、収益の向上が見込めます。
品質の向上につながる
人的ミスが発生しやすい作業を自動化すると、安定した品質で製品を提供できます。
不良品の発生が減れば、廃棄や不要なコミュニケーションコストを削減でき、工場にかかる生産コストの削減につながります。
培った技術が属人化されない
IT技術を用いれば、業務の属人化から脱却することができます。従来の職人の勘や経験に頼っていた作業をデータ化し、再現性をもたせることが可能です。
例えば、熱を加える時間、切削する角度など、作業工程で集められるあらゆるデータを収集します。収集したデータよりマニュアルを作る、作業を動画化するなどして、技術の属人化を防ぎます。
工場DXの成功事例
工場のDX化は、具体的にどのように取り組まれてきたのでしょうか。実際におこなわれた工場DXの事例を2つ紹介します。
プロセス参照モデルの活用事例/A社
油圧機器を製造するA社は、リーマンショックをきっかけに業績が悪化し、立て直しを図っていました。
そこで、A社が導入したのが、プロセス参照モデルです。プロセス参照モデルは、ビジネスプロセスを階層別に構造化し、定義していく手法です。
同社は、まず複雑化したエンジニアリングプロセスの社内連携をフロー化し、不足する人材や改善すべきポイントを明確化しました。その後、業務を改善する独自ツールを開発し、生産性の向上や、新規事業にも着手できるなどの成果を上げています。
社内に有識者がいなかったため、外部のIT専門家との交流を通じて、DXを推進した事例です。
デジタル人材の育成事例/B社
B社は、カスタマーサクセスの実現とDX推進に向け、デジタル技術の活用と人材育成に取り組んでいます。
社内では、データ分析ツールの整備やDX人材の育成強化などが行われ、部門単体での業務最適化に加え、業務プロセスの統一によって部門間の連携も取れるようになりました。
DX人材の社内公募や研修、AIコンテストの実施により、多様なアイデアが生まれ、DX化の推進とDX人材の育成が連動して継続的に進められるようになっています。
まとめ
日本の製造業および工場がかかえる課題に触れ、DXが工場にもたらすメリットや事例を紹介してきました。
現段階では、まだ多くの企業がDXに取り組めておらず、一部のみで止まっている状態です。DXを推進する際は、業務プロセスの洗い出し、推進するための人材育成など、取りかかるべきことが多岐にわたります。
実際にDX化が進むと、生産性の向上や業務の効率化が図れます。グローバル化が進んだ現代社会のなかで、競争力の強化にもつながるはずです。ぜひ、本コラムを参考にDX推進を検討してみてください。