離職を防止するための対策とは?原因や10のアイデアを解説
2025年06月30日(月)掲載
近年、多くの企業が「離職防止」に取り組んでいます。従業員の離職が続くと、採用・教育コストの増加や業務負担の偏りなど、企業にとって大きな課題となります。特に人手不足が深刻化する中で、優秀な人材の流出を防ぎ、はたらき続けたいと思える職場環境を整えることは重要です。
本記事では、離職防止の要因や離職が増えるリスク、企業が取るべき対策について解説します。
離職防止とは
離職防止とは、従業員の離職を防ぐための取り組みです。職場環境の改善や定期的な面談、従業員間のコミュニケーションを促進することなどが含まれます。「リテンション」「リテンションマネジメント」とも呼ばれています。
離職の原因は一つではなく、さまざまな要素が絡んでいます。そのため、離職を防止するためにはいくつかの対策を組み合わせて実施することが大切です。全従業員に適用される制度を整えるだけではなく、従業員一人ひとりのニーズに合わせた柔軟な対応も求められます。人手不足が深刻化する中、従業員に自社で長く活躍してもらえるよう、離職防止に取り組むことがますます重要になってきています。
離職率の現状
厚生労働省の「雇用動向調査」によると、2023年の離職率は15.4%です。コロナ禍の2020年と2021年は一時的に離職率が低い水準であったものの、平均15%前後で推移しています。
特に、若年層や中小企業における離職率が高い傾向にあり、2021年3月に大学を卒業した新卒就職者のうち、3年以内に離職した人は34.9%で、直近15年の中で最も高くなりました。業界別に見ると、宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業・娯楽業などのサービス業で離職率が高い傾向にあります。
離職の背景には、はたらき方の多様化や価値観の変化、労働力不足などが考えられます。企業は現状を把握し、自社の課題に合わせた対策を講じなければなりません。
離職を防止しないことで起こるリスク
従業員の離職が増えると、企業にはさまざまなリスクが生じます。ここからは、離職が企業に与える影響について解説します。
優秀な人材の流出
従業員の離職が増えると、優秀な人材が流出してしまう恐れがあります。特に、長年培ってきたスキルや知識、経験を持つ従業員が退職すると、業務の効率が低下したり、顧客との関係が損なわれたりする可能性が高くなります。最近では人材の流動性が高まっており、優秀な人材はより良い条件を求めて転職する傾向が強いため、企業はこれを防ぐための施策が必要です。
既存従業員の負担増加
離職が発生すると、その業務を既存の従業員が引き継ぐことになり、負担が増加します。パーソル総合研究所の調査によると、欠員が出た場合に77%の組織で人員の補充がされておらず、後任や上司の残業時間が増えていることが明らかになっています。さらに、欠員発生後、「他にも退職する人がいそうだ」と感じている割合が40%と職場全体の不安感が高まっていることがうかがえます。
このように、残業や休日出勤が増えて過労やストレスの原因となり、モチベーション低下を引き起こします。これがさらなる離職を生むという悪循環に陥る可能性もあります。
採用・教育コストがかかる
従業員が離職すると、新たな人の採用や教育にコストがかかります。採用にあたっては求人広告の掲載費用や面接の工数、育成にあたっては研修や教育にリソースが必要です。離職が繰り返されることで、これらのコストが増え、企業にとって大きな負担となります。
離職する可能性がある従業員の特徴
離職の兆候は、日々の行動や態度にあらわれることがあります。
たとえば、これまで積極的だった社員のモチベーションが明らかに低下している場合は注意が必要です。また、同僚や上司とのコミュニケーションが減り、会話や相談の機会が少なくなると、職場への帰属意識が薄れている可能性があります。さらに、定時ぴったりで帰ることが増えたり、これまでと比べて仕事を早めに切り上げるようなはたらき方の変化も、離職のサインと考えられます。
こうした変化に早期に気づき、個別の状況を丁寧に把握することが、離職防止の第一歩となります。
離職につながる要因
従業員の離職にはさまざまな要因が考えられます。パーソル総合研究所の調査によると、転職者の約8割が「会社への不満」を要因に転職していることがわかっています。
ここでは、代表的な要因について解説します。
労働条件、待遇への不満
長時間労働や休日出勤の多さ、柔軟なはたらき方ができないといった労働条件に対する不満や、給与や賞与、昇給制度、福利厚生といった待遇に対する不満は、離職に至る大きな要因です。
具体的には以下のような不満を抱えていることが想定されます。
- 給与:生活水準を維持できない、他社と比べて給与が低い
- 賞与:業績が良くても賞与が少ない、支給されていない
- 昇給制度:昇給の機会が少ない、昇給額が低い
- 福利厚生:住宅手当や家族手当、従業員持株会などが充実していない
社内の雰囲気の悪さ
社内の雰囲気が悪い、はたらきにくいと感じることも離職の要因です。
例えば「上司や同僚に意見を言いにくい」「自分の意見が尊重されていない」などと感じている場合は、不満が蓄積し、離職を検討する可能性があります。加えて、上司や同僚とのコミュニケーションが不足している場合やパワハラやセクハラなどのハラスメントが発生している場合、精神的な苦痛が原因で離職に至ることもあります。
人間関係のストレス
上司や同僚との人間関係がうまくいかないことも、離職の要因です。
例えば、上司の指示が曖昧だったり、理不尽な要求が多かったりすると、大きなストレスを感じ、離職につながることがあります。また、同僚との協力体制が築けない場合や疎外感を感じることも、仕事へのモチベーション低下を招き、離職につながるでしょう。
仕事内容への不満
仕事内容に対する不満も、離職を招く要因の一つです。単調な作業やルーティンワークが続くと、やりがいを感じられず、モチベーションが低下します。また、自分のスキルや経験を生かせない仕事ばかりだと不満を感じ、離職を検討するでしょう。
キャリアパスへの不安
将来のキャリアパスが見えず、キャリアアップの機会がないと感じることも、離職の要因となります。
例えば、昇進の機会が少なく基準が曖昧だと、将来に対する不安が高まり、離職を検討する可能性があります。また、上司や人事にキャリアプランを相談できる機会がない場合や、相談しても十分なサポートが得られないと感じると、不安が募り、離職につながるかもしれません。
離職防止の具体的な施策10選
従業員の離職を防ぎ、定着率を高めるためには、企業が積極的に対策を講じることが重要です。ここでは、具体的な施策をご紹介します。
1.労働条件・職場環境の見直し
前述の通り、労働条件や職場環境は、従業員のモチベーションや離職率に大きく影響します。労働条件・職場環境の見直しについて、以下が具体的な施策です。
- 長時間労働の削減:業務効率化を図って残業時間の削減を目指す。ノー残業デーやフレックスタイム制を導入する
- 休暇取得の促進:年次有給休暇の取得を促進し、従業員が休暇を取得しやすい環境を整える
- 給与体系の見直し:業界水準を踏まえて、給与や福利厚生を見直す。昇給や賞与の基準を明確化し、従業員のモチベーションを高める
- 職場環境の改善:快適なオフィス環境・テレワーク環境を整え、従業員がはたらきやすい環境を提供する
2.コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションを活性化することで、従業員同士の相互理解を深め、良好な人間関係を築けます。以下が具体的な施策です。
- 社内イベントの実施:懇親会やチームビルディングなど、従業員同士が交流できるイベントを企画・実施
- フリーアドレスの導入:座席を定めず、自由に選べるフリーアドレスを導入し、さまざまな従業員と交流する機会を提供
- コミュニケーションツールの導入:社内SNSやチャットツールを導入し、気軽にコミュニケーションを取れる環境を整備
- 1on1ミーティングの実施:上司と部下が定期的に面談を行い、業務やキャリアについて話し合う機会を提供
- ブラザー・シスター制度:年齢が近い先輩従業員との定期的な交流の場を設け、若手社員が気軽に相談できる機会を提供
3.退職理由のヒアリング
退職する従業員には必ず退職理由のヒアリングをし、離職原因を特定します。退職理由を分析することで、今後の離職防止対策にも生かせます。ヒアリングは、本音を引き出せるよう、一通りの退職手続きを終えた後に実施することが推奨されます。形式は面談やアンケートが一般的です。
4.キャリア支援
従業員が長くはたらき続けるためには、自身の将来像を具体的に描けることが重要です。キャリアの方向性が不透明なままだと、モチベーションの低下や早期離職につながりかねません。
そのため、定期的なキャリア面談や目標設定のサポートを通じて、一人ひとりのキャリア志向に応じた成長機会を提供することが効果的です。ジョブローテーションや社内公募制度などを活用し、将来の選択肢を可視化することも有効です。
キャリア支援を通じて「ここで成長できる」と感じてもらうことが、離職防止の第一歩になります。
5.研修制度を整える
従業員の成長意欲を引き出し、定着につなげるには、目的に応じた研修制度の整備が不可欠です。職種別・階層別のスキル研修はもちろん、将来のキャリアを見据えた自己啓発支援やeラーニングなど、選択肢の幅を広げることで多様なニーズに応えられます。
あわせて重要なのが、上司層へのマネジメント研修です。部下との信頼関係構築や、1on1、フィードバックの質を高めるスキルを育てることで、日常の関わりの中で離職を防ぐ力が高まります。個人と組織の成長を支える研修を実務と連動させ、成果に結びつける仕組みが求められます。
6.評価制度の見直し
公正で透明性の高い評価制度を構築することで、従業員のモチベーションを高め、納得感のある評価を実現できます。以下が具体的な施策です。
- 評価基準の明確化:従業員が納得できるように評価基準を明確にし、定期的にフィードバックを行う
- 多面評価の導入:上司だけでなく、同僚や部下からの評価を取り入れ、より多角的な視点で評価する
7.福利厚生の充実
従業員の満足度を高めるために、従業員にアンケートやヒアリングを行い、福利厚生のニーズを確認した上で福利厚生を導入すると良いでしょう。以下のような福利厚生が挙げられます。
- 資格取得補助金
- 住宅手当
- 社食の提供
- レジャー施設の割引制度
- 健康診断費用の補助
8.ミスマッチの削減
採用段階で企業と求職者のミスマッチを減らすことで、入社後の早期離職を防げます。採用時に以下の点に注意しましょう。
- 業務の内容や待遇、企業文化などを詳しく説明する
- 実情に即した情報を伝える(残業時間、休日など)
また、面接では求職者のスキルや経験だけではなく、価値観やはたらく上で重視していることをヒアリングし、自社の雰囲気に合うかどうかも確認しましょう。
9.入社後の育成施策を見直す(オンボーディングの強化)
新しく入社した従業員が早期に活躍し、組織に定着するためには、オンボーディングの仕組みが非常に重要です。初期の不安や戸惑いを放置すると、孤立感やミスマッチを感じやすくなり、早期離職のリスクが高まります。
配属後にメンターや育成担当をつける、定期的なフォロー面談を実施する、チームで歓迎・支援する文化を醸成するなど、受け入れ体制を整えることがカギです。また、入社1ヶ月後・3ヶ月後といった節目での振り返りや成長支援も効果的です。オンボーディングの質を高めることは、離職防止の土台づくりにつながります。
10.ツールの導入
離職防止のために、従業員の状態を把握できるツールを導入するのも効果的です。以下のようなツールが挙げられます。
- エンゲージメントを測定するツール
- 他の従業員への感謝を伝えられるツール
- ストレスチェックツール
まとめ
従業員の離職防止は、多くの企業が直面する重要な課題です。労働環境の見直しやコミュニケーションの促進、キャリア支援、評価制度の改善など、幅広い対策が求められます。しかし、離職の背景には給与や労働環境への不満、人間関係の悩み、将来への不安など複数の要因が絡み合っており、総合的かつ継続的な取り組みが重要です。「HiPro Biz」では、離職防止やリテンションマネジメントの豊富な経験を持つプロ人材が多く登録しています。貴社の離職率改善の対策に向けて、ぜひ「HiPro Biz」のサービスをご検討ください。
(編集/パーソルホールディングス編集部・HiPro Biz編集部)